平成が終わり、令和が始まった2019年。平成の30年を総括する動きは音楽に限らず随所で見られたが、皆そっちの総括に気を取られて2010年代という10年を総括する動きがあまり見られないような気がするのは私だけだろうか。笑
2010年代も終わりを迎えようとしているということで、この10年のヒット曲十選を勝手に選出することを試みる。勝手にといっても、ここでは可能な限り主観を排し、客観的かつ定量的なデータに基づいて選出することにする。
先に結果を示すと以下のとおり。以下詳しく解説する。
なお平成30年間のヒット曲およびヒット歌手各十選は今年の十連休を使って選出をすでに終えているのでこの記事の最後のほうで選出過程とともにさらっと載せておく。まあ平成ヒット総括で選ばれた2010年代のヒット曲は全部2010年代ヒット総括にも入っているし、1990年代ヒット総括はオリコンがその役目を果たしている。2000年代ヒット総括はCD売上と配信ダウンロード売上ランキング(以下参照)の双方で掴むことができる。
現代の楽曲人気指標
2010年代ヒット曲十選を選出するにあたって用いる指標は以下のとおりである。
- フル配信ダウンロード売上(日本レコード協会)
2000年代後半~2010年代前半の音楽視聴方法の主流。
- ストリーミング再生回数(Billboard JAPAN Streaming Songs)
最近になって爆発的に普及してきた音楽視聴方法。
- MV再生回数(YouTube)
2010年代の音楽視聴方法の主流。
- CDアルバム売上枚数
2010年代に発売され高セールスを記録したアルバム収録曲中、2010年代に発売された曲のうち、最大ヒットを記録した曲を選出する。ここでいう最大ヒットとは、ダウンロード数、MV再生回数、ストリーミング再生回数のうち、最高値を記録している曲とする。
なお、CDシングル売上枚数は2011年以降楽曲人気指標として使用することができなくなっており、2010年代の10年間のヒット(=人気)曲を考えるにあたって使用するデータとしては不適切であることから、ここでは取り上げない。
十選選出方法
- 上記4指標の上位2曲を選出。これで7枠埋まる(選出曲中1曲が複数指標でTOP2を記録していたため8ではなく7)。
- 2010年代に輩出した配信ダウンロードミリオン曲数TOP2である西野カナとAKB48より、自身最大のMV再生回数を記録した曲を選出する。
- ここまで9曲を選んだところ、2012年発売曲、2014年発売曲からのノミネートが1曲もないことに気づく。どうせなら各年1曲ずつにしようと思い、1.の7枠のうち発売年が重複している1曲を抜き、空いた2枠に2012年曲と2014年曲をはめ込むことに決める。
- 2012年および2014年に発表されたMV再生回数ランキングTOP2の楽曲を選出する。MV再生回数としたのは、ダウンロード数と違い細かい実数が判明しているため。なお選出は1アーティスト1曲までとし、この制限に引っかかった場合は次点の曲を繰り上げた。
結果
以上までの過程で選出したところ、結果は以下のとおりとなった。各指標TOP2にはオレンジ色を塗色している。アーティストの項目を塗色している歌手は、2010年代に輩出したダウンロードミリオン作品数TOP2であることを示す。
嵐『5×20 All the BEST!! 1999-2019』は2019年に発売された嵐のコンプリートシングルコレクション。爆発的な売上を記録してダブルミリオンを達成し、2010年代発売アルバムとしては2位のセールスを記録した。このアルバムには2018年発売の「君のうた」までの全シングルが収録されている。この中で最も人気の2010年代発売曲が2010年発売の「Monster」。2019年秋には突如嵐の楽曲が5曲配信解禁され世間を驚かせたが、「Monster」はこの5曲の中で唯一2010年代発売曲であった。
嵐 - Monster [Official Music Video]
安室奈美恵『Finally』は2017年に発売された安室奈美恵のオールタイムベスト。すでに2018年9月をもっての引退を発表していたことから特需が発生し、爆発的なセールスを記録。ダブルミリオンを突破して2010年代発売アルバム1位のセールスとなった。このアルバムに収録されている2010年代発売曲のうち最も人気と思われる曲は、2011年発売の「Love Story」。最終回の視聴率が18.4%を記録した人気月9ドラマ「私が恋愛できない理由」の主題歌に起用されたこともあり人気を博し、配信ミリオンを達成。CDミリオンは90年代に5曲輩出していたが、配信ミリオンは自身初にして唯一となっている。
ONE OK ROCK「The Beginning」は興行収入30億を記録したヒット映画「るろうに剣心」の主題歌として2012年に発売。MV1億再生を突破しており、自身最大MV再生回数を記録しているほか、2012年に公開されたMVとしても1位の再生回数を記録している。ワンオクはTV出演も多くないので、記憶からヒットを辿ってもつい忘れてしまいがちになるが、アイドル全盛時代と言われている2010年代前半にも大人気ロックバンドはしっかり存在していたということは押さえておきたい。
ONE OK ROCK - The Beginning [Official Music Video]
AKB48「恋するフォーチュンクッキー」は2013年に発売されフィーバーを巻き起こした大人気曲。CDで楽曲人気が測れないAKB48であるが、この曲は人気を裏付けるように配信ミリオンとMV1億再生を達成している。Billboard JAPAN Hot 100でも2013年の年間1位を獲得した。AKB48は配信ミリオンナンバーを合計6曲輩出しており、これはEXILE、西野カナに次ぐ歴代3位記録。AKBの配信ミリオン6曲はすべて2010年代に輩出されており、2010年代に絞って考えれば配信ミリオン曲数歴代1位となる。ぜひCDミリオンという楽曲人気と関係がない指標に惑わされることなく、AKBが全盛期に誇った絶大な人気を把握しておきたい。
【MV full】 恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式]
三代目 J Soul Brothers「R.Y.U.S.E.I.」は2014年に発売された自身最大のヒット曲。2014年末時点ではそこそこのヒットだったが、年末に2014年の日本レコード大賞を受賞したことで2015年に入って人気が爆発。間奏のダンス「ランニングマン」が人気となり真似する人が続出し、最終的に配信ミリオンとMV1億再生を達成。Billboard JAPAN Hot 100では2015年の年間1位になった。この曲を収録したオリジナルアルバム「PLANET SEVEN」もミリオンに迫る自身最大のセールスを記録した。
三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE / 「R.Y.U.S.E.I.」Music Video
西野カナ「トリセツ」は映画「ヒロイン失格」の主題歌として2015年に発売。歌詞が女性版「関白宣言」のようだと話題になり大ヒットした。西野カナは配信ミリオンナンバーを合計7曲輩出しているが、このうち6曲は2010年前後の着うたフル全盛期に輩出されている。2015年は着うたフル市場の消滅で配信市場が縮小し配信ミリオンが出にくくなっていた時期であることを考えれば、「トリセツ」の偉業はより際立つ。Billboard JAPAN Hot 100でも2015年間11位→2016年間11位と長期ランクインを果たした。
星野源「恋」は、最終回の視聴率が20.8%を記録した大人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の主題歌として2016年に発売され、恋ダンスがブームとなるなど大ヒット。配信ダブルミリオン、MV2億再生という凄まじい数字を記録した。2010年代に発売された曲でダウンロードダブルミリオン以上を達成した曲は「恋」と「Lemon」の2曲しかない。Billboard JAPAN Hot 100でも2016年3位→2017年1位→2018年46位→2019年95位と非常に息の長いチャートインを記録。「恋」を収録したオリジナルアルバム「Pop Virus」も44万枚のセールスを記録している。
DAOKO×米津玄師「打上花火」はアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」の主題歌として2017年に発売。この曲は今の時代を反映するかのように、ダウンロードではなくストリーミング再生数とMV再生数を中心にしたヒットとなった。Billboard JAPAN Streaming Songsではストリーミング1億再生を達成。YouTubeではMV3億再生を突破しており、「Lemon」に次ぐ歴代2位の再生数となっている。Billboard JAPAN Hot 100でも2017年間3位→2018年間4位→2019年間21位と未だにランクインを続けている。
米津玄師「Lemon」はもはや説明不要な気もするほどの2010年代No.1ヒット曲。平均視聴率11.1%を記録した人気ドラマ「アンナチュラル」主題歌として早くからダウンロード数を積み上げ続け、最終的には史上最速のダウンロードトリプルミリオンを達成(それまでの最速はGReeeeN「キセキ」)。YouTubeでも前人未踏のMV5億再生を突破し、今なお配信実績を積み上げ続けている。Billboard JAPAN Hot 100では2018年から2019年にかけて2年連続1位を達成。文字通り10年に1度出るかどうかというレベルの特大ヒット曲である。TV出演は2018年の紅白歌合戦のみであるというところもまた驚異的である。
Official髭男dism「Pretender」は映画「コンフィデンスマンJP -ロマンス編-」主題歌として2019年に発売され大ヒットした。Billboard JAPAN Streaming Songsではストリーミング1億再生を突破。YouTubeでもMV1億再生を突破している。楽曲人気指標がダウンロード売上からストリーミング再生数に本格的に移行したことを象徴する1曲にもなっている。
Official髭男dism - Pretender[Official Video]
まとめ&平成ヒット曲・歌手十選(おまけ)
以上まで駆け足で2010年代をヒット曲十選という形で楽曲人気データをもとに総括してみた。もちろんここに挙げた10曲がすべてではなく、個人的に入れたかった曲も多い(「レット・イット・ゴー」「クリスマスソング」「マリーゴールド」「U.S.A.」「前前前世」あたり)。
こうしてみると2010年代は、この先の音楽業界はどうなってしまうのかという論調に覆われていた2010年代前半は何だったのかというくらいにたくさんのヒット曲が生まれた時代であったと言える。いつの時代も、音楽は身近にあり、ヒット曲は生まれていく。ヒットを映す鏡さえ見落とさなければ、音楽が終わることはない。2020年代はストリーミングサービスがますます普及し、ヒットの鏡として大きな機能を果たしてくれると思われる。引き続きヒット曲との出会いを楽しみにチャートをウォッチしていきたい。
最後に、今年のGWに考えた平成のヒット曲&ヒット歌手各十選を、選考過程とともに載せて締めとさせていただきたい。
(注:平成ヒット十選を決めるにあたって用いたデータは2019年4月末時点のもの)