宇多田ヒカルは1998年に『Automatic/time will tell』でデビューした女性ソロシンガーソングライター。デビュー間もなく社会現象を巻き起こし、その後20年に渡りヒット曲を大量輩出し続けた。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は40曲で、認定総ダウンロード売上は1,160万(歴代5位)となっている(Utada名義も含めれば、41曲、1,170万)。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、宇多田ヒカルのヒット史を振り返る。
(ランキング作成方法および歴代ダウンロード売上ランキングはこちら↓)
(歴代アーティスト別ダウンロード売上ランキングはこちら↓)
1998年-2004年 ~CD売上全盛期~
デビューから6年の間に配信解禁された楽曲のダウンロード売上は以下のとおり。
宇多田ヒカルがデビューした時期はCDバブル期であり、当時の楽曲人気指標の主流はCD売上だった。したがって、デビュー初期の楽曲人気を把握するには、CD売上を中心に見ることになる。一方で、2004年11月に宇多田ヒカルのダウンロード解禁が始まると、初期の楽曲も、人気が継続している楽曲はダウンロード売上を積み上げた。
本記事はまだ認知が進んでいないダウンロード売上を強調して作成している。なおCD売上等の全指標を網羅して総合的に当ブログで作成した「歴代アーティスト・トータル・楽曲人気ランキング」では宇多田ヒカルが歴代3位となっている。
First Love
宇多田ヒカルは1998年12月に1stシングル『Automatic/time will tell』でCDデビューした。当時まだ15歳でありながら、洗練された楽曲や大人びた歌詞、さらには藤圭子の娘という話題性も手伝ってデビュー作からいきなりの特大ブレイクとなった。
チャートでは12cm盤と8cm盤で別集計され、12cm盤が129万、8cm盤が77万をセールス。別集計されたことで週間最高位は2位だったが、合算であれば1位となっていた週もある。年間チャートでは12cm盤が1999年の年間5位、8cm盤が同22位。なお歴代ランキングでは公式に合算して扱われており、合計206万枚で歴代19位にランクインしている。これがCDシングルでは自己最高売上となる。
配信では「Automatic」が25ダウンロード、MV4,000万再生、ストリーミング5,000万再生を記録している。
宇多田ヒカル「Automatic」Music Video(4K UPGRADE )
「Automatic」の大ヒットに続き、2ndシングル「Movin' on without you」も8cm盤と12cm盤の合算で122万枚をセールス。大きな注目が集まった中で発売された1stアルバム『First Love』の最終的なCD売上は765万枚という天文学的な枚数を記録した。700万どころか600万を超えたアルバムは国内史上本作しかなく、歴代1位のセールスとなっている。年間チャートでも1999年1位→2000年82位と推移するロングヒットとなった。
収録曲のうち、タイトル曲「First Love」は最高視聴率29.5%を記録した大ヒットドラマ「魔女の条件」主題歌に起用されたこともあり、3rdシングルとしてカットされ、8cm盤と12cm盤の合算で80万枚をセールスした。別集計の影響でやはり週間最高位は2位だが、合算されていれば1位だった週もある。
それまで抑えていたTV出演もこの曲で本格的に解禁され、Mステでこの曲を披露した回の視聴率は関東地区26.5%、関西地区28.7%で、番組史上最高を記録するに至った。
この曲はダウンロード売上も凄まじく、配信解禁が2004年でありながら、2018年4月に50万ダウンロードを突破しており、宇多田ヒカルの2004年までに発売された楽曲の中では最高の配信売上である。参考程度ではあるがCD売上と合算すればミリオンである。
2014年にはNTT東日本のCMソングに起用されたほか、2022年には本曲からインスパイアされたNetflixオリジナルドラマ「First Love 初恋」が配信されたことで再度注目されるなど、代表曲として定期的に脚光を浴びていることから、本曲は発売から20年間以上が経過した今も存在感を出し続けている。その驚異的な人気はMV9,000万再生、ストリーミング1億再生という他指標数値にも表れている。
宇多田ヒカル「First Love」Music Video(4K UPGRADE)
なお、「First Love」が発売されたタイミングで、日本デビュー前のアメリカ在住中にCubic U名義でインディーズレーベルから1998年に発売していたアルバム『Precious』を再発売しており、こちらも70万枚を売り上げている。
Distance
「First Love」の天文学的大ヒットを受け宇多田ヒカルの人気は絶大なものとなり、続く4thシングル「Addicted to You」は178万枚を売り上げ、年間でも1999年6位→2000年48位と推移した。5thシングル「Wait & See ~リスク~」は166万枚を売り上げて2000年の年間3位。6thシングル『For You/タイム・リミット』は88万枚をセールスした。
2001年2月には7thシングル「Can You Keep A Secret?」が発売された。表題曲は最高視聴率36.8%を記録した大ヒットドラマ「HERO」第1期の主題歌となり、148万枚をセールスして2001年の年間1位を獲得した。
この曲は配信でも25万ダウンロードを記録しており、初期の楽曲では「First Love」に次ぐダウンロード売上となっている。CD売上では「Addicted to You」や「Wait & See ~リスク~」の下に位置しているが、本作は2ndアルバム『Distance』の発売1ヶ月前の先行シングルだったため、買い控えもあったものと想像される。ドラマの人気や年間1位というインパクトから代表曲として取り上げられる機会が多く、継続的な人気に繋がっている。
宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」Music Video(4K UPGRADE )
2001年3月に発売された2ndアルバム『Distance』は浜崎あゆみ『A BEST』と同日発売となり、チャート対決が大いに話題となった。結果は初動300万で本作が1位、『A BEST』が初動287万で2位となった。初動売上300万は歴代1位記録である。翌週以降も順位が度々入れ替わりながら双方とも累計を伸ばし、本作の最終的な売上は447万となり、アルバムセールス歴代4位となっている。当然2001年のアルバムセールス年間1位にもなった。
収録曲のうち、タイトル曲「DISTANCE」が10万ダウンロードを突破している。この曲は8thシングルで「FINAL DISTANCE」 としてリアレンジの上シングルカットもされており、CDで58万枚をセールスした。
DEEP RIVER
2001年11月には9thシングル「traveling」が発売された。紀里谷和明が手掛けた近未来感のある独創的なMVが話題となり、CD85万枚をセールスした。2001年下半期になるとCDバブルが崩壊し、CDシングルでミリオンをセールスすることは非常に難しくなった中で本作は2002年の年間2位にランクインした。配信ではフル配信10万ダウンロード、MV3,000万再生を突破している。
宇多田ヒカル「traveling」Music Video(4K UPGRADE)
2002年3月には10thシングル「光」が発売され、CDで59万枚をセールスし2002年の年間10位に入った。表題曲はゲームソフト「キングダムハーツ」のテーマとして親しまれ、今でも新しいシリーズが発売されるたびにテーマソングとして起用されている。このことから人気が継続しており、配信でも10万ダウンロードを記録している。MVは宇多田ヒカルが延々と食器洗いに勤しんでいるというユニークなもので、前作に続き紀里谷和明が手掛けた。
宇多田ヒカル「光」Music Video(4K UPGRADE )
2002年5月には11thシングル『SAKURAドロップス/Letters』が発売され、CDで68万枚をセールスし2002年の年間6位に入った。このうち「SAKURAドロップス」は最高視聴率11.1%を記録したドラマ「First Love」の主題歌に起用され、配信では10万ダウンロードを記録した。MVは引き続き紀里谷和明が手掛けている。
宇多田ヒカル「SAKURAドロップス」Music Video(4K UPGRADE )
2002年6月に発売された3rdアルバム『DEEP RIVER』は360万枚を売り上げてアルバムセールス歴代8位を記録。当然2002年の年間チャートでも1位となった。
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1
2003年1月には12thシングル「COLORS」が発売され、表題曲はトヨタ・ウィッシュのCMソングに起用された。89万枚をセールスし、2003年の年間3位を獲得。配信でも10万ダウンロードを記録した。MVはBlurやgarbageの作品を手掛けたことで知られるドナルド・キャメロンが監督した。
宇多田ヒカル「COLORS」Music Video(4K UPGRADE )
この後はしばらく全米デビューに向けた充電期間に入るが、その間の2004年3月には初のベストアルバム『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』を発売し、258万枚を売り上げて2004年の年間アルバムチャート1位を獲得した。
このベストアルバムは配信でも10万ダウンロードを記録している。なおこの作品は2000年代に発売されたアルバムでは史上初の10万ダウンロード突破作となった。
2004年4月には13thシングル「誰かの願いが叶うころ」が発売され、CDで36万枚、配信で25万ダウンロードを売り上げた。
9月には全米デビューアルバム『EXODUS』を国内発売し、日本だけで107万枚を売り上げ、年間アルバムチャート6位にランクインした。
2005年-2010年 ~ダウンロード売上全盛期~
2005年以降になると国内の音楽環境も変化し、CD市場に代わりダウンロード市場の普及が本格化。楽曲人気はCD売上ではなく配信売上で可視化できるようになっていった。90年代にデビューしたアーティストのほとんどはこの変化に対応できず、宇多田ヒカルも2006年まではCD売上の減少が続いた。しかし2007年以降、見事にCD市場からダウンロード市場へ軸足を移行させることに成功。90年代デビューアーティストとして唯一となる認定総ダウンロード数1,000万超えを達成している。その源泉となったのがこの時期の大活躍で、これも90年代デビューアーティストとしては唯一の配信ミリオンセラー複数曲輩出を達成した。
この時期の楽曲に絞って配信開始日順に並べたダウンロードデータは以下のとおり。
ULTRA BLUE
2005年は「Be My Last」「Passion」の2枚のシングルを発売し、配信とCDの双方で10万以上をセールス。
2006年は2月に16thシングル「Keep Tryin'」を発売し、配信20万ダウンロード、CD12万枚を売り上げた。5月には自身初の配信シングル「This Is Love」を発売。CD発売がなかった分ダウンロード売上を伸ばし、35万ダウンロードを記録した。
6月には4thアルバム『ULTRA BLUE』を発売。90万枚を売り上げて2006年の年間7位にランクインした。
11月には17thシングル「ぼくはくま」を発売。表題曲は自身初の童謡という異色作であったが、売上は安定しており、変わらず配信とCDの双方で10万以上を売り上げた。
2005年から2006年にかけてのCDセールスは、2004年までの爆発的な売上と比べれば落ち着きを見せたものの、注目は配信で安定して10万ダウンロードを売り上げていたことである。本当に楽曲人気が乏しくてCD売上が減っていたのなら、ダウンロード売上も10万には到達できないはずであり、一定の人気を維持しつつダウンロード市場もしっかり開拓していたと言うこともできる。
数あるダウンロードサービスの中でも特にiTunesでの人気が顕著であり、「Keep Tryin'」は2006年のiTunes年間ランキング1位を獲得している。翌年以降にダウンロード市場を席捲することになるが、その下地は既に整っていたのである。
HEART STATION
「Flavor Of Life」大ヒット
大ヒット曲は2007年に入って早々に誕生した。2月に発売された18thシングルCD表題曲「Flavor Of Life」のバラードバージョン「Flavor Of Life -Ballad Version-」は1-3月期に放送されたドラマ「花より男子2(リターンズ)」の挿入歌に起用された。ドラマが最高視聴率27.6%を記録するほどの大人気であったことや、いわゆる「良い所」で楽曲が流れる効果的な使われ方をしたことで発売前から人気が沸騰した。
ドラマのために書き下ろされた本曲だが、もともとはアップテンポな原曲を提出したところ、ドラマ関係者からの要望でバラードバージョンが制作されたという経緯がある。バラードバージョンは18thシングルのc/wとして収録されたが、MVはこのバラードバージョンでしか制作されていないなど、通常のc/wを超える扱いでプロモーションされ、大ヒットを促した。バラードバージョンはフル配信85万ダウンロード、MV4,000万再生を記録した。
ダウンロード数の推移は以下のとおりである。
- 配信開始1ヶ月後の2007年3月に25万ダウンロード突破
- 2007年4月に60万ダウンロード
- 配信開始1年8ヶ月後の2008年10月に85万ダウンロード達成
ドラマ内で流れるバラードバージョンが原曲に先んじて世に公開されたが、原曲「Flavor Of Life」もしっかり人気を獲得しており、バラードバージョンを上回る125万ダウンロードを記録する大ヒットとなった。表題曲としての体面は保った形となる。バラードバージョンと合算すれば210万ダウンロードとなり、参考程度ではあるが、ダブルミリオンと言うこともできる。
配信ミリオンを記録した原曲は、その到達スピードも記録的な速さとなっている。ダウンロード売上の推移を以下に示す。
- 配信開始1ヶ月後の2007年3月に早くも60万ダウンロード突破
- 2007年6月に85万ダウンロード
- 配信開始5ヶ月後の2007年7月に配信ミリオン突破
- 配信開始2年1ヶ月後の2009年3月に125万ダウンロード達成
配信ミリオン達成は2007年7月であるが、これはGReeeeN「愛唄」と全く同じタイミングでの国内史上初のフル配信ミリオン達成となる。
ただし、内訳は異なっており、「愛唄」は着うたフルのみで100万ダウンロードとなった一方、「Flavor Of Life」は着うたフル75万とPC配信25万の合計で100万ダウンロード達成となった。*1
当時のダウンロード市場は着うたが主流で、iTunesに代表されるPC配信市場はまだ普及途上だったが、前項で述べたとおり宇多田ヒカルは早くからiTunes市場を押さえており、これが配信ミリオン同時1号達成に貢献した。
CDでも65万枚を売り上げ、2007年の年間2位を獲得した。CD売上チャートだけ見ていても充分に大ヒットは体感できたため、あまりダウンロード売上の上記偉業に注目が集まることはなかった。しかし、やはりこの曲の大ヒットを正しく伝える数字は65万ではなく大台超えの125万である。2007年にはすでに楽曲人気指標はCD売上からダウンロード売上へと大部分の移行が完了していた。
この曲の大ヒットをダウンロード売上で伝える情報は、切り売りの着うたを含めた数字が使われることが多く、トータルで700万以上という情報もあるが、着うた売上は楽曲のどの部分が支持されていたのか明細が分からないため、楽曲人気指標としては使い難い。それまで楽曲人気指標の主流として親しまれていたシングルCD売上の歴代トップは300万程度であり、それと比べて700万という突拍子もない数字が出たことは、逆にダウンロード売上の楽曲人気指標としての軽視に繋がってしまった印象だ。実際には上記のとおりフル配信に限れば125万という現実的かつ適切な数字が出ている。
2007年のCD売上年間1位は秋川雅史「千の風になって」の123万枚であるが、もしCD売上とダウンロード売上を合算した音楽チャートが存在していたならば、「千の風になって」は当時フル配信ダウンロード未解禁だったため、2007年内にCD64万、ダウンロード100万を記録している「Flavor Of Life」は「千の風になって」を上回り、年間1位になっていたと当ブログでは推定している。
宇多田ヒカル「Flavor Of Life-Ballad Version」Music Video(4K UPGRADE)
「Beautiful World」大ヒット
「Flavor Of Life」の大ヒットで再び世間の大きな注目を集めた宇多田ヒカルはすぐに新曲を畳みかけるように連発した。まず5月には「This Is Love」に続く日清食品「カップヌードル」CMソング「Kiss & Cry」を配信で先行発売し、20万ダウンロードを記録。
6月には映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」予告編テーマソング「Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX-」をやはり配信で先行発売し、10万ダウンロードを記録した。
そして8月に、上記2曲に加え、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」テーマソングとして制作した新曲「Beautiful World」を収録した19thCDシングル『Beautiful World/Kiss & Cry』を発売。CDは23万枚を売り上げて2007年の年間20位にランクインした。しかしやはり配信でCD売上を圧倒的に上回るダウンロード売上を記録しており、「Beautiful World」は配信ミリオンを達成している。達成までの推移は以下のとおり。
- 配信開始1ヶ月後の2007年9月に25万ダウンロード
- 2007年10月に35万ダウンロード
- 2008年2月に60万ダウンロード
- 2012年2月に75万ダウンロード
- 配信開始7年1ヶ月後の2014年9月に配信ミリオン達成
なんとミリオン達成までには7年を要しており、タイアップ先とともに長く人気を維持していることが分かる。映画も興行収入20億円を達成した。なお他指標でもMV3,000万再生を突破している。
Utada Hikaru「Beautiful World」 Directed by Tsurumaki Kazuya
「Prisoner Of Love」大ヒット
2008年に入っても次々と新曲が発表された。2月にはアルバムの先行シングルとして20thシングル『HEART STATION/Stay Gold』を発売。CD売上は10万枚に届いていないが、例によって配信売上で人気が可視化されており、「HEART STATION」は35万ダウンロード、「Stay Gold」は10万ダウンロードを記録している。
2008年1月からスタートし、今や楽曲人気指標としての権威を強固にしている音楽チャートBillboard JAPAN Hot 100では、「Stay Gold」が記念すべき開始第1週の1位に輝いた。CD発売前に1位となった理由は、CD売上以外にもラジオエアプレイ数が集計対象だったことによる。同週のオリコン1位はAAA「MIRAGE」だったが、CD売上が2万枚と多くなかったため、ラジオの加点のみで逆転が実現した。
3月には待望の5thオリジナルアルバム『HEART STATION』が発売され、CDミリオンを達成。最終的には101万枚を売り上げた。Billboard JAPAN Top Albums Salesでは2008年の年間6位を獲得した。
収録曲のうち特に大人気となったのが、4-6月期のドラマ「ラスト・フレンズ」主題歌となった「Prisoner Of Love」で、ドラマが最高視聴率22.8%を記録する大ヒットとなったことも手伝って、配信ミリオンを達成した。推移は以下のとおり。
- 配信開始1ヶ月後の2008年4月に25万ダウンロード
- 2008年5月に35万ダウンロード
- 2008年6月に85万ダウンロード
- 配信開始から僅か4ヶ月後の2008年7月に110万ダウンロード突破(配信ミリオン達成)
ドラマは初回視聴率13.9%から右肩上がりに視聴率を伸ばし続け、最終回で22.8%の最高視聴率を記録したが、本曲もその人気推移に沿うように、ドラマ終盤に差し掛かった6月の間にダウンロード売上を一気に50万積み増し、そのままの勢いで7月にミリオンに到達した。
配信開始4ヶ月(134日)でのダウンロードミリオン達成は「Flavor Of Life」をも約1ヶ月上回る自己最速記録であり、これを以て冒頭に示した宇多田ヒカルのダウンロードランキングでは本曲を1位としている。歴代でも9位タイの速さでもある。
なお本曲はシングルCDでもアルバム発売から2ヶ月後に発売されたが、シングルカットという性質もありCD売上は8万枚に留まっている。いかにCD売上が楽曲人気指標として使えなくなってきていたかを象徴する曲でもある。本曲はCD売上チャートでは年間95位となったが、もし当時CDと配信を合算したチャートが存在していれば年間4位になっていたと当ブログでは推定している。
他指標でもMV3,000万再生を突破している。
宇多田ヒカル「Prisoner Of Love」Music Video(4K UPGRADE)
他にも、ダウンロード認定は受けていないが、アルバムの1曲目を飾るナンバー「Fight The Blues」はBillboard JAPAN Hot 100で「Stay Gold」に続く週間1位を獲得した。シングルCD化されていない本曲が1位を獲得できた理由はやはりラジオの加点による。同週のオリコン1位は安室奈美恵『60s 70s 80s』だったが、CD売上が3万枚と多くなかったため、ラジオの加点のみで逆転が実現した。*2
また、アルバム発売とほぼ同時に、過去のアルバム曲で配信未解禁のままだった曲も解禁が実現した。このうち、アルバム『Distance』収録の「Eternally」が10万ダウンロードを記録した。この曲は2008年10-12月期のドラマ「イノセント・ラヴ」の主題歌として起用されたため、リバイバルヒットに繋がった。なお主題歌として使用された音源は原曲とは別のバージョンであり、「Eternally -Drama Mix-」として配信シングルで新規発売され、原曲とは別に20万ダウンロードを記録している。
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2
2009年は『EXODUS』以来となるUtada名義での世界展開をメインとし、3月にアルバム『This Is The One』を発売。24万枚を売り上げた。リードシングル「Come Back To Me」はフル配信10万ダウンロード、MV3,000万再生を記録した。現在までのところ、Utada名義ではこの曲が唯一日本レコード協会のダウンロード認定を受けている。
6月には2007年発売の大ヒット曲「Beautiful World」のリミックス「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」を配信シングルとして発売。映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」主題歌に起用されたこともあり、既存曲のリミックスでありながら、25万ダウンロードを売り上げた。
2010年は、8月に翌年以降の活動休止を発表。アーティスト活動を一度止め、「人間活動」に専念するとした。休止前の11月にはベストアルバム『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』を発売し、44万枚をセールスした。
このベストアルバムには新曲も5曲収録されており、そのうち「Goodbye Happiness」と「Can't Wait 'Til Christmas」の2曲が20万ダウンロードを記録した。特に「Goodbye Happiness」はBillboard JAPAN Hot 100で週間1位も獲得した。当時のビルボードの集計対象指標はCD売上以外にラジオとiTunesダウンロード売上も集計対象としていたため、同週オリコン1位だったタッキー&翼「愛はタカラモノ」を逆転した。
2011年- ~第2のダウンロード売上全盛期~
活動休止期間は2011年から2015年までの5年間に及んだが、その間に音楽環境も激変。シングルCD売上が完全に楽曲人気指標としての役割を終え、ビルボードは楽曲人気を可視化すべくデジタル領域の集計割合を拡大させた。しかし2016年に活動を再開するとそんな環境変化にすぐさま対応。CDシングルをほとんど発売しなくなり、配信シングルとCDアルバムの発売を軸にした活動を展開した結果、ブランクをものともせず一瞬でトップシーンに復帰した。
2011年以降に発表された楽曲に絞って配信開始日順に並べたダウンロードデータは以下のとおり。
Fantôme
人間活動中には、震災の復興支援を行ったほか、結婚、出産、母親の死などを経験。そんな波瀾万丈な活動休止期間の中でも、1曲だけ新曲を発表した。2012年11月に発売された配信シングル「桜流し」は映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」主題歌として書き下ろされ、50万ダウンロードを記録するヒットとなり、活動休止中でも存在感を発揮した。
2016年に待望の活動再開となり、4月には新曲を2曲同時配信リリースした。このうち「花束を君に」はNHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」主題歌に起用され、お茶の間に浸透。母親への想いを歌う内容も支持され人気を博し、売上は75万ダウンロードを突破した。推移は以下のとおり。
- 配信開始1ヶ月後の2016年5月に10万ダウンロード
- 2016年6月に25万ダウンロード
- 2016年11月に50万ダウンロード
- 配信開始から3年6ヶ月後の2019年10月に75万ダウンロード達成
見てのとおり年内に50万ダウンロードを達成し、年末の紅白歌合戦ではこの曲で初出場を果たした。以降も売上を積み上げ続け、2019年に75万ダウンロードを達成した。他指標でもMV3,000万再生、ストリーミング5,000万再生を突破している。
もう一つの新曲「真夏の通り雨」も「NEWS ZERO」エンディングテーマとして起用され、25万ダウンロードを記録した。
9月にはアルバム発売2週間前の先行シングルとして「道」を配信リリース。本人が出演するサントリー天然水のCMソングとして大量OAされたこともあり、25万ダウンロードを記録した。CMとしてはOA時間も60秒と長く、宇多田ヒカルの活動再開を視覚的に強く印象づける楽曲となった。
以上までの多くのヒット曲を収録した6thオリジナルアルバム『Fantôme』は活動休止のブランクを感じさせないセールスを記録した。CDでは同週発売となったEXILEのベストアルバムを退けるなど4週連続1位を記録し、最終的に70万枚をセールスした。また、配信でも10万ダウンロードを突破した。
Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2016年1位→2017年11位→2018年86位と推移。年間1位を獲得したうえに3年に渡るロングヒットを記録した。
アルバム曲の中では、椎名林檎とのコラボが話題となった「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」がフル配信10万ダウンロード、MV3,000万再生を突破している。
初恋
2017年も新曲発売が続き、7月には「大空で抱きしめて」「Forevermore」を配信リリースして両曲とも10万ダウンロードを記録。12月に発売された「あなた」は25万ダウンロードを記録した。
2018年には4月に発売された「Play A Love Song」が10万ダウンロード、5月に発売された「初恋」が25万ダウンロードを記録した。
6月には7thオリジナルアルバム『初恋』を発売し、CDで38万枚をセールスしたほか、配信でも10万ダウンロードを記録。これでアルバムでは自身3作目の10万ダウンロード突破となったが、10万ダウンロードを記録したアルバムを3作持つアーティストは宇多田ヒカルのみである。
Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2018年3位→2019年76位と推移するロングヒットとなった。
BADモード
2020年5月に配信されたシングル「Time」は最高視聴率10.0%を記録したドラマ「美食探偵 明智五郎」主題歌に起用されたこともあり10万ダウンロードを記録。
そして2021年には新たな大ヒット曲が誕生した。3月に配信された「One Last Kiss」は興行収入102億円を記録した大ヒットアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」主題歌。既に「Beautiful World」や「桜流し」のヒットで「エヴァンゲリオン」シリーズとの相性の良さを見せていた宇多田ヒカルだが、「One Last Kiss」でも趣向が凝らされた心地よいサウンド等によりアニメの世界観への没入を誘った。
各指標の数値はフル配信25万ダウンロード、MV8,000万再生、ストリーミング1億再生を突破。さらに本曲はEP『One Last Kiss』としてCDでも発売され、18万枚を売り上げた。Billboard JAPAN Hot 100では「Goodbye Happiness」以来約10年4ヶ月ぶりとなる週間1位を獲得したが、これは1位獲得インターバルとしては最長記録である。
同年11月にはシングル「君に夢中」が配信された。最高視聴率10.9%を記録した人気ドラマ「最愛」の主題歌として書き下ろされた本曲は、愛情のもつれを表現した歌詞や、繊細な歌唱とピアノサウンドがドラマに深くマッチしていたことにより人気を博し、フル配信10万ダウンロード、MV3,000万再生、ストリーミング1億再生を記録した。
これらのヒット曲は2022年に発売された8thアルバム『BADモード』に収録されており、このアルバムは16万枚を売り上げた。
まとめ
90年代末期に突如現れた宇多田ヒカルはJ-POPのトレンドを激変させたが、その後も音楽視聴環境の激変をものともせずに常に時代をリードしていることが分かる。J-POPの歴史を語るうえで欠かせない存在であり、その活躍を語るデータとして、CD売上だけでなくダウンロード売上も必ず参照しなければならないことが改めて確認できた。
宇多田ヒカルは2020年現在に至るまでオールタイムベストを出したことがない。デビューから20年以上が経過したアーティストとしては極めて珍しい。CDアルバムで上記で紹介した大量のヒット曲を手っ取り早く網羅したい場合でも、もはやオリジナルアルバムを1枚ずつ辿っていくことをお勧めする。なにせ国内で最も売れたアルバム歴代TOP10に3枚もオリジナルアルバムがランクインしているので、歴史を辿る意味でも聴いて全く損はない。
あるいは、まず2枚のベストアルバム『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』や、直近のオリジナルアルバム『Fantôme』を入門として聴いてみるのも良いだろう。
この記事で紹介したダウンロードデータは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。