大塚愛は2003年に「桃ノ花ビラ」でデビューした女性ソロアーティスト。デビュー後間もなくブレイクを果たし、2000年代を中心にヒット曲を大量輩出した。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は18曲で、認定総ダウンロード売上は420万(歴代23位タイ)となっている。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、大塚愛のヒット史を振り返る。
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デビュー~2005年
大塚愛がデビューした2000年代前半という時期は、急速にCDが売れなくなっていく一方、着うたに代表される配信市場が誕生し、拡大を始めていた時期だった。そのため、この時期の楽曲の人気を把握するためには、CD売上をメインとしつつも、配信売上も同時に参照する必要がある。
この時期の曲を配信開始日順に並べたダウンロード売上データは以下のとおり。
「さくらんぼ」配信50万ヒット
2003年9月に発売したデビュー曲「桃ノ花ビラ」は、まだ知名度が乏しかったこともありCD売上では3万枚程度しか売れなかったが、配信では後述のブレイクとともに売上を伸ばし、10万ダウンロードを突破している。
大塚愛がブレイクしたきっかけとなる曲は、2003年12月に発売された2ndシングル「さくらんぼ」である。 CD売上チャート初登場は20位だったが、翌2004年1月になって人気バラエティ番組「めちゃ×2イケてるッ!」エンディングテーマに起用されたことでじわじわと認知度が拡大。楽曲が纏っていた底抜けの明るさや可愛らしさ、ノリの良いリズムが支持を受け、CD売上は52万枚を記録。年間では2003年12月発売の楽曲であるにも拘わらず2004年12位→2005年86位と推移する記録的なロングヒットとなった。
配信では、まずCD発売と同時に切り売りの着うたとPCでのフル配信が解禁。切り売りの着うたでは、国内史上初の100万ダウンロードを達成した曲とされている。1年遅れて2004年11月には着うたフルが解禁。そこからの積み上げで、PC配信と合計したフル配信ダウンロード売上は2014年1月時点で50万ダウンロードを突破した。
ここで紹介している配信ダウンロード売上の数字は、切り売りの着うたを含めていない50万という数字である。切り売りの着うたは、楽曲のどの部分が売れたのか明細が分からないため、楽曲人気指標としては使い難い。それでも、史上初の着うた100万ダウンロード達成という事実からはこの曲の一部分(恐らくサビの部分)が人気を得ていたと推測することは可能である。
日本レコード協会は2014年以降、着うたフルとPC配信で分かれていた認定カテゴリをシングルトラックに統一した。2014年1月にこの曲の50万ダウンロード認定を出した際の配信開始日は、PC配信ではなく着うたフルの解禁日に合わせた2004年11月12日になっている。実態に合わせるならばPC配信解禁日である2003年12月17日とすべきではないかと思うが、ここでは日本レコード協会の配信開始日に合わせた。
2003年時点ではまだiTunesに代表されるPC配信市場は着うた市場ほどに普及していなかったため、フル配信50万ダウンロードという数字は当時の本曲の人気を十分に表してはいないかもしれないが、それでもヒットの証拠としては十分な数字である。参考程度ではあるが、CD売上と合計すれば売上は100万を超える。
2004年3月にはアルバム先行シングル「甘えんぼ」を発売し、CD10万枚、配信10万ダウンロードをセールス。同月放たれた1stオリジナルアルバム『LOVE PUNCH』は登場週数105週のロングヒットをマークして累計69万枚をセールスした。年間でも2004年20位→2005年94位と推移した。
完全にブレイクを果たした大塚愛は以降も積極的なシングルリリースを展開し、安定したセールスを記録した。7月発売の4thシングル「Happy Days」はCD16万枚。8月発売の5thシングル「金魚花火」はCD14万枚、配信10万ダウンロード。10月発売の6thシングル「大好きだよ。」はCD15万枚、配信10万ダウンロードとなっている。
2004年11月にはこれらのヒット曲を収録した2ndオリジナルアルバム『LOVE JAM』を早くも発売し、65万枚を売り上げた。年間チャートでは集計割れを起こし、2004年65位→2005年30位と推移した。
2005年2月には7thシングル「黒毛和牛上塩タン焼き680円」を発売。本曲はアニメ「ブラック・ジャック」エンディングテーマ。「LOVE JAM」には先に別バージョンを収録しており、実質的なシングルカット曲であったが、CD14万枚、配信10万ダウンロードとなり、前年までのシングルとほとんど変わらないセールスを記録した。
2005年5月には8thシングル『SMILY/ビー玉』を発売し、CDでは31万枚を売り上げた。自身3位となった高売上を牽引したのは順当に1曲目に収録されていた「SMILY」の人気で、本曲は「さくらんぼ」と同系統のコミカルなノリの良さと明るさが売りのナンバー。消臭スプレーのCMソングとしてオンエアされたことも楽曲の普及を後押しした。
この曲の配信売上は10万ダウンロードとなっており、前年までのシングル群と変わらない認定であるが、前年までの楽曲は10万ダウンロード認定までに約10年要している一方、今作は2006年8月時点で既に10万ダウンロードを突破していた。これは着実に配信市場が拡大していることを示している。ただ、高CD売上となるほどの楽曲人気を考えれば、以降ダウンロード認定を更新できていないことには意外感もある。
2005年7月には10thシングル「ネコに風船」を発売し、CDで11万枚をセールス。
「プラネタリウム」配信ミリオン
そして2005年9月には自身最大のヒット曲が誕生した。11thシングル表題曲として発売された「プラネタリウム」はCDで自身2位の売上となる31万枚をセールスしただけでなく、配信で自身最大にして唯一となるミリオンセラーを達成した。配信売上推移は以下のとおり。
- 2006年8月時点で売上25万ダウンロード以上
- 発売5年5ヶ月後の2011年2月に50万ダウンロード突破
- 発売6年2ヶ月後の2012年11月に60万ダウンロード突破
- 発売8年4ヶ月後の2014年1月に75万ダウンロード突破
- 発売12年8ヶ月後の2018年5月に配信ミリオン達成
見てのとおり、非常に長い期間に渡ってコンスタントにダウンロード売上を積み上げ続け、なんと12年8ヶ月もの年月を要して配信ミリオンに到達した。この所要年月は、歴代の配信ミリオン達成曲の中で史上3番目のスロー記録である。
ここまで息の長い人気曲となった理由は、何よりも視聴率22.4%を記録した人気ドラマ「花より男子」の挿入歌に起用されたことが大きい。このドラマはのちに続編制作や映画化もされことごとく大ヒットしており、ドラマの息の長い人気が楽曲にも波及していることが窺える。
もちろん、楽曲そのものへの支持もここまで長期に渡る人気の維持には欠かせない要素である。この曲は「大好きだよ。」などと同系統のじっくり聴かせるバラードナンバーで、当時の大塚愛は「さくらんぼ」のような突き抜けた明るさのアップテンポ路線とこのバラード路線の二軸でヒットを出し続けていた。これまでの最大ヒットはアップテンポ路線の「さくらんぼ」だったが、「プラネタリウム」の大ヒットでバラード路線においても確かな支持基盤を確立することに成功した。
メディアでは長らくCD売上自身1位の「さくらんぼ」が大塚愛最大のヒット曲として紹介され続けてきたが、CDと配信の合算売上では「プラネタリウム」が「さくらんぼ」を上回っている。配信ミリオンはこの「プラネタリウム」が今なお自身唯一であり、大塚愛の最大ヒット曲の認識は改めなければいけない状況になっている。
さらに「SMILY」と比較した本曲の売上は、CDがほぼ一緒の31万枚であるにも拘わらず、配信では10万と100万で非常に大きな差が生じていることは意外な事実である。当時の人気は同程度か「プラネタリウム」が僅かに上回る程度だったのが、人気の息の長さでは明確に「プラネタリウム」に軍配が上がっていることが分かる。
「プラネタリウム」の大ヒットを受け、2005年12月に発売された3rdオリジナルアルバム『LOVE COOK』は自身最大となる83万枚のセールスを記録した。年間でも2006年の10位を獲得。アルバム曲のうち、「Cherish」が10万ダウンロードを売り上げる人気曲になっている。
2006年以降
2006年に入るといよいよフル配信市場拡大が本格化し、配信売上がCD売上を上回る曲が次々と現れるようになった。日本レコード協会のダウンロード認定もこの年から開始している。しかし数字が分かる配信売上チャートが一向に始まらなかったこともあり、楽曲人気の把握に際しては実態にそぐわない形でCD売上重視・配信売上軽視が続くこととなる。
大塚愛も2006年以降になるとシングルの配信売上が伸びてCD売上を上回るようになり、人気は配信を中心に持続していたが、CD売上の減少にのみ注目が行き、楽曲人気が過小評価されることも少なくなかった。
この時期の曲を配信開始日順に並べたダウンロード売上データは以下のとおり。
2006年は3枚のシングルを発売。「フレンジャー」が配信25万ダウンロード、CD17万枚、「ユメクイ」が配信10万ダウンロード、CD14万枚、「恋愛写真」が配信25万ダウンロード、CD14万枚を売り上げた。徐々に配信売上がCD売上を上回るようになっている様子が見て取れる。ちなみに「ユメクイ」はこの3曲の中で唯一切り売りの着うたで100万ダウンロード認定を受けている(他2曲は75万ダウンロード)。この3曲はそれぞれ全く曲調が異なるが、それぞれの良さが支持された結果、人気はかなり拮抗しているようだ。
2007年に入っても安定的な人気は継続。まず2月に発売された14thシングル「CHU-LIP」が配信25万ダウンロード、CD12万枚を売り上げた。
3月には自身初のベストアルバム『愛 am BEST』を発売。2006年以降のシングルが未収録となったことがマイナス要素となったものの、72万枚を売り上げるヒットを記録。年間でも2007年の6位を獲得した。
「PEACH」配信75万ヒット
そして2007年7月にはこの時期の曲としては頭一つ抜けたヒット曲が誕生した。両A面の15thシングル『PEACH/HEART』の1曲目「PEACH」は前作に続く陽気なアップテンポナンバーで、最高視聴率21.0%を記録した大人気ドラマ「花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜」エンディングテーマに起用されたこともあり、75万ダウンロードを売り上げた。配信売上推移は以下のとおり。
- 発売4週間で10万ダウンロード突破
- 発売1ヶ月で25万ダウンロード突破
- 発売6ヶ月後の2008年1月に50万ダウンロード突破
- 発売5年4ヶ月後の2012年12月に60万ダウンロード突破
- 発売6年6ヶ月後の2014年1月に75万ダウンロード達成
見てのとおり発売1ヶ月で25万ダウンロードを売り上げる好調な初動売上を見せ、その後も勢いが落ちずに年末歌番組の披露効果も出て翌年1月に50万ダウンロード突破。最終的には75万ダウンロードに到達している。
なおCD売上は16万枚であり、前作からは毛が生えた程度の増加にしかならなかったため、当時はドラマ効果で多少売上が回復したというヒットの扱われ方をしていたが、実際は配信で売上が大幅に増加した。
余談だが、同じドラマのオープニングテーマであるORANGE RANGE「イケナイ太陽」は「PEACH」と全く同じ配信75万ダウンロード、CD16万枚の売上になっており、同じような人気の過小評価を受けていた。
「PEACH」などのヒット曲を引っ提げ、2007年9月には4thオリジナルアルバム『LOVE PiECE』を発売。CDアルバム市場縮小の影響は受けたものの、37万枚をセールスするヒットを記録した。
11月には16thシングル「ポケット」を発売。このシングルではCD売上がブレイク以降初めて10万枚を割れてしまったため、ヒットしなかった曲として扱われていたが、実際は配信で10万ダウンロードを超えている。なおシングルCD売上10万枚超えは『PEACH/HEART』が最後となっているが、配信では2008年以降も10万ダウンロード以上を記録する楽曲が幾つか誕生していた。
2008年に発売したシングルの中では、9月に発売した18thシングル「クラゲ、流れ星」が10万ダウンロードを記録。12月にはこの曲も収録した5thオリジナルアルバム『LOVE LETTER』を発売し、17万枚を売り上げた。アルバム曲の中では、ラストを飾る楽曲「愛」が10万ダウンロードを記録。日本生命のCMソングに起用されたことや、2008年末の紅白歌合戦の歌唱曲にも選ばれたことで人気曲となった。また、3曲目に収録された「バイバイ」も10万ダウンロードを記録。2009年2月にシングルカットされたことや、アサヒビールのCMソングに起用されたことで人気曲となった。
2009年以降は新曲がダウンロード認定を受けることはなくなったものの、途中産休などを挟みつつも音楽活動は継続しており、既存のイメージに留まらない自由な雰囲気の楽曲も多くなっている。
まとめ
以上のとおり、大塚愛は2000年代前半はCDを中心に、2000年代後半は配信を中心に多くのヒット曲を輩出しており、2000年代を代表するアーティストであることに疑いの余地はない。
ここで紹介した曲を所有したい場合は、2018年に配信限定(CDではレンタルのみ)で発売された『Single Collection:LOVE IS BORN~15th Anniversary 2018~』がおすすめ。「ドラセナ」までの25枚のシングル表題曲が全て収録されている。需要の高そうな収録内容であるにも拘わらずなぜ配信限定品にしてしまったのかは謎である。
この記事で紹介したダウンロードデータは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。