木村カエラは2004年に「Level 42」でデビューした女性ソロアーティスト。すぐにブレイクを果たし、2000年代後半にかけてヒットシーンを彩った。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は8曲で、認定総ダウンロード売上は255万(歴代45位タイ)となっている。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、木村カエラのヒット史を振り返る。
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2004年-2008年
木村カエラは学生の頃より読者モデルとして活躍する傍ら、歌手デビューも目指してバンド活動などに励んでいた。2003年より神奈川テレビの音楽情報番組「saku saku」のレギュラーとなると徐々に知名度を上げ、2004年6月に1stシングル「Level 42」でメジャーデビューを果たした。
10月には2ndシングル「happiness!!!」を発売。明るくキュートなポップナンバーとして支持され、一層の人気拡大に貢献した。デビュー10周年の2014年に実施されたファン投票ではこの曲が1位となるなど、初期の楽曲として根強い支持が得られている。
2004年12月にはこの2枚のシングルを引っ提げて1stオリジナルアルバム『KAELA』を発売。いきなり14万枚をセールスし、早々にブレイクを果たした。
上昇気流に乗る最中の2005年3月に発売された3rdシングル「リルラ リルハ」は前作同様キャッチーなポップロックチューンに仕上がっており、携帯電話のCMソングとして大量OAされたこともあり、シングル初の10万超えとなるCD11万枚、配信10万ダウンロードを売り上げた。本人により描かれた、忙しない日常の中で一息をつけるような内容の歌詞も支持された。
なおCDシングル売上では本作が自己最高売上となっており、唯一10万枚を超えた作品となっている。このことを以て本作が木村カエラ最大のヒット曲と謳われることも多いが、当時は音楽の聴き方がCDから配信に移行している最中であり、楽曲人気を考えるうえでは配信売上も必ず考慮に入れる必要がある。木村カエラも、この後配信で売上10万以上のヒット曲を連発することになる。
2006年3月には本作を収録した2ndオリジナルアルバム『Circle』を発売し、19万枚をセールスした。
2006年6月には6thシングル「Magic Music」を発売。夏フェスで盛り上がれるアップチューンとして支持された本作は久々に配信で10万ダウンロードを突破するヒット作となった。
2006年7月には7thシングル「TREE CLIMBERS」を発売。個性溢れるロックナンバーとなっていた本曲はモード学園のCMソングとして大量OAされたことで人気が普及し、配信で10万ダウンロードを突破した。MVにBEAT CRUSADERSが出演したことも話題となった。
2007年1月には8thシングル「Snowdome」を発売。BEAT CRUSADERSが作曲した本曲はキャッチーなミディアムバラードになっており、木村カエラ本人が描いた歌詞によりポップながらも少し切ないラブソングに仕上がった。売上は10万ダウンロードを突破し、これでシングル表題曲は3曲連続で10万ダウンロードを超えるヒットとなった。
2007年2月にはこの3曲のヒット曲を収録した3rdオリジナルアルバム『Scratch』を発売。配信売上のアベレージの上昇はCDアルバム売上にも表れ、本作でオリジナルアルバムとしては自身最大売上となる35万枚を記録した。CDアルバム売上チャートでは自身初となる週間1位も獲得した。
2008年2月には11thシングル「Jasper」を発売。自身初のテクノ楽曲でもある本曲は石野卓球が作曲を手掛けたことでも話題となり、久々に配信10万ダウンロードを突破した。4月にはこの曲も収録した4thオリジナルアルバム『+1』を発売し、16万枚を売り上げた。
2009年以降
「Butterfly」配信ミリオン
2009年6月には自身最大の大ヒット曲が誕生した。自身初となる配信限定シングルとして発売された「Butterfly」である。本曲は親友の結婚式のために書き下ろされたウェディングソングで、ゼクシィのCMソングにも起用されると瞬く間に大きな支持を集め、累計150万ダウンロードを突破する大ヒットとなった。
配信売上推移は以下のとおりである。
- 配信1ヶ月で35万ダウンロード突破
- 配信2ヶ月で60万ダウンロード突破
- 配信6ヶ月後の2009年12月に配信ミリオン達成(着うたフル75万+PC配信25万)
- 配信7ヶ月後の2010年1月に125万ダウンロード突破(着うたフル100万+PC配信25万)
- 配信11ヶ月後の2010年5月に150万ダウンロード到達(着うたフル100万+PC配信50万)
見てのとおり配信から1ヶ月で自己最高配信売上大幅更新となる35万ダウンロードを突破する猛烈な初動売上を見せ、その勢いのまま2009年内に配信ミリオンに到達した。なお2009年発売曲で年内に配信ミリオンに到達した楽曲は他にEXILE「ふたつの唇」、JUJU with JAY'ED「明日がくるなら」、GReeeeN「遥か」、ヒルクライム「春夏秋冬」の4曲しかなく、「Butterfly」も2009年のヒットシーンを語る上で外せない大ヒットとなった。
2009年末にはこの曲で自身初となる紅白歌合戦出場も果たしたことで、翌2010年にかけて高配信売上が持続し、最終的なフル配信売上認定総数は150万ダウンロードにまで到達した。楽曲切り売りの着うた売上を除いた、フル配信売上だけでこの数字である。
ここまでの大ヒットとなった要因には、時代や世代を問わない親しみを有したポップな曲調に祝福を気持ちを素直に表現した歌詞が乗ったことや、個性的ながらも聴きやすく透明感のある歌声が楽曲の雰囲気にマッチしていたことが挙げられる。
このように圧倒的人気を博していた「Butterfly」だが、当時の音楽チャートではなかなか大人気が可視化されなかった。2009年当時は既に音楽の聴き方がCDから配信に相当程度移行していたにも拘らず、CD売上だけで楽曲人気を計る旧来の手法が不適切に続けられていた。配信限定シングルの「Butterfly」はCDシングル化されなかったので当然CD売上チャートにはランクインせず、CD売上チャートばかりが目立っていた当時は脚光を浴びにくい状況になっていた。
「Butterfly」は辛うじて大ヒットの動向が拾われ、同年末の紅白歌合戦に出場できたことがまだ救いだったが、上記で挙げた、2009年発売曲で2009年内に配信ミリオンを突破した他の4曲は紅白歌唱曲に選ばれていない。このことからも高配信売上曲の人気過小評価が当時蔓延していたことが窺える。
2009年のCDシングル売上チャート年間1位は嵐/矢野健太 starring Satoshi Ohno『Believe/曇りのち、快晴』だったが、その売上は65万枚であり、配信では当時未解禁。もし当時CDと配信を合計した音楽チャートがあったならば、少なくとも「Butterfly」をはじめとした5曲の配信ミリオンナンバーは嵐を超える順位になっていたものと思われる。
配信限定シングルである「Butterfly」の大ヒットは、本来CD売上チャートだけで楽曲人気を計る手法を再考する良い機会となっていても良いはずだったが、そのような動きは長きに渡り全く起きることがなく、2010年代後半に入って配信限定シングルの大ヒットが連発されてようやく改善の動きが見え始めるという有り様だった。
このような理不尽な逆風にも晒されていた「Butterfly」がウェディングソングのスタンダードナンバーという地位を築いたことは、音楽チャートを利用した宣伝に頼る必要がなかったほどの、一過性の流行に留まらない絶大な楽曲人気を長きに渡り有していることの証明でもある。
「Butterfly」を先行シングルとして同月に発売された5thオリジナルアルバム『HOCUS POCUS』は前作を上回る22万枚を売り上げた。
2010年2月には自身初となるベストアルバム『5years』を発売。これまでのヒットシングルが網羅されていたことや、「Butterfly」の紅白歌唱効果が冷めやらぬ中での発売だったことで、売上は自己最高となる47万枚を記録した。Billboard JAPAN Top Albums Salesでは同日発売となった倖田來未『BEST〜third universe〜 & 8th AL "UNIVERSE"』との接戦を制して週間1位を獲得し、年間でも2010年の9位にランクインした。
「Ring a Ding Dong」配信35万ヒット
自身かつてない好調なセールスが続く最中の2010年6月には15thシングル「Ring a Ding Dong」を発売。楽しげな電子音が鳴るリズミカルなナンバーに仕上がっていた本曲はNTTドコモのCMソングとしても起用されたことで人気が普及し、自身2位の売上となる配信35万ダウンロードを記録した。
CD売上は10万枚に惜しくも届かなかったが「リルラ リルハ」に次ぐ自身2位の売上となり、オリコンでは本作で自身初の週間1位を獲得した。ただ、これは同日発売されたEXILEのダブル・マキシ・シングル『FANTASY』が収録曲数の多さからアルバム扱いされたことによるラッキーもあった。一方Billboard JAPAN Hot 100では『FANTASY』がシングル扱いされたため、リード曲の「VICTORY」が週間1位となり、「Ring a Ding Dong」は2位となっている。
なお当時CD売上は既に楽曲人気指標としての役割をほとんど失っており、「Ring a Ding Dong」もオリコンの年間チャートでは75位だった。しかしBillboard JAPAN Hot 100では当時CD以外にラジオエアプレイ数も集計対象としていたことで、ダウンロード売上の代わりに楽曲人気をある程度拾い上げることに成功しており、「Ring a Ding Dong」も2010年の年間25位に入っている。
「A winter fairy is melting a snowman」配信20万ヒット
2010年12月には16thシングル「A winter fairy is melting a snowman」を発売。本作も前作の路線を踏襲したリズミカルなポップナンバーとなっており、前作に続きNTTドコモのCMソングにも起用されたことで好調が持続し、配信20万ダウンロードを記録した。
Billboard JAPAN Hot 100では本曲で自身初にして唯一の週間1位を獲得した。CD発売週は同日発売のAKB48「チャンスの順番」に次ぐ2位だったが、ウィンターソングとしてラジオエアプレイ数が持続し、CD発売から3週間後になって1位に浮上した。なおCD売上はこの週の時点で18位に下がっており、ラジオ指標が牽引しての週間1位であった。加えてちょうどこの頃から新たに集計対象に加わったiTunesでのダウンロード売上の加算も週間1位に貢献したものと思われる。
ちなみに本曲が1位となった週のCD売上1位は発売2週目のHey!Say!JUMP「「ありがとう」~世界のどこにいても~」で、オリコン1位はURATA NAOYA feat.ayumi hamasaki「Dream ON」だったが、何れも当週のCD売上は5万枚に満たなかったため、ラジオ指標の加点による逆転が可能な差となっていた。
なお本曲を最後にダウンロード認定は途絶えているが、以降も2020年に至るまで毎年新作が発売されており、安定したアーティスト活動が続けられている。
まとめ
以上まで見てきたとおり、木村カエラは個性と普遍性をバランス良く有した楽曲群でヒットシーンを彩っており、特に「Butterfly」はヒット史を語るうえで外せないほどの絶大な楽曲人気を有していた。CD売上だけ見ていると「Butterfly」の大人気は捕捉できないので、如何にダウンロード売上が楽曲人気を計る上で重要なデータであるかも改めて認識できる。
この記事で紹介したダウンロードデータは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。