歴代ヒットランキングとは、その名のとおり複数年以上に渡って網羅的に各種ヒットデータを集計し序列化することで、分かりやすく歴代人気コンテンツを上位表示したランキングを指す。しかし実際には、網羅性の棄損などによる欠陥を抱えたランキングがこれを自称する不適切なケースが後を絶たない。
この問題意識を踏まえ、本記事では、この問題を批判するだけでなく、もしこの問題を解決する形で歴代ヒット曲ランキングを作成したらどのような結果になり得るのかをシミュレーションし、一例として提示する。先にシミュレーション結果を示すと、歴代ヒット曲ランキングTOP20は以下のとおりとなった。
- 歴代楽曲人気指標
- CDTV歴代ランキングの問題点
- Billboard JAPAN Hot 100歴代ランキングの問題点
- 歴代ヒット曲ランキング
- まとめ
- 本記事の改訂履歴
- 補足・歴代ヒット曲ランキング51-100位結果
- 補足・歴代ヒット曲ランキング101-140位結果
歴代楽曲人気指標
歴代ヒット曲ランキングを作成するにあたって用いられるべき指標は以下のとおり。
- フィジカルシングル売上
2000年代中盤までの楽曲聴取方法の主流
- 着うたダウンロード売上
2000年代中盤の楽曲試聴方法の主流
- フル配信ダウンロード売上
2000年代後半~2010年代の楽曲聴取方法の主流
- MV再生回数
2010年代以降の楽曲視聴方法の主流
- ストリーミング再生回数
2010年代後半以降の楽曲聴取方法の主流
CDTV歴代ランキングの問題点
音楽の歴代ヒットランキングはCDTVライブ!ライブ!や歌のゴールデンヒットなどのTV番組を通じて公表されることが多い。しかしこれらの番組が発表する歴代ランキングには、オリコンランキングをベースとしていることに伴う重大な欠陥が存在する。それが以下記事で纏めたCD偏重問題である。
この記事で詳述しているが、この問題の要点は、2000年代後半以降のヒットチャート上で楽曲人気指標として機能しなくなっていったCD売上が過大評価され続けたこと、そしてその間新たな楽曲人気指標として機能するようになっていたダウンロード売上がほとんど考慮されず過小評価され続けたことにある。
この二点の問題により、上記番組で放送される歴代ランキングでは、所謂AKB商法を主因にCD売上を稼いだAKB48等の高CD売上曲が過剰な規模で上位進出しているほか、ダウンロード市場が全盛期を迎えていた2000年代後半~2010年代中盤に人気となっていた楽曲がほとんど上位にランクインしていない。
例えばCDTVが番組開始30周年を記念して2023/4/3に放送した歴代ランキングTOP50は以下のとおり。
TOP140ランクイン曲を発売年別に整理した表を以下に示す。このうち2007年から2017年までの11年間のランクイン曲20曲は全てAKB48の楽曲である。それを除けばCD市場全盛期の90年代~2000年代前半発売曲とストリーミング市場拡大期に入った2018年以降発売曲で140曲全ての楽曲が占められており、2000年代後半から2010年代中盤までのダウンロード市場全盛期人気曲はAKB48以外全くランクインしていない。
この10年以上という長期に及ぶ楽曲人気計測失敗は、歴代ヒットランキングと名乗るには相応しくないと言うに十分過ぎる看過不可能な欠陥である。それにも拘らず、CDTVライブ!ライブ!や歌のゴールデンヒットはこの欠陥を修正することのないまま定期的にあらゆる切り口で歴代ランキングを発表し続けている。この行為は誤ったヒット史認識の刷り込みと既成事実化に繋がるものである。文化の成長や発展がそれまでの歴史をベースに行われると考えれば、この行為は音楽業界の成長や発展を阻害すると言えるものであり、音楽好きとしても到底許容することはできない。
なおAKB48の楽曲の人気はCD売上ではなくダウンロード売上に反映されており、当ブログの以下記事に纏めている。
また、ダウンロード市場全盛期の人気楽曲は当ブログの以下記事「歴代配信ダウンロード売上ランキング」にてほぼ網羅している。
Billboard JAPAN Hot 100歴代ランキングの問題点
Billboard JAPAN Hot 100は2008年に発足した比較的歴史の浅いヒットチャートで、発足後約10年間の試行錯誤を経て、2017年以降より本格的に国内の新たなヒットチャートとして台頭した重要な楽曲人気指標である。詳細は以下記事でも説明している。
2023/3/31、Billboard JAPAN Hot 100は発足15周年を記念して自身初めてオールタイムランキングを公表した。
“JAPAN HOT 100”15周年を記念したオールタイムTOP50発表 1位は米津玄師「Lemon」 https://t.co/tu9wgmg2f7 pic.twitter.com/BdxfdPlQ5u
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2023年3月30日
そのTOP50結果は以下のとおりである。
TOP50ランクイン曲を発売年別に整理した表を以下に示す。
やはりダウンロード市場全盛期の2016年以前発売曲数は圧倒的に少ないが、2008年に発足したBillboard JAPANに最初から楽曲人気指標として完璧な結果を求めることはやや酷であり、この点では歴史が長いオリコンやCDTVとは事情が異なる。そんな中でもBillboard JAPAN Hot 100はGReeeeN「キセキ」を歴代22位に送り込んでいる。この曲はフル配信400万ダウンロードを売り上げてこの指標の歴代1位記録を樹立したにも拘らず、オリコンやCDTVの歴代ランキング上位にはランクインしたことが一度も無く、ヒット史から完全無視されていたことを考えればこれは特筆すべき点である。
また、AKB48の楽曲が1曲もTOP50にランクインしていないことも革命的である。無論AKB48は高人気楽曲も数多いためこれは過小評価と言えるが、これまでAKB商法由来のCD売上で楽曲人気過大評価を受け続けていたことを考えれば、既存の誤ったヒット認識に一石を投じる結果になっていると言える。
しかしこのBillboard JAPAN Hot 100歴代ランキングを以てしても結局、ダウンロード市場全盛期発売曲が上位表示されていない問題は解決に至っていない。今後のBillboard JAPANの進化には期待できるものの、現時点では日本の権威あるヒットチャートは誰も完璧な歴代ヒット曲ランキングを作成できていないのである。
歴代ヒット曲ランキング
こうした問題を修正する形で当ブログで作成した歴代ヒット曲ランキングTOP50結果は以下のとおりである。
作成方法
基本的に当ブログの以下記事内容に準拠している。
各指標間の換算式は、「CDシングル10万枚=着うた50万ダウンロード=フル配信10万ダウンロード=MV・ストリーミング5,000万再生」としている。根拠は日本レコード協会の各指標認定基準の下限値である。各指標においてこの式で挙げたボーダーを超えて初めて日本レコード協会から認定が授与されることを踏まえれば、これがヒットしているか否かのボーダーであり、同時に各指標間の換算目安とも言い換えられる。
ただし、2011年以降のCDシングル売上データは、この記事でも示したとおり、楽曲人気指標として一切機能していないため、調査対象外としている。また、海外アーティストのYouTube再生回数に関しては基本的に国外由来が過半を占めており、国内の楽曲人気を計る本記事の目的から外れるため、こちらも調査対象外としている。
結果の妥当性の確認
TOP140ランクイン曲を発売年別に整理した表は以下のとおり。
見てのとおり、ダウンロード売上を集計対象に含めたことで、特に2000年代後半発売曲を一定数ランクインさせることができている。この曲数はAKB48に頼ることなく達成されており、TOP140にランクインしたAKB48の楽曲は3曲だけである。これらのことから、本記事で示した問題点がこの歴代ヒット曲ランキングでは解決していると言える。結果の妥当性が確認できたところで、以下よりTOP10にランクインした楽曲をピックアップして解説する。
上位楽曲解説
1位 GReeeeN「キセキ」
1位はGReeeeN「キセキ」。各指標のセールス及び再生回数はCD55万枚、着うた300万ダウンロード、フル配信400万ダウンロード、MV8,000万再生、ストリーミング1億再生を記録しており、このうちフル配信400万ダウンロードは歴代1位記録である。
他指標でも満遍なくヒットのボーダーを突破しており、時代を超えて支持されていることが窺える。
Billboard JAPAN Hot 100では2週連続1位を獲得し、年間でも2008年の1位を獲得。この年間チャートでは本曲の歴史的人気の可視化に成功しており、以下記事内で詳述している。
本曲は真っ直ぐに相手を想う気持ちに溢れたラブソングとして圧倒的な支持を受け、最高視聴率19.5%を記録した人気ドラマ「ROOKIES」の主題歌だったことも後押しする形で超特大ヒットを記録した。
2位 米津玄師「Lemon」
2位は米津玄師「Lemon」。各指標のセールス及び再生回数はフル配信300万ダウンロード、MV8.4億再生、ストリーミング3億再生を記録しており、このうちMV8.4億再生は歴代1位記録である。
Billboard JAPAN Hot 100では通算7週1位を獲得し、年間でも2018年から2019年にかけ2年連続1位を獲得した。
本曲は最高視聴率13.3%を記録した人気ドラマ「アンナチュラル」主題歌に起用された。他界した祖父への想いをベースに「死」をテーマに作られた本曲はドラマの内容ともリンクし、とてつもない支持を獲得した。
3位 青山テルマ feat.SoulJa「そばにいるね」
3位は青山テルマ feat.SoulJa「そばにいるね」。各指標のセールス及び再生回数はCD46万枚、着うた300万ダウンロード、フル配信300万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録している。特にフル配信ダウンロード指標では国内史上初にして最速のフル配信ダブルミリオンを発売年内に達成しており、これを受けて「日本で最も売れたダウンロード・シングル」としてギネス世界記録にも認定された。Billboard JAPAN Hot 100でも通算1週1位と2008年の年間2位を獲得した。
本曲は前年に配信されフル配信110万ダウンロードを突破する大ヒットを記録したSoulJa「ここにいるよ feat.青山テルマ」のアンサーソングとして制作され2008年に発売された。女性目線で遠距離恋愛を綴った歌詞は携帯電話のCMソングに起用されたこともあり大きな共感を集めた。
4位 GReeeeN「愛唄」
4位はGReeeeN「愛唄」。各指標のセールス及び再生回数はCD25万枚、着うた300万ダウンロード、フル配信250万ダウンロード、MV6,000万再生、ストリーミング1億再生(RIAJ)を記録している。なお本曲は国内史上初めてフル配信ダウンロードミリオンを達成した楽曲である(2007年に宇多田ヒカル「Flavor Of Life」と同時に達成)。しかし当時のヒットチャート上では歴史的人気が全く可視化されなかった。
本曲はGReeeeN初のラブソングとして支持され、メディア出演が一切ないにもかかわらずモバイル等を通じて人気が広がり、ダウンロードを中心に記録ずくめの爆発的な特大ヒットとなった。
5位 Official髭男dism「Pretender」
5位はOfficial髭男dism「Pretender」。各指標のセールス及び再生回数はフル配信100万ダウンロード、MV4.9億再生、ストリーミング8.5億再生を記録している。Billboard JAPAN Hot 100では通算7週1位を獲得し、年間でも2019年3位、2020年2位を記録。2年連続年間TOP3入りを果たした。
2019年に配信された本曲は切ないラブソングになっており、印象的な韻を踏むメロディーや共感性の高い歌詞が支持されたことや、主題歌となった映画「コンフィデンスマンJP -ロマンス編-」が興行収入29億円を記録する人気となったことをきっかけに、Official髭男dismを大ブレイクに導く特大ヒットとなった。
6位 コブクロ「蕾」
6位はコブクロ「蕾」。各指標のセールス及び再生回数はCD50万枚、着うた300万ダウンロード、フル配信200万ダウンロード、MV9,000万再生、ストリーミング5,000万再生を記録している。年間でも2007年の3位を記録するとともに、同年の日本レコード大賞も受賞した。
この曲はメンバーの小渕が亡き母親へ贈った感動のバラードであったことや、最高視聴率18.1%を記録したドラマ「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」主題歌に起用されたことなどから特大ヒットとなった。
7位 米米CLUB「君がいるだけで」
7位は米米CLUB「君がいるだけで」。各指標のセールスはCD289万枚、フル配信50万ダウンロードを記録している。CD売上では1992年の年間1位を記録した。CDと配信のシングルセールスを合計すれば339万となり、トリプルミリオンを突破している。
本曲は最高視聴率31.9%を記録する特大人気を博したトレンディドラマ「素顔のままで」の主題歌に起用されたことで当時のCDシングル売上歴代記録を塗り替える特大ヒットを記録した。
8位 サザンオールスターズ「TSUNAMI」
8位はサザンオールスターズ「TSUNAMI」。各指標のセールスはCD293万枚、フル配信25万ダウンロード、ストリーミング1億再生を記録している。特にCD売上293万枚はCDシングル売上が楽曲人気指標として機能していた2010年までの累計では歴代1位の数字であり、2000年の年間1位も記録した。
本曲は人気バラエティ番組「ウンナンのホントコ!」内の恋愛リアリティ企画「未来日記III」のテーマソングに起用されたことで当時のCDシングル売上歴代記録を塗り替える特大ヒットを記録した。
9位 YOASOBI「夜に駆ける」
9位はYOASOBI「夜に駆ける」。各指標のセールス及び再生回数はフル配信75万ダウンロード、MV2.7億再生、ストリーミング10.4億再生を記録している。特にストリーミング10.4億再生は歴代1位記録である。
Billboard JAPAN Hot 100では通算6週1位を獲得し、年間でも2020年の1位を獲得。翌2021年も3位に入るロングヒットとなった。
YOASOBIにとってデビュー曲となる本曲はネット小説「タナトスの誘惑」を音楽で表現した曲となっており、アニメ仕立てのMVや小説を踏まえた歌詞が視聴者の想像を掻き立てる形で人気を拡大した。中毒性のある速いテンポのリズムも支持された。
10位 King Gnu「白日」
10位はKing Gnu「白日」。各指標のセールス及び再生回数はフル配信100万ダウンロード、MV4.6億再生、ストリーミング6.4億再生を記録している。Billboard JAPAN Hot 100でもこの大人気が可視化され、年間では2019年4位、2020年5位を獲得。2年連続年間TOP5入りを達成した。
本曲はドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」主題歌に起用されたことや、この頃から徐々に解禁し始めていたメディア出演を機に認知が普及。洗練されたサウンドやボーカル井口理のファルセットに耳を奪われた人が続出した。
まとめ
以上が歴代ヒット曲ランキングを作成してみた結果とTOP10ランクイン曲の簡単な解説となる。
なお、ここで作成した歴代ランキングは、売上・再生回数・RIAJ認定などの客観的指標に基づいたものであるが、それらを纏めてランキング化するうえでは、どうしても作成者である私の考えが介入せざるを得ない。私にRIAJや各種音楽番組・ヒットチャート作成機関が持っているような権威はない。よってここで示したランキングが絶対に正しいと主張するつもりは毛頭ない。
この記事で私が最も主張したいことはランキングの結果ではなく作成過程に係るものである。すなわち、
- ダウンロード市場全盛時代の楽曲人気を無視する形で当時のヒットチャートが作成された不適切性への認識があるか
- それを踏まえ適切な修正を施した歴代ランキングの作成方法になっているか
という点である。この点を無視した歴代ランキング作成を連発しているCDTVライブ!ライブ!や歌のゴールデンヒットにはこの姿勢が全く見られないため、両番組は明確に批判対象となる。逆に言えば、この点が満たされていることが分かる歴代ランキング作成方法になっているのであれば、その細かい順位結果はどうなっていても構わない。
繰り返しになるが、誤ったヒットの歴史を修正していない歴代ランキングを後世に渡って定期的に発表し続けることは極めて重大な問題行為である。10年以上に渡り続いたダウンロード市場全盛時代を無視した歴代ランキングは、当該時代をリアルタイムで生きたアーティストや音楽リスナーにとっても極めて失礼であり、歴代ヒットランキングを名乗る資格などあるはずがない。CDTVライブ!ライブ!や歌のゴールデンヒットが全面リニューアル等をせずこうした不適切な歴代ランキングを今後も発表し続ける限り、この批判は繰り返される。
この批判を行う私の根底にある想いは、全ての時代にヒット曲は等しく多様に存在するという確信である。この世には素晴らしい音楽が沢山存在する。これらの楽曲には可能な限り漏れなく光を当て、その素晴らしさを多様な方法で広めていかなければならない。これは音楽業界関係者であればマストで取り組まなければいけない仕事である。
ヒットチャートは分かりやすく多くの人気楽曲に光を当てることができる重要な存在である。今後も沢山の素晴らしい楽曲に光が当たっていくことを願うばかりである。
本記事の改訂履歴
- 2023/4/3:初稿公開
- 2023/12/2:当ブログ作成歴代ヒット曲ランキングのデータを最新版に更新
- 2023/12/31:当ブログ作成歴代ヒット曲ランキングのデータを最新版に更新、1989年1月1日から2023年12月31日までの集計データを基にした記事として最終化
補足・歴代ヒット曲ランキング51-100位結果
補足・歴代ヒット曲ランキング101-140位結果