Billion Hits!

配信ダウンロード売上、MV再生数、Billboard JAPANランキングなどを通じて国内の人気楽曲を把握するブログ

日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題 ~歴史~

この記事では、15年以上もの期間に渡って継続している「日本音楽チャートのCD偏重問題」の歴史を整理する。

 

「日本音楽チャートのCD偏重問題」とは、日本の音楽ヒットチャートの設計CD売上を重視し過ぎていることによって生じている問題を指す。ヒットチャートの定義や説明については以下記事に譲るが、要は「楽曲人気チャート」として扱われている音楽チャートにおいて、楽曲人気指標としての機能が衰退したCD売上指標が重視されているという矛盾及びそれによって生じる悪影響をこの記事では問題視して取り上げる。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

 

 

2006-2007年 ~問題の発生~

 

CDは1990年頃から2005年にかけて「音楽を聴くためのツール」の主流に君臨していた。そのため、その時期のCD売上チャートはそのままその時期の楽曲人気チャートとして扱うことができた。

 

しかし、2006年になると、新たな音楽の聴き方として着うたをはじめとしたダウンロード購入が無視できない規模に普及した。2006年末時点では、コブクロ「桜」SEAMO「マタアイマショウ」、絢香「三日月」の3曲がフル配信50万ダウンロード認定を日本レコード協会より受けている。50万人がフルサイズの楽曲をダウンロード購入するようになったのである。

 

(国内史上初めてRIAJからフル配信50万ダウンロード認定を受けたコブクロ「桜」↓)


www.youtube.com

 

それにも拘わらず、CD売上の集計で有名だったオリコンはダウンロード売上の集計を一向に開始せず、CD売上だけを集計したチャートをヒットチャートとして発表し続けた。

 

音楽業界としては、CDで売ったほうがダウンロードで売るよりも利益率が良かったため、CDチャート上位に入った者が脚光を浴びるシステムとなるようにしたいという思惑があったものと思われる。オリコンはそもそも業界誌であるため、一般消費者の「人気曲が知りたい」というニーズよりも、(売上が生活に直結する)音楽業界関係者の「売れている曲が知りたい」というニーズや上記論理を優先したようである。

 

しかし例え配信がCDと比べて薄利であったとしても、音楽市場の一角をダウンロード販売が占めていたことは間違いなく、売上指標の視点で考えてもダウンロード売上を集計しない道理はない。集計しないという判断に理解を示す余地はない。この判断により、オリコンは2006年より総合楽曲人気指標としての機能を失った

 

しかしオリコンに代わる総合楽曲人気指標が当時は存在しなかったため、2006年から日本は総合楽曲人気チャートが存在しないという事態に陥った。誰もダウンロード売上を全国網羅的に集計した音楽チャートを作らなかったのである。

 

代替しうる音楽チャートがなかったこともあって、2006年以降も、実態と異なり、オリコンのCD売上チャートが楽曲人気指標として最前面で使用され続けた。オリコンもダウンロード売上を集計しない姿勢を正当化し、CD売上だけのチャートこそがヒットチャートだと主張し続けた。

 

www.asahi.com

 

しかし、CDの方がダウンロードよりも売値や利益率が高いことは、ビジネス上は重要だが、楽曲人気や流行を考える上では一切関係のない話である。「CD売上1枚」も、「フル配信1ダウンロード」も、「1人」が「その表題曲のフル音源を購入した」ことに変わりはないからである。

 

音楽の楽しみ方は人それぞれなので、より高い金額を払った人の方がその曲をより好きになっているとは限らない。日本レコード協会のゴールドディスク認定とダウンロード認定の基準が完全に同一となっていることからしても、楽曲人気の広がりを考える上では、フル配信1ダウンロードはCD売上1枚と等価で扱って然るべきである。

 

そんな中でそもそもダウンロード売上を集計すらしないという姿勢は楽曲人気チャートとしては論外であり、本来は2006年以降オリコンを楽曲人気指標として扱わないようにすべきだったが、そうはならなかった。その結果、オリコン上位に進出できない高配信売上曲に適切に光が当たらなくなり人気過小評価を受けることとなった一方、高CD売上曲は高配信売上曲が上位進出できない分相対的に上位進出し人気過大評価を受けるようになった。こうして「日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題」が発生した。

 

この問題は「今どの曲が人気なのか」という流行の適切な理解を阻害するものである。これでは売り手は「楽曲需要の利益への変換」を最大化できないので音楽業界にとっては損失である。リスナーも流行の体感と一致しないCD売上チャートや音楽賞レースばかり見せられることで不信感が募り、最新音楽へ興味を持つ機会が減少してしまう。よってこの問題は本来放置できないものであるが、残念ながら2006年に発生して以降今に至るまで15年以上継続してしまっている。

 

なお「人気過小評価を受けた高配信売上曲」に関しては以下記事にまとめている。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

2008-2016年 ~問題の深刻化~

 

2008年になるとCD偏重問題はより深刻なものとなった。CDのコアファン向けアイテムへの変質が進んだことや、一人に複数枚購入させる商法が普及したこと等により、それらの性質を最大限活用可能な一部の限られたアーティストによりCD売上チャート上位が独占されるようになったのである。

 

まずが2008年に「truth/風の向こうへ」「One Love」で年間TOP2を独占、翌2009年に「Believe」「明日の記憶/Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~」「マイガールで年間TOP3を独占した。この2年に渡る上位5枠の独占オリコンの過去40年の歴史の中で前例のない規模であった。

 

(嵐の楽曲人気動向に関しては以下記事でまとめている↓)

billion-hits.hatenablog.com

 

嵐の場合は、花男タイアップ曲のヒット等による着実なファンベースの増大配信未解禁とすることによるCDへの売上集中所謂ジャニーズ商法と呼ばれる複数種販売等よって、CD売上チャートにおける優位性を獲得した結果によるものであった。特に後ろの二点は楽曲人気をフラットに計ることを困難にする売上増加要因である。

 

f:id:musicnever_die:20211106214952p:plain

 

それまでは、CD売上も楽曲人気の一側面を計る指標としての有用性は残っていたが、この異常事態の発生を以て、CDシングル売上の楽曲人気指標としての有用性は完全に消滅したと言えた。この詳細は以下記事でも説明している。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

そして2011年からはAKB48が所謂AKB商法を確立したことにより、楽曲人気に関係なく常時CDシングルミリオンセラーを出せる体制を整えた。2011年からはAKB48によるCD売上チャート年間上位独占が常態化した。

 

(AKB48の楽曲人気動向に関しては以下記事でまとめている↓)

billion-hits.hatenablog.com

 

こうして楽曲人気を主因としてCD売上を増減させているアーティストの動向は商法実施曲によって下位に押し出され光を当てられなくなり、CD売上で楽曲人気を把握することは現実的に言っても不可能となった。CD売上は楽曲人気の高さではなくアーティスト人気の濃度を計る指標に変化したのである。

 

それにも拘わらずCD売上チャートが楽曲人気指標として誤用され最前面で扱われる状況は変わらず、ダウンロード売上の集計などチャート設計のアップデートも一向に実施されなかった。そのためこの時期は専ら嵐とAKB48の大人気ばかりが可視化され持ち上げられることとなった。

 

(例えばこの時期は西野カナも嵐とAKB48に匹敵あるいは上回っているとも言える大人気を示していたが、その人気はCDよりもダウンロードに表れていたため、嵐やAKB48と比べて十分に脚光を浴びる機会が乏しく、紅白歌合戦等での歌唱曲数も両者より少なかった。「会いたくて 会いたくて」は2010年発売曲で唯一年内にRIAJフル配信ダウンロードミリオン認定を受けている。)


www.youtube.com

 

billion-hits.hatenablog.com

 

流行とは本来、「一定の楽曲人気を獲得→音楽チャート上位進出→流行を追う層も存在を認知→ムーブメント化」という流れで形成されるが、音楽チャートが機能不全を起こし「今どの曲が人気なのか」が分からない状況が深刻化したことで大人気曲はますます誕生しにくくなった。2010年代前半には「大ヒット曲数」が1990年以降で最低の水準にまで落ち込んだ。

 

f:id:musicnever_die:20211030121818p:plain

 

この表を見れば、2010年代前半の音楽業界が楽曲人気需要の最大化に失敗していることが分かる。音楽チャートのCD売上過剰重視は楽曲人気需要の犠牲の上に成り立っていたのである。

 

また、作品人気の増減に影響されないCD大量販売商法への過剰適応は、作品の質を磨き人気を競う環境の劣化を招くことにも繋がる。この点に関しては例えば以下記事で挙げられているように近年ようやく音楽業界内部からも問題提起されるようになってきている。

 

SKY-HI:(中略)ここ最近のアイドル文化の持つ、身近に感じて理想の友達や恋人みたいに倒錯させるって感覚はCDに固執させることでビジネスも殺したし、クオリティよりもその人を応援することを尊いとすることで文化も殺した。

www.barks.jp

 

なお本項目では高CD売上アーティストの具体例として嵐とAKB48を挙げたが、この記事はこうしたアーティストを批判するものではない。批判対象はあくまでも音楽チャートの不適切な設計である。どのような手法でチャート上位進出を狙うかは各アーティストの自由である。それらを音楽チャートがどう反映するかが問題なのである。

 

2017年以降 ~問題改善への歩み~

 

2017年:年間1位結果の適切性回復

 

問題改善への動きが見られ始めたのは、問題発生から実に11年もの年月が経過した2017年のことだった。しかも改善に着手した音楽チャートはオリコンではなく、新しく台頭し始めた音楽チャートBillboard JAPAN Hot 100であった。

 

Billboard JAPAN Hot 100は2008年より発足した、「社会への浸透度を計る」ことを明確に設計理念に掲げた音楽チャートである。その理念のもとにチャート設計は頻繁にアップデートされている。発足当初の集計対象指標はCD売上とラジオエアプレイの2指標であったが、この時点で、CD売上しか集計していないオリコンに対し集計対象の網羅性で勝っていた。ダウンロード売上の全国網羅的な集計も2016年2月に実現したことで、2017年からは万全の楽曲人気動向集計体制を確立した。

 

この2017年にビルボードが実行した重要な改革の一つがCD売上のHot 100への反映方法の変更である。具体的には多すぎるCD売上に対しては反映率を大幅に減少させる措置を取り始めたのである。詳細な説明は以下記事に譲る。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

CD売上を稼ぐだけでは年間チャート上位進出が約束されなくなったことで、特定アーティストが楽曲人気に関係なく年間チャート上位を独占する状況が改善された。2016年のHot 100年間1位は、CD250万枚を売り上げたものの楽曲人気の証拠を全く有していないAKB48の総選挙投票券付CDシングル表題曲「翼はいらない」だったが、2017年のHot 100年間1位は、前年同様総選挙投票券付CDを265万枚売ったAKB48ではなく、フル配信200万ダウンロード、MV2億再生を突破するほどの特大人気を博した星野源「恋」となった。

 


www.youtube.com

 

また、2017年からは地上波で最も有名な音楽チャート番組COUNT DOWN TVも、従来のオリコンをベースとしたチャート設計を変更し、Billboard JAPAN Hot 100の集計方法を取り入れた。これにより2017年のCDTV年間1位も星野源「恋」となった。CDTVでは2010年から2016年にかけて7年連続でAKB48のAKB商法実施曲が年間1位となっていたが、楽曲人気に関係なく年間1位が決められる不適切な事態にようやく終止符が打たれた。こうしてまずは最も重要な要改革箇所であった年間1位のCD偏重問題が解決された。

 

2019年:年間TOP10結果の適切性回復

 

次に重要な改革箇所は年間TOP10である。2018年まではまだCD偏重が残っており、2018年のHot 100年間10位には、CD293万枚を売り上げたものの楽曲人気の証拠を全く有していないAKB48の総選挙投票券付CDシングル表題曲「Teacher Teacher」がランクインしていた。

 

しかしこの問題も2019年になると解決した。この年は新たな音楽の聴き方としてストリーミング市場が一気に拡大し、ストリーミング1億再生を突破する曲が誕生するようになった。この市場拡大を捉えることに成功したBillboard JAPAN Hot 100はチャート水準が一気に上昇。ストリーミング指標で高得点を稼ぐ曲が続出したことで、従来のCD加点水準では年間TOP10にランクインすることが難しくなった。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

こうして年間チャートにおけるCD偏重問題は完全に解決された

 

2020年以降:残存する週間1位結果の不適切性

 

音楽チャートで結果が注目される箇所は年間チャートだけではない。毎週発表される週間チャートも重要である。特に週間1位獲得曲は必ず結果発表の記事の見出しに表示されるため、週間1位が適切な結果となっていることは必須である。

 

週間1位獲得曲はこの形で個別にスポットを当ててもらえる機会を得ている。集団の一部としてしかスポットが当てられず個別に取り上げられることがほぼない年間11位以下よりも余程重要なポジションが週間1位なのである。年間1位、年間TOP10に次いで重要な週間1位におけるCD偏重問題がいよいよ最後の砦として残ることとなった。

 

しかし2020年、思わぬ形で週間1位のCD偏重問題が一時的に解消されることとなった。新型コロナウィルス感染症の拡大、いわゆるコロナ禍突入に伴い、全国のCDショップの一時休業や、CD購入特典イベント実施が制限されるようになったことなどから、高CD売上アーティストの新作CD発売数が大きく減少したのである。

 

これにより、週間チャートではまだCD偏重設計となっていたBillboard JAPAN Hot 100においても、配信を中心に人気を示していた楽曲が高CD売上曲に阻まれることなく上位進出できるようになった。

 

その模様が分かるように、2019年と2020年の週間1位結果一覧表を以下に示した。年間TOP20ランクイン曲は背景を塗色している。

 

  • 2019年

 

f:id:musicnever_die:20210904150055p:plain

f:id:musicnever_die:20210904150148p:plain

 

  • 2020年

 

f:id:musicnever_die:20211113162813p:plain

f:id:musicnever_die:20211113162843p:plain

 

ご覧のとおり、「年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数」は、2019年が14週だったところ、2020年は25週にまで激増した。2020年は「年間チャート上位に進出するほどの高人気曲」が週間1位を獲得するケースが増加したことが分かる。

 

理論上、年間TOP20ランクイン曲が全曲1週ずつ週間1位を獲得した場合、「年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数」は20週となるはずである。これが適正水準の目安となる。もし20週を下回っている場合は、年間上位に進出していない曲による週間1位獲得という週間1位結果が不適切と言える程に多すぎることを示している。この目安に照らして言えば、2019年は適正水準を大きく下回っていたが、2020年は一気に適正水準を大きく上回った。

 

一見これで週間チャート1位結果の適切性も取り戻されCD偏重問題は完全な解決に至ったようにも思えた。しかし、2020年の「週間1位におけるCD偏重問題」の改善はコロナ禍突入への初期対応という一時的な要因によるものであり、根本的な問題解決とは言えないものであった。

 

2021年になり、高CD売上アーティストの新作CD発売数が回復すると再び問題が顕在化した。「2021年上半期TOP10ランクイン曲の週間1位獲得週数」が、この場合の適正水準目安となる10週を大きく下回り、僅か5週に留まったのである。

 

f:id:musicnever_die:20211113151550p:plain

 

この2021年上半期の週間1位結果の不適切性をBillboard JAPANも認識したためか、下半期集計期間からは、多すぎるCD売上に対する反映率抑制措置を更に強化した。この一連の動向の詳細説明は以下記事に譲る。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

さらに2021年第4四半期集計期間からはルックアップ(CDのPC読取り数)換算率も引き下げられ、CD関連指標で獲得可能な総合ポイントは変更前までと比べれば大きく低下した。しかしそれでも尚CD売上が総合チャートに与える影響力は過度に大きいままであり、週間1位が「年間上位に進出しない高CD売上曲」に占拠される状況が続いている。この現状に関する詳細と解決案については以下別記事で検討している。

 

billion-hits.hatenablog.com

 

まとめ

 

誤解の無いように書いておくと、この記事はCD売上チャートの存在そのものを否定するものではない。CD売上チャートは主に音楽業界内部にビジネス上の需要が存在している。しかし売上チャートと同じ或いはそれ以上に需要が存在するのが楽曲人気チャートである。

 

売上と楽曲人気が相関しなくなって久しい今では、売上チャートはオリコン、楽曲人気チャートはBillboard JAPANという形で認識の棲み分けが相当程度進行した。このまま両者がそれぞれの役割に専念していけば良いのであるが、現状はオリコンが楽曲人気チャートであるかのように振る舞ったり、ビルボードに売上指標であるかのようなチャート設計要素が残っていたりと、まだ完璧な棲み分けには至っていない。

 

流行を知りたい一般消費者の需要が高いのは楽曲人気チャートである。チャート作成者及び使用者はそれを自覚し、企画や分析の目的に応じて参照する音楽チャートやチャート設計方法を選択する必要がある。2010年代前半までのように売上指標だけを一般消費者に提供するといった需要と供給のミスマッチをこれ以上起こしてはならない。

 

15年という時間は人の一生のかなりの割合を占める。この間、数多くの人気楽曲が適切に光を当てられないまま人気のピークを終えていった。アーティストにとって自分の楽曲に光が当たるか否かは死活問題である。アーティストの人生を左右しかねないほどこの問題が長きに渡り継続していることを認識できれば、問題改善の猶予がもうとっくの昔に無くなっていることも理解できるはずである。つまりBillboard JAPANが週間チャート設計の改善を2022年度年間チャート集計期間初週から現状を踏まえて速やかに実行するかどうかは、未来の行方を左右しかねないほどの大変重要な分岐点となり得るのである。