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日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題 ~アルバム編~

この記事では、「日本音楽アルバムチャートのCD偏重問題」を整理する。

 

「日本音楽チャートのCD偏重問題」とは、日本の音楽ヒットチャートの設計CD売上を重視し過ぎていることによって生じている問題を指す。当ブログでは以下記事で初めて特集し問題提起した。

 

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上の記事では楽曲チャートにおけるCD偏重問題にフォーカスしているが、本記事ではアルバムチャートに焦点を当てて問題提起する。

 

 

 

アルバムチャートの歴史

 

CDは1990年頃から2005年にかけて「音楽を聴くためのツール」の主流に君臨していた。そのため、その時期のCDシングル売上チャートはそのままその時期の楽曲人気チャートとして扱うことができた。CDアルバム売上チャートも、収録曲の人気普及規模や、CDシングル化されていない楽曲の人気を計るうえで重要な指標となっていた。

 

(アルバム売上歴代1位は宇多田ヒカル『First Love』。収録曲中最大売上曲は「Automatic」↓)


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しかし、2006年になると、新たな音楽の聴き方として着うたをはじめとしたダウンロード購入が無視できない規模に普及した。この変化は特に楽曲チャートに大きな影響を及ぼした。詳細は冒頭に載せた別記事に譲るが、要は当時の日本のヒットチャートがダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったため、高配信売上曲に適切に光が当たらなくなる人気過小評価が多発した一方、高CD売上曲は高配信売上曲が上位進出できない分相対的に上位進出し人気過大評価を受けるようになったのである。

 

これにより、2006年から日本は総合楽曲人気チャートが存在しないという事態に陥った。こうして楽曲チャートにおける「日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題」が発生した。この問題は「今どの曲が人気なのか」という流行の適切な理解を阻害するものであり、本来放置できないものであったが、残念ながら2006年の発生から2021年に至るまでの16年間に渡り継続してしまった。

 

そんな中、CDアルバム売上チャートに関しては事情が異なっていた。2000年代後半当時主流となっていた着うたダウンロード販売は、楽曲毎の販売に適応していた一方、楽曲集としてのアルバム単位での販売には適応していなかった。そのため、楽曲を聴くためにアルバム単位でCDを購入する需要は一定程度維持されており、CDアルバム売上チャートはCDシングル売上チャートと比較し、市場縮小やヒットチャートとしての有用性低下のスピードが(着実に進行してはいたものの)緩やかであった。CDアルバム売上は、そのアルバムに収録されている主要楽曲の人気を計るための重要な一指標であり続けた。

 

しかし、日本独自に発展した着うた市場が縮小し、iTunesを代表とするフル配信ダウンロード販売が主流となると、徐々にアルバム単位でのダウンロード購入も増加していき、その規模が無視できないものになっていった。RIAJによれば、日本で初めてダウンロード売上10万を突破したアルバムは、アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック 【日本版】』で、2015年1月アルバム史上初となるゴールド認定を受けている。

 

(収録曲中最大売上曲は松たか子「レット・イット・ゴー~ありのままで~」↓)


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つまり、日本では2015年からアルバムチャートにもダウンロード指標を加味して総合的な人気を計る必要性が発生したと言える。幸いそれは当時新たなヒットチャートとして台頭しつつあったBillboard JAPANによって早々に実現しており、2015年下半期よりCD指標とダウンロード指標を合算した総合アルバムチャートBillboard JAPAN Hot Albumsが発足した。

 

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一方、1970年からアルバム売上の集計を続けていたオリコンは2015年当時に至っても引き続きアルバムどころか楽曲のダウンロード売上集計にすら着手していなかった。よってこの年に作品人気指標としてのアルバムチャートの主役はオリコンからBillboard JAPANへ明確に移行した。

 

そんな中でもオリコンBillboard JAPANが発表するCDアルバム売上枚数は2016年以降もヒット指標として一定程度有効であり続けたが、2020年代以降のストリーミング市場の拡大によってその状況も大きく変化した。ストリーミングサービスにおいては多種多様な楽曲を視聴するハードルが低いため、わざわざアルバム単位で楽曲を一括購入する必然性が急速に薄れていったのである。

 

そのため、楽曲を聴くことを主目的としたCDアルバム購入需要の減少スピードが加速していった一方で、複数種コンプリート・CD付属特典の獲得・応援等を目的とした、アーティスト人気の濃さに基づく同一タイトル複数枚購入の需要が底堅さを見せ、相対的にそれがアルバムチャート上位結果決定要因に占める割合も極限まで高まっていった。

 

2023年の見通し ~アルバムチャートの実質的終焉~

 

この事態が進行し続けた結果、2023年の年間チャートでは、アルバムチャートが作品人気指標として機能しなくなったと判断できる現象が発生する見通しとなった。

 

年間チャート集計期間を残り1週とした総合アルバムチャートBillboard JAPAN Hot Albums年間暫定順位予想TOP10は以下のとおり。

 

 

見てのとおり、なんと今年は総合アルバムチャートの年間TOP10が男性ダンス&ボーカルグループの作品で独占される見通しとなっているのである。

 

さらに、総合チャートを構成するCD売上指標とダウンロード売上指標の年間暫定順位予想TOP10も以下に示す。

 

  • CD指標(2023年Billboard JAPAN Top Albums Sales年間暫定順位予想TOP10

 

  • ダウンロード指標(2023年Billboard JAPAN Download Albums年間暫定順位予想TOP10

 

見てのとおり、なんと今年は総合アルバムチャートの年間TOP10とCDアルバム売上チャートの年間TOP10が全く同じ顔ぶれとなり、尚且つ総合アルバムチャートの年間TOP10とダウンロードアルバム売上チャートの年間TOP10が一作たりとも重複しない見通しとなっているのである。これは総合アルバムチャート発足以来初めての現象である。

 

多様性の消失

 

健全な文化は多様性があってこそ成り立つものであり、年間総合ヒットチャート上位が特定勢力に過剰独占されることは本来起こり得ないはずであるというのが当ブログの主張である。実際、CDシングル売上チャートはチャート設計調整努力の不足によってAKB48等による前例のない年間上位過剰独占が生じ、ヒットチャートとしての機能を失った。これは既に共通認識となっている。

 

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CDアルバムもシングル同様、複数種販売や、付属特典を目的とした複数枚購入を促進するような、作品人気との相関性に乏しい売上増加をもたらす施策が既に広く普及しており、チャート上位も既に相当程度、当該施策の効果を出しやすい特定勢力による偏りを見せていた。これへの対策を十分に行わないチャートをどこで見限るか、つまりどこで線を引いて「ヒットチャートとしての機能を失った」と判定するかの問題となっていた。

 

シングルランキングでは、一アーティストによる前例のない年間上位過剰独占がそのシグナルとなったが、アルバムはその性質上、簡単に一アーティストが一年に何枚も出せるものではないので、アーティスト単位での年間上位独占はそもそも生じにくい。そのためアルバムチャートでは、アーティストをグルーピングし粒度を上げて過剰偏重有無を判定する必要がある。

 

こうした前提を踏まえると、2023年の総合アルバムチャートでは、遂に「一線を超えた」と捉えることが可能な現象である男性ダンス&ボーカルグループによる年間TOP10独占が発生する見込みとなった。この過剰偏重は、ジェンダー(男性)、②ジャンル(ダンス&ボーカルグループ)という二つの概念において発生している。

 

ジェンダーの偏り

 

ジェンダーの偏りは比較的わかりやすい。アーティストのジェンダー構成は大きく三つにカテゴライズできる。

 

  • 男性
  • 女性
  • 男女混合グループ・その他

 

そして、1970年から2015年までのオリコンアルバムランキングと、2015年から2022年までのBillboard JAPAN Hot Albumsの年間TOP10結果を確認すると、年間TOP10が上記三カテゴリのうちいずれか一つのカテゴリによって独占された例はこれまで存在しない

 

なお、ヒットチャート上位が男性にやや偏っていることは事実であり、それはBillboard JAPAN自らも問題提起している。

 

 

しかし、年間TOP10が全て男性アーティストに独占される事例は、少なくとも国内を代表するアルバムチャートの50年以上の歴史では前例がないものであった。この事態がCD偏重チャート設計によってもたらされていることは上で示したとおりであり、プレイヤーや消費者の意識改善だけではなくチャート側に制度設計改善の余地があることは十分に指摘可能である。

 

②ジャンルの偏り

 

ジャンルの偏りは次のとおり考える。突き詰めれば、アーティストの楽曲パフォーマンスは大きく三つの要素に因数分解できる。

 

  • 歌唱
  • 身体表現
  • 楽器演奏

 

この三点は不可分でもあり、何れも重要な要素であることは間違いないが、ここでは各アーティストの形態ごとに、それぞれ何が最も重視されているかを検討し、カテゴライズしていく。

 

  • 歌唱→ソロシンガー、ボーカルグループ等
  • 身体表現→ダンス&ボーカルグループ等
  • 楽器演奏→バンド、ユニット等

 

分かりやすく言えば、各カテゴリの代表的形態であるソロシンガー・ダンス&ボーカルグループ・バンドの三ジャンルに分けるイメージを持てばよい。*1

 

そして、1970年から2015年までのオリコンアルバムランキングと、2015年から2022年までのBillboard JAPAN Hot Albumsの年間TOP10結果を確認すると、年間TOP10が上記三カテゴリのうちいずれか一つのカテゴリによって独占された例はこれまで存在しない。ちなみに、人によってこの判断が分かれうるような事例はなく、上記カテゴライズに基づけば明確に断言が可能であった。

 

改善方法の検討とBillboard JAPANの見解

 

以上まで見てきたとおり、日本を代表するアルバムチャートの年間TOP10で過去50年以上一度も発生していなかったジェンダーとジャンルの過剰偏重が発生する見込みとなった2023年の年間TOP10の異常さは、総合ヒットアルバムチャートとしての機能不全を告げるシグナルであると十分に指摘可能である。

 

この不健全な事態を解消するためのチャート設計改善方法として真っ先に思い浮かぶのは、総合アルバムチャート構成指標にストリーミングを追加することである。これはヒットチャートに造詣が深いブログ『イマオト』管理人のKei氏もかねてより再三提案していることである。

 

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楽曲を聴く目的でアルバムに触れる方法が、CDやダウンロードでアルバムを購入し聴くことからストリーミングサービスで聴くことに移行していることを踏まえれば、これは最もストレートな解決方法である。要はアルバムに関する消費者行動を一部計測できていないがために、偏った結果が出力されているので、計測範囲を網羅的にしようということである。

 

しかし、Hot Albumsを作成しているBillboard JAPANはこの方法に否定的な立場を取っている。2023/5/31公開週ビルボードポッドキャストにて、チャートディレクターの礒崎誠二氏がその理由として、「アルバムのストリーミング再生回数の算出方法は推定値に過ぎないものであるため、アメリカのようにCD・ダウンロード指標だけではチャートが成立しない状況とならない限りは指標として合算しない」(要約)と説明している(27:38頃~)。


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更に2023/10/18公開週ビルボードポッドキャストでも上記スタンスの維持を表明している(25:54頃~)。この回では、ゲストのMerlin Japan株式会社ゼネラルマネージャー野本晶氏もこのスタンスに賛同しており、「アメリカで日本と異なりストリーミング指標が導入された理由は、CDとダウンロードの二指標だけではユーザーのニーズと異なるチャート結果になってしまうことが業界のニーズとも乖離してしまうためと思われるが、日本のCD・ダウンロードアルバムチャートはややファン要素が強いながらもそこまでニーズとの乖離はないように思うため、まだ現状維持で良いのではないか」(要約)と見解を述べていた。


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確かに2022年までの総合アルバムチャートは本記事で述べたような決定的な偏りには至っていなかったため、上記一連の見解には頷ける部分もあった。しかし、2023年の年間チャートの様相が徐々に露わになるにつれて、その見解は急速に過去のものとすべき事態になりつつある。

 

少なくとも2023年の年間総合アルバムチャートTOP10が年間CDアルバムチャートTOP10と全く同一の顔ぶれとなり、尚且つ年間ダウンロードアルバムチャートTOP10の作品と顔ぶれが全く異なる見込みとなっていることからは、現状の年間総合アルバムチャートTOP10がCD需要という限定的な一部ユーザーのニーズしか反映できていないことを示している。

 

既に示したとおり、2023年のBillboard JAPAN Download Albums年間TOP10には結束バンド『結束バンド』、YOASOBI『THE BOOK 3』、back number『ユーモア』、Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』、Jung Kook『GOLDEN』といった多様な話題作が並ぶ見込みであり、これらの作品はSpotifyのアルバムチャートでも週間上位にランクインしている。

 

(2023年Download Albums年間1位獲得見込みとなっている『結束バンド』収録曲中最大MV再生回数を記録している「ギターと孤独と蒼い惑星」↓)


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逆に、CDアルバムチャートの年間TOP10ランクイン作品はSpotifyのアルバムチャートでは軒並み目立って上位にランクインできていない(そもそも配信解禁していない作品も多い)。ダウンロード市場が縮小しているからといって、ダウンロード指標の総合チャートへの反映規模がそのまま弱まって良いものではない。

 

最も効果的な改善案と思われるストリーミング指標の合算の実現が直ぐには難しい場合でも、ダウンロード指標の係数引き上げやCD指標への個別係数導入等といった代替手段を検討して然るべきであり、少なくとも何らかの調整をすべき事態となっていることは明白である。*2

 

アルバム文化の未来

 

とはいえ、アルバムチャートの調整を行わず、現状を放置するという選択肢が取れないというわけでもない。つまり楽曲を聴くためのツールとしてのアルバム文化を発展させていく道を捨てると判断することである。

 

作品単位でチャートが作成されていたCDの時代においては、シングルの表題曲に据えられない楽曲はシングルチャートにランクインできないため、アルバム曲の人気を把握するためにも、アルバムチャートの存在は必須となっていた。しかし楽曲単位でチャートが作成されるストリーミング時代においては、アルバム曲やc/w曲でも楽曲チャートにランクインすることができる。そもそもアルバムという形態で楽曲を聴く必然性が薄れている。

 

また、楽曲のCD限定発売を続けている一大勢力SMILE-UP.所属アーティストについても、2020年代以降はYouTubeへのMV投稿が定着したため、MVが制作されるCDシングル表題曲やアルバムリード曲等の主要楽曲は、今やCDアルバム売上を確認せずともYouTubeの再生回数を確認することによってある程度人気計測が可能となっている。他のアルバム曲は依然CD限定発売状態だが、ストリーミングで音楽を聴くことが主流となった現代においてここまで閉鎖的に展開されている楽曲が、それを主要曲に据えなかったアーティストサイドも予期しなかったような偶発的大人気を得る可能性は殆ど無いため、楽曲人気計測上は重要性に乏しい。

 

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既に楽曲人気を把握するうえでアルバムチャートの存在は必須ではなくなり、アルバムという形態すらも楽曲を聴くうえで必須ではなくなったのである。

 

しかし、ストリーミング時代において本当にアルバムは不要なのだろうか?

 

音楽配信の専門家である榎本幹朗氏は、2021年に上梓した著書『音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち』の中で、ストリーミング時代のアルバムの役割について以下のとおり述べている。

 

もはやアルバムに取って代わって、キュレーターとアルゴリズムが織りなすプレイリストがその役割を果たすかに見えた。(p.514)

だが、(略)議論とは逆行する現象が起こり始めた。時々、ひとつのアルバムの全曲が、スポティファイのTOPソング・チャートを埋め尽くすようになったのだ。(p.515)

当然といえば当然だった。初めの曲から最後の曲まで何十回でも通して聴ける「神アルバム」は究極のプレイリストだからだ。(p.515)

アルバムは死なない。死んだのは「捨て曲」だったのだろう。通しで何十回も聴けるアルバムは今後も生き残る。(p.516)

 

上記「神アルバム」の例にはアメリカの作品が挙げられている。確かに今でもアメリカではテイラー・スウィフトなどのアルバムが発売されるタイミングで収録曲がストリーミング上位を独占する現象が年に数回見られている(例えば『1989(テイラーズ・ヴァージョン) 』発売当日の2023/10/27付Spotifyデイリーチャートはこちら)。これは楽曲を聴くツールとしてのアルバム文化が盛り上がっている証拠である。

 

一方日本では、アルバム発売を機に収録曲がストリーミング上位を独占する現象は殆ど見られていない。近い動きとなっていたのは2020年に発売された米津玄師『STRAY SHEEP』(発売当日の2020/8/5付Spotifyデイリーチャートはこちら*3や、2022年に発売されたAdo『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』くらいしかない。これは楽曲を聴くツールとしてのアルバム文化が殆ど盛り上がっていない証拠である。

 

以上のとおり、少なくともアメリカとの比較では、日本はアルバム文化を活用した楽曲人気普及拡大機会の創出に伸びしろがあることが指摘できるが、現状ではこれに挑戦しようにも、それを適切に評価することができないヒットチャート設計となっているため、リターンの最大化を図ることができない。この機運を今後盛り上げようとしていくなら、まずはヒットチャート設計の見直しという土台の整備が必要なのである。

 

折しも2023年2月には、ジャーナリストの松谷創一郎の記事(以下2編)により、日本の楽曲チャートの流動性が世界との比較で極めて低いことが指摘されている。これはリスナーに多種多様な楽曲を訴求する日本音楽業界の力量が比較的乏しいことを意味する。

 

news.yahoo.co.jp

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このように、今後如何に多種多様な楽曲をリスナーに訴求していくかが明確に日本音楽業界の課題として指摘されている中、アルバム文化を盛り上げていくことは比較的具体的にイメージしやすい処方箋として挙げられるのではないかと思われるが、その選択肢を実質的に捨てる場合、どのような有効な代替案があるのかは気になるところである。

 

従来の楽曲を聴くツールとしてのアルバム文化の再興を図るのか。それともCD複数枚購入普及促進施策に特化していくことでファングッズとしてのアルバム文化への移行を明確に意志表示するのか。Billboard JAPANをはじめとした日本音楽業界はアルバム文化を今後どう位置づけていきたいのか、今まさに問われるべきとなっている。

 

まとめ

 

誤解の無いように書いておくと、この記事はCD・CD売上チャート・複数枚購入促進施策の存在そのものを否定するものではない。最早CD売上指標だけでは不可能となった作品人気計測という需要を蔑ろにしてはいけないというのが本記事の主張である。「楽曲を聴くツールとしてのアルバム文化」の発展志向を捨てるとしても、なんとなく現状維持として結果的にそうなるのではなく、アルバム文化の未来を熟考し業界内外のコンセンサスを得ながら結論が出されることが重要である。

 

また、ここで示した年間暫定順位予想はあくまで当ブログ管理人の予想であるが、本記事の前提となる部分については予想誤差で覆りうるものではなく、確定的なことである。僅かな可能性としてそれが外れるとすれば、Billboard JAPANが年間チャート結果算出にあたって各指標の換算率を変更し、ここで指摘した過剰偏重の発生を事前に回避する場合である。それは歓迎すべきことである。

 

CDアルバム売上年間上位作品がその年の「高人気楽曲集」だと断言できなくなった以上、Billboard JAPANはアルバムチャートについて今後より丁寧な説明が求められていくことになると思われる。今後のチャート設計調整があるかどうかも含めて、引き続きその手腕を見守っていくこととしたい。

 

(2023/12/8追記:年間チャート結果が発表され、本記事の主張が確定した↓)

 

 

*1:なお、ダンスや弾き語りをメインパフォーマンスするソロシンガーもいるが、ここでは基本的にソロシンガーは全員「歌唱」にカテゴライズする。最悪、他グループ員の歌唱や演奏に埋没させることも可能なグループ形態アーティストと異なり、歌唱に魅力がないソロシンガーなど話にならないと考えられるため。他、ダンスや楽器演奏を重視していないのにダンサーや楽器演奏者を正規メンバーに含めているグループも存在し得ないとの考えのもと、このカテゴライズとしている。誤解の無いように言うと、この説明はダンス&ボーカルグループやバンドが歌唱を重視していないだとかいったことを意味するものではなく、あくまでも機械的にカテゴライズするための考え方である。

*2:なお、オリコンは2019年度より合算アルバムチャートを発足させており、こちらではストリーミング指標が合算されている。しかし、CD売上のウェイトが高過ぎる設計となっているため、結局CD売上チャートと上位結果が殆ど変わらないチャートになっている。

*3:ただしこれはこの日から米津玄師の全楽曲がサブスク解禁されたことによる盛り上がりも大きかった。