Billion Hits!

フル配信ダウンロード売上、MV再生回数、ストリーミング再生回数、Billboard JAPANランキングデータなどを通じて国内の人気楽曲を把握するブログ

SMILE-UP.所属アーティストのヒット曲(2011年以降)

SMILE-UP.は1962年に創業した芸能プロダクションである(旧名はジャニーズ事務所だが、後述する社会問題を引き起こした影響で2023年10月に現在の名称に改名した)。1970年代頃には既に芸能界での存在感を確立し、以降50年以上に渡って数多くの人気男性アイドルグループを輩出し続けている。

 

日本の芸能史を語る上で外せない存在となっているSMILE-UP.だが、近年その所属アーティストの楽曲人気の把握は一筋縄ではいかなくなっている。50年の間に音楽視聴環境が激変し、特に2000年代以降の環境変化に対して事務所が極めてアクセス性の悪い楽曲販売方法を採っているためである。

 

2005年まではレコードやCDの購入が音楽の聴き方の主流だったため、この時期の曲の人気はそれらの売上集計に長けたオリコンのシングルセールスデータで把握できた。

 

2006年から2010年までは新たにダウンロード購入という音楽の聴き方が普及したため、楽曲人気把握のためにはCD売上とダウンロード売上の両指標を見なければならなくなった。

 

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しかしSMILE-UP.所属アーティストの場合は基本的にフル配信ダウンロード未解禁としていたため、それを踏まえた上で引き続きCD売上を中心にチェックする必要があった。

 

2011年以降になると、音楽を聴く手段としてのCD市場がますます縮小した一方、相対的に各種CD大量販売商法がCD売上チャート結果決定の主要因となったため、CDシングル売上データを楽曲人気指標として使用することが一切不可能になった。その中でもSMILE-UP.所属アーティストは楽曲のCD限定発売を続けていたため、その楽曲人気把握は2011年以降困難を極めるようになった

 

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しかし2020年代に入ると流石にそれまでの完全配信未解禁の姿勢からはやや態度が軟化し、特にYouTubeではショートバージョンという形が多いながらもタイムリーにMVを公開する動きが採られるようになっていった。これにより楽曲人気データとして活用可能なYouTubeのMV再生回数が徐々に可視化されるようになり、2011年以降のSMILE-UP.所属アーティストの人気楽曲も定量的に把握可能になっていった。

 

この背景を踏まえ、当記事では特に2010年代にデビューしたSMILE-UP.所属アーティスト4組に焦点を当て、主にMV再生回数に注目しながら、各アーティストのヒット史を振り返る。

 

 

 

 

楽曲人気指標として使用可能なデータ

 

楽曲人気指標として使用可能なデータに関しては冒頭でも簡潔に説明したが、詳細は以下別記事で説明しており、この内容を前提として話を進める。

 

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2010年まで

 

CDシングル売上データが楽曲人気指標として使用可能だった2010年以前にデビューしたSMILE-UP.所属アーティストのうち、2021年までに楽曲の全面的な配信解禁を実現させたことで網羅的楽曲人気把握が可能となったの楽曲人気動向に関しては、以下個別記事で詳しく解説している。

 

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嵐以外の該当アーティストは基本的に2010年までのCDシングル売上データで代表的人気楽曲を把握できる。2011年以降に明らかにそれを更新するような圧倒的人気楽曲を輩出した該当アーティストはMV再生回数等を確認する限りでは存在しない。CD売上データはインターネット上にもゴロゴロ転がっており十分に有名であるため、ここでは該当アーティストへの言及は割愛する。

 

ただしCD売上の楽曲人気指標としての機能が衰退していった2000年代後半に活躍していたSMILE-UP.所属アーティストとその時期の人気楽曲については以下記事内で一部簡潔に触れている。

 

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2011-2019年デビュー組 ーCDアルバム売上とMV再生回数ー

 

CDシングル売上データが楽曲人気指標として一切使用不可能になった2011年以降にデビューしたSMILE-UP.所属アーティストのうち、2010年代にデビューし高CD売上を記録しているKis-My-Ft2Sexy Zone、WEST.、King & Princeの4組*1に関しては特に楽曲人気把握が困難であるため、本記事で集中的に取り上げる。

 

SMILE-UP.が本格的にYouTubeを活用し始めたのは2020年代以降である。そのため上記4組のアーティストの2010年代発売曲はYouTubeにおいてすらもタイムリーなMV公開が実現しなかったケースが多く、2023年の今でもYouTubeにMVが公開されていない楽曲もある。しかも公開されたMVは基本的にショートバージョンである。これらの要因により、その再生回数は実際の人気規模よりも小さいものになりがちである。

 

そこでこの4組の楽曲の人気は、MV再生回数CDアルバム売上データを組み合わせて考える。CDアルバム売上もCDシングル売上同様、作品人気指標としての機能性は衰退してきているが、シングルのように特定アーティストによるランキング上位独占が生じていないため、その機能はまだ完全に死んではいない。よって、各CDアルバムの収録曲中最大MV再生数を記録した楽曲「アルバムセールスを牽引した人気曲」と見做し、各アルバムのCD売上枚数に紐づけて楽曲人気規模を推し量る。

 

未だMV公開すら実現していない楽曲に関しては楽曲人気把握不可能という結論にはなってしまうが、必要であれば定性的な想像を行い、人気楽曲となっている可能性に言及する。

 

以下よりデビュー年月日が早い順に取り上げていく。

 

Kis-My-Ft2

 

2011年8月にデビューしたKis-My-Ft2の楽曲人気データは以下のとおりである。

 

 

Kis-My-Ft2が本格的にYouTubeにMVを公開するようになったのは2020年発売のCDシングル表題曲「ENDLESS SUMMER」以降である。2019年までのCDシングル表題曲はほぼMV未公開、完全配信未解禁という状態が長らく継続しており、楽曲人気把握不可能となっていた。2022年4月にこれらのMVが一斉に公開されたことにより、ようやくこの最悪の事態からは脱出した。

 

そんな中CDアルバムで全キャリア中自己最高売上を記録した作品は2012年3月に発売されたデビューアルバムKis-My-1st。よって自身最大の人気曲は本作に収録されているはずである。このアルバムに収録されているCDシングル表題曲のMV再生数を確認すると、最も再生数が多い楽曲はやはりデビュー曲「Everybody Go」。よってこの曲が自身最大人気曲だと言うことができる。実際、2022年4月に一斉公開された旧譜MV全体の中でも最高再生数となっている。

 

この曲は華々しいデビューに相応しく、頂点を目指し進むポジティブ且つ力強いエネルギーを有しており、事務所の先輩である光GENJIのローラースケートパフォーマンスを受け継いだことでも大きなインパクトを与えた。2019年にキスマイが紅白歌合戦に初出場した際は、その年発売した新曲を差し置いて歌唱曲に選ばれている。


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なお全楽曲の中で自己最高MV再生回数を記録している曲は2021年2月に発売されたLuv Bias」。本曲はメンバーの玉森裕太が出演したドラマ「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」主題歌。ドラマは最高視聴率13.2%を記録する人気となり、それに沿って楽曲人気も普及した。愛に溢れた情熱的な歌詞をメンバーがしとやかに歌い上げたバラードナンバーであり、デビューから10年を経ての円熟を感じさせる楽曲になっている。


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Sexy Zone

 

2011年11月にデビューしたSexy Zoneの楽曲人気データは以下のとおりである。

 

 

Sexy Zoneの場合も、2019年までに発売されたCDシングル表題曲が長らくMV未公開、完全配信未解禁となっていたが、2021年3月以降ショートバージョンながらもようやくMVが順次公開されていった。

 

この経緯により、キスマイ同様に2019年以前までの楽曲と2020年以降の楽曲ではMV再生回数に差が生じている。しかしSexy Zoneの場合は自己最高CDアルバム売上記録作が2021年3月に発売された10周年記念ベストアルバム『SZ10TH』。よって、各曲のMV公開時期には留意しつつも、素直に本作に収録されている歴代シングル中最高のMV再生数を記録している楽曲「RUN」をピックアップする。なお遅れてMV公開された楽曲群の中では、デビュー曲Sexy Zoneが最も多いMV再生数となっている。

 

2020年7月にMV公開された「RUN」は、メンバーの中島健人とKing & Princeの平野紫耀がW主演し、最高視聴率11.2%を記録したドラマ「未満警察 ミッドナイトランナー」のW主題歌の一翼を担った曲である。本曲からSexy Zoneは海外進出も見据えた新レーベルへ移籍しているが、疾走感のあるロックサウンドに乗せて不安や葛藤を抱えながらも進むことを描いた歌詞を絶唱している本曲はSexy Zoneの新境地とも言える楽曲で、その意気込みを大いに感じることができる。


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なお全楽曲の中で自己最高MV再生回数を記録している曲は2021年8月に発売された「夏のハイドレンジア」。本曲はメンバーの中島健人小芝風花とともに主演を務めたドラマ「彼女はキレイだった」の主題歌で、秦基博が楽曲提供している。楽曲はドラマの内容に沿った優しさと包容力のあるサマーラブバラードになっており、メンバーの色気溢れる表現力によっても数ある夏うたの中で個性を光らせている。


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WEST.

 

2014年4月にデビューしたWEST.(旧名はジャニーズWESTだが、後述する社会問題の影響で2023年10月に現在の名称に改名した)の楽曲人気データは以下のとおりである。

 

 

WEST.の場合は未だに2019年までに発売されたCDシングル表題曲がMV一切未公開、完全配信未解禁という非常に残念な状態になっている。よってこの時期の楽曲は人気把握不可能である(ただしデビュー曲「ええじゃないか」のみ2023年8月に公式ライブ映像が公開されている)。しかしCDアルバム売上を見ると、むしろショートMVを公開するようになった2020年以降に上昇傾向を見せており、最新オリジナルアルバム『POWER』自己最高CDアルバム売上を更新しているため、自身最大人気曲は2020年代以降に誕生していると考えて差し支えない。

 

『POWER』収録曲中最大MV再生数を記録している曲は「星の雨」。本曲はメンバーの重岡大毅が主演するドラマ「雪女と蟹を食う」の主題歌。歌詞はドラマともリンクしており、愛する人を失いながらももがき葛藤しながら前へ進む主人公の心境を描いている。エモーショナルな歌唱が売りの彼ららしさも活かされたミディアムバラードに仕上がっている。 


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なお自己最高MV再生回数を記録している曲は2021年3月にMV公開された「サムシング・ニュー」である。本曲はあいみょんが楽曲提供したことでも話題となった、「ウエディングのバージンロード」がテーマになっている人生賛歌。メンバーの人柄ともマッチした歌詞や、力強さと優しさを同居させた歌唱が元気を与えてくれる楽曲になっており、タイアップが無いながらも人気が普及した。


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King & Prince

 

2018年5月にデビューしたKing & Princeの楽曲人気データは以下のとおりである。

 

 

King & Princeの場合はデビュー当初からタイムリーにMVを公開していたものの、4thシングル「koi-wazurai」までは尺が僅か1分程度しかないショートバージョンだったため再生回数は伸びていなかった。しかし2021年5月に順次、尺を拡大したYouTube Editを公開すると、既存の1分MVを上回るペースで再生数を稼ぐようになった。

 

5thシングル「Mazy Night」からはタイムリーに公開されるMVの尺が3分程度に拡大。それによって初動再生数は4thシングルまでと比べ格段に増加した。

 

ただ、2021年5月以降に全シングルのYouTube Editを公開するようになったことで、2020年のシングル「Mazy Night」「I promise」に関しては奇妙な事態が発生。2番までの尺となっているショートMVと、2番をカットし1番とラスサビのみの構成に再編集したYouTube Editという二つのMVが混在する状況となった。

 

この二つのMVを見ることで、実質的にはフルMVの全貌をほぼ把握できるということにもなるが、それなら結局フルMVを公開すれば良いではないかという話にもなる。尺的にはほぼ等しい二つのMVのどちらを見れば良いのか不明瞭な事態はリスナーの混乱を招いていることが予想される。

 

2021年以降のシングルに関してはYouTube EditでのMV公開とすることで統一された。

 

こうした紆余曲折はありながらも、King & Princeはデビュー以来極めて高い水準で安定的なCDアルバム売上を記録し続けており、1stから4thまでのオリジナルアルバムとベストアルバムは50万枚を超えるセールスを記録している。よって以下より各アルバムそれぞれの収録曲中で最大MV再生数を記録している楽曲を順にピックアップしていくことで、King & Princeのヒット史を振り返る。

 

King & Prince

 

デビューアルバム『King & Prince』収録曲中最大MV再生数を記録している曲は「シンデレラガール」。記念すべきデビュー曲であり、メンバーの平野紫耀が出演したドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」の主題歌としても話題となった曲である。女性への一途な恋心を描いた王子様感のある歌詞や煌びやかなサウンドは、キャッチーなメロディーとも相まってSMILE-UP.の王道とも言えるものに仕上がっており、多くの女性リスナーを虜にした。


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L&

 

2ndオリジナルアルバム『L&』収録曲中最大MV再生数を記録している曲は「koi-wazurai」。この曲はメンバーの平野紫耀が主演した映画「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」主題歌。恋の駆け引きをコミカルに描いている映画の内容に沿ったピュアなラブソングである。「恋煩い」というキャッチーなワードとメロディーもフックとなり、興行収入22億円を記録した映画とともに人気を博した。


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Re:Sense

 

3rdオリジナルアルバム『Re:Sense』収録曲中最大MV再生数を記録している曲は「I promise」。自身初のウィンターソングである本曲では、ダンスバージョンとは別にストーリーバージョンのYouTube Editも公開されており、切なくも一途な片想いを描いた歌詞に感情移入させる仕上がりになっている。2020年末の紅白歌合戦に出場した際は本曲が歌唱曲に選ばれた。


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Made in

 

4thオリジナルアルバム『Made in』収録曲中最大MV再生数を記録している曲はアルバムリード曲「ichiban」KREVAが作詞作曲、世界的ダンサーRIEHATAが振付を担当したことでも話題となった本曲は、それまで「シンデレラガール」に代表される王道アイドルポップスのイメージが強かったKing & Princeにとっては挑戦的と言えるヒップホップダンスナンバー。楽曲が大きな注目を集めたことでTikTokで多くのダンスカバー動画が投稿されるなど、新たな爪痕を残すことに成功した。


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Mr.5

 

「ichiban」のヒットで更なる人気獲得と今後の飛躍が期待されていたKing & Princeだったが、2022年11月に突如、メンバーの平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太が2023年5月を以てグループから脱退することを表明。以降のグループ活動は永瀬廉髙橋海人の二人で行うことが発表された。突然の報道に対しては驚きや悲しみの声が多数上がるとともに、それまでの功績の振り返りや残りの期間の活動への注目度が大きく上昇することとなった。

 

そんな中で11月に発売された11thシングル「ツキヨミ」は断トツ自己最高MV再生数を記録し、SMILE-UP.所属アーティストの楽曲では史上初となるMV1億再生を突破した。これは前述の報道によってファンダムによる応援目的のMV再生が活発化した面もあるが、それだけでは容易に達成できない記録であり、改めてKing & Princeの最新楽曲の内容やパフォーマンスに多数の注目が集まったことで大人気曲となったと言えるものである。

 

2023年4月に発売されたベストアルバム『Mr.5』は、「ツキヨミ」を含むKing & Princeの全CDシングル表題曲が収録されていたこともあり、自身かつてない高需要を示した。CD売上は、2010年代以降では安室奈美恵『Finally』、嵐『5×20 All the BEST!! 1999-2019』に続く3作目となる初動ミリオンを達成。自身最大のアルバム売上となった。それにより、収録曲中最大MV再生数となる「ツキヨミ」が自身最大人気曲であると言えるようになった。

 

「ツキヨミ」は妖しい色気を堪能できるラテン調のダンスナンバー。振り付けにアフリカンスタイルを取り入れている点も新鮮さを有しており、繰り返し視聴したくなる楽曲としての強度を持っている。メンバーの平野紫耀が主演を務めたドラマ「クロサギ」の主題歌としても親しまれた。


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2020年代以降デビュー組

 

2020年代以降にデビューしたSMILE-UP.所属アーティストは、この時期既にSMILE-UP.がYouTubeを活用するようになっていたので、デビューの頃から新曲をタイムリーにMV公開している。そのため該当アーティストの楽曲人気を測るうえでは、上記2010年代デビュー組とは異なりMV公開時期に留意する必要はない。よって詳細は割愛する。

 

(歴代MV再生回数ランキングはこちら↓) 

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CD限定発売手法の是非

 

本記事の初稿公開は、2019年12月に投稿した当ブログ記事「配信ダウンロード売上では分からない2006年以降のヒット曲」内で「2011年以降のSMILE-UP.勢の人気曲をどうやって定量的に把握するかはまた別の機会にトライしたい」旨(当時)書いてから約2年後の2021年11月である。そこからも都度アップデートしているが、その度に論理構成のための多くのデータ調査量と考察時間を要している。ここまでしないと実態を把握し難いのが楽曲のCD限定発売・限定的デジタル解禁を続けているSMILE-UP.所属アーティストの楽曲人気動向である。

 

2019年12月当時は嵐が突如多くの主要曲をデジタル市場に解放した直後であり、翌年には全SMILE-UP.所属アーティストの配信解禁が実現するのではないかという期待も膨らんでいた。しかし残念ながらそこからは亀の如き遅い歩みで事態はほとんど進展していない。それでもYouTubeにMVを欠かさずアップするようになったという僅かな進展を手掛かりに朧気ながらも楽曲人気を把握することができた。

 

特筆すべきは、本記事で挙げたヒット曲の大半が直近の楽曲であること、そしてその間にCDアルバム売上が減少しているかというと必ずしも有意な反比例性は見られずむしろ増加傾向も見られていることである。逆の見方をすればこれは長年配信未解禁を貫いたことでCDのファンアイテムとしての価値を最大化させたSMILE-UP.の強み(配信を解禁してもCD売上を維持できる可能性)と言えるかもしれない。そして例えショートver.であろうともMVの公開が着実に新たな支持層を開拓している可能性も感じさせるものであり、言い換えればSMILE-UP.所属アーティストの楽曲人気普及規模にはまだ伸び代があるということである。

 

この「伸び代」に関しては、本記事を初投稿した2021年11月に以下のとおり既述した(社名以外は当時の原文ママ)。

 

伸び代の更なる開拓のための全面配信解禁と、それによる楽曲人気拡大→Billboard JAPAN等でのロングヒットによる楽曲人気可視化→ファン以外の層への認知拡大→ムーブメント化、という流れが出来上がれば、国内人気を足掛かりにした世界進出という話も現実的になってくるかもしれない。

 

世界進出を見据えた発言や動きを見せるSMILE-UP.所属アーティストも見られるようになっている中、フルサイズの楽曲のCD限定発売が続けられていることには矛盾を感じざるを得ない。楽曲人気の証拠にならないCDシングル売上データを提示してヒットを煽っても、ファン以外から楽曲流行の共感は得られない。是非ともSMILE-UP.には納得可能な形でアーティストの才能を世に羽ばたかせる戦略を採ってほしいところである。

 

ところが実際にはこうした戦略は以降もほとんど採られていないままであり、それどころか既述したKing & Princeのメンバー脱退に際しては理由の一つに世界進出に対する諦観も挙げられていた。こうした現象からは、CD限定発売戦略が対外的にも対内的にも限界を迎えていることが示唆される。

 

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性加害問題の顕在化

 

そして2023年にはSMILE-UP.を大きく揺るがす重大な社会問題が顕在化した。それが2019年に逝去した前社長ジャニー喜多川による性加害問題である。

 

この問題は故人による過去の話だが、今になって顕在化した経緯は以下記事に分かりやすく纏められている。要は3月の海外メディアBBCの特集報道をきっかけとして、国内で被害者の声や事態検証を求める声が強まり、5月に初めてSMILE-UP.の社長自らが本問題に対する公式見解を発表し、本格的に問題が報道されるようになったのである。

 

newspicks.com

 

性加害が絶対に許されない行為であるのはもちろんのこと、それを今まで十分に報道してこなかった国内メディアのSMILE-UP.に対する過剰忖度や、その構造をもたらすSMILE-UP.の過剰な影響力、問題の深刻さに気づかぬままSMILE-UP.が提供するエンターテイメントの恩恵を受けてきた日本音楽業界、果てはそれを享受してきた消費者(当然私もここに含まれる)の意識等、この問題は多くの論点を孕みながら一人一人に突きつけられている。

 

この問題は9月になって初めてSMILE-UP.が公式に性加害が事実であるとの見解を示した。10月にはジャニー喜多川氏の名を冠した旧社名ジャニーズ事務所を現社名であるSMILE-UP.に変更し、以降も被害者への救済が進められている。また、タレントのマネジメントを担う新会社の設立に向けた動きも進んでおり、2023年12月にはその社名がSTARTO ENTERTAINMENTとなることが公表された。SMILE-UP.所属タレントは2024年以降全員この新会社に移籍することが想定されている。

 

この問題の落としどころをどこに持って行くのか、社会的な議論が今も必要な状況となっている今、私を含む消費者としても、この問題を無視してSMILE-UP.が提供するエンターテイメントを享受・発信することは許されなくなっている

 

この問題への向き合い方は人それぞれだが、当ブログの対応は以下一連のスレッドで示している。

 

 

まとめ

 

以上まで見てきたとおり、SMILE-UP.は絶大なコンテンツ人気に裏打ちされた影響力により国内で圧倒的な存在感を見せ続けている一方、その影響力の弊害とも言うべき深刻な課題や問題を抱えるに至っている。

 

才能あるアーティストを飼い殺している状況は今後いつまで続くのだろうか。日本音楽業界の成長機会損失にも繋がる歪な状況に改善余地があることは本記事で示したとおりである。繰り返しになるが、是非ともSMILE-UP.には諸問題に真正面から向き合ったうえで、納得可能な形でアーティストの才能を世に羽ばたかせる戦略を採ってほしいところである

 

なおこの記事は2023年12月10日にデータをアップデートし最新情報に更新したが、この記事の更新はこれを以て終了とし、以降のアップデートは行わないこととする。これは上述した性加害問題の影響のみならず、本記事の分析の前提に用いているCDアルバム売上枚数データが2023年度を以て作品人気指標として使用不可能となったからである。詳細は以下記事で説明している。

 

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*1:CDアルバム売上10万枚以上(RIAJのゴールドディスク認定制度に準拠したアルバム売上におけるヒットのボーダーライン)を記録したことがあるグループをここでは取り上げる