Billion Hits!

フル配信ダウンロード売上、MV再生回数、ストリーミング再生回数、Billboard JAPANランキングデータなどを通じて国内の人気楽曲を把握するブログ

嵐のSpotify再生回数ランキング

は1999年に「A・RA・SHI」でデビューした男性5人組アイドルグループ。2020年に活動を休止するまでの約21年間に渡ってヒット曲を大量輩出した。

 

国民的アイドルグループとなるほどの大きな存在となった嵐だが、その楽曲人気の把握は一筋縄ではいかなくなっている。21年もの長きに渡る活躍の間に音楽視聴環境が激変し、かつその環境変化に対して嵐陣営が極めてアクセス性の悪い楽曲販売方法を採ったためである。

 

活動時期のうち2005年まではCD購入が音楽の聴き方の主流だったため、この時期の曲の人気はCD売上で把握できた。

 

2006年から2010年までは新たにダウンロード購入という音楽の聴き方が普及したため、楽曲人気把握のためにはCD売上とダウンロード売上の両指標を見なければならなくなった。しかし嵐の場合は基本的にフル配信ダウンロード未解禁としていたため、それを踏まえた上で引き続きCD売上を中心にチェックする必要があった。

 

2011年以降になると、音楽を聴く手段としてのCD市場がますます縮小した一方、相対的に各種CD大量販売商法がCD売上チャート結果決定の主要因となったため、CDシングル売上データを楽曲人気指標として使用することが一切不可能になった。その中で嵐は楽曲のCD限定発売を続けていたため、嵐の楽曲人気把握は2011年以降困難を極めるようになった

 

しかし2019年初頭、嵐は2020年末を以ての活動休止を宣言。2019年秋より徐々に一部の楽曲をYouTubeなどの配信市場に開放し始める。そして2020年にはほとんどの楽曲が配信市場に開放され、新たな楽曲の聴き方として普及し始めたサブスクリプションサービスでも気軽に嵐の楽曲に触れることができるようになった。

 

配信市場に嵐の楽曲が開放されたことで、楽曲人気データとして活用可能なMV再生回数ストリーミング再生回数が嵐の楽曲でも可視化されるようになり、2011年以降の嵐の人気楽曲も徐々に分かりやすい形で定量的に把握することが可能になってきたのである。

 

この背景を踏まえ、当記事では特にSpotifyの再生回数に焦点を当てながら、嵐のヒット史を振り返る。

 

 

 

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1999-2005年 ーCD時代ー

 

この時期の楽曲の人気はCD売上だけでも把握可能である。CD売上データはインターネット上にもゴロゴロ転がっており十分に有名であるため、この時期に関する記載はほとんど割愛する。

 

それでも流石にデビュー曲「A・RA・SHI」の大人気には触れないわけにいかない。本曲のCD売上97万枚は、CD売上が楽曲人気指標として機能していた時期においては自身最大記録である。冒頭から展開されるラップ、ノリノリのキャッチーなサビ、メロディアスなBメロとめまぐるしく展開する各パートはどれもインパクト抜群であった。


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今作の後のCD売上は漸減傾向を辿り、2004年には10万枚程度の売上となるなど、この時点ではまだ国民的存在には上り詰めていなかった。ただ、2005年に発売された15thシングル「WISH」はタイアップ先ドラマ「花より男子」の人気が手伝い自身3年ぶりにCD売上30万枚を突破。これが後の飛躍の伏線となった。

 

2006-2010年 ー「世界に一つだけの花」がない嵐が国民的存在となれた理由ー

 

前項で述べたとおり、2010年までの嵐のCDシングル売上自己最高記録は「A・RA・SHI」の97万枚。CDシングルミリオンを記録したことはこれまでなかった。嵐の先輩SMAPは2003年に世界に一つだけの花CD258万枚を記録するほどの特大人気となったことで国民的存在と呼ばれるようになった。ダブルミリオンどころかミリオンシングルが無かった嵐が国民的存在と呼ばれるようになったのは何故だろうか。

 

一般的に理解が普及しているストーリーは以下のとおりである。

 

  1. 2007年発売の18thシングル「Love so sweet」がタイアップ先ドラマ「花より男子2(リターンズ)」の人気により普及し、自身7年ぶりのCD売上40万枚突破&「A.RA.SHI」に次ぐ当時自身2位となる45万枚(当時)をセールス。


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  2. 2008年6月発売の22ndシングル「One Love」がタイアップ先映画「花より男子F(ファイナル)」の人気により普及し56万枚をセールス。3度の花男タイアップ曲のヒットでファンが増加。直後の23rdシングル『truth/風の向こうへ65万枚をセールス。この2枚のシングルで2008年オリコン年間シングルランキングワンツーフィニッシュを達成。


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  3. 大きく人気を拡大させた嵐は翌2009年も3枚のシングル「Believe」『明日の記憶/Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~』「マイガールが60万枚前後のセールスを記録し2009年オリコン年間シングルランキングTOP3独占を達成。同年発売されたデビュー10周年記念ベストアルバム『5×10 All the BEST! 1999-2009は自身初のCDミリオンセラーを達成し2009年オリコン年間アルバムランキング年間1位を獲得。この活躍により本年自身初めて紅白歌合戦に出場。初出場にしていきなりメドレーで4曲も歌唱機会が与えられるVIP待遇を受ける。以降も司会を担当するなどのVIP待遇を受け続け、活動休止まで12年連続で出場。

 

このように、オリコンランキングの席巻を後ろ盾として音楽番組における存在感を高めたことで、嵐は国民的存在と言われるようになった。

 

しかし、ここで問題となるのがオリコンランキングの信頼性である。

 

冒頭に述べたとおり、この時期は新たな音楽の聴き方として配信ダウンロード購入が普及したため、楽曲人気を計るためにはCD売上とダウンロード売上の両方を確認する必要があった。しかしオリコンダウンロード売上の集計を一向に開始しなかった。その結果、配信市場を中心に大人気を得ていた楽曲がオリコンランキング上位に進出し難くなっていた。

 

そのような中で、フル配信ダウンロード未解禁としCDに売上を集中させ、かつc/wや付属特典の異なる盤種を複数用意する複数種販売商法で消費者に同一タイトル作品を複数枚購入させることによりCD売上を上積みしランキングにおける優位性を獲得していた芸能事務所SMILE-UP.所属アーティストの作品が相対的にオリコン上位に進出するようになった。その中でも特に人気となった嵐の作品が頂点に上り詰めたのである。

 

しかし、もしCD売上とフル配信ダウンロード売上を合算した音楽チャートがあったならば、圧倒的ダウンロード売上を稼いでいた多くの大人気曲に押し出される形で、嵐の年間チャート1位や上位独占は実現していなかった。この具体的な各年の年間チャートシミュレーション結果は以下記事に載せている。

 

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よって本来であればダウンロード売上の集計を一向に開始しないオリコンは総合楽曲人気チャートとしての扱いを停止されて然るべきだった。しかし当時はオリコンの楽曲人気チャートとしての権威が必要以上に肥大化していたため、この問題はなかなか認識されなかった。

 

そのため、まるで2008年以降のヒットシーンは嵐の独壇場だとでも言うかのような誤認識が蔓延した。実際は上の記事に書いたとおり嵐以外にも多様なアーティストの楽曲が人気となっていたにも拘わらずである。

 

なおこれは嵐や複数種販売商法を批判するものではない。批判されるべきはあくまでも音楽チャート設計である。各アーティスト陣営がどのような手法でチャート上位進出を狙うかは自由である。その戦略の影響力が強まり、多様な楽曲人気の可視化が阻害されるようになった場合、楽曲人気チャートならばチャート設計を見直さなければならない。

 

しかしオリコンはダウンロード売上の集計や各種商法の売上除外といったチャート設計の見直しをしなかった。その結果、2010年は更にランキング上位の偏りが深刻化。この年より影響力が拡大したAKB商法によりAKB48も年間上位進出するようになった結果、2010年オリコン年間シングルランキングはAKB48と嵐の楽曲だけでTOP10が埋め尽くされる異常事態となった。

 

AKB48の楽曲人気は以下記事でまとめている↓)

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CD売上と楽曲人気に相関関係が無くなる中、オリコンは楽曲人気指標ではなく売上指標の道を選択したと言えるが、その説明は不十分であった。ランキング結果決定の主要因となっていた各種商法の説明は一切せず、昔のようにオリコンを楽曲人気指標と認識しているユーザーの意識を変える動きもなく、歪なランキング結果が「ヒットチャート」という定義曖昧な名称で大々的に発表され続けた。

 

こうして2010年代前半は、「今どの曲が流行しているのか」が分からなくなった結果、流行が形成されにくくなり、大人気曲数が大きく減少した。

 

 

ここまでの話を図表も活用しながらまとめると以下のとおりとなる。

 

 

こうして嵐はCDシングルミリオンセラーこそ出せなかったものの大人気を獲得し国民的存在への登頂を実現した。この大人気は10周年記念ベストアルバムの最終累計198万枚や、2010年発売の9thオリジナルアルバム僕の見ている風景の同113万枚というビッグセールスに現れた。特に後者は複数種販売商法非実施であるにも拘わらず記録された売上であり、CD売上113万枚をほぼそのまま購入者数に置き換えることができた。

 

僕の見ている風景』収録曲中一番人気となった曲が30thシングル「Monster」。本曲は嵐のメンバー大野智が主演するドラマ及び映画「怪物くん」主題歌。ドラマは最高視聴率17.5%、映画は興行収入31億円を記録しともにヒットしたため楽曲も普及。大野の歌唱力が映えるメロディーやファンタジックなサウンドが支持され、CD売上70万枚を記録した。

 

当ブログでは「Monster」を2010年代のヒット曲十選に選出している。

 

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2011年以降 ーCDアルバム売上とSpotify再生数ー

 

前項までで書いたとおり、CDシングル売上が楽曲人気指標として使用可能だったのは2010年までである。

 

(2010年までで区切ったより詳細な理由は以下記事内で説明している↓)

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そのため楽曲人気動向を追っている当ブログでは、嵐に限らず誰であっても2011年以降のCDシングル売上データにはほとんど言及していない。しかし冒頭に述べたとおり嵐の場合は楽曲のCD限定発売・フル配信ダウンロード未解禁が続いたため、楽曲人気を定量的に把握する手段は長らく失われていた*1。それが2019年以降の配信解禁で徐々に可能になってきたことも冒頭で述べたとおりである。

 

これらを踏まえて本項では、分かりやすくサービス内累計ストリーミング再生回数を公開しているSpotifyの再生回数を用いて2011年以降の嵐の楽曲人気を把握することを試みる。

 

ただSpotifyはあくまでも数あるストリーミングサービスの一つであるうえ、解禁タイミングの遅さにより、その再生回数は発売当時の人気規模よりも小さいものにはなってしまう。

 

そこで、Spotifyの再生回数とCDアルバム売上データを組み合わせて考える。CDアルバム売上もCDシングル売上同様、作品人気指標としての機能性は衰退してきていたが、2022年まではシングルのように特定勢力による年間上位独占が生じていなかったため、本記事で検討する期間においてはその機能はまだ死んでいなかった。よって、各CDアルバムの収録曲中Spotifyで最大再生数を記録した楽曲を「アルバムセールスを牽引した人気曲」と見做し、各アルバムのCD売上枚数に紐づけて楽曲人気規模を推し量る。

 

以下より順番に見ていく。

 

Beautiful World

 

2011年に発売された10thオリジナルアルバム『Beautiful World』CD93万枚をセールス。Billboard JAPAN Top Albums Salesでは2011年の年間2位を獲得した。このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は34thCDシングル表題曲果てない空。本作はCDシングル売上枚数が楽曲人気指標として使用不可能になる直前の2010年11月に発売され、69万枚を記録した。

 

Popcorn

 

2012年に発売された11thオリジナルアルバムPopcornCD95万枚をセールス。Billboard JAPAN Top Albums Salesの年間では2012年3位→2013年50位と推移した。このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は37thCDシングル表題曲ワイルド アット ハート。最高視聴率16.9%を記録した松本潤主演ドラマ「ラッキーセブン」主題歌に起用された本曲は前向きな曲調と歌詞が大衆性を有している。Spotify再生数は「果てない空」よりも多く、1,000万回を突破している。

 

LOVE

 

2013年に発売された12thオリジナルアルバム『LOVE』CD84万枚をセールス。Billboard JAPAN Top Albums Salesの年間では2013年1位→2014年96位と推移した。なおビルボードのアルバム売上チャートで年間1位となるのは本作が自身初となる。*2

 

『LOVE』に収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は41stCDシングル表題曲「Endless Game」。最高視聴率16.7%を記録した櫻井翔主演ドラマ「家族ゲーム」主題歌である。ドラマに合わせたシリアスな曲調をメンバーがクールに歌いこなした楽曲になっている。

 

なお既に楽曲人気指標として使用不可能になっているCDシングル売上は「Endless Game」が55万枚。一方40thシングル『Calling/Breathless』は88万枚で、両者の間には大差がついている。しかしこれは複数種販売商法で販売された盤種数が前者2種、後者3種だったことによるものであり、楽曲人気とは全く関係が無い動向であった。

 

『Calling/Breathless』のCDシングル売上枚数は当時「A.RA.SHI」に次ぐ自身2位、今でも自身3位になっているが、決して「Calling」や「Breathless」の楽曲人気が「A.RA.SHI」に次ぐ規模になっているのではない。それはSpotifyの再生回数を見ても明らかである。このことからも分かるとおり、CDシングル売上枚数を楽曲人気指標として使用することは不可能なのである。

 

THE DIGITALIAN

 

2014年に発売された13thオリジナルアルバムTHE DIGITALIANCD82万枚をセールス。Billboard JAPAN Top Albums Salesの年間では2014年2位→2015年86位と推移した。このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は43rdCDシングル表題曲「GUTS!」。最高視聴率13.4%を記録した二宮和也主演ドラマ「弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜」主題歌である。青春感溢れる曲調は元気が出るとして評判を呼んだほか、シンプルかつキャッチーな振り付けも人気となった。

 

CDシングル売上は60万枚で、直前のシングル「Bittersweet」の59万枚とは殆ど差が無いが、Spotify再生回数では大差がついており、「GUTS!」の再生数は1,600万回を突破している。これは2011年~2019年までのCDシングル表題曲の中では最高記録である。間違いなく「GUTS!」はこの時期の最大人気曲であり、嵐の代表曲の一つと言って差し支えない。

 

Japonism

 

2015年に発売された14thオリジナルアルバム『Japonism』CD102万枚をセールス。Billboard JAPAN Top Albums Salesの年間では2015年1位→2016年68位と推移した。

 

なお久々のミリオンセールスとなった理由は作品人気の増加ではなく複数種販売商法の強化であり、前作が2種発売だったのに対し本作は3種発売となった。この施策は、同年発売され特筆すべき複数商法を実施していないにも拘らず86万枚をセールスするヒットになっていた三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE『PLANET SEVEN』を確実に上回るために採られたのではないかとも言われている。

 

この事例からも分かるように、CDアルバム売上枚数も作品人気指標としての機能性は相当衰退していたが、当時はまだ年間アルバムランキング上位が特定勢力に埋め尽くされてはいなかったため、その機能性は辛うじてまだ残っていた。

 

なおBillboard JAPANはこの年の下半期からアルバムチャートに関してもCD売上だけではなく配信売上やルックアップ(CDのPC読取り数)を加味した総合アルバム人気チャートBillboard JAPAN Hot Albumsを発足させた。その2015年下半期チャートではDREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』が1位、『Japonism』は2位となっている。このチャートの発足により、アルバム人気もCD売上だけで計る時代は当時既に終了していた

 

『Japonism』に収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は45thCDシングル表題曲「Sakura」。最高視聴率12.0%を記録したドラマ「ウロボロス〜この愛こそ、正義。」主題歌である。日本に数多存在する桜ソングの中でもあまりなかったシリアスなダンスナンバーであり、その新鮮さなどが人気となった。

 

なおCDシングル売上では次の46th「青空の下、キミのとなり」の方が多いが、Spotify再生回数では逆転している。CD売上の差は「Sakura」の初回盤収録DVDのメイキング映像が不評だったことに起因しているかもしれない。CDシングル売上が楽曲人気ではなく付属特典内容で決まる時代であることは確かである。

 

また、『Japonism』の通常盤にのみ収録されている「ふるさと」紅白歌合戦のために制作され、2010年から2014年まで5年連続で紅白歌合戦で披露されていた合唱曲であり、本作で初CD化となった。しかしそのSpotify再生回数は、300万回は超えているものの、紅白歌唱回数の割には伸びていないと言える。この理由は単純で、毎年紅白で歌われても、配信どころかCDでも未発売では普及しようがなかったからである。CD化以降の紅白歌唱は2016年の一度のみとなっている。

 

Are You Happy?

 

2016年に発売された15thオリジナルアルバム『Are You Happy?』CD77万枚をセールス。Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2016年4位→2017年63位と推移した。このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は47thCDシングル表題曲「愛を叫べ」。ゼクシィのCMソングに起用された幸福感溢れるパーティーチューンで、キャッチーなサビがフックとなって人気を集めた。

 

CDシングル売上では『I seek/Daylight』が収録曲中最大となる82万枚を記録しているが、これも2013年の『Calling/Breathless』同様、複数種販売商法の強化で前後作品より1種多い3種発売されたことによる売上上昇であり、楽曲人気の増減とは全く関係が無い。

 

「untitled」

 

2017年に発売された16thオリジナルアルバム『「untitled」』CD81万枚をセールス。Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2017年4位→2018年83位と推移した。このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。

 

 

収録曲中最大Spotify再生数を記録した曲は、なんとアルバム曲「Sugar」。色気溢れる歌唱やライブでの演出が大きな支持を集めている本曲の再生数はアルバム曲としては群を抜いて多い300万再生超えを果たしており、「つなぐ」などのCDシングル表題曲を上回っている。この曲は配信解禁前からファンの間で特に人気の高い楽曲となっており、それが配信解禁により定量的に可視化された形となる。

 

本アルバムは「Sugar」の他にも「夜の影」が300万再生を超えているなど、高人気アルバム曲が多く収録されており、注目に値する作品になっている。

 

アルバム曲のSpotify再生回数ランキング

 

嵐のアルバム曲やc/w曲のSpotify再生数ランキングは以下のとおり。ここではSpotifyで300万回再生を超えている全12曲を抽出した。

 

 

1位は20thシングルc/w「Still...」。前述した「Sugar」が2位につけている。人気c/w曲のランクインが目立つ中、アルバム曲からは『Time』『「untitled」』から複数曲ランクインしている。『「untitled」』は2020年の配信解禁時点でが最新オリジナルアルバムだったことも影響しているかもしれないが、それでもこの動向は見逃せない。

 

オリジナルアルバムの収録曲総再生数ランキング

 

『「untitled」』の人気はオリジナルアルバムの収録曲総再生数ランキングからも推し量ることができる。『「untitled」』までの嵐のオリジナルアルバムCD発売日順に左から並べたうえでSpotify総再生数CDアルバム売上枚数の推移を示した表は以下のとおりである。

 

 

青線で示した収録曲総再生数推移を見れば分かるとおり『「untitled」』は、「Love so sweet」を収録している『Time』、「Monster」を収録している僕の見ている風景に次いで多い収録曲総再生数を記録している。特筆すべき人気シングルを収録していない『「untitled」』がこの位置にいることは大変興味深い。

 

また、黄線で示したCDアルバム売上推移と併せて見ることで、CDアルバム売上も作品人気指標としては殆ど機能しなくなってきていたことを推し量ることができる。特に『Japonism』はCD売上の上昇に反比例して収録曲総再生数が減少している。『「untitled」』も収録曲総再生数の大幅上昇に比してCD売上の上昇は微々たるものになっており、両指標の動きは全く相関していない。

 

5×20 All the BEST!! 1999-2019 ーシングル曲のSpotify再生回数ランキングー

 

デビュー20周年となった2019年にはベストアルバム『5×20 All the BEST!! 1999-2019』を発売し、219万枚を売り上げる特大ヒットを記録した。Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2019年1位→2020年51位と推移している。本作には20年間で発売された嵐のシングル表題曲63曲が完全収録されており、まさに決定盤的内容と言える。

 

このベストアルバムのセールスを牽引した一番人気曲を探るため、この63曲のSpotify再生回数を調査し、ランキング化した。その結果は以下のとおりである。

 

 

1位は「Love so sweet」。唯一4,000万再生超えを果たしている。既述のとおり嵐が国民的人気を獲得する過程で重要な位置づけにいる本曲はやはり強かった。CDシングル売上45万枚(当時)はフル配信ダウンロード市場でミリオンセラーが出るようになっていた当時としては購入者数的に決して圧倒的な数字とは言えなかったが、長きに渡る嵐の活躍とともに普及し続けた結果、いつの間にかベストアルバムのダブルミリオンセラーを牽引するほどの特大人気曲になっていたのである。

 

なお、Spotifyだけでない全てのストリーミングサービスの再生回数を集計するBillboard JAPANからは、「Love so sweet」のストリーミング1億再生突破がアナウンスされている。

 

 

このほか本曲はMV5,000万再生も突破しており、2023年12月時点で自身最大のMV再生回数となっている。

 

嵐のシングル63作CD発売日順に左から並べたうえでSpotify再生回数CDシングル売上枚数の推移を示した表は以下のとおり。

 

 

黄線で示したCDシングル売上のアベレージは2008年頃から急上昇し、そのまま高止まりしている。このため「Love so sweet」は今では活動後期の多くのシングルに押し出される形で自身のCD売上ランキング上位には顔を出していない。しかし何度も言うようにCDシングル売上は楽曲人気指標ではなくなっており、決して嵐の人気曲が活動後期に集中しているわけではない

 

青線で示したSpotify再生回数はこのことを証明している。CD売上アベレージが高い活動後期のシングルと、CD売上アベレージが相対的に低めだった活動前期のシングルとの間に有意な再生回数の差は無い。再生回数は人気曲がピンポイントに突出しており、その人気曲は2000年代後半に集中している

 

特にCD売上の楽曲人気指標としての機能が完全消滅した2011年以降はCD売上とSpotify再生数の間に相関関係は全く無くなっている。人気曲「GUTS!」は再生数では突出しているが、CD売上では前後作品比で殆ど変動していない。逆に複数種販売商法でCD売上が突出した「Calling」や「I seek」等は再生数では前後作品比で殆ど変動していない。

 

This is 嵐

 

2019年に翌2020年での活動休止を発表した嵐は、過去曲を配信市場に開放しただけでなく、新曲も積極的に配信市場に送り込むようになり、それまでCD限定発売手法を継続してきたことが嘘のような、全く新しい活動形態を展開していった。その楽曲をまとめたオリジナルアルバム『This is 嵐』は活動休止直前の2020年11月に発売され、90万枚をセールス。Billboard JAPAN Hot Albumsの年間では2020年3位→2021年24位と推移した。

 

このヒットアルバムに収録されている楽曲のSpotify再生数データは以下のとおり。なおこの時期はMVの公開も活発に行われたため、MV再生数データも併せて載せている。

 

 

収録曲中最大MV再生数及び最大Spotify再生数を記録した曲は1st配信シングル「Turning Up」。この曲はデビュー20周年記念日の2019年11月3日に配信限定発売された楽曲で、このタイミングで過去のシングルも一斉に配信市場に開放された。その話題性の高さ、海外市場を意識した英語主体の歌詞、ストリーミング市場のトレンドを意識した楽曲時間の短さがもたらす疾走感などが新鮮な驚きを与えた本曲はMV4,000万再生を突破した。


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この曲に代表される今までにない挑戦的姿勢は以降の配信シングルの作風にも現れた。一方で従来の日本国内向け王道シングルもCDリリースされており、特にNHK2020年東京オリンピックテーマ曲「カイト」は米津玄師提供曲としても話題となった。

 

まとめ

 

本記事の論理構成には多くのデータ調査量と考察時間を要したが、ここまでしないと実態を把握し難いのが楽曲のCD限定発売を続けていた嵐の楽曲人気動向であった。

 

国民的存在と位置付けられている嵐の楽曲人気動向把握が困難という事態は意味不明であり、その存在感の大きさは「配信解禁で少しでも楽曲人気動向の実態把握ができるようになったならそのデータを整理しなければならない」と思わせるには十分であった。

 

楽曲人気の証拠にならないCDシングル売上データを提示してヒットを煽っても、ファン以外から楽曲流行の共感は得られない。しかしこれまではオリコンなどによってしばしばその誤りが繰り返されてきた。今後このことへの理解が進み、ストリーミング再生回数やBillboard JAPANなどの適切なデータに基づいた楽曲人気分析が行われるようになることを願うばかりである。

 

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なおこの記事は2021年10月18日に初投稿し、2023年12月10日にデータをアップデートし最新情報に更新した。しかし、この記事の更新はこれを以て終了とし、以降のアップデートは行わないこととする。これは、本記事の分析の前提に用いているCDアルバム売上枚数データが2023年度を以て作品人気指標として使用不可能となったからである。詳細は以下記事で説明している。

 

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さらに2023年には、嵐が所属するジャニーズ事務所(旧名)の前社長ジャニー喜多川氏(故人)による性加害重大な社会問題となった。これに対する当ブログの方針は以下の一連のポストに記載したとおりである。

 

 

こうした状況も踏まえ、本記事の更新は2023年を以て終了とする。

 

 

*1:この時期の楽曲人気把握手段として挙げられそうなデータには例えばオリコンランキングの登場週数などの順位関連記録があるが、これはあくまでも相対的な指標である。売上100万枚で週間2位の週もあれば1万枚で1位の週もあるなど、順位は各週の売上水準によって同じ売上でも結果が大きく異なりうるため、絶対的な人気規模を把握するには不適切な指標である。また、カラオケランキングも同様に順位しか公開されていないので定量的な人気規模把握ができない。歌唱回数が公開されるようになれば事態は変わりうるが、現状はカラオケ会社の用意している各アーティストページの「人気曲ランキング」の集計期間すら不透明である。いつ変動するかも分からないデータでは地に足をつけた分析はできない。楽曲人気データとして使用可能な指標は当ブログ記事「『ヒット曲』の定義」で詳しくまとめている。

*2:オリコンでは既に『5×10 All the BEST! 1999-2009』『僕の見ている風景』『Beautiful World』の3作が年間1位を獲得していたが、ビルボードとは集計期間が数週異なっており、オリコンでは集計割れを起こしていたEXILEEXILE BALLAD BEST』、EXILE愛すべき未来へ』、Mr.Children『SENSE』ビルボードでは集計割れを起こさず、嵐を上回るセールスで各年の年間1位となっていた。