RADWIMPSは2005年に「25コ目の染色体」でデビューした男性3人組ロックバンド。デビュー以降ジワジワと人気を拡大・維持していき、2016年には大ヒット映画主題歌を担当したことで大きな脚光を浴びるなど、現在まで約15年に渡りヒット曲を大量輩出している。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は24曲で、認定総ダウンロード売上は525万(歴代17位)となっている。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、RADWIMPSのヒット史を振り返る。
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デビュー~2015年
この時期の曲を配信開始日順に並べたダウンロード売上データは以下のとおり。
RADWIMPSは2001年にボーカル野田洋次郎とギター桑原彰を中心にして結成された。野田の大学受験や多少のメンバーチェンジを経ながらも、メジャーデビューに至るまでCDの発売やライブ活動を行い、着実にファンを増やしていった。
2005年11月には満を持してメジャーデビューとなり、シングル「25コ目の染色体」を発売した。表題曲は2010年に10万ダウンロードを突破する人気曲となった。
2006年2月には通算三作目にしてメジャー初となるオリジナルアルバム『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜』を発売。このアルバムは人気拡大に沿うような形で売れ続け、CDアルバム売上チャート通算161週ランクイン及び累計売上18万枚を記録した。配信では、アルバム曲のうち「最大公約数」が25万ダウンロードを記録する人気曲になっている。
2006年5月にはシングル「ふたりごと」を発売し、表題曲は25万ダウンロードを記録。意外にもこの曲がシングルCD表題曲では唯一の25万ダウンロード達成曲となっている。これはRADWIMPSがシングルCDに拘らない形でヒット曲を多く出していたことも大きいが、初期の楽曲ではこの曲が代表曲と言って間違いないだろう。
続く7月にはシングル「有心論」を発売し、表題曲は10万ダウンロードを記録。好調な配信売上は12月に発売した4thオリジナルアルバム『RADWIMPS 4~おかずのごはん~』のヒットにも繋がり、本作はCDアルバム売上チャート通算173週ランクイン及び累計売上34万枚を記録した。サウンドトラックを除けば本作が自身最大売上となる。それを象徴するように、好調な配信売上となったアルバム曲が多く、「いいんですか?」「me me she」「05410-(ん)」の3曲が10万ダウンロードを記録している。
こうして人気拡大期を迎えたRADWIMPSだが、普通であれば多くのアーティストはこの期を逃さず新曲を次々と発売して人気のピークを築き上げるものである。しかしRADWIMPSは非常にマイペースな活動を維持し、なんと翌2007年は新作を一切発売しなかった。今思うとこのマイペースさが人気の波をなだらかにし、息の長い人気に繋がったのかもしれない。
2008年1月には待望の新曲「オーダーメイド」を発売。この曲はBillboard JAPAN Hot 100で週間3位を獲得する躍進を見せた。配信売上は10万ダウンロードを記録したほか、CD売上でも自身初の10万超えとなる11万枚をセールスした。なおCD売上は市場縮小等に伴い2011年以降楽曲人気指標として使用できなくなるが、2010年までの楽曲ではこの曲が自身最大のCD売上となる。2011年以降の楽曲を含めてもCD売上10万超えを記録したRADWIMPSのシングルは2作しかなく、CD売上だけでRADWIMPSの人気を計ることは不可能である。
この曲のヒットで弾みをつけ、次々と新作を発売するのがブレイクする多くのアーティストが取る動きだが、RADWIMPSはマイペースな活動を継続し、なんと2008年はこの曲以降一切の新作を発売しなかった。
2009年1月には1年ぶりとなる待望の新曲「おしゃかしゃま」を配信のみで発売し、10万ダウンロードを記録。3月にはこの曲も収録した5thオリジナルアルバム『アルトコロニーの定理』を発売し、33万枚をセールスするヒットを記録した。
前作に続くアルバムのヒットで弾みをつけ、ここから次々と新作を発売するのが多くのアーティストが取る動きだが、やはりマイペースな活動が続き、2009年はこれ以降一切の新作が発売されなかった。
2010年6月には1年以上ぶりとなる待望の新曲「携帯電話」「マニフェスト」を同時発売。このうち「マニフェスト」のみが10万ダウンロードを記録しており、CD売上でも「携帯電話」を僅かに上回ったことから、楽曲人気は「マニフェスト」に軍配が上がったようだ。ただどういうわけか次のアルバムには「携帯電話」のみが収録され、「マニフェスト」は一度もアルバムに収録されないまま10年以上が経過している。相変わらずマイペースな活動ぶりである。2010年の新作発売はこの2作で終了した。
2011年は1月に待望の新曲「DADA」を発売し、自身最大となる12万枚のCD売上を背景にしてBillboard JAPAN Hot 100で自身初の週間1位を獲得した。ただ意外にもこの曲は配信売上認定を受けておらず、やや偏った人気となったようだ。
3月には6thオリジナルアルバム『絶体絶命』を発売し、26万枚をセールス。アルバム曲のうち、「君と羊と青」がNHKサッカー中継のテーマソングに起用されたことで人気となり、25万ダウンロードを記録した。実は非シングルCD化曲であるこの曲が「DADA」などを含めた収録曲中最大売上を記録していたのである。
この曲を最後に、しばらく配信10万を超える売上を記録する楽曲は出なくなるが、アルバムでは2013年に発売した『×と○と罪と』が13万枚をセールスした。本作の収録曲の中では、アルバム曲の「会心の一撃」が一番人気となり、発売から7年7ヶ月後の2021年6月になって10万ダウンロードを突破した。
なお、デビューからこの期間まで、地上波音楽番組への出演は一切行わなかった。
2016年以降 ~君の名は。~
2016年には大きな転機が訪れた。RADWIMPSが劇中歌を手掛けた映画「君の名は。」が興行収入250億円を記録する特大ヒットとなったことで、RADWIMPSの楽曲も大ヒットとなったのである。これを機に、しばらく途絶えていた配信売上10万以上を記録する楽曲が再び増加し、第二の全盛期とも言える時期に突入していく。この時期の楽曲を配信開始日順に並べたダウンロード売上データは以下のとおり。
「君の名は。」は新海誠が監督を務めたアニメ映画で、監督がファンだというRADWIMPSに楽曲制作を依頼し、主題歌だけではなく劇中音楽全ての制作を担う運びとなった。このうち「前前前世 (movie ver.)」が映画公開1ヶ月前の2016年7月から配信のみで先行発売され、実質的なリードトラックとして機能した。映画公開のタイミングでは、この曲で自身初となる地上波音楽番組への出演を果たし、精力的なプロモーションを展開。勢いのあるキャッチーなメロディーや映画にリンクした歌詞がたちまち評判となり、自身初にして唯一の配信ミリオンを達成した。売上推移は以下のとおり。
- 配信開始2ヶ月後の2016年9月に25万ダウンロード突破
- 配信開始3ヶ月後の2016年10月に50万ダウンロード
- 配信開始4ヶ月後の2016年11月に75万ダウンロード
- 配信開始7ヶ月後の2017年2月に配信ミリオン達成
見てのとおり、映画公開以降は毎月25万ダウンロードずつ積み上げる猛烈な勢いで配信売上を重ねた。年末には自身初となるNHK紅白歌合戦への出演をこの曲で果たしたことで年を跨いで売れ続け、配信開始から1年も経っていない2017年2月にミリオンを突破するに至った。
映画が公開されたタイミングではBillboard JAPAN Hot 100でも自身2曲目の週間1位を獲得。年間でも2016年2位→2017年9位と2年連続TOP10入りする大ヒットとなった。なお2016年はビルボードがAKB48の劇場盤の集計を開始した年で、当時は反映率制限を設けていなかったことから、年間1位はAKB48となっている。翌年以降は制限がかけられ、AKB48がCD売上だけで年間1位となることはなくなったことから、制限適用が一年早ければ「前前前世」が年間1位であり、もはや楽曲人気では実質的な年間1位と言って差し支えない。
MVも8月に公開されて以降凄まじい勢いで再生回数を稼ぎ、2017年1月に1億再生、2018年12月に2億再生を突破した。足元の再生数は2.6億再生を数えている。国内でYouTube2億再生を突破したMVは2021年7月現在では18曲しかなく、その中で本曲は歴代9位の再生数を誇っている。
RADWIMPSはこれまで個性が強く大衆受けしないような楽曲を多く輩出しており、その結果として売上25万クラスのヒット曲は多く出ていたが、ミリオンクラスの大ヒット曲はまだ出ていなかった。これまでのマイペースな活動ぶりを考えると敢えてヒットの最前線には出ないようにしていたようにも思われたが、ここにきてここまで大衆性のある楽曲を出して積極的なプロモーションを行い大きな実績を残すとは予想外であった。楽曲の幅の広さを見せつけたという意味では大きな意義のある活躍だったと言えるだろう。
この曲も収録した映画のサウンドトラック『君の名は。』は、劇中歌を全てRADWIMPSが手掛けたこともありRADWIMPS名義で発売され、CDでは自己最高アルバム売上となる43万枚、配信では10万ダウンロードをセールスした。総合アルバムチャートBillboard JAPAN Hot Albumsでは2016年2位→2017年22位→2018年92位と推移するロングヒットとなった。
本作収録曲のうち、「前前前世(movie ver.)」以外では、「なんでもないや」が75万ダウンロード、「スパークル (movie ver.)」が50万ダウンロード、「夢灯籠」が25万ダウンロードを記録している。この4曲が歌入りの曲で、他の収録曲は全てインストゥルメンタルであることから、歌入り曲は全曲ヒットしたことになる。それぞれが映画の要所を締める位置で使用され、楽曲を聴くことでそのシーンを思い返し、世界観に浸ることができる楽曲内容になっていたことで1曲1曲が確かな人気を獲得した。
なおこの4曲は何れもCDシングルでは発売されなかったため、配信で購入するかサウンドトラックアルバムを購入するかの何れかの手段で入手できた。既にこの時期、CDシングルは楽曲人気指標としての機能を失っており、この形態に拘らない形で多くの人気曲が誕生するようになっていた。
2016年11月には8thオリジナルアルバム『人間開花』を発売。本作には「君の名は。」劇中歌のうち、「前前前世」と「スパークル」の2曲がoriginal ver.で収録されたこともあり、前作を大きく上回る32万枚をセールスした。Billboard JAPAN Hot Albumsでは集計割れを起こし、2016年22位→2017年15位と推移した。
アルバム曲のうち、「君の名は。」関連曲以外では、ドラマ「フランケンシュタインの恋」主題歌に起用された「棒人間」が10万ダウンロードを売り上げる人気曲になっている。
「前前前世 (original ver.)」はmovie ver.にはないブロックが追加されたバージョンとなっている。このブロックはmovie ver.完成後に新海監督の要望で急遽追加されたもので、劇中でもこのブロックが追加された音源が使用された。そのためmovie ver.は厳密には劇中で使用された音源というわけではない。このoriginal ver.は劇中音源を更にアレンジして作られたもので、「前前前世」は合計3バージョン存在していることになる。劇中音源は未発売なので劇中でしか聴くことができない。original ver.は配信で10万ダウンロードを記録した。
「スパークル (original ver.)」はmovie ver.と比べ間奏が2分ほど短くなっている。元々movie ver.は劇中の展開に合わせて間奏が非常に長く作られており、合計演奏時間は8分を超えていたので、自然な楽曲のバランスに整えられたバージョンと言うことができる。カラオケで「スパークル」を入れるときは、長い間奏で微妙な空気になることを避けるためoriginal ver.を選択することを推奨する。
本曲は配信で10万ダウンロードを記録した。また、アルバムの初回限定盤DVDには、映画の映像をこのアルバムのために再編集し制作された本曲のMVが収録された。YouTubeにはこのMVのショートバージョンが予告映像としてアップされているが、その累計は1.2億再生を突破している。
スパークル [original ver.] -Your name. Music Video edition- 予告編 from new album「人間開花」初回盤DVD
2017年5月には20thシングル『サイハテアイニ/洗脳』を発売し、1曲目の「サイハテアイニ」が10万ダウンロードを売り上げた。2017年は「君の名は。」ブームの翌年だったが、この年の新作発売は今作のみ。
2018年は2枚のシングル発売を経て、12月に9thオリジナルアルバム『ANTI ANTI GENERATION』を発売。「君の名は。」ブームが落ち着いたため売上は下がったが、それでも安定の10万超えとなる11万枚をセールスした。アルバム曲のうち、発売1ヶ月前に配信で先行発売されていた「そっけない」が人気曲となり、10万ダウンロードを記録している。
2019年には再び新海誠監督とタッグを組み、アニメ映画「天気の子」の劇中音源を「君の名は。」同様RADWIMPSが全て制作した。映画は興行収入140億円を記録する大ヒットとなり、RADWIMPS名義で7月に発売したサウンドトラック『天気の子』も13万枚をセールスした。収録曲のうち、「愛にできることはまだあるかい」「グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子」の2曲が25万ダウンロードを記録している。
このサウンドトラックには歌入り曲が5曲収録されていたが、このうち4曲はMovie editとして収録され、「愛にできることはまだあるかい」のみMovie editとフルバージョン両方が収録されていた。11月には、この5曲のフルバージョンのみを収録したコンパクトな内容の「天気の子 complete version」を発売している。このタイミングで配信された「大丈夫」のフルバージョンが10万ダウンロードを記録した。
まとめ
以上まで見てきたとおり、RADWIMPSは敢えて人気のピークを作らないかのようにスローな活動ペースを維持しながらも、要所で大ヒット曲を輩出することでデビュー以来15年に渡り活躍を続けている。ヒットに浮かれることなくマイペースに個性を表現し続けるさまは正に職人である。
非シングルCD化曲のヒットが多いのも特徴で、冒頭のランキングではTOP10中実に9曲がシングルCDで発売されていない曲となっている。人気を把握するツールとしての配信売上の重要性が分かるデータである。
これだけ多くのヒット曲がありながら、RADWIMPSはデビュー以来ベストアルバムを出したことが一度も無い。15年以上のキャリアがあるアーティストとしては非常に珍しく、ここにも個性が強く表れている。ヒット曲の入手にはオリジナルアルバムを辿っていくことになる。ここでは入り口として特に以下の3枚をおすすめする。
この記事で紹介したダウンロードデータは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。