この記事では2016年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうち、オリコンと1位が異なった全12週をピックアップして回顧する。
この一年間の週間1位変遷表は以下のとおり。回顧対象週には色をつけている。

Billboard JAPAN Hot 100とは、「社会への浸透度を計る」ことを明確に理念に掲げ、複数の要素も加味して作成されている総合チャートである。2016年の集計対象はCD売上、ラジオエアプレイ、ダウンロード*1、ストリーミング*2、ルックアップ(PCによるCD読取り数)、MV、Twitterの7指標であった。
しかし、長い歴史を持つオリコンが既に権威と知名度を確立していた中で発足した後発サービスであったこともあって、当時のBillboard JAPANは権威と知名度をほとんど有していなかった。
2006年以降は新たな音楽の聴き方としてダウンロードでの購入が無視できない規模に普及しており、RIAJのダウンロード認定もこの年より発足している。よって、ヒットチャートであれば、2006年以降はCD売上だけでなくダウンロード売上も集計すべきだったのだが、オリコンはそれを一向に開始しなかった。結果、この年以降10年以上に渡り「日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題」が生じることとなってしまった。
2006年以降は、CD売上チャートだけを見ていても、ヒットの全貌を把握することはできないのである。しかし結局、全国網羅的にダウンロード売上を集計し指数も公開するようなチャートは当時誰も作成しなかったため、2006年以降はヒットチャートが存在せず、オリコンがヒットチャートとして誤使用される時期が長く続いた。
そのような中でも、Billboard JAPAN Hot 100をオリコンと比較しながら振り返ることにより、当時のヒット認識を少しでも多面的に捉え直すことは可能である。Billboard JAPANはこの年、全国網羅的なダウンロード売上の集計体制を確立し、デジタル市場で大ヒットしている楽曲の動向を捕捉できるようになったのである。本記事ではこの違いに着目しながら振り返りを行っていく。
(2016年のBillboard JAPAN年間チャートは以下記事参照↓)
- 1/6公開週1位 西野カナ「トリセツ」
- 2/3公開週1位 GENERATIONS from EXILE TRIBE「AGEHA」
- 2/24公開週1位 手嶌葵「明日への手紙」
- 6/1公開週1位 back number「僕の名前を」
- 9/28公開週1位 RADWIMPS「前前前世」
- 10/19公開週1位 星野源「恋」
- 10/26公開週1位 星野源「恋」
- 11/9公開週1位 ピコ太郎「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」
- 11/30公開週1位 星野源「恋」
- 12/14公開週1位 星野源「恋」
- 12/21公開週1位 星野源「恋」
- 12/28公開週1位 星野源「恋」
- まとめ
1/6公開週1位 西野カナ「トリセツ」

1/6公開週は西野カナ「トリセツ」が15週ぶり返り咲き通算2週目の1位を獲得した。オリコンではモーニング娘。'15『冷たい風と片思い/ENDLESS SKY/One and Only』が1位だったが、ビルボードでは販路限定イベント券付CD複数枚セットの売上が集計対象外となっていた分オリコンよりも売上が少なくなり、代わりに刀剣男士team三条 with 加州清光「刀剣乱舞」がCD売上1位となった。しかしその売上も多くはなかったため、紅白歌合戦等年末歌番組での歌唱効果で勢いが回復していた西野カナが総合では逆転した。
「トリセツ」は興行収入24億を記録した人気映画『ヒロイン失格』の主題歌に起用された。歌詞が女性版「関白宣言」のようだと話題になるなど人気を集めたことなどから楽曲は大人気を博し、フル配信100万ダウンロード*3を売り上げるに至った。
2/3公開週1位 GENERATIONS from EXILE TRIBE「AGEHA」

2/3公開週1位はGENERATIONS from EXILE TRIBE「AGEHA」。オリコンではGLAY『G4・Ⅳ』が1位だったが、ビルボードではG-DIRECT販売分が集計対象外となっていたため、GENERATIONSがCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
2/24公開週1位 手嶌葵「明日への手紙」

2/24公開週1位は手嶌葵「明日への手紙」。CD売上ではこぶしファクトリー『桜ナイトフィーバー/チョット愚直に!猪突猛進/押忍!こぶし魂』が1位だったが、その売上は4万枚程度と多くはなかったため、ダウンロードやMVでポイントを稼いだ手嶌葵が総合では逆転した。
この曲は元々2014年発売のオリジナルアルバム『Ren'dez-vous』に収録されていた曲だが、2016年1月より放送された月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』のプロデューサー村瀬健の耳に留まる形で主題歌に抜擢され、ドラマ用に新録音した音源がドラマバージョンとして発売された。ドラマが最高視聴率11%を記録する人気となると楽曲も普及し、フル配信25万ダウンロードを売り上げた。都会の波にもまれながらも懸命に生きる若者を描写したドラマと、歌詞や透明感のある切ない歌声がマッチした。
6/1公開週1位 back number「僕の名前を」

6/1公開週1位はback number「僕の名前を」。CD売上では発売2週目の嵐『I seek/Daylight』が1位だったが、その売上は5万枚程度と多くはなかったため、配信指標でポイントを稼いだback numberが総合では逆転した。
本曲は興行収入12億円を記録した映画『オオカミ少女と黒王子』の主題歌として普及し、フル配信10万ダウンロードを突破する人気曲となった。らしさ溢れる女々しいミディアムラブバラードに仕上がっており、「僕の全ては君のものだ」という歌詞も多くの共感を呼んだ。
9/28公開週1位 RADWIMPS「前前前世」

9/28公開週1位はRADWIMPS「前前前世」。CD売上ではEXILE THE SECOND「WILD WILD WILD」が約5万枚の売上で1位だったが、チャート初登場から13週が経過しているにも拘わらず当週のダウンロード売上でこれを上回る数値を叩き出したRADWIMPSが総合では逆転した。
本曲は新海誠監督によるアニメ映画『君の名は。』の劇中歌で、映画公開1ヶ月前の7月から先行配信された。映画は興行収入250億円を記録するほどの社会現象となり、楽曲も勢いのあるキャッチーなメロディーや映画にリンクした歌詞が支持されフル配信100万ダウンロード、MV3億再生を突破する大ヒットとなった。
10/19公開週1位 星野源「恋」

10/19公開週は星野源「恋」がCD発売2週目にして1位に浮上した。前週はCDゲリラ発売で1位を獲得したHi-STANDARD「ANOTHER STARTING LINE」に次ぐ2位だったが、この時点ではまだダウンロード販売が解禁されておらず、CD発売から1週遅れた当週に解禁された。CD売上ではSUPER EIGHT「パノラマ」が約16万枚の売上で1位だったが、猛烈な初動ダウンロード売上を記録した「恋」が総合でこれを上回り、前週より総合ポイントを大きく伸ばす形で1位となった。
本曲は最高視聴率20%を記録した大人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌に起用された。前向きになれる明るい曲調や『恋ダンス』と呼ばれたキャッチーな振り付け、対象を限定しない普遍性の高い歌詞が支持され、フル配信200万ダウンロード、MV2億再生を記録する特大ムーブメントを巻き起こした。
初動の勢いは凄まじく、ダウンロードミリオンは発売3ヶ月後の2017年1月に突破した。発売3ヶ月以内でのミリオン達成は、2010年代発売曲では他に米津玄師「Lemon」、松たか子「レット・イット・ゴー~ありのままで~」、西野カナ「会いたくて 会いたくて」の3曲しかない。またMV1億突破も所要143日で達成されており、これは当時歴代2位のスピード記録であった。
こうして滅多に出ない規模の特大人気を獲得した「恋」は当時の1位獲得週数歴代最多記録となる通算11週1位を記録した。一方オリコンではダウンロード売上の集計を一向に開始せずCD売上だけでチャートを構成し続けていたため「恋」は週間最高位2位となり、オリコンの楽曲人気指標としての機能が失われていることが改めて露呈した。
既に10年以上前の2006年の段階でダウンロード売上の集計なしに楽曲人気を正確に把握することは不可能になっていたが、オリコンはこの説明をせずにCD売上だけのチャートをヒットチャートとして世に提示し続け、多くの楽曲の人気を過大小にミスリードし続けていた。
そんな中で2008年に誕生したBillboard JAPAN Hot 100は楽曲人気の可視化を目指してひっそりと試行錯誤を続けていたが、「恋」のチャートアクションが大きく異なる結果となったことも後押しとなり、楽曲人気チャートとしての有用性への注目度が当年以降本格的に上昇した。いよいよビルボードは新時代の楽曲人気チャートとしてその知名度と権威を確立し始めたのである。
ということで、オリコンとビルボードで1位が異なる週をピックアップしている当記事連載シリーズでは、2016年から2017年にかけて「恋」がビルボード1位となった11週全てをピックアップして回顧することになる。
10/26公開週1位 星野源「恋」

10/26公開週も前週に続き星野源「恋」が2週連続1位を獲得した。CD売上ではSexy Zone「よびすて」が約11万枚の売上で1位だったが、引き続き猛烈な配信指標動向を記録していた「恋」が総合でこれを上回った。
11/9公開週1位 ピコ太郎「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」

11/9公開週1位はピコ太郎「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」。CD売上ではKinKi Kids「道は手ずから夢の花」が約19万枚の売上で1位だったが、ピコ太郎は当週新たなMV「PPAP(Long Version)」及び死神リュークとコラボした死神リュークfeat.ピコ太郎名義のMVを新規公開し、前者をMステでも披露したことによりMV指標を急伸させ、週間2,677万再生という歴史的な数値を叩き出したことでKinKi Kidsを上回り総合1位に浮上した。
本曲はお笑いタレント古坂大魔王が扮するピコ太郎が2016年8月に動画配信した1分少々の楽曲である。9月にジャスティン・ビーバーがお気に入りの動画としてTwitterで取り上げたことなどにより、中毒性の高いリズムが世界的に人気を広げ、MV1億再生を記録した。公開から所要113日での1億達成は国内MVとしては当時歴代1位のスピード記録であった。
当週に公開された「PPAP (Long Version)」は2017年頃から原曲を大きく上回るMV再生数ペースとなり、今では4億再生を突破しダントツで自身最多MV再生回数となっている。ちなみにこの動画は世界の名門レーベルUltra Musicから配信されたもので、これとは別にピコ太郎個人のチャンネルから配信された同内容の動画もあり、こちらも別途1億再生を突破している。参考までに原曲と全部合計すれば6億再生を超える。
11/30公開週1位 星野源「恋」

11/30公開週は星野源「恋」が5週ぶり返り咲き通算3週目の1位を獲得した。CD売上ではモーニング娘。'16『セクシーキャットの演説/ムキダシで向き合って/そうじゃない』が約19万枚の売上で1位だったが、星野源は当週一般ユーザーによる踊ってみた動画のアップロードの許諾を公式アナウンスしたことなどからMV指標を週間1,126万再生にまで伸ばしており、他の配信指標動向も高水準で高止まりしていたことから総合でモーニング娘。'16を大きく上回った。
12/14公開週1位 星野源「恋」

12/14公開週は星野源「恋」が2週ぶり返り咲き通算4週目の1位を獲得した。CD売上ではSUPER EIGHT「NOROSHI」が約21万枚の売上で1位だったが、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も佳境に差し掛かり盛り上がりが高まる中で「恋」の猛烈な勢いも止まらず、当週もMV1,142万再生を記録するなどデジタル指標で圧倒的な数値を記録し、SUPER EIGHTを総合で上回った。
12/21公開週1位 星野源「恋」

12/21公開週も星野源「恋」が2週連続通算5週目の1位を獲得した。CD売上ではHey!Say!JUMP「Give Me Love」が約25万枚の売上で1位だったが、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』最終回まで残り1週となった当週も「恋」の各指標の数値は圧倒的水準で高止まりしており、総合でHey!Say!JUMPを上回った。
12/28公開週1位 星野源「恋」

12/28公開週も星野源「恋」が3週連続通算6週目の1位を獲得した。CD売上ではQUARTET NIGHT「God's S.T.A.R.」が約11万枚の売上で1位だったが、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が最終回を迎えた当週「恋」はMV指標を週間1,701万再生にまで伸ばすなど異次元の人気規模に突入し2位以下に大差をつけ総合1位となった。
まとめ
以上が2016年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうちオリコンと1位が異なる週の振り返りとなる。
当時はまだ知名度が乏しかったビルボードだが、星野源「恋」の歴史的楽曲人気を週間1位独走という形で可視化することに成功したこの年から知名度が本格的に高まっていくこととなる。今では楽曲人気指標としての権威を確立したビルボードだが、2016年の週間チャートも、今からでも押さえておきたいところである。
(次年2017年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧に続く↓)
(前年2015年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧はこちら↓)