この記事では2021年のヒット曲をBillboard JAPAN年間チャートを通じて振り返る。
2021年のBillboard JAPAN Hot 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
ビルボードジャパン、2021年年間チャート発表~【JAPAN HOT 100】は優里「ドライフラワー」、【HOT Albums】はBTS『BTS, THE BEST』が獲得 https://t.co/fPlOUUaSmD pic.twitter.com/Z7WCnUGkdD
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年12月9日
Hot 100
年間TOP10
優里「ドライフラワー」
1位は優里「ドライフラワー」。この曲は優里にとってメジャー2作目となるシングルで、2020年10月に配信された。優里は2019年12月に「かくれんぼ」を配信してインディーズデビューを果たしたが、男性目線で彼女との別れを歌ったこの曲が泣ける曲として話題となり、2020年のBillboard JAPAN Hot 100年間98位にランクイン。ブレイクの兆候は既にこの時から訪れていた。
「ドライフラワー」はこの「かくれんぼ」のアンサーソングとして2020年10月に配信された。同じ失恋を今度は女性目線で歌ったこの曲は「かくれんぼ」から連続したストーリー性が一層の感情移入を呼び、11月にはBillboard JAPAN Hot 100で初のTOP10入りを果たすなど、自身最大の初速人気を見せた。また、配信早々、2020年に多くのヒット曲を生むきっかけを作った人気動画コンテンツTHE FIRST TAKEに出演し「ドライフラワー」を歌唱。7月には既に「かくれんぼ」もTHE FIRST TAKEで歌唱しており、ここでも両曲で話題性を生み出した。
2021年になると、それまであまり機会を設けていなかったTV出演を解禁。1月上旬には『ZIP!』『めざましテレビ』に出演し、歌唱は無いながらも特集が組まれた。1月下旬には『スッキリ!』で「ドライフラワー」を初歌唱。2月上旬にはMステにも初出演して同曲を披露した。
これらのタイミングでチャートアクションがギアアップしていたことは上半期チャート分析記事で示したとおりだが、ポイントが漸減傾向となった下半期以降もTV出演が継続し、その度にチャートアクションを回復させていった。さらに多くのアーティストや芸能人にカバーされる機会も増え、それによってもチャートアクションを回復させた。
この結果、本曲は下半期の間も総合ポイント水準が殆ど下がらない驚異の推移となり、なんと2021年度年間集計期間53週全てでTOP10圏内に入る前人未踏の快挙を達成。年間1位争いで対抗馬となっていたBTSなどの追い上げを許さず独走態勢を築き、上半期1位を守り通す形で年間でも1位を獲得した。
本曲はCDシングルでは発売されておらず、前年の年間1位獲得曲「夜に駆ける」同様、ストリーミングなどの配信指標での高動向が総合年間1位を牽引した。各指標の累計数値はストリーミング10億再生、MV1億再生を突破している。
YOASOBI「怪物」
5位はYOASOBI「怪物」。この曲はアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマに起用されており、原作となる小説も『BEASTARS』の原作者板垣巴留による書き下ろしショートショート『自分の胸に自分の耳を押し当てて』となっている。同作は下記アニメHP内「MUSIC」項目から読むことができる。
『BEASTARS』は草食獣と肉食獣が共存する社会の中でウサギに恋をしたオオカミが捕食本能と葛藤しながら自身の役割を見出していく物語である。「怪物」の原作小説もその中の一場面に焦点を当てたものになっており、主人公のオオカミの心理がより深く掘り下げられている。綺麗事ばかりではない社会の中を生きる主人公の決意が曲調や歌詞に反映された楽曲の世界観に没入するリスナーが続出した。
特にMV指標における高動向が好成績を牽引しており、YouTubeが公表した2021年の年間MVランキングでは年間1位を獲得している。
各指標の累計はストリーミング7億再生、MV3億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
BTS「Butter」
6位はBTS「Butter」。日本では「Dynamite」の特大ヒットにより、それに続くBTS自身2曲目の全英詞シングルとなった「Butter」への期待が発売前から高まっていたため、「Butter」は配信されるや否や歴史的な再生回数を叩き出した。2021年5月21日付の日本Spotifyデイリーチャートでは同チャート史上3年ぶり(自身の「FAKE LOVE」以来)となる初登場1位デビューを記録。登場2週目のBillboard JAPAN Streaming Songsでは週間再生数歴代1位となる2,993万再生を記録した。
この歴史的高初動はBillboard JAPAN Hot 100にも反映され、日向坂46やNEWSなどの1位常連組を退ける形で通算4週1位を獲得した。Billboard JAPAN Hot 100の週間チャートは後述するCD偏重問題のために非CDシングル化曲の1位獲得が困難な欠陥チャート設計となっているが、それにも拘わらず「Butter」はCD売上の加点無しで複数週の週間1位を獲得した。*1各指標の累計はストリーミング6億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
楽曲は思わず体が動くようなダンスポップナンバーで、歌詞はバターの持つ甘さや滑らかさを比喩に用いた可愛らしい告白ソングになっている。重たいメッセージは込められていない(本人談)うえ楽曲時間も短いため、気軽に何度も聴いて楽しめる仕上がりになっている。
Ado「うっせぇわ」
7位はAdo「うっせぇわ」。この曲は歌い手として活動していたAdoが2020年10月に配信したメジャーデビューシングルで、作詞作曲はボカロPのsyudouが手掛けた。圧倒的な歌唱表現力やタイトルを連呼するサビ、賛否両論を喚起する歌詞はインパクト抜群であり、アニメ仕様のMVの人気も相まってYouTubeでは配信当初から好調な再生回数を稼いでいた。
本格的に人気に火が付いたのは2021年1月。急逝した人気YouTuberうごくちゃんの遺作として公開された歌ってみた動画が反響を呼んだことでチャートアクションがギアアップし、Hot 100週間TOP10内に浮上。以降は顔出しをしないスタイルながらも多くの音声インタビューに応じるなど各メディアで特集が組まれたことで話題が持続し、週間チャート上位常連入りを果たした。各指標の累計はストリーミング4億再生、MV3億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
YOASOBI「群青」
8位はYOASOBI「群青」。本曲はアルフォートとのコラボ作になっており、同CMのストーリーテキスト『青を味方に。』を原作として制作された。このテキストは絵を描くことを生業に選んだ若者の背中を押す内容となっており、「群青」の歌詞も「好きなものへ向き合う葛藤」を表現したものになっている。そのメッセージ性は絵に限らず何らかの夢を追う若者を勇気づけることとなった。楽曲中に取り入れられた合唱パートがもたらす高揚感も支持された。
この曲は2020年9月発売曲だが、2021年1月にはTHE FIRST TAKEに出演しこの曲を披露したほか、2021年8月にはスッキリ!で全国高校生ダンス部を応援するダンスONEプロジェクト'21のテーマ曲に選ばれるなど、その人気はむしろ2021年になって拡大した。各指標の累計はストリーミング8億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
菅田将暉「虹」
9位は菅田将暉「虹」。2020年11月に発売された本曲は、興行収入27億円を記録した映画『STAND BY ME ドラえもん 2』主題歌に起用されたウェディングバラード。「さよならエレジー」も手掛けた石崎ひゅーいによる温かみに溢れたメロディーと一途な歌詞が菅田将暉のストレートな歌声で説得力を持って表現されている。映画の人気とともに支持を拡大した本曲はストリーミング4億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを記録した。
Eve「廻廻奇譚」
10位はEve「廻廻奇譚」。2020年10月に発売された本曲は、顔出しをせずインターネット上をメインに活動している男性シンガーソングライターEveがアニメ『呪術廻戦』主題歌として書き下ろした楽曲である。アニメのキーワードを連想させる歌詞、中低音で早口でまくしたてるAメロ、一気に開放的になるBメロからサビへの流れはEve独特の歌声とも相まって強烈な個性を放っており、アニメの人気とともに支持が拡大した。各指標の数値はストリーミング4億再生、MV3億再生を突破している。
年間11位以下ピックアップ
Awesome City Club「勿忘」
年間11位のAwesome City Club「勿忘」は興行収入38億円を突破した映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして2021年1月に発売された。長年付き合っていた恋人との別れを描いた歌詞がツインボーカルやギターソロで表現されている。映画内で本曲は流れないものの、その親和性の高さから、映画の人気拡大とともに本曲にも注目が集まった。各指標の数値はストリーミング4億再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。
特にストリーミングでは3月に2週に渡り週間1,000万再生超えを達成したが、複数週の週間1,000万再生超えを達成した2021年発売曲は他にBTS「Butter」「Permission to Dance」の2曲しかなく、国内アーティストの楽曲では「勿忘」が唯一である。2021年のヒットを語る上で外せない大ヒット曲であることがこのことからも読み取れる。
Official髭男dism「Cry Baby」
年間13位のOfficial髭男dism「Cry Baby」はアニメ『東京リベンジャーズ』主題歌として2021年5月に発売された。アニメの内容に沿って制作されており、タイムリープを繰り返す主人公の激動が歌詞だけでなく曲調でも表現されている。楽曲の難易度をトップクラスに高める10回以上に及ぶ転調を取り入れながらも十分なキャッチーさを成立させた本曲はその技巧にも大きな注目が集まる形で支持され、ストリーミング5億再生、MV1億再生を記録した。
平井大「Stand by me, Stand by you.」
年間17位の平井大「Stand by me, Stand by you.」は2020年9月に配信されたラブソング。アコースティックギターと優しい歌声で奏でられた温かみのあるサウンドと、大切な人と過ごす幸せな日常を描いた歌詞が親近感を呼んだことで、TikTokなどのSNSで本曲を用いたカップル動画の投稿が盛り上がり、当初はノンタイアップだったにも拘らずストリーミング4億再生、フル配信10万ダウンロードを突破する大ヒットとなった。2021年に入ってからもマイナビウエディングのCMソングに起用されるなどして楽曲の普及が持続した。
藤井風「きらり」
年間19位の藤井風「きらり」はHonda「VEZEL」のCMソングとして2021年5月に発売された。ドライブにも合う軽快なサウンドと歌詞が人気となった本曲は発売直後からストリーミング指標で高動向を見せ、各指標の数値はストリーミング5億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破した。藤井風は30代以上の層からの支持の割合が高く、そのためその世代に馴染みの深いCDやダウンロードの指標での高動向は前年までにもみられていたが、新たな音楽の聴き方であるストリーミングでの1億再生突破は自身初である。この曲で20代以下の層の新規ファンを開拓したことが窺える。
CD偏重問題の状況
上半期チャート分析記事内で問題提起した「週間1位のCD偏重問題」に関しての最新動向は以下別記事でまとめている。
この記事でも述べたとおり、結果的に2021年は「週間1位のCD偏重問題」が一年を通して継続した。それにより、年間1位となった優里「ドライフラワー」や年間2位のBTS「Dynamite」のほか、YOASOBIが2021年に発売した多数のヒット曲など、2021年を代表する多くの人気楽曲が週間1位を獲得できない状況となった。
直近では、ストリーミング9週連続1位を獲得し累計1億再生も突破したback number「水平線」がHot 100の週間1位を獲得できない状況が発生した。
この状況をBillboard JAPANも認識しているためか、2022年度集計期間が開始となった2021/12/8公開週よりCD換算率が更に引き下げられたことが以下のとおり公式アナウンスされている。
【チャートに関するお知らせ】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年12月8日
総合ソング・チャート“HOT 100”に関して、指標別ポイントのバランスを見直し、2021年12月8日公開分より、レシオが平均値から大きく外れた場合に適用する、CDセールス指標の係数を変更いたしました。
この措置で「週間1位のCD偏重問題」が改善するかは2022年の週間1位結果が出てみないと分からないが、大人気曲が週間1位を獲得できない例が頻発してしまった2021年の状況が改善に向かうことを願いたい。
(2021年の主要週間チャート結果はこちら↓)
Hot Albums
2021年のBillboard JAPAN Hot Albums年間TOP10は以下のとおりとなった。
1位を獲得したのはBTSのベストアルバム『BTS, THE BEST』。「Dynamite」も(CD限定ながら)収録しているこのベストアルバムはBTSの日本での歴史を辿れる作品として高需要を示し、Billboard JAPAN Hot Albumsでは3週連続1位を記録。CD売上は102万枚を記録した。
BTS「Film out」
2021年4月に発売された日本オリジナル曲「Film out」も本作のセールスを牽引した。本曲は坂口健太郎主演の映画『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』の主題歌に起用されたほか、back numberが楽曲提供・プロデュースを行ったことでも話題となり、ストリーミング1億再生を突破する高人気を示した。楽曲は失恋を歌うメロディアスなバラードナンバーで、壮大なアレンジも相まってBTSの各メンバーの歌声の美しさが映える仕上がりになっている。
Artist 100
2021年のBillboard JAPAN Artist 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
1位となったのはBTS。Hot 100の年間TOP10には「Dynamite」「Butter」の2曲がランクインしたほか、11位以下にも「Permission to Dance」「Film out」「Life Goes On」「Stay Gold」「Boy With Luv (feat. Halsey)」を送り込みTOP100圏内に合計7曲をランクインさせた。Hot Albumsでは年間1位に『BTS, THE BEST』、年間7位に『BE』がランクインしたほか、11位以下にも『Butter』『MAP OF THE SOUL : 7 〜 THE JOURNEY 〜』を送り込み合計4作をランクインさせた。
BTS「Permission to Dance」
今年発売曲で一番人気となったのは「Butter」だが、そのEPにc/wとして収録された「Permission to Dance」も累計でストリーミング4億再生を突破する高人気を示した。自身3曲目の全英詩ナンバーであるこの曲は、長引くコロナ禍で制限の多い生活が続く中、タイトルのとおり「踊ることに許可はいらない」というメッセージで人々を元気づける爽やかなダンスナンバーで、エド・シーランが制作に参加したことでも話題となった。Billboard JAPAN Hot 100では1位常連のKinKi Kidsを抑えCD加点無しで週間1位を獲得する快挙を達成し、年間でも15位にランクインした。
まとめ
以上がBillboard JAPAN年間チャートを用いた2021年のヒットシーンの振り返りである。2021年も多くのストリーミング1億再生突破曲が誕生し、Billboard JAPANの年間チャートを通じてそれらの人気楽曲を把握することができた。2022年も多くの人気楽曲の誕生と、Billboard JAPANによる楽曲人気可視化体制の更なる進化に期待したい。
(次年2022年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)
(前年2020年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)
*1:「Butter」のCDはEPとしてアルバム扱いされたためHot 100の集計対象には含まれておらず、Hot Albumsの集計対象としてそちらにランクインしている。