この記事では2024年のヒット曲をBillboard JAPAN年間チャートを通じて振り返る。
2024年のBillboard JAPAN Hot 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
Billboard JAPAN 2024年年間チャート発表、Creepy Nuts/Snow Man/Mrs. GREEN APPLEが首位 https://t.co/TPnlhF2HPO
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月5日
Hot 100
年間TOP10
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
1位はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」。
Creepy NutsはR-指定とDJ松永により結成され2017年にデビューしたヒップホップユニットであり、これまでにも「のびしろ」がストリーミング1億再生を記録するなどのヒット実績を残す活躍を見せていた。
2024年1月に配信された「Bling-Bang-Bang-Born」は、アニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期「神覚者候補選抜試験編」の主題歌として書き下ろされた楽曲。高速ビートに乗せて淀みなく展開される小気味よいラップや、タイトルを呪文のように繰り返すサビが中毒性のある仕様となっている。このリズムに合わせて踊るBBBBダンスがTikTok等を介して瞬く間に国内外で大流行したこともあり、本曲は自身どころか日本音楽業界の歴史上でもトップクラスの楽曲人気を獲得した。
本曲は国外での人気が国内に先んじて沸騰していたことがデータから明らかになっている。国内楽曲の国外人気を計るBillboard JAPANのチャートGlobal Japan Songs Excl. Japanでは、配信2週目の1/12~1/18を集計期間とする週間チャートで早くも1位に浮上。そこで記録された国外ストリーミング再生数1,214万回は、同時期の1/15~1/21に記録された国内ストリーミング再生数894万回よりも多かった。
その後瞬く間に国内人気も国外人気に相応する歴史的規模に膨れ上がり、登場5週目にはBTS「Butter」、Official髭男dism「Subtitle」、YOASOBI「アイドル」に続く史上4曲目となるストリーミング週間2,000万再生超えを達成した。
3月に満を持してアニメとコラボしたMVが公開されると楽曲人気はピークとなり、この人気が波及していく形でSpotifyデイリーチャートでは歴代最多記録となるデイリー再生数74.6万回を3/16付で記録した。こうした歴史的楽曲人気が反映される形で、Hot 100でもCD売上初動ミリオンを記録したSnow Manを退ける等の圧倒的高動向を見せ、通算19週1位を記録。これはYOASOBI「アイドル」に次ぐ1位獲得週数歴代2位記録となる。
上述した動向は「Bling-Bang-Bang-Born」のBillboard JAPAN Hot 100週間推移に反映されている。
各指標の累計はストリーミング5.4億再生、MV2.8億再生、フル配信25万ダウンロードを突破しており、特にストリーミング・MV再生回数は歴代屈指のスピードで伸び続けている。どこまでこの記録が伸びていくこととなるのか、今後のCreepy Nutsの活躍からも目が離せなくなっている。
tuki.「晩餐歌」
2位はtuki.「晩餐歌」。
tuki.はまだ中学生だった2023年からオリジナル曲の配信を始めた女性ソロシンガーソングライターである。「晩餐歌」はその最初のオリジナル曲として2023年9月に配信された。その前の7月よりTikTokでは同曲の一部を小出しに公開していく手法で話題性を高めており、繊細さと力強さが同居したような非凡な歌声と印象的なサビメロは早くから注目されていた。各DSPで配信されると瞬く間に週間チャート上位進出を果たし、ロングヒットモードに突入した。
2024年1月には、2024年に躍進を期待するアーティスト10組を選出するSpotifyのプログラム「RADAR: Early Noise 2024」に選ばれ注目を集めたことで楽曲人気がピークを迎え、このタイミングで自身初のHot 100総合1位に上り詰めた。各指標の累計ではストリーミング4億再生、MV8,000万再生を突破しており、弱冠15歳にして数々のソロアーティスト史上最年少記録を更新した。
Omoinotake「幾億光年」
3位はOmoinotake「幾億光年」。
Omoinotakeは2012年に結成された島根県出身の3人組男性バンド。「幾億光年」はTBS火曜ドラマ『Eye Love You』の主題歌として1月に配信された楽曲で、距離が離れてしまっても相手を想い続ける恋心を歌ったポップなラブソングとなっており、ドラマの内容ともマッチしていたため多くの支持を集めた。
本曲はドラマの進展とともに人気が拡大する上昇型推移を辿り、ドラマが最終回を迎えた3月にピークを迎えたが、ドラマ終了後も根強い人気を示し、10月までの約8ヶ月間に渡りHot 100にて週間TOP10入りを記録し続けた。各指標の累計はストリーミング3.4億再生、MV7,000万再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。
YOASOBI「アイドル」
4位はYOASOBI「アイドル」。楽曲解説は上半期チャート分析記事に譲る。
Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
5位はMrs. GREEN APPLE「ライラック」。
今年非常に精力的な活動を見せたMrs. GREEN APPLEは4月から8月にかけて5ヶ月連続新曲配信リリースを敢行した。その第一弾として4月に配信した本曲はアニメ『忘却バッテリー』の主題歌。「青と夏」のアンサーソングとして位置づけられる青春ポップロックナンバーとして大人気を博し、Billboard JAPAN Hot 100では通算2週1位を獲得。各指標の累計は早くもストリーミング3.2億再生、MV8,000万再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。
特にストリーミングチャートでは18週連続1位を記録するほどの独走を見せた。再生回数水準も19週連続で週間1,000万再生超えを記録したが、この週数はYOASOBI「アイドル」、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」に次ぐ歴代3位記録となる。
Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」
6位はMrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」。本曲は2023年に配信され、ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』の主題歌に起用された。「なるようになるさ」という意味を持つタイトルのとおり、懸命に日々を生きる人々の背中を後押しする人生応援歌となっている。当年度においては2023年の日本レコード大賞を受賞したことが大きな話題となり、人気のピークが創出された。各指標の累計はストリーミング4億再生、MV7,000万再生を突破している。
Ado「唱」
7位はAdo「唱」。本曲はユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハロウィンショーイベント「ゾンビ・デ・ダンス」の主題歌として2023年に配信された。縦横無尽に飛び跳ねながらも要所を締めるようなメロディーラインとEDMサウンドや、サビのキャッチーな振付けが多くの視聴者を虜にし、Hot 100では年度を跨いで通算13週1位を獲得。各指標の累計はストリーミング4億再生、MV2億再生、フル配信25万ダウンロードを突破した。
Vaundy「怪獣の花唄」
8位はVaundy「怪獣の花唄」。2020年に配信された本曲は定期的にスポットを浴びたことでロングヒットモードに突入し、2022年の紅白歌合戦での歌唱により人気がピークを迎え、2023年の年間3位を獲得。以降もカラオケの定番曲の座を獲得したことで勢いが持続しており、各指標の累計はストリーミング8億再生、MV1.3億再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。キャッチーなメロディーにエモーショナルな歌唱、忘れていた少年時代の情熱を取り戻そうとする歌詞等が本曲の聴きどころとなっている。
Mrs. GREEN APPLE「青と夏」
9位はMrs. GREEN APPLE「青と夏」。2018年に発売された本曲は映画『青夏 きみに恋した30日』主題歌として書き下ろされた。楽曲が持つ瑞々しさは青春を強く感じさせるものであり、既に新たな夏うたの定番曲の座を獲得していた本曲だが、特に当年は本曲のアンサーソングと銘打たれた「ライラック」の大ヒットにより一段と注目が集まり、発売から6年を経て初となる年間TOP10入りを達成した。各指標の累計はストリーミング7億再生、MV1.7億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」
10位はMrs. GREEN APPLE「ダンスホール」。本曲は2022年5月に配信された、朝の情報番組「めざまし8」のテーマ曲。MVではバンドの枠に囚われないファッションとダンスを見せるなど話題性も高く、ロングヒットとなった本曲は2023年の年間7位を獲得。2024年もライブパフォーマンスが話題となるなど勢いが持続した。各指標の累計はストリーミング6億再生、MV1.1億再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。
年間11位以下ピックアップ
King Gnu「SPECIALZ」
年間11位にはKing Gnu「SPECIALZ」がランクインした。本曲はアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」のオープニングテーマ。主人公の敵側からの視点で書き下ろされており、呪いのこもったような不気味なサウンドやMVはその世界観への没入を誘うものとなっている。こうした仕掛けがアニメファンからも支持された本曲はストリーミング3億再生、MV1.3億再生、フル配信10万ダウンロードを突破した。
ILLIT「Magnetic」
年間15位にはILLIT「Magnetic」がランクインした。ILLITは韓国の芸能事務所HYBEの末娘という触れ込みでデビューした女性ダンス&ボーカルグループで、「Magnetic」はデビューミニアルバム『SUPER REAL ME』のリード曲として3月に配信された。儚げで幻想的なイメージが支持されたことや、TikTokでのダンスチャレンジが盛り上がったことから大ヒットした本曲は、Spotifyのデイリー再生回数で女性ダンス&ボーカルグループ史上最高記録を更新し、全体累計でもストリーミング2億再生を突破した。
Number_i「GOAT」
年間16位にはNumber_i「GOAT」がランクインした。Number_iは元King & Princeのメンバーである平野紫耀・神宮寺勇太・岸優太の3人で構成された男性ダンス&ボーカルグループで、「GOAT」はデビュー曲として2024年の元旦に配信された。本曲はサビも含め全編ラップで構成された挑戦的な内容がファンダム内外に大きなインパクトを与え、新たな潮流をもたらした。Hot 100では初登場1位デビューを飾り、男性ダンス&ボーカルグループの楽曲の中では最高年間順位を獲得。各指標の累計はストリーミング1億再生、MV9,000万再生を突破している。
週間1位結果の健全性確認
2024年の年間TOP20ランクイン曲の年度内週間1位獲得実績は以下のとおり。
- 4週 Ado「唱」(通算では13週1位)
- 1週 Number_i「GOAT」
- 1週 YOASOBI「アイドル」(通算では22週1位)
- 1週 tuki.「晩餐歌」
- 19週 Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
- 2週 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
→合計28週
この28週という数字は、「年間TOP20ランクイン曲の1位獲得週数」の適正水準目安としている20週を上回ってはいるが、前年の39週との比較では大きく下回っている。「週間1位結果の健全性」は前年比で悪化した。
特に下半期はこの傾向が顕著となり、年間上位争いとは全く関係しない週間1位結果が続出した。そして10月にはHey!Say!JUMP「UMP」とAぇ! group「Gotta Be」の2曲によって「週間1位の翌週TOP100圏外に大暴落する最極端異常推移」が記録された。前年にこれを記録した楽曲はBiSH「Bye Bye Show」の1曲のみであった。この観点でも「週間1位結果の健全性」は悪化した。
こうした状況は以下当ブログ別記事にまとめて問題提起している。
このため、Billboard JAPAN Hot 100のデータを取り扱ううえでは、週間1位獲得実績が楽曲人気検討上の重要性を100%担保するものではないことに十分注意する必要がある。無論、これは年間上位進出曲の週間1位獲得実績の妥当性に疑義を及ぼすものではない。
(2024年度のHot 100週間1位変遷表はこちら↓)
(2024年の主要週間チャート結果解説はこちら↓)
Hot Albums
2024年のBillboard JAPAN Hot Albums年間チャートは、以下二点の問題が発生していることを受け、ここでは紹介しない。
CD偏重問題
2006年以降主に楽曲チャートにおいて発生しているCD偏重問題だが、2023年以降はアルバムチャートにおいてもそれが本格的に顕在化している。それを示す具体的な現象が、2023年の年間Hot Albumsで発生した、男性ダンス&ボーカルグループの作品による年間TOP10独占である。詳細は以下記事で説明した。
2023年を区切りとして、アルバムチャートが作品人気指標として使用できなくなったと言えることを踏まえ、作品人気動向を追っている当ブログにおいては、今後チャート設計変更等の変化が無い限り、アルバムチャートの結果発信は原則行わない。
ジャニーズ問題
また、今年の年間チャートでは3年連続で旧ジャニーズ事務所所属アーティストの作品が年間1位となったが、旧ジャニーズ事務所に関しては2023年以降重大な社会問題を顕在化させている。それが2019年に逝去した旧ジャニーズ事務所前社長ジャニー喜多川氏による性加害問題である。
この問題は紆余曲折を経ながらも事務所が性加害の事実を認め謝罪し、被害者への補償を続けているが、例え被害者が1人だけでもあってはならないことである中、なんと被害申告者数1000人超え、うち半数以上の被害事実が確認され補償金が支払われるという、想像を絶する被害規模となっている。
さらに誹謗中傷を苦にした被害者が自死してしまう事態が発生しており、事務所の誹謗中傷対策や被害者へのケアが不十分であるとの指摘も出ている。それを裏付けるように、10月に放送されたNHKスペシャルでは、当時の補償本部長の不適切な認識と被害者対応が露わとなっている。
旧ジャニーズ事務所所属タレントは、タレントのマネジメントを担う新会社STARTO ENTERTAINMENTへ移籍し、4月より新体制が本格始動している。こうした状況を受けて、一時的に当該タレントの新規起用を見合わせていたNHKやテレビ東京でもこれを再開する動きを見せている。しかし、株主構成の観点などから、本当にSMILE-UP.とSTARTO ENTERTAINMENTが経営分離しそれぞれ独立した状態となっているのかは不透明な状況となっている。
こうした状況から、当ブログにおいてはこれまでにも説明してきたスタンスを継続し、STARTO ENTERTAINMENTが提供するコンテンツのチャート動向発信を当面の間見合わせる。
なおBillboard JAPANは本件に関連して、以下インタビュー記事を通じて圧力や忖度のないチャート作成を宣言するという非常に重要な発信を行っている。
Artist 100
2024年のBillboard JAPAN Artist 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
1位はMrs. GREEN APPLE。Hot 100では既述のとおり年間TOP10に「ライラック」「ケセラセラ」「青と夏」「ダンスホール」の4曲を送り込んだほか、12位に「Soranji」、18位に「Magic」、19位に「点描の唄 feat.井上苑子」、33位に「インフェルノ」、42位に「僕のこと」、47位に「ナハトムジーク」、49位に「コロンブス」、60位に「familie」、65位に「Dear」、66位に「ロマンチシズム」、82位に「ブルーアンビエンス (feat.asmi)」、85位に「私は最強」、93位に「ANTENNA」と、年間TOP100に合計17曲をランクインさせた。Hot Albumsにも前年に引き続いて『ANTENNA』をTOP100圏内にランクインさせており、これらのポイントが牽引する形での1位獲得となった。
Mrs. GREEN APPLE「familie」
Mrs. GREEN APPLEは2024年に7曲の新曲を発表する精力的な活動を行った。このうち「familie」はHonda新型FREEDのCMソングに起用されており、そのタイアップに相応しく、家族でのドライブにかける曲としてはピッタリな軽快さと温かさを有している。本曲は初登場から所要17週でストリーミング1億再生を突破しているが、これは「ライラック」の10週、「ケセラセラ」の16週に次ぐ自身3位のスピード記録となる。
まとめ
以上がBillboard JAPAN年間チャートを用いた2024年のヒットシーンの振り返りである。2024年も多くの大人気楽曲が誕生しており、2025年も引き続き多様な楽曲による盛り上がりに期待したい。
(前年2023年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)