Billion Hits!

フル配信ダウンロード売上、MV再生回数、ストリーミング再生回数、Billboard JAPANランキングデータなどを通じて国内の人気楽曲を把握するブログ

2020年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】

2020年のBillboard JAPAN年間チャートが発表された。この記事では2020年にヒットした楽曲を、音楽チャートの読み方とともに解説する。

 

2020年のBillboard JAPAN Hot 100年間TOP30は以下のとおりとなった。

 

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Hot 100

 

Billboard JAPAN Hot 100とは

 

Billboard JAPAN Hot 100は、国内の楽曲人気指標として最も有用な音楽チャートである。詳細は上半期チャートの解説記事で説明しているので、ここでは省略する。

 

2020年のHot 100年間TOP10

 

1位はYOASOBI「夜に駆ける」。YOASOBIはボカロPのAyaseとシンガーソングライターのikuraにより結成されたユニットで、本曲は2019年12月に発売されたデビュー曲となる。YOASOBIは小説を音楽で表現することを特徴とするユニットで、本曲はネット小説「タナトスの誘惑」が原作になっている。なお「タナトスの誘惑」は無料で4分ほどで読めるショートショートである(注:R15)。

 

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アニメ仕立てのMVや小説を踏まえた歌詞は視聴者の想像を掻き立てるものになっており、中毒性のある速いテンポのリズムとともに支持され、デビュー曲ながら発売後徐々に話題が広がっていき、2020年1月にはSpotifyのバイラルチャート*1で1位にもなった。

 

本格的に大ヒットし始めたのは2020年4月。この時期は新型コロナウィルスの流行により緊急事態宣言が出され、国民全員がステイホームを余儀なくされた。強制的に増加したおうち時間はヒット予備群にいた本曲を発掘するには十分な時間だったようで、徐々にHot 100の順位を上げていく。

 

このタイミングで本人らがメディア出演を増加させ、実際に歌唱することは一度もないながらも、トークや作品紹介を精力的に行った。さらに、2019年11月よりスタートした、一発撮り歌唱映像を公開する人気YouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEのおうち版THE HOME TAKEの動画も公開された。この企画が当たり、該当動画は1.2億再生を突破。楽曲も大ヒットの軌道に乗ることになった。

 

Hot 100では6/1付から3週連続で週間1位を獲得。その後も楽曲の広がりとともに著名アーティストやYouTuberなどによる歌ってみた動画の投稿が急増したことなどにより、猛烈な勢いで総合ポイントを積み上げ続け、断続的に3週1位を上積みして通算6週1位を獲得した。

 

各指標の累計数値は配信50万ダウンロード、MV2.5億再生、ストリーミング7億再生を突破している。ダウンロードでは年間1位級の数字とはならなかったが、ダウンロードに代わり音楽視聴環境の新たな主流市場に躍り出たストリーミングの再生数が市場拡大の後押しもあって猛烈な勢いとなり、そこに上述のUGC動画の影響も大幅に加わったことで、デビュー曲でいきなり年間1位獲得というHot 100史上初の快挙を成し遂げた。

 

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ここまで大きなムーブメントとなった背景には、暗い世相に覆われてしまった2020年という年に本曲のテーマが合っていたこともあるのかもしれない。


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2位はOfficial髭男dism「Pretender」。映画「コンフィデンスマンJP -ロマンス編-」主題歌として2019年に発売された切ないラブソングで、印象的な韻を踏むメロディーや共感性の高い歌詞が支持されたことや、映画が興行収入29億円を記録する人気となったことなどから特大ヒットとなった。

 

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この曲は2019年の楽曲ではあるが、紅白歌合戦など年末歌番組の歌唱効果は2020年上半期に色濃く表れた。実際に、Hot 100では通算7週1位を獲得したが、うち5週は2020年に入ってから獲得している。下半期も、今年から始まった新たな音楽番組CDTVライブ!ライブ!にて髭男ライブと銘打ち1時間丸々パフォーマンスするなどの効果で楽曲の訴求が続いた。

  

各指標の累計数値は配信100万ダウンロード、MV3.6億再生、ストリーミング6億再生とそれぞれ歴史的な水準になっている。2020年集計分のダウンロード売上とストリーミング再生数だけでも猛烈な勢いで数字が積み上げられたが、年間では僅差で惜しくも2位となった。それでも2019年の年間3位に続いての2年連続年間TOP3入り星野源「恋」米津玄師「Lemon」に次いでHot 100史上3曲目の快挙となる。


Official髭男dism - Pretender[Official Video]

 

3位はLiSA「紅蓮華」。表題曲はアニメ「鬼滅の刃」主題歌として起用され、2019年4月に配信ダウンロード発売、2019年7月にCD発売、2019年10月にストリーミング解禁と段階的に主要サービスで発売された。楽曲がアニメにマッチしていたことや、「鬼滅の刃」が社会現象と呼べるほどの歴史的ブームとなったことから大ヒットした。各指標の累計数値は配信100万ダウンロード、ストリーミング3億再生、MV8,000万再生を突破している。

 

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2019年発売曲ながら、年末のストリーミング解禁やTHE FIRST TAKEの動画公開、紅白歌合戦への出場などでアニメファン以外への訴求機会も増え、むしろ2020年上半期に入り人気が一段と加速した。特にTHE FIRST TAKEはフルサイズでの楽曲披露だったため、ショートver.となっていたMVに代わりフル再生需要を集め、累計数値は1.2億再生を突破した。下半期も、10月に公開された映画「鬼滅の刃 無限列車編」の歴史的ヒットが波及し発売以来最高の週間総合ポイントを記録。発売から1年半後に人気のピークを迎えることとなった。


LiSA『紅蓮華』-MUSiC CLiP-(アニメ「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編 オープニングテーマ)

 

4位はOfficial髭男dism「I LOVE...」。ドラマ「恋はつづくよどこまでも」主題歌として2020年1月に配信で発売され、2月にはCDでも発売された。恋人に限らない様々な形の愛をテーマにした普遍的な歌詞が支持されたほか、ドラマが最高視聴率15.4%を記録する人気となったことなどから大ヒットした。

 

各指標の累計数値は配信100万ダウンロード、MV1.5億再生、ストリーミング4億再生を突破しており、その数値のほとんどを2020年内に積み上げた。正真正銘の2020年のヒット曲である。上半期を中心に音楽チャートを席巻し、Hot 100では歴代2位タイ記録となる通算7週1位を獲得した。下半期にもTWICEのナヨンが本曲をカバーしたことをきっかけに再浮上するなど話題が続いた。


Official髭男dism - I LOVE...[Official Video]

 

5位はKing Gnu「白日」。ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」主題歌として2019年2月に配信で発売された。かねてより音楽ファンの間では注目を集めていたバンドだったが、ドラマ主題歌への起用やメディア出演を機に認知が普及し、洗練されたサウンドやボーカル井口理のファルセットに耳を奪われた人が続出し大ヒットした。

 

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2019年発売曲ながら、紅白歌合戦など年末歌番組の歌唱効果に加え、2020年1月にアルバム『CEREMONY』が発売されたタイミングで人気に加速がかかったことで、上半期を中心に音楽チャートを席巻した。下半期にもTV番組のカラオケ企画で本曲の歌唱難易度にスポットが当たったことをきっかけに再浮上するなどの話題が続いた。各指標の累計数値は配信100万ダウンロード、MV3.8億再生、ストリーミング4億再生を突破している。


King Gnu - 白日

 

6位は瑛人「香水」。この曲は2019年4月当時何の事務所にも所属していなかった瑛人が、誰でも楽曲を配信できるデジタル・ディストリビューション・サービスTuneCore Japanを通じて世に初めて送り込んだ楽曲である。この曲はサビの最も盛り上がるパートにドルチェ&ガッバーナという固有名詞を歌詞に当てたことが強烈なフックになっており、元々大ヒットのポテンシャルを有していた。

 

2020年4月になると、新型コロナウィルスの流行による緊急事態宣言が出され、国民全員がステイホームを余儀なくされた。そんな中、ギター一本の弾き語りというシンプルな構成だった本曲は自宅で再現するハードルが低くTikTokなどのSNSに本曲を用いた動画を投稿する動きが増加。FANTASTICS中島颯太もこの動きに乗ったタイミングで一層の普及が進み、音楽チャートを急上昇。高CD売上勢が軒並みCD発売の延期を余儀なくされていたため阻む者もなく、5/25付のHot 100で週間1位に到達した。完全インディペンデントアーティストがHot 100で週間1位を獲得するのは史上初の快挙であった。

  

この突然の上昇劇は本人や広告代理店が全く関与しておらず、能動的なプロモーションも一切されていなかったので、本曲は完全に消費者需要だけでヒットしたと断言できる稀有な曲と言える。本人はドッキリかと思ったと公言しており、当時の本人のツイッターアカウントからの発信も感謝の顔文字の連発になっていた。

 

下半期になるとこのヒットを受けて事務所に所属することとなり、音楽番組への出演を本格化させていった。お笑い芸人チョコレートプラネットによるパロディ動画も話題となるなど勢いが持続し、年末には紅白歌合戦にも出場するに至った。例え一般人でも誰でも楽曲を配信でき、それがヒットすれば紅白もあり得ることを瑛人は体現した。各指標の累計数値は配信10万ダウンロード、MV1.5億再生、ストリーミング3億再生を突破している。


香水 / 瑛人 (Official Music Video)

 

7位はOfficial髭男dism「宿命」。楽曲解説は上半期チャート分析記事に譲る。


Official髭男dism - 宿命[Official Video]

 

8位はあいみょんマリーゴールド。楽曲解説は上半期チャート分析記事に譲る。


あいみょん - マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

9位はLiSA「炎」。この曲は映画「鬼滅の刃 無限列車編」の主題歌として2020年10月に発売された。既にアニメ「鬼滅の刃」は主題歌の「紅蓮華」ともに社会現象化していたこともあり、その映画は公開前からヒットが期待されていたが、蓋を開けると歴代1位となる興行収入400億円を突破するほどの前人未踏の勢いとなった。

 

その主題歌である「炎」は映画の内容に沿って制作された重厚なバラードナンバーに仕上がっており、キャラクターの生き様を描いた歌詞などが感動を呼ぶ形でこちらも音楽チャートで前人未踏の勢いを見せた。ストリーミング再生数は当時の史上最速となる初登場から所要7週で1億再生を突破。ダウンロードでも毎週10万ダウンロード前後を上積みし、各指標の累計数値は配信100万ダウンロード、MV2.3億再生、ストリーミング3億再生を突破するまでに至った。

  

今年上半期の時点では、当ブログにて下半期に発売されたヒット曲は集計期間の不利のためその年の年間TOP10に入ることは難しい(むしろ翌年の年間でTOP10入りする可能性が高い)と分析していたが、配信指標の歴史的高動向により前例のない勢いを見せた「炎」はその高ハードルをあっさり突破。登場週数8週だけで年間TOP10に滑り込んでしまった。週間チャートでも1位常連のSexy ZoneNMB48を2位止まりにする形で当時歴代2位通算1位獲得週数8週を記録した。


LiSA 『炎』 -MUSiC CLiP-

 

10位はあいみょん「裸の心」。この曲は最高視聴率19.6%を記録したドラマ「私の家政夫ナギサさん」の主題歌として2020年5月に配信発売、6月にCD発売された。本曲は恋をする女性の心情を描いたラブバラードで、ハートフルなラブコメディだったドラマにマッチした内容になっていた。加えてどこか懐かしさを感じさせるシンプルな楽曲アレンジも支持を集めた。

 

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これであいみょんは2017年の「君はロックを聴かない」他、2018年の「マリーゴールド」他、2019年の「ハルノヒ」に続いて4年連続でオーディオストリーミング1億再生達成曲を輩出する前人未踏の快挙を達成した。しかも「裸の心」は自身最速で1億に到達しており、第一線での活躍が続いている。各指標の累計数値は配信25万ダウンロード、MV1.3億再生、ストリーミング3億再生を突破している。


あいみょん - 裸の心【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

ストリーミング時代に突入した2020年代

 

2020年の年間1位争いは、上半期の時点で予想していたとおり、YOASOBI「夜に駆ける」Official髭男dism「Pretender」「I LOVE...」LiSA「紅蓮華」の4曲による激戦となった。以下で推移結果を数字やグラフで振り返る。

 

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構図としては、上半期に圧倒的なポイントを稼いだOfficial髭男dismを下半期にYOASOBIとLiSAが追い上げる展開となった。上半期の時点では、YOASOBI「夜に駆ける」が年間1位を獲得するには、週間1万点以上を12月まで出し続けなければならず、これは前例がないのでハードルが高いと分析していたが、上述のとおりストリーミング市場の急拡大を背景にそれをほぼ実現させたことで年間1位を達成した。

 

これまでのHot 100の年間1位は全て高CD売上や高ダウンロード売上を主力にした楽曲によって達成されており、オーディオストリーミングにおける高再生数を主力とする楽曲では「夜に駆ける」が初の年間1位獲得となった。さらには非シングルCD化曲としても初の年間1位獲得となった。これは確実に時代が変化したことを象徴する出来事である。

 

今年1年でどれだけストリーミング市場が普及したかは、Billboard JAPAN Streaming Songsの年間ランキングの再生数*2を2019年と比較してみても明らかである。

 

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見てのとおり2019年は年間集計期間中の1億突破が僅か3曲だったのに対し、2020年は一気に16曲にまで爆増した。この影響を受けて、Hot 100の年間総合ポイント水準も大幅に上昇している。以下は2019年のHot 100年間ランキングであるが、冒頭の今年のランキングと比較して見ればそれは一目瞭然である。

 

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このため、ストリーミング以外の指標で高ポイントを維持していてもストリーミングの加点に乏しいアーティストは相対的に大きく順位を落としている。AKB48の年間最高順位が2019年の「ジワるDAYS」の45位から今年は「失恋、ありがとう」の93位に大きく下がったことはその象徴である。


影響は週間1位の顔ぶれにも及んでいる。ストリーミングでは高人気曲ほど長期間に渡りたくさん再生されるため、週間1位は1億再生クラスの大ヒット曲により複数週連続で獲得されている傾向があるが、Hot 100にもその傾向が波及。2020年の集計期間52週のうち、12週の1位をOfficial髭男dism6週YOASOBI5週LiSAで占めることとなった。

 

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近年の音楽チャートは久しく毎週のように週間1位が交代しており、楽曲人気指標としては不自然な状態が続いていた。週間1位獲得が楽曲人気の証拠として機能しなくなってから10年以上が経過していたが、ストリーミング市場の普及によってその事態がようやく解消されようとしている。上半期の時点でも書いたとおりだが、音楽チャートは今とても面白いことになっている。

 

ストリーミングコンテンツの普及 ~THE FIRST TAKE~

 

ストリーミング市場の普及とともに、それを活用したコンテンツも登場してきている。その代表がTHE FIRST TAKEである。これはビデオストリーミングサービスのYouTubeで2019年11月から運営されているチャンネルで、アーティストの一発撮り歌唱映像を届ける内容になっている。高い歌唱能力を有するアーティストのパフォーマンスを堪能できるこのチャンネルは大きな人気を獲得。さらにはコロナ禍において全く密を感じさせないセット清潔感のある無地の背景も偶然ながら時代にマッチした。

 

この動画を機に人気が飛躍した楽曲も数多く、実際にHot 100の年間TOP10のうちLiSA「紅蓮華」「炎」YOASOBI「夜に駆ける」の3曲がこのチャンネルで動画を公開している。

 

この3曲以外にも特筆すべき人気を獲得した曲として挙げなければならないのがDISH//「猫」である。この曲は2017年8月に発売されたシングル「僕たちがやりました」のカップリングナンバー。あいみょんが作詞作曲を手掛けていたが当時はブレイク前だったので、ファンしか知らないような曲だった。しかし今年3月にボーカル北村匠海によるパフォーマンスナンバーとしてTHE FIRST TAKEの動画が公開されると人気が広く普及。この動画は1.6億再生を突破した。

 

この人気を受けて4月にはDISH//としてこの映像のアコースティック音源を「猫 〜THE FIRST TAKE Ver.〜」として配信で発売。原曲とともにダウンロード売上とストリーミング再生数を伸ばし、両曲ともに1億再生を突破する大ヒットとなった。Billboard JAPANでは両曲は別集計となるため、「猫」がHot 100で年間27位、「猫 〜THE FIRST TAKE Ver.〜」が同28位という結果になっているが、私の予想ポイント上では合算すれば年間TOP10入りする計算になっている。

 

バージョン違いを別集計とするBillboard JAPANの方針は、大量のバージョン違いを発売することによる過剰なチャート上位進出を防止するという観点からも理に適っているが、「猫」に関しては年間TOP10相当の大ヒット曲と見做して扱うことが妥当だろう。


DISH// (北村匠海) - 猫 / THE FIRST TAKE

 

Hot Albums

 

Billboard JAPAN Hot Albumsとは

 

Billboard JAPAN Hot Albumsは、国内のアルバム人気指標として最も有用な音楽チャートである。

 

Hot Albumsの集計対象は、①CD売上、②ダウンロード売上、③ルックアップ(PCによるCD読取)回数、の3指標である。換算率は非公開だが、大雑把に「10ポイント=CD売上100枚=配信36ダウンロード」と考えれば大きな差異は生じない。

 

アルバムもかつてはCD売上が人気指標の筆頭だったが、シングルCDほどではないにせよ、徐々にその中身は「アルバム人気の量」から「アーティスト人気の濃度」に変化してきている。Hot 100のように多すぎるCD売上に係数を掛ける必要までは生じていないものの、この傾向を踏まえ、CDよりもダウンロードの方が約3倍ほど高いウェイトになっている。

 

アルバムのダウンロード市場は年間に10万ダウンロードを超える作品が出るかどうか程度の小さい規模であるため、CD売上が順位決定の大きな要素であることに変わりはない。それでもそのまま集計するよりはCD売上の人気指標としての機能不全を幾分緩和することができている。

 

オリコンも合算アルバムチャートを設けてはいるが、やはり人気ではなく売上を重視したチャート設計になっており、ビルボードのようにCD売上要素を薄める措置をとっていないため、人気指標としての有用性はビルボードが勝る。

 

2020年のHot Albums年間TOP10

 

2020年のBillboard JAPAN Hot Albums年間TOP10は以下のとおりとなった。

 

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1位を獲得したのは米津玄師のオリジナルアルバム『STRAY SHEEP』。本作は歴代で3曲しか達成していない配信トリプルミリオンを売り上げる歴史的ヒットとなった「Lemon」や、配信ミリオンの大ヒットとなった「馬と鹿」MV1億再生を突破した「Flamingo」「パプリカ」「まちがいさがしのセルフカバーを収録。この豪華すぎる収録内容で売れないはずもなく、CD147万枚、配信18万ダウンロードで合計165万という近年稀にみる高売上を叩き出して文句なしの年間1位となった。ルックアップも加味したHot Albumsでは総合ポイント20万以上を叩き出しているものとみられる。

 

2020年7月に発売された新曲「感電」も本作のヒットを大きく牽引した。最高視聴率14.5%を記録したドラマ「MIU404」の主題歌に起用された本曲は、遊び心のある軽快なファンクナンバーとして支持された。配信では25万ダウンロードを売り上げたほか、11月にはMV1億再生を突破、12月にはオーディオストリーミングでも1億再生を突破する大ヒットとなりHot 100では年間14位にランクインした。

 

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米津玄師 MV「感電」

 

TOP Artists

 

Billboard JAPAN TOP Artistsとは

 

Billboard JAPAN TOP Artistsは、国内のアーティスト人気指標として最も有用な音楽チャートである。

 

TOP Artistsは上記Hot 100とHot Albumsの週間TOP300圏内での獲得ポイントをアーティストごとに集計する形で作成されている。ただし集計にあたりアルバムのポイントはシングルとの価格差を考慮して1.5倍されている。

 

アーティスト人気もかつてはオリコンが発表するアーティスト・トータル・セールスが人気指標の筆頭だったが、高価格商品であるCDやDVDを多く売った方が有利な設計になっているため、やはりアーティスト人気の「濃度」は計れても「量」を計るには不適切な指標になっている。

 

Billboard JAPAN TOP Artistsは人気指標であるHot 100とHot Albumsのデータを用いて決定されるため、売上重視のアーティスト・トータル・セールスよりもアーティスト人気指標としての有用性が勝っている。

 

2020年のTOP Artists年間TOP10

 

2020年のBillboard JAPAN TOP Artists年間TOP10は以下のとおりとなった。

 

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1位となったのはOfficial髭男dism。Hot 100の年間TOP10に「Pretender」「I LOVE...」「宿命」の3曲がランクインしたほか、11位以下にも「イエスタデイ」「115万キロのフィルム」「ノーダウト」「HELLO」「パラボラ」「Laughter」「Stand by you」「ビンテージ」を送り込みTOP100圏内に合計11曲をランクインさせる大活躍となった。Hot Albumsでも『Traveler』が1年に渡るロングヒットを記録。2位以下を大きく引き離しての1位獲得となった。

 

今年発売曲では「I LOVE...」が上半期に人気を博したが、下半期にも8月に発売されたEPの表題曲「HELLO」配信10万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を突破し、CD売上のポイントと合わせHot 100では年間39位を獲得。本曲は朝の情報番組「めざましテレビ」のテーマソングとして朝から元気を与えてくれる力強いロックチューンになっており、EPの2曲目以降に収録されている「Laughter」「パラボラ」と併せて下半期の総合ポイントの上積みを牽引した。

 

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Official髭男dism - HELLO[Official Video]

 

来年2021年のHot 100年間1位の行方を占う

 

2020年は新型コロナウィルスが流行したことにより、音楽業界は厳しい環境に置かれたが、ストリーミング市場の拡大もあって多くの人気曲が誕生していたことも間違いなく、暗い話題ばかりではなかったことをBillboard JAPANが示してくれている。気が早いが、2021年も今年のような活況に沸く年間チャートになる期待が高まってきている。

 

そこで、来年の年間チャートの様相を占うにあたり、上位進出が確実な今年下半期発売のヒット曲を取り上げる。既述のとおり、下半期に発売された曲は、集計期間の不利のためその年の年間TOP10入りが難しい反面、翌年の年間TOP10入りを果たす可能性が高い。その中で今年の年間TOP10に滑り込むほどの歴史的な勢いを見せたLiSA「炎」は間違いなく来年の年間1位筆頭候補になっているのだが、対抗馬も存在する。

 

その一つがBTS「Dynamite」である。8月に全世界でリリースされた本曲は、新型コロナウィルスの流行で落ち込みがちな世相を元気づけてくれるようなポジティブなダンスナンバーとして人気を博した。自身初の全英詩曲だったこともありアメリカでも受け入れられ、アメリカのBillboard Hot 100でアジア圏のアーティストとしては坂本九以来57年ぶりの週間1位を獲得。この快挙が日本でも大きく話題になったことで完全に大ヒットの軌道に乗り、LiSA「炎」の7週に次ぐ所要11週という早さでストリーミング1億再生を突破した。

 

2020年のBillboard JAPAN Hot 100では上述の集計期間上の不利のため年間18位となったが、1年間フル集計となる2021年の年間チャートでこの曲がTOP10入りする可能性は高い。さらに足元では本曲を収録したアルバム『BE』が発売されたことで本曲のストリーミング再生数が再びピークに達しつつあり、今後の動向次第ではLiSA「炎」と年間1位を争う可能性もある。

 

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BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV

 

もう一つの対抗馬候補がNiziU「Make you happy」である。NiziUは日韓合同オーディションプロジェクトNizi Projectを経て6月に結成された日本人9人によるガールズアイドルグループ。オーディションの模様は4月から5月にかけて朝の情報番組「スッキリ」でも定期的に特集されていた。オーディションでは、参加メンバーが仲間とともに励まし合いながら課題に取り組む様子や、プロデューサーJ.Y.Parkによるメンバーの個性を尊重した指導法などが感動を呼び、結成前からメンバーは一定の人気と知名度を獲得することとなった。

 

そして結成直後にリリースされたプレデビュー曲「Make you happy」はいきなりBillboard JAPAN Streaming Songsで初登場1位を飾る鮮烈なチャートデビューとなった。以降も元気が出る曲調やサビの縄跳びダンスが話題になったことで大ヒットの軌道に乗り、ストリーミング1億再生を突破。MVは海外からの再生数も多く獲得していることで国内史上最速となる公開から所要62日1億再生を突破した。Hot 100の年間では12位に入った。

 

プレデビューという概念はやや謎であるが、既にここまでの大人気を獲得しているため、年末の紅白歌合戦出場が決定したことも自然である。正式デビューは1stCDシングル「Step and a Step」が発売された12/2に果たされた。この機に今後「Make you happy」が再び勢いづく可能性は高く、動向次第ではLiSAやBTSと来年の年間1位を争う可能性もある。あるいは「Step and a Step」が年間1位争いに加わるかもしれず、今後の推移に注目である。


NiziU 『Make you happy』 M/V

 

来年の年間1位はLiSA、BTS、NiziUの何れかが獲得するか、あるいは2021年にこれらを上回る特大ヒット曲が誕生することになるのか。今後のビルボード週間チャートから目を離すことはできない。

 

(次年2021年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)

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(前年2019年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)

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*1:認知の急拡散度合を可視化したランキング

*2:週間再生数を基に筆者が推定