この記事では2023年のヒット曲をBillboard JAPAN年間チャートを通じて振り返る。
2023年のBillboard JAPAN Hot 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
Billboard JAPAN 2023年 年間チャート発表、YOASOBIが【JAPAN Hot 100】&【Artist 100】/King & Princeが【Hot Albums】首位に https://t.co/1NFRovDF5r
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2023年12月7日
Hot 100
年間TOP10
YOASOBI「アイドル」
1位はYOASOBI「アイドル」。小説を音楽にすることをコンセプトとする音楽グループYOASOBIの最新曲である。この曲はアニメ『推しの子』主題歌として制作され、2023年4月に配信された。本曲の原作はアニメ原作者赤坂アカが書き下ろしたスピンオフ小説『45510』である。
この小説もそうだが、『推しの子』は芸能界の裏側を生々しく描いたヒューマンドラマとして人気となっていた。その序盤では予想外の衝撃的な展開が繰り広げられているが、「アイドル」はその展開に即して制作されており、アニメの話題性が楽曲にも大きく波及した。そして本曲のMVはアニメ『推しの子』を制作する動画工房が直接手掛けたことで精巧緻密なアニメーションムービーに仕上がっており、話題性を益々増幅させることとなった。楽曲もそれまでのYOASOBIにない新境地と言えるような内容で、癖になるikuraの歌唱表現や、コーラス・掛け声等多くの要素を取り入れめまぐるしく変化する楽曲構成が強い中毒性を有していた。
こうした背景から本曲は日本音楽史上トップクラスの爆発的楽曲人気となり、数々のヒットレコードを更新した。特に人気普及の核となったYouTubeではMV再生回数が歴史的高動向を見せ、各節目に到達するまでの所要週数歴代最速記録を次々と塗り替えた。累計はMV5億再生を突破している。
MVの話題性はすぐにオーディオストリーミングにも波及した。Billboard JAPAN Streaming Songsでは、国内史上3曲目となる週間2,000万再生超えを達成するなど異次元の再生回数水準を続け、累計再生回数の各節目に到達するまでの所要週数歴代最速記録を次々と塗り替えた。累計はストリーミング8億再生を突破している。
こうした動向を反映する形でHot 100では初登場から独走状態となり、1位常連の日向坂46、BE:FIRST、INI、櫻坂46、乃木坂46等を退け21週連続通算22週1位を獲得した。これは史上最多1位獲得週数である。
更に言えば、参考程度ではあるが、ピンキーとキラーズ「恋の季節」のオリコン1位17週や、Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus「Old Town Road」が記録した米Billboard Hot 100首位19週の記録も上回り、日米の歴史上有力な総合楽曲ヒットチャートにおける1位獲得週数史上最多記録にもなった。
今なお続いているこの歴史的高動向がこの先どこまで伸びていくこととなるのか、今後のYOASOBIの活躍からも目が離せなくなっている。
Official髭男dism「Subtitle」
2位はOfficial髭男dism「Subtitle」。本曲は2022年秋クールに放送されたドラマ『silent』の主題歌として書き下ろされた壮大なラブバラード。ろう者とのラブストーリーを描いた「silent」は泣けるドラマとして大きな話題となり、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」の配信再生数の記録を大きく塗り替えるほどの支持を集めた。「Subtitle」には「字幕」という意味があり、歌詞では音のない世界で想いを届けようとする純粋な感情が丁寧に表現されている。
ドラマの大人気とともに圧倒的な共感を集めた「Subtitle」は2022年10月に配信されると爆発的な高動向を記録し、国内史上2曲目となるストリーミング週間2,000万再生超えを果たすなどして1位街道を独走。最終的に通算13週1位を獲得した。各指標の累計はストリーミング7億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
Vaundy「怪獣の花唄」
3位はVaundy「怪獣の花唄」。男性シンガーソングライターVaundyが2020年5月に配信した1stオリジナルアルバム『strobo』の収録曲である。本曲は2021年1月に『バズリズム02』でネクストブレイク候補としてVaundyが取り上げられたことをきっかけに注目が集まり、2021年3月にはマルハニチロのCMソングに起用され、以降ロングヒットモードに突入していた。2022年末にVaundyが満を持しての紅白初出場で本曲を歌唱したことで更なる人気爆発となり、発売から2年以上を経た2023年に楽曲人気がピークを迎えた。
各指標の累計はストリーミング8億再生、MV1億再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。キャッチーなメロディーにエモーショナルな歌唱、忘れていた少年時代の情熱を取り戻そうとする歌詞等が本曲の聴きどころとなっている。
米津玄師「KICK BACK」
4位は米津玄師「KICK BACK」。2022年10月に配信されたこの曲は、アニメ『チェンソーマン』主題歌として発売前から高い注目が集っていたことから、稀代の楽曲人気動向を記録した。Spotifyデイリーチャートでは配信初日再生回数歴代1位記録(2022年10月12日付の43.8万回)を樹立。Hot 100ではストリーミング初週1,255万再生という圧倒的初動を見せ、1位常連のJO1などを退け通算2週1位を獲得した。累計ではストリーミング4億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
「KICK BACK」はシリアスさとコミカルさが同居したようなアップテンポナンバー。目まぐるしい楽曲構成と純真な欲望を描いた歌詞で原作世界観が表現されている。その中には仕掛けが多く散りばめられており、例えば歌詞ではモーニング娘。のヒット曲「そうだ!We’re ALIVE」をサンプリングしたフレーズを織り込んでいる。King Gnuの常田大希が参加していることもあってか、がなり立てる歌唱表現などから米津玄師の新たな一面を見出すことも可能となっている。
10-FEET「第ゼロ感」
5位は10-FEET「第ゼロ感」。2001年にデビューした活動歴20年以上のベテラン男性ロックバンド10-FEETが2022年12月に配信した最新シングル曲である。本曲はバスケットボールマンガとして不動の地位を誇る『SLAM DUNK』を原作としたアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』主題歌として制作された。バスケットボールのドリブルを想起させるリズミカルなサウンドや印象的なギターリフがフックとなっている。『SLAM DUNK』の原作者で映画監督も自ら務めた井上雄彦が楽曲制作にも関与したことで、映画の雰囲気との親和性が非常に高いロックナンバーに仕上がっている。
映画が興行収入140億円以上を叩き出す大ヒットとなったこともあって楽曲も強く支持され、累計はストリーミング3億再生、フル配信25万ダウンロードを記録した。フル配信10万ダウンロード突破は自身2009年発売の11thシングル表題曲「1sec.」以来(コラボ参加作品も含めればフル配信25万ダウンロードを記録したINFINITY 16 welcomez MINMI,10-FEET「真夏のオリオン」以来)10年以上ぶりであり、自身久々のヒット曲となったどころか、加えて自身初のストリーミング1億再生となったことも考慮すれば、デビュー22年目にして自身最大の人気曲が誕生したと言って差し支えない。ベテランアーティストの大活躍はヒットシーンに多様性を与える非常に重要なトピックである。
Ado「新時代」
6位はAdo「新時代」。本曲は映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌である。この映画は音楽の力に焦点を当てた内容になっており、主要オリジナルキャラクターであるウタの歌唱パートをAdoが担当し、劇中では「新時代」を含め7曲を歌唱している。映画が興行収入180億円を超える大ヒットとなったこともあり、主題歌である「新時代」には一際大きな注目が集まった。作詞作曲は中田ヤスタカが担当しており、海外でザ・ウィークエンドやハリー・スタイルズが取り入れてトレンドになっているシンセサウンドが印象的な仕上がりになっている。そこにAdoの伸びやかな歌唱表現が乗ったことで楽曲は多くのリスナーを惹きつけた。
本曲は2022年6月に配信解禁され、同年8月に映画公開のタイミングで楽曲人気が爆発し、通算6週1位と2022年の年間7位を獲得した。2023年も、さいたまスーパーアリーナでのライブ映像公開されるなど、話題性が持続した。各指標の累計はストリーミング5億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。
Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」
7位はMrs. GREEN APPLE「ダンスホール」。本曲は2022年5月にミニアルバム『Unity』から先行配信された。朝の情報番組『めざまし8』のテーマ曲に起用されたこの曲は、そのタイアップに相応しくポジティブなエネルギーに溢れており、視聴者の一日の始まりを華やかに彩った。MVではバンドの枠に囚われないファッションとダンスを見せるなど話題性も高く、人気を博したこの曲はストリーミング5億再生、MV1億再生、フル配信10万ダウンロードを突破した。
Tani Yuuki「W/X/Y」
8位はTani Yuuki「W/X/Y」。リズムにフィットした歌詞のワードチョイスや温かい歌唱表現が聴いていて心地良いラブソングであり、タイトルは性染色体の女性(XX=WX)と男性(XY)の掛け合わせとなっている。TikTok上で振付動画が人気となったことでチャートを急浮上し、2022年の年間2位を獲得した。2023年も優里とコラボしたライブ映像が公開されるなど、話題性が持続した。各指標の累計はストリーミング7億再生、MV1億再生を突破している。
なとり「Overdose」
9位はなとり「Overdose」。なとりは顔出しをせず活動している男性シンガーソングライターで、本曲はその1st配信シングルとして2022年9月にリリースされた。イントロのボーカルチョップや特徴的なウィスパーボイスが印象的な仕上がりとなっているこの曲は、先行配信されていたTikTokで人気となっていたことからフルバージョンがリリースされる運びとなり、配信後瞬く間に他のDSPへも人気が波及した。各指標の累計はストリーミング4億再生、MV1億再生を突破している。
スピッツ「美しい鰭」
10位はスピッツ「美しい鰭」。本曲は興行収入138億円を記録したアニメ映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影』主題歌として書き下ろされた。同作でスポットが当てられた人気キャラクター灰原哀の心情を表現したような歌詞や清涼なサウンドは映画の大ヒットとともに多くのリスナーに支持され、ストリーミング3億再生、フル配信10万ダウンロードを突破。Billboard JAPAN Hot 100の年間TOP10入りは自身初で、オリコン時代を含めても1996年に「チェリー」「空も飛べるはず」で入って以来27年ぶりの国内有力総合楽曲ヒットチャート年間TOP10入りを記録した。
年間11位以下ピックアップ
back number「アイラブユー」
年間16位のback number「アイラブユー」はNHK朝の連続テレビ小説『舞いあがれ!』の主題歌に起用された。恋人と過ごす何気ない日常を積み重ねる中で育まれる愛を表現したラブバラードになっており、温かいサウンドや味わいのある歌唱も繰り返し聴きたくなるポイントになっている。2022年の年末にNHK紅白歌合戦に満を持して初出場しこの曲を披露したことも話題となり、本曲はストリーミング3億再生、フル配信10万ダウンロードを突破した。
MAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」
年間18位のMAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」は5人組ロックバンドMAN WITH A MISSIONと女性ソロシンガーソングライターmiletによるコラボ曲で、大人気アニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』主題歌として書き下ろされた。作詞作曲を手掛けたMAN WITH A MISSIONとしては珍しい全編日本語詞と和楽器サウンドが取り入れられた本曲はアニメとの相性も良く、それぞれのボーカルの個性が際立つ歌割りも心地よい疾走感をもたらしている。こうした要素がアニメファンからも支持された本曲はストリーミング1億再生、MV1億再生、フル配信25万ダウンロードを突破した。
CD偏重問題の状況
2006年から2021年まで16年に及び継続していた「日本音楽チャートのCD偏重問題」に関しては以下記事に纏めている。
記事中で説明したとおり、2021年度までは、「高CD売上曲の週間1位獲得事例が不適切なほどに多すぎる状況」が発生しており、その判断の定量的指標としては「年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数」20週以上を提示していた。2022年度ではその指標が21週となり、問題が解決したと判断できたが、2023年度は更に状況の改善が進んだ。
2023年の年間TOP20ランクイン曲の年度内週間1位獲得実績は以下のとおり。
- 9週 Official髭男dism「Subtitle」(通算では13週1位)
- 21週 YOASOBI「アイドル」
- 9週 Ado「唱」
→合計39週
これはこの指標における過去最大週数となり、週間1位と年間上位の関連性はこれまでになく深いものとなった。週間上位の人気曲がそのまま年間上位に進出するという在るべきヒットチャートの姿が復活したと言える。
他方で今年上半期には、週間1位の翌週TOP100圏外に大暴落する異常推移がBiSH「Bye Bye Show」により記録される事態も発生した。この問題は上半期に指摘したとおりだが、結局今に至るまでチャート設計の改善はなく、また別の曲によって同様の現象が発生してしまうのではないかという懸念は拭えないままとなっている。今後の週間チャート結果を追っていくうえでは、この問題も頭の片隅に入れておくことが必要となっている。
(2023年度のHot 100週間1位変遷表はこちら↓)
(2023年の主要週間チャート結果解説はこちら↓)
Hot Albums
2023年のBillboard JAPAN Hot Albums年間チャートは、以下二点の問題が発生したことを受け、ここでは紹介しない。
CD偏重問題
2006年から2021年にかけて主に楽曲チャートにおいて発生していたCD偏重問題だが、今年はアルバムチャートにそれが本格的に顕在化した。それを示す具体的な現象が、男性ダンス&ボーカルグループの作品による年間TOP10独占である。詳細は以下記事で説明した。
こうしてアルバムチャートが作品人気指標として使用できなくなった以上、作品人気動向を追っている当ブログにおいては、今後チャート設計変更等の変化が無い限り、アルバムチャートの結果発信は原則行わない。
ジャニーズ問題
また、今年の年間チャートでは2年連続での旧ジャニーズ事務所所属アーティストの作品によるワンツーフィニッシュが達成されているが、旧ジャニーズ事務所に関しては今年重大な社会問題を顕在化させている。それが2019年に逝去した旧ジャニーズ事務所前社長ジャニー喜多川氏による性加害問題である。
この問題は紆余曲折を経ながらも事務所が性加害の事実を認め謝罪し、被害者への補償を徐々に始めているが、例え被害者が1人だけでもあってはならないことである中、なんと被害申出人数834人、うち35人の被害事実が確認され補償手続きが始められているという、想像を絶する被害規模となっている。
さらに誹謗中傷を苦にした被害者が自死してしまう事態が発生しており、事務所の誹謗中傷対策が不十分であるとの指摘も出ている。
なお、11月中に設立すると会見で説明していたタレントのマネジメント業務を担う新会社は12月に入った現在も設立されていない。
この問題に対する当ブログの方針は上半期に説明したとおりである。
なお、これまで旧ジャニーズ事務所のブランドの権威付けに貢献してきた国内のヒットチャートも本問題には正面から向き合う必要があるが、Billboard JAPANは以下インタビュー記事を通じて圧力や忖度のないチャート作成を宣言するという非常に重要な発信を行っている。
Artist 100
2023年のBillboard JAPAN Artist 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
1位はYOASOBI。Hot 100では「アイドル」が年間1位を獲得したほか、11位以下にも「祝福」「群青」「夜に駆ける」「怪物」「勇者」を送り込みTOP100圏内に合計6曲をランクインさせた。Hot Albumsにも『THE BOOK 3』『THE BOOK』『THE BOOK 2』の3作をTOP100圏内にランクインさせた。
YOASOBI「勇者」
2023年発売曲では「アイドル」だけでなく「勇者」もHot 100で週間最高2位を記録する高人気を博している。本曲はアニメ『葬送のフリーレン』のオープニングテーマに起用されており、同作原作者の山田鐘人監修、木曾次郎著の書き下ろし小説『奏送』を原作としている。
『葬送のフリーレン』は、勇者とそのパーティーにより魔王を倒した後の後日譚を描いたファンタジーで、パーティーに属していた長寿種族エルフの主人公が、旅を通じて過去を振り返りながら登場人物の人生の機微に触れていく内容。「勇者」の歌詞にはそんな主人公の優しい想いが描かれており、ファンタジックなピアノサウンドとikuraの透明感のある歌唱も雰囲気を盛り立てている。
まとめ
以上がBillboard JAPAN年間チャートを用いた2023年のヒットシーンの振り返りである。2023年も多くの大人気楽曲が誕生し、Billboard JAPANを通じてそれらを把握することができた。2024年も多くの人気楽曲の誕生に期待したい。
(次年2024年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)
(前年2022年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)