ストリーミングとはオンライン上の音源にアクセスして聴くことを指す。2010年代まではCDやダウンロードにより楽曲を購入してオフラインで聴く方法が主流だったが、ストリーミングの普及により音楽視聴環境は大きく変わった。
今では音楽業界の収益構造も変化しつつあり、広告収入型ストリーミングや定額制音楽配信サービスが新たな収益源になってきている。YouTubeなどの無料視聴サービスは前者に該当する。対して現在一気に普及が進んでいるSpotifyやApple music、LINE MUSICなどで消費者が毎月定額を支払うことで享受できる聴き放題サービスは後者に該当する。この定額制のことを英語でサブスクリプション、略してサブスクと呼ぶ。
サブスクリプションサービスが日本に上陸したのは2015年だが、Billboard JAPANは早くからこの動向を捕捉しており、2017年末の時点では国内音楽チャートの中で誰よりも早く全国網羅的なストリーミング再生数の集計体制を整えていた。
Billboard JAPANは各曲の累計再生数が1億、3億、5億を突破の都度、及び5億以降は1億上積みされる都度タイムリーにその事実を公表する。2億及び4億に関しても上記記事内など折に触れて突破済みであることを公表する。
Billboard JAPAN集計では、国内でストリーミング1億再生を突破した楽曲は、2021/9/15に合計100曲に、2023/5/4に合計200曲に到達した。
ストリーミング累計1億回再生超え楽曲が100曲突破 | Daily News | Billboard JAPAN
ストリーミング累計1億回再生超え楽曲が200曲突破 | Daily News | Billboard JAPAN
Billboard JAPANは基本的に各曲の累計再生数をタイムリーには公表していないが、2021年末以降、毎年末にその時点での歴代ストリーミング総再生回数ランキングを公表するようになっている。現時点での最新版は2023年末に公表されたものとなる。
【ビルボード】歴代ストリーミング総再生回数ランキング(2021年最新版) | Daily News | Billboard JAPAN
【ビルボード】歴代ストリーミング総再生回数ランキング(2022年最新版) | Daily News | Billboard JAPAN
【ビルボード】歴代ストリーミング総再生回数ランキング(2023年最新版) | Daily News | Billboard JAPAN
ちなみにオリコンストリーミングランキングが発表する数字はビルボードと比べ精度が低い。理由は以下の3点が挙げられる。
- チャート開始がビルボードより1年遅い2019年であり、2018年以前の再生数が集計できていないこと
- ビルボードと違い2022年に至るまで長らくSpotifyを集計対象に含めることができておらずデータの精度に信頼がおけないこと
- これらのことから特に2022年以前において全体的な再生数水準がビルボードより小さくなっており、該当時期の楽曲の人気を過小にミスリードしていること
オリコンはかつてCD売上の集計で有名だったが、音楽の聴き方のCDから配信への移行に対応せず、配信売上の集計を一向に開始しなかった。そのうえCD売上を楽曲人気指標として扱う姿勢も変えなかったため、配信が普及した2006年以降に高配信売上曲の人気過小評価と高CD売上曲の人気過大評価を蔓延させる原因を作った。オリコンはもはや楽曲人気指標ではなくなってから10年以上が経過しており、楽曲人気が知りたいという場合においてはほぼ必要のないデータになっている。
なおオリコンが配信市場を無視している間に音楽の聴き方として主流に君臨していたダウンロード購入とMV再生に関する歴代ランキングは当ブログで以下のとおりまとめている。
楽曲人気指標はCD売上→ダウンロード売上→MV再生と変遷していき、ついには現代の音源ストリーミング再生に行き着いた。ストリーミングランキングは現代の楽曲人気を計る上で参照が欠かせない指標である。
Billboard JAPANが公表している最新の歴代ストリーミング再生回数ランキングTOP100は以下のとおり。
- 1-50位
- 51-100位
TOP10楽曲解説
1位 YOASOBI「夜に駆ける」
1位は国内史上最多且つ唯一のビリオンヒットとなる累計10.4億再生を記録したYOASOBI「夜に駆ける」。2019年12月に発売された、YOASOBIにとってデビュー曲となる本曲はネット小説「タナトスの誘惑」を音楽で表現した曲となっており、アニメ仕立てのMVや小説を踏まえた歌詞が視聴者の想像を掻き立てる形で人気を拡大した。中毒性のある速いテンポのリズムも支持された。
音源ストリーミング以外にも、YouTubeではMV2.7億、THE HOME TAKE(一発撮り歌唱映像)1.4億で合計4億以上の再生数を記録している。Billboard JAPAN Hot 100では通算6週1位を獲得し、年間では2020年1位→2021年3位→2022年15位→2023年34位と推移している。
YOASOBI - 夜に駆ける / THE HOME TAKE
2位 優里「ドライフラワー」
2位は9.2億再生を記録した優里「ドライフラワー」。優里は2019年12月に「かくれんぼ」を配信してインディーズデビューを果たした男性シンガーソングライターで、男性目線で彼女との別れを歌った「かくれんぼ」が泣ける曲として話題となった。「ドライフラワー」はこの「かくれんぼ」のアンサーソングとして2020年10月に配信された。同じ失恋を今度は女性目線で歌ったこの曲は「かくれんぼ」から連続したストーリー性が一層の感情移入を呼ぶ形で大ヒットとなった。
YouTubeではMV(ショートver.)8,000万、THE FIRST TAKE(一発撮り歌唱映像)1.1億、ディレクターズカットver.(フル)1.5億で合計3億以上の再生数を記録している。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2021年1位→2022年5位→2023年14位と推移している。
優里 『ドライフラワー』Official Music Video(ショートver.)
3位 BTS「Dynamite」
3位は8.7億再生を記録したBTS「Dynamite」。2020年8月に全世界で発売されたこの曲は、新型コロナウィルスの流行で落ち込みがちな世相を元気づけてくれるようなポジティブなダンスナンバーとして人気を博した。自身初の全英詩曲だったこともありアメリカでも受け入れられ、アメリカのBillboard Hot 100でアジア圏のアーティストとしては坂本九以来57年ぶりの週間1位を獲得した。日本でも、この快挙の報道や「THE MUSIC DAY」「日本レコード大賞」への出演などが話題となり、多くの踊ってみた動画が投稿されるなどUGCも盛り上がりを見せた。
Billboard JAPAN Hot 100の年間では2020年18位→2021年2位→2022年14位→2023年86位と推移している。
BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV
4位 Official髭男dism「Pretender」
4位は8.5億再生を記録したOfficial髭男dism「Pretender」。2019年4月に配信された本曲は切ないラブソングになっており、印象的な韻を踏むメロディーや共感性の高い歌詞が支持されたことや、主題歌となった映画「コンフィデンスマンJP -ロマンス編-」が興行収入29億円を記録する人気となったことをきっかけに、髭男を大ブレイクに導く特大ヒットとなった。
ストリーミングだけでなく、MV4.9億再生、フル配信100万ダウンロードも記録しており、歴史的な数字を各指標で打ち立てた。Billboard JAPAN Hot 100では通算7週1位を獲得し、年間でも2019年3位→2020年2位→2021年20位→2022年26位→2023年44位と推移している。
Official髭男dism - Pretender[Official Video]
5位 YOASOBI「群青」
5位は6.9億再生を記録したYOASOBI「群青」。この曲はアルフォートとのコラボ作になっており、同CMのストーリーテキスト「青を味方に。」を原作として制作された。このテキストは絵を描くことを生業に選んだ若者の背中を押す内容となっており、「群青」の歌詞も「好きなものへ向き合う葛藤」を表現したものになっている。そのメッセージ性は絵に限らず何らかの夢を追う若者を勇気づけることとなった。楽曲中に取り入れられた合唱パートがもたらす高揚感も支持された。
この曲は2020年9月発売曲だが、2021年1月にはTHE FIRST TAKEに出演しこの曲を披露したほか、2021年8月にはスッキリ!で全国高校生ダンス部を応援するダンスONEプロジェクト'21のテーマ曲に選ばれるなど、その人気はむしろ2021年以降により拡大した。YouTubeではMV1.6億、THE FIRST TAKE(一発撮り歌唱映像)9,000万で合計2億以上の再生数を記録している。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2020年91位→2021年8位→2022年16位→2023年32位と推移している。
YOASOBI「群青」Official Music Video
6位 King Gnu「白日」
6位は6.4億再生を記録したKing Gnu「白日」。ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」主題歌として2019年2月に配信で発売された。かねてより音楽ファンの間では注目を集めていたバンドだったが、ドラマ主題歌への起用やメディア出演を機に認知が普及し、洗練されたサウンドやボーカル井口理のファルセットに耳を奪われた人が続出し大ヒットした。
ストリーミングだけでなく、MV4.6億再生、フル配信100万ダウンロードも記録しており、歴史的な数字を各指標で打ち立てた。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2019年4位→2020年5位→2021年31位→2022年62位→2023年80位と推移している。
7位 あいみょん「マリーゴールド」
7位は6.2億再生を記録したあいみょん「マリーゴールド」。この曲は2018年8月に発売され、ノンタイアップでありながらも、音楽フェスでの披露を重ねながらストリーミングを中心に懐かしさを感じさせるサウンドが支持を広げていき、年末歌番組での連続的な披露を決定打に大ヒットに至った。
この曲は記念すべき国内アーティスト史上初のストリーミング1億再生達成曲とされているほか、MV3.2億再生も記録している。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2018年48位→2019年2位→2020年8位→2021年38位→2022年36位→2023年39位と推移している。
あいみょん - マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
8位 Official髭男dism「I LOVE...」
8位は6.1億再生を記録したOfficial髭男dism「I LOVE...」。この曲はドラマ「恋はつづくよどこまでも」主題歌として2020年1月に配信で発売され、2月にはCDでも発売された。恋人に限らない様々な形の愛をテーマにした普遍的な歌詞が支持されたほか、ドラマが最高視聴率15.4%を記録する人気となったことなどから大ヒットした。
ストリーミングだけでなく、MV1.9億再生、フル配信100万ダウンロードも突破するなど各指標で歴史的な数字を記録した。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2020年4位→2021年24位→2022年53位→2023年79位と推移している。
Official髭男dism - I LOVE...[Official Video]
9位 YOASOBI「怪物」
9位は6.1億再生を記録したYOASOBI「怪物」。この曲はアニメ「BEASTARS」第2期オープニングテーマに起用されており、原作となる小説も「BEASTARS」の原作者板垣巴留による書き下ろしショートショート「自分の胸に自分の耳を押し当てて」となっている。「BEASTARS」は草食獣と肉食獣が共存する社会の中でウサギに恋をしたオオカミが捕食本能と葛藤しながら自身の役割を見出していく物語である。「怪物」の原作小説もその中の一場面に焦点を当てたものになっており、主人公のオオカミの心理がより深く掘り下げられている。綺麗事ばかりではない社会の中を生きる主人公の決意が曲調や歌詞に反映された楽曲の世界観に没入するリスナーが続出した。
YouTubeではMV3.2億再生を突破している。Billboard JAPAN Hot 100の年間では2021年5位→2022年20位→2023年51位と推移している。
YOASOBI「怪物」Official Music Video (YOASOBI - Monster)
10位 BTS「Butter」
10位は5.8億再生を記録したBTS「Butter」。本曲は思わず体が動くようなダンスポップナンバーで、歌詞はバターの持つ甘さや滑らかさを比喩に用いた可愛らしい告白ソングになっている。重たいメッセージは込められていないうえ楽曲時間も短いため、気軽に何度も聴いて楽しめる仕上がりになっている。特大ヒットした「Dynamite」に続く自身2曲目の全英詩シングルだったこともあり話題性が際立った本曲は歴史的な初動楽曲人気規模となり、週間2,993万再生を記録し週間再生数歴代1位記録を樹立した。
Billboard JAPAN Hot 100では2021年6位→2022年12位と推移した。
BTS (방탄소년단) 'Butter' Official MV
101位以下
歴代ランキングの101位以下は公表されていないが、これまでに1億乃至2億再生突破が公表された楽曲を、公表までに要した日数で昇順に並べることでランキング化することが可能である。すなわち、1年で1億再生を突破した曲の方が、10年かけて1億を突破した曲より多く再生されることがほとんどだろう、と考え、同じ認定でもどちらの方がより高い再生数になる可能性が高いかを推し量る。その結果は以下のとおり。1億再生突破曲数合計は247曲となる。
年間ストリーミング再生回数ランキング
ストリーミング再生回数の年間ランキングはBillboard JAPANにより2017年から公開されている。各年のヒット曲を振り返っている以下記事内で言及している。
2017年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2018年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2019年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2020年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2021年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2022年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
2023年のヒット曲【Billboard JAPAN年間チャート総括】
(2010年代のヒット曲十選はこちら↓)
まとめ
以上までの247曲がBillboard JAPANの集計で国内1億再生を突破している楽曲である。今後音楽の聴き方の主流がストリーミングになっていくことが確定的であることからしても、ストリーミング1億再生以上を記録する大ヒット曲は今後ますます増えていくものと思われる。
思えば10年以上前の2000年代後半は音楽の聴き方がCDから配信に移行したことが全く考慮されず、ひたすらCDヒットの減少が嘆かれ、まるでもう高人気楽曲は出ないとでも言うかのような悲観的誤謬が蔓延していた。2010年代後半になってようやく新しい音楽の聴き方が捕捉され、再生数で楽曲人気を計ることがスタンダード化してきている。こうなれば、今後どんな大ヒット曲が誕生するのか(=どんな曲が1億再生を達成するのか)、未来への期待は高まるばかりである。
なお、楽曲人気だけでなくアーティスト人気に関してもストリーミング総再生数から導くことが可能であり、以下記事「歴代アーティスト・トータル・ストリーミング再生回数ランキング」でまとめている。