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2023年Billboard JAPAN上半期チャート総括

この記事では2023年上半期のヒット曲をBillboard JAPANを通じて振り返る。

 

Billboard JAPAN Hot 100の2023年上半期TOP20は以下のとおりとなった。

 

 

 

 

 

HOT 100

 

2023年上半期TOP5

 

Official髭男dism「Subtitle」

 

1位はOfficial髭男dism「Subtitle」。本曲は2022年秋クールに放送されたドラマ「silent」の主題歌として書き下ろされた壮大なラブバラード。ろう者とのラブストーリーを描いた「silent」は泣けるドラマとして大きな話題となり、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」の配信再生数の記録を大きく塗り替えるほどの支持を集めた。「Subtitle」には「字幕」という意味があり、歌詞では音のない世界で想いを届けようとする純粋な感情が丁寧に表現されている。

 

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ドラマの大人気とともに圧倒的な共感を集めた「Subtitle」は2022年10月に配信されると爆発的な高動向を記録した。SpotifyデイリーチャートではBTS「Butter」を超えて当時歴代1位のデイリー再生回数(2022年11月13日付の57.4万回を記録した。Hot 100でも「Butter」以来史上2曲目となるストリーミング週間2,000万再生超えを記録。累計ではストリーミング4億再生を突破しており、到達までの所要週数31週BTS「Dynamite」所要42週を大きく上回る歴代最速記録となった。

 

 

この歴史的楽曲人気が反映される形でHot 100では1位常連のなにわ男子乃木坂46らを退け通算13週1位を記録。これは星野源「恋」通算11週1位を上回る1位獲得週数歴代最多記録となった。

 

 

他指標でもMV9,000万再生、フル配信25万ダウンロードを突破している。


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米津玄師「KICK BACK」

 

2位は米津玄師「KICK BACK」。2022年10月に配信されたこの曲は、アニメ「チェンソーマン」主題歌として発売前から高い注目が集っていたことから、稀代の楽曲人気動向を記録した。SpotifyデイリーチャートではBTS「Butter」を上回る配信初日再生数歴代1位記録(2022年10月12日付の43.8万回)を樹立しいきなり1位に浮上した。

 

 

Hot 100ではストリーミング初週1,255万再生という圧倒的初動を見せ、1位常連のJO1などを退け通算2週1位を獲得した。他指標でもMV1.1億再生、フル配信10万ダウンロードを突破している。

 

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「KICK BACK」はシリアスさとコミカルさが同居したようなアップテンポナンバー。目まぐるしい楽曲構成と純真な欲望を描いた歌詞で原作世界観が表現されている。その中には仕掛けが多く散りばめられており、例えば歌詞ではモーニング娘。のヒット曲「そうだ!We’re ALIVEをサンプリングしたフレーズを織り込んでいる。King Gnu常田大希が参加していることもあってか、がなり立てる歌唱表現などから米津玄師の新たな一面を見出すことも可能となっている。


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YOASOBI「アイドル」

 

3位はYOASOBI「アイドル」。小説を音楽にすることをコンセプトとする音楽グループYOASOBIの最新曲である。この曲はアニメ「推しの子」主題歌として制作され、2023年4月に配信された。本曲の原作はアニメ原作者赤坂アカが書き下ろしたスピンオフ小説「45510」である。

 

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この小説もそうだが、「推しの子」は芸能界の裏側を生々しく描いたヒューマンドラマとして人気となっていた。その序盤では予想外の衝撃的な展開が繰り広げられているが、「アイドル」はその展開に即して制作されており、アニメの話題性が楽曲にも大きく波及した。そして本曲のMVはアニメ「推しの子」を制作する動画工房が直接手掛けたことで精巧緻密なアニメーションムービーに仕上がっており、話題性を益々増幅させることとなった。楽曲もそれまでのYOASOBIにない新境地と言えるような内容で、癖になるikuraの歌唱表現や、コーラス・掛け声等多くの要素を取り入れめまぐるしく変化する楽曲構成が強い中毒性を有していた。

 

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こうした背景から本曲は日本音楽史上トップクラスの爆発的楽曲人気となり、数々のヒットレコードを更新した。人気普及の核となったYouTubeでは、公開から所要35日MV1億再生を突破。従来のMV1億突破所要スピード歴代1位記録はNiziU「Make you happy」所要62日であり、信じられないほどの爆速で記録を大きく更新した。足元の累計では既にMV1.5億再生を超えている。

 


MVの話題性はすぐにオーディオストリーミングにも波及していった。Spotifyデイリーチャートでは歴代1位となるデイリー再生数68.3万回を5/14付で記録。従来Official髭男dism「Subtitle」が保持していた記録57.4万回をこちらも大きく更新した。

 

 

こうした動向を反映する形で、Billboard JAPAN Hot 100では初登場から独走状態となり、1位常連の日向坂46、BE:FIRST、INI等を退け8週連続1位獲得中となっている。主要得点源となっているストリーミングでは異次元の再生数水準を続け、初登場から所要5週で累計ストリーミング1億再生を突破した。これも従来の歴代最速記録だったBTS「Butter」Official髭男dism「Subtitle」による所要6週を更新する歴代最速記録となった。

 

 

今なお続いているこの歴史的高動向がこの先どこまで伸びていくこととなるのか、今後のYOASOBIの活躍からも目が離せなくなっている。


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Vaundy「怪獣の花唄」

 

4位はVaundy「怪獣の花唄」。男性シンガーソングライターVaundyが2020年5月に配信した1stオリジナルアルバム『strobo』の収録曲である。本曲は2021年1月に「バズリズム02」でネクストブレイク候補としてVaundyが取り上げられたことをきっかけに注目が集まり、2021年3月にはマルハニチロのCMソングに起用され、以降ロングヒットモードに突入していた。2022年末にVaundyが満を持しての紅白初出場で本曲を歌唱したことで更なる人気爆発となり、発売から2年以上を経た2023年に楽曲人気がピークを迎えた。

 

Spotifyデイリーチャートでは2023/4/8(土)付で自身初の1位を獲得。初登場から所要1046日での1位(途中TOP200圏外だった期間の日数も含む)はアヴィーチー「Wake Me Up」所要448日を大きく更新する断トツ歴代1位のスロー記録であった。これは如何に本曲が長期に渡り支持され人気を拡大させていったかを示している。

 

 

全体累計ではストリーミング3億再生、MV5,000万再生を突破している。キャッチーなメロディーにエモーショナルな歌唱、忘れていた少年時代の情熱を取り戻そうとする歌詞等が本曲の聴きどころとなっている。


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10-FEET「第ゼロ感」

 

5位は10-FEET「第ゼロ感」。2001年にデビューした活動歴20年以上のベテラン男性ロックバンド10-FEETが2022年12月に配信した最新シングル曲である。本曲はバスケットボールマンガとして不動の地位を誇る「SLAM DUNK」を原作としたアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」主題歌として制作された。バスケットボールのドリブルを想起させるリズミカルなサウンドや印象的なギターリフがフックとなっている。「SLAM DUNK」の原作者で映画監督も自ら務めた井上雄彦が楽曲制作にも関与したことで、映画の雰囲気との親和性が非常に高いロックナンバーに仕上がっている。

 

映画が興行収入140億円以上を叩き出す大ヒットとなったこともあって楽曲も強く支持され、累計はストリーミング1億再生、フル配信10万ダウンロードを記録した。フル配信10万ダウンロード突破は自身2009年発売の11thシングル表題曲「1sec.」以来(コラボ参加作品も含めればフル配信25万ダウンロードを記録したINFINITY 16 welcomez MINMI,10-FEET「真夏のオリオン」以来)10年以上ぶりであり、自身久々のヒット曲となったどころか、加えて自身初のストリーミング1億再生となったことも考慮すれば、デビュー22年目にして自身最大の人気曲が誕生したと言って差し支えない。ベテランアーティストの大活躍はヒットシーンに多様性を与える非常に重要なトピックである。


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週間1位翌週の順位大暴落推移の発生

 

こうした数々の人気楽曲の誕生でヒットチャートが沸く一方、2023年上半期には絶対に看過できないチャート推移がHot 100で発生した。週間1位獲得の翌週TOP100圏外に大暴落する最極端異常推移がBiSH「Bye Bye Show」により記録されてしまったのである。

 

 

言うまでもなく「1位→100位圏外」推移の発生総合ヒットチャートとして絶対にあり得ないことである。ザ・ベストテン・2010年までのオリコン・米Billboard Hot 100といった歴史的実績のあるヒットチャートでは「1位→100位圏外」どころか「1位→50位圏外」推移すら一度も発生したことがない

 

もっと言えば本来は「1位→TOP10圏外」推移すら異常である。これは2006年にオリコンチャート分析ブログ「うっきーのチャートチェック」によって既に証明されている。

 

ukki-monkey2.seesaa.net

 

オリコンシングルランキングでは、楽曲人気指標としての機能が完全消滅した2011年に初めて「1位→100位圏外」推移が発生したが、当時のオリコンチャート分析ブログ「The Natsu Style」はこれを『前代未聞の不名誉記録』と表現。記事のコメント欄にもチャートに対する共感性低下週間1位という権威の毀損に対する懸念の声が並んでいる。

 

www.tnsori.com

 

BiSH「Bye Bye Show」は複数購入特典としてチェキ会参加権を付属したことを主因に稼いだ発売初週CD売上27万枚が構成要素の9割近くを占める形でHot 100総合首位を獲得した。これは平成後期以降15年以上に渡って日本で大量発生している典型的なCD売上偏重構成であり、ヒットと言える規模の楽曲人気がある証拠はどこにもない。楽曲の浸透度を計ることを理念に掲げるBillboard JAPAN Hot 100において、このような楽曲の「1位→100位圏外」推移を許容する道理は一切ない。

 

このCD偏重問題は日本のヒットチャートにおいて約16年に渡り見られていた問題である。誤解の無いように言うと、Billboard JAPAN Hot 100はむしろこの問題を徐々に改善させてきたヒットチャートである。その歴史は以下記事にまとめている。

 

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この記事で示したとおり、CD偏重問題を原因とする異常なチャート推移はBillboard JAPAN Hot 100において着実に減少していた。ここ数年の異常現象の代表例は「週間1位面子と年間上位面子の乖離」だったが、段階的なCD換算率の引き下げによって2022年にこれが解消。2022年度は「1位→100位圏外」推移発生件数も0となっていた。更に2023年度からは一部CD偏重作品の主要得点源となっていたルックアップ指標の廃止が決定。これらを勘案し、私は2022年度にCD偏重問題が「完全」解決したとも思ったが、今回のBiSH「Bye Bye Show」によって約1年4ヶ月ぶりに発生した最極端異常推移は紛れもなくCD偏重問題が背景にあるため、「完全」解決とまではいかない(言い過ぎだった)ことが顕在化してしまった。

 

この「1位→100位圏外推移」問題はBillboard JAPANに直接提言している。その内容は以下のとおり。

 

 

とはいえ、2021年までとの比較ではCD偏重問題は大きく改善されており、その流れでこの問題も今後改善されることには期待できる。少なくともYOASOBI「アイドル」が週間1位を独走している足元では、1位からの大暴落推移が直ぐ再発することは考えにくい。よってこの問題はBillboard JAPAN Hot 100週間チャートの楽曲人気指標としての信頼性を即刻無に帰すものではく、引き続き結果をヒットチャートとして受け入れ楽しむことは可能である。しかし、この問題も頭の片隅に入れながら今後の週間チャート結果を追っていくことが必要である。

 

HOT Albums

 

2023年上半期TOP20は以下のとおりとなった。

 

 

1位はKing & Princeのベストアルバム『Mr.5』。King & Princeは2023年5月を以てメンバー3人が一気に脱退。それまでの体制の総括としてこれまでのシングル全16曲と人気アルバム曲が収録されたアイテムとして高需要を示した本作は、2010年代以降では安室奈美恵『Finally』、嵐『5×20 All the BEST!! 1999-2019』に続く3作目となるCD初動ミリオンセラーを達成する記録的大ヒットとなった。

 

King & Prince「Life goes on」

 

本作収録曲のうち2023年発売曲では、現体制ラストシングル表題曲となった「Life goes on」がHot 100で1位を獲得した。本曲はドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」のエンディングテーマ。青春ラブストーリーであるドラマの内容に沿う形で、パートナーとともに夢を追いながら明日を生きていくことが歌詞に描かれており、軽やかな曲調も毎日の人生応援歌とするには適役となっている。


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なお『Mr.5』は配信未解禁となっており、CD指標上半期1位となる137万枚の売上が牽引する形で上半期総合1位を獲得した。しかしHot AlbumsのTOP10まで視野を広げると、このチャートがCD売上だけではなく配信売上も考慮して作成されていることが分かる。実際に、配信アルバムチャートで高順位となっている結束バンド『結束バンド』、JIMIN『FACE』、back number『ユーモア』等がCD指標のみの上半期順位に比して総合順位を上昇させている。

 

ジャニーズ事務所の性加害問題

 

なおジャニーズ事務所に関しては、上記のとおり主にアルバムチャートで大ヒット作を連発しているが、一方で2023年上半期に重大な社会問題を顕在化させた。それが2019年に逝去した前社長ジャニー喜多川による性加害問題である。

 

この問題は故人による過去の話だが、今になって顕在化した経緯は以下記事に分かりやすく纏められている。要は海外メディアBBCの特集報道をきっかけとして、国内で被害者の声や事態検証を求める声が強まり、初めてジャニーズ事務所現社長自らが本問題に対する公式見解を発表し、本格的に問題が報道されるようになったのである。

 

newspicks.com

 

性加害が絶対に許されない行為であるのはもちろんのこと、それを今まで十分に報道してこなかった国内メディアのジャニーズ事務所に対する過剰忖度や、その構造をもたらすジャニーズ事務所の過剰な影響力、問題の深刻さに気づかぬままジャニーズ事務所が提供するエンターテイメントの恩恵を受けてきた日本音楽業界、果てはそれを享受してきた消費者(当然私もここに含まれる)の意識等、この問題は多くの論点を孕みながら一人一人に突きつけられている。

 

今回、初めてジャニーズ事務所現社長による公式見解発表が実現したことは大きな前進だが、発表された内容のうち、「性加害の事実認定を避けたこと」や「問題を検証する第三者委員会を設置しないこと」等に対しては多くの批判が生じている。大手新聞社各紙の社説でもこの批判が展開されており、未だ社会はこの問題が解決したとは捉えていない。

 

www.nikkei.com

 

この問題の落としどころをどこに持って行くのか、社会的な議論が今も必要な状況となっている今、私を含む消費者としても、この問題を無視してジャニーズ事務所が提供するエンターテイメントを享受・発信することは許されなくなっている

 

この問題への向き合い方は立場によって異なるが、一個人である私の場合は、当ブログ本記事で一定の文量で取り上げることとしている上半期総合アルバム1位作品の紹介にジャニーズ事務所提供作品が該当した以上、本問題も取り上げる必要があると判断し、簡潔ながらも本記事内で上記のとおり概要を纏めたほか、下半期以降は事態が納得可能な進展を見せるまでの間、ジャニーズ事務所提供コンテンツのチャート情報を文章で発信することの休止を決定した。決定までの詳細な経緯は以下スレッドで示している。

 

 

TOP Artists

 

2023年上半期TOP20は以下のとおりとなった。

 

 

1位はOfficial髭男dism。上半期Hot 100には1位となった「Subtitle」のほか、9位に「ミックスナッツ」、27位に「ホワイトノイズ」、38位に「Pretender」、58位に「115万キロのフィルム」、69位に「Cry Baby」、80位に「I LOVE...」、89位にTATTOOがランクイン。これらのポイントが牽引する形での1位獲得となった。

 

Official髭男dism「ホワイトノイズ」

 

このうち2023年配信曲中最高順位となった「ホワイトノイズ」は人気アニメ「東京リベンジャーズ 聖夜決戦編」主題歌。自身「Cry Baby」に続き2クール連続でこのアニメのタイアップを担当することとなった。ヘヴィメタルをルーツとしたギターサウンドが新鮮に響いたことや、大サビまでの焦らしと開放的でポップなメロディーが与えるカタルシス等が支持された本曲はストリーミング5,000万再生を突破した。


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まとめ

 

以上がBillboard JAPANを用いた2023年上半期のヒットシーンの振り返りである。上半期だけでも多くの新たなヒット曲が浮上しており、Billboard JAPAN上半期チャートを通じてそれらを把握することができた。下半期にかけてこのヒットチャートがどのように変動するのか、引き続き要注目である。

 

(前年2022年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)

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