この記事では2017年のヒット曲をBillboard JAPAN年間チャートを通じて振り返る。
2017年のBillboard JAPAN Hot 100年間TOP30は以下のとおりとなった。
ビルボードジャパン 2017年年間チャート発表 https://t.co/JEkt61v7m8 pic.twitter.com/OI9XHs9Hh1
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2017年12月7日
Hot 100
Billboard JAPAN Hot 100とは
Billboard JAPAN Hot 100は「社会への浸透度を計る」ことを明確に理念に掲げ、CD売上以外の要素も加味して作成されている総合楽曲チャートである。CD売上チャートによる楽曲人気のミスリードが続く中、2008年に誕生したこの音楽チャートは楽曲人気の可視化を目指して試行錯誤を続けていた。
2016年まではまだチャート設計上の課題も多かったため、楽曲人気指標としての合格点には達していなかったが、それでもCD売上だけのチャートと比べれば多くの配信ヒット曲を上位に送り込むことに成功しており、国内で最も総合楽曲人気チャートに近い存在になっていた。
そして2017年、Billboard JAPAN Hot 100はそれまで抱えていた複数の大きな課題を解決し、ついに楽曲人気チャートとしての合格点をクリアした。この年生じた重要な変化を以下に列記する。
- 週間総合ポイントの公開
2017年からはHot 100の順位を決定する週間総合ポイントが公開されるようになった。2016年までは順位のみの発表だったため、相対的な人気は把握できても、人気規模の絶対量を把握することは困難であった。ザ・ベストテンやオリコンがそうであったように、絶対的な人気量把握のため、週間チャートを構成する数字の公開は楽曲人気チャートとして必須事項であるが、ビルボードでは2017年に漸く公開が実現した。
- CD売上集計における係数処理の導入
CD売上チャートは2011年以降、楽曲人気に関係しない要因により特定アーティストによって独占されるようになったことから、楽曲人気指標としては一切使用できない状態になっていた。しかし2016年まではHot 100におけるCD売上の比重は非常に高く設定されていた。特に2016年は、AKB商法でCD250万枚を売り上げたもののCD以外の指標で全く高人気の証拠を有していなかったAKB48「翼はいらない」が年間1位となってしまい、楽曲人気チャートを目指すならば改革が喫緊の課題となっていた。
しかし2017年になるとこの大きな問題も解決した。多すぎるCD売上に対しては反映率を大幅に減少させる措置を取り始めたのである。具体的には次のとおり公式アナウンスされている。
JAPAN HOT 100ではシングルセールスを合算するときにどのように合算していますか。
JAPAN HOT 100は、計8種類の指標を用いて「接触」と「所有」をバランスした総合ソング・チャートです。2017年度以降、私たちは各指標のレシオの平均値(半期毎)を基準とし、週間チャートにおける実数値が大きく乖離していると判断した場合、全指標の計算係数を見直し、その乖離をできる限り抑え、なおかつマーケットの占有率とも乖離しないレシオになるよう、独自の計算公式による個別の係数を設定する場合があります。
「係数」は非公開だが、2017年当時の手元計算では一週間に30万を超える分のCD売上の反映率を通常の1/10とすると、総合ポイントに近い値が算出できるようになっていた。
この措置によって、例えAKB48が総選挙投票券付CDを初動で250万枚売っても、係数処理後は52万(30万+220万/10)にしかならない。発売2週目以降に30万ほど積み増したとしても、合計で80万強である。この水準は当時のビルボードでは年間TOP10に入れるか否か微妙なラインであった。
CD売上を稼ぐだけでは年間チャート上位進出が約束されなくなったことで、特定アーティストが楽曲人気に関係なく年間チャート上位を独占する状況とはならなくなった。こうして、楽曲人気チャートとして合格点を得る上で最低限必要なチャート設計水準が満たされた。
- COUNT DOWN TVにおけるビルボード方式の導入
例え楽曲人気チャートとして優れた集計方法を確立していても、そのチャートに知名度と権威がなければ相手にされることはない。ビルボードの日本国内における歴史が比較的浅かったことや、ザ・ベストテンの終了後久しく表舞台から姿を消していた複合チャートへの馴染みの薄さは、ビルボードが普及するうえで大きな壁となっていた。
しかし、2017年4月より、地上波で最も有名なランキング番組と言えるCOUNT DOWN TVがBillboard JAPAN Hot 100の集計方法を取り入れ、複数指標を集計してランキングを作成するようになった。それまでのCDTVランキングはほぼオリコンのCD売上データだけで構成されており、オリコン同様楽曲人気指標として全く使用できないランキングが公共の電波で垂れ流される状態が長く続いていたが、ビルボード方式の導入で機能不全が緩和された。そしてこの改革によりビルボードの知名度は一気に高まり、新時代の楽曲人気チャートとしての権威も確立することとなった。
- ストリーミング再生回数の集計精度向上
2016年までのHot 100の構成要素はCD、ラジオエアプレイ、ダウンロード、ルックアップ(PCによるCD読取数)、Twitter、MV、歌詞表示回数を基に推定したストリーミング再生回数の合計7指標だったが、2017年になると新たにApple Music、AWA、LINE MUSICにおけるストリーミング再生回数が外資系マーケティングリサーチ会社GfKジャパン経由で集計対象指標に組み込まれた。この結果、従前は歌詞表示回数から推定する形で計算していたストリーミング再生回数の集計精度が向上した。
- 指標別チャートDownload Songs、Streaming Songsの公開開始
Hot 100を構成する各指標の20位までの順位はChart Insightで確認可能であるが、単独でチャートページが設けられ、順位が公開されている指標は2016年までCDとラジオの2指標のみだった。2006年以降に音楽の聴き方の主流として君臨していたダウンロードや、次世代の音楽の聴き方として普及が確実視されていたストリーミングも早急な単独チャートページ設立が必要な重要指標であったが、両指標とも2017年10月から週間TOP100が公開されるようになった。1年分を集計した年間チャートも2017年から公開された。
こうした数々の重要な改革によってBillboard JAPAN Hot 100は名実ともに楽曲人気チャートとしての合格点を満たした。ダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったオリコンが総合楽曲人気チャートとして不合格となった2006年以降、10年以上に及んだ総合楽曲人気チャートが国内に存在しないという不健全な状況は、ビルボードによって2017年に終止符が打たれたのである。
Hot 100年間上位曲ピックアップ
星野源「恋」
そんな2017年のHot 100年間チャートで見事1位を獲得した曲が星野源「恋」である。この曲は2016年10月に配信された楽曲で、2016年のHot 100年間チャートでも爆発的な配信初動売上で3位に入っていたが、歴史的な人気規模となったことにより2017年も高動向が持続した。
2017年のHot 100年間集計期間は2016/11/28-2017/11/26であるが、2016年12月にはこの曲が主題歌となっていたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の最終回が盛り上がりを見せたほか、紅白歌合戦をはじめとした年末歌番組出演効果もあって恋ダンスの人気はこの時期にピークとなった。
週間チャートでは週間1位常連である関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP、NMB48、Mr.Childrenらを次々と2位止まりにする形で週間1位街道を驀進した。通算1位獲得週数11週は当時の1位獲得週数歴代最多記録であった。 「恋」が週間1位を獲得した各週の詳細は以下記事でピックアップしている。
この歴史的高動向を牽引した指標がダウンロードであり、実際にBillboard JAPAN Download Songsでも年間1位を獲得している。
日本レコード協会からは200万ダウンロード認定を受けているが、これは歴代で僅か9曲しか達成していない偉業である。
エド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」
Hot 100年間2位はエド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」。2017年1月にアルバム『÷』からの先行シングルとして発売されたこの曲はトロピカル・ハウスのテイストが取り入れられており、市場拡大を続けていたストリーミングサービスに聴き心地のよい電子音が合っていたこともあって、米Billboard Hot 100では2017年の年間1位を記録するほどの世界的な大ヒットとなった。
日本においても、情報番組への出演や、ドラマ『僕たちがやりました』挿入歌への起用、MVに日本人の元力士が出演していた話題性などから大ヒットし、配信25万ダウンロード、ストリーミング3億再生を突破した。
Billboard JAPAN Hot 100の年間2位を牽引した指標はストリーミングとMVである。このことは指標別推移が分かるサービスChart Insightで確認することができる。下図は発売以降3年間のダウンロード(紫)、ストリーミング(青)、MV(赤)の順位推移である。
特にストリーミングが強く、実際にBillboard JAPAN Streaming Songsでは2017年の年間1位を獲得した。
DAOKO×米津玄師「打上花火」
DAOKO×米津玄師「打上花火」はアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌に起用されたコラボレーションシングル。映画は興行収入は15億円とまずまずの成績だったが、楽曲は和を感じさせるテイストが花火の情景と見事にマッチしたことで大ヒットとなり、配信50万ダウンロード、MV6億再生、ストリーミング2億再生を突破した。Hot 100では通算2週1位を獲得し、年間でも3位に入った。
年間3位を牽引した指標はストリーミングとMVである。特にMVが強い支持を受けており、YouTubeが公表した2017年の年間MVランキングでは年間1位を獲得している。
(歴代MV再生回数ランキングはこちら↓)
乃木坂46「インフルエンサー」
「インフルエンサー」は3月に発売された乃木坂46の17thシングル。センターポジションは白石麻衣と西野七瀬が務めた。フックのある歌詞や、MV及びTV出演時におけるダンスパフォーマンスが話題になるなどしたことからヒットし、配信25万ダウンロードを記録した。
本曲はBillboard JAPAN Hot 100年間7位となっているが、この順位を牽引した指標はCDである。参考までにCDシングル売上チャートTop Singles Salesの年間TOP10を以下に示す。
年間TOP10はAKB48、乃木坂46、欅坂46で綺麗に三つのブロックが形成されている。これはCD購入者が参加可能な握手会の規模がAKB48>乃木坂46>欅坂46となっていることを意味しており、楽曲人気は全く関係がない。
しかしHot 100においてはAKB48の年間最高位は「願いごとの持ち腐れ」の15位である一方、乃木坂46と欅坂46は年間TOP10入りしており逆転が生じている。これは上述した係数処理によって多すぎるCD売上の影響が抑制されていることや、CD以外の指標の加点の差によるものである。多すぎるCD売上は依然としてHot 100の年間順位上昇を牽引するものの、それだけで年間TOP10入り確定とまではならなくなったことが分かる。
AKB48はこの年、10万ダウンロードや3,000万再生を超える曲が出せなかったが、「インフルエンサー」は何れのボーダーラインも突破しており、一定の楽曲人気を有していると言える。このことが評価されてか、本曲は2017年の日本レコード大賞を受賞した。
大賞受賞の影響もあってか、「インフルエンサー」はDL売上とMV再生回数で自身最多記録を樹立しており、このことから本曲は乃木坂46の最大人気曲であると言える。
米津玄師「ピースサイン」
米津玄師「ピースサイン」はアニメ『僕のヒーローアカデミア』の主題歌に起用された、疾走感溢れるロックナンバー。アニメの人気も手伝って大ヒットし、配信50万ダウンロード、MV3億再生、ストリーミング1億再生を突破した。Hot 100では1位常連のWEST.を退ける形で自身初となる週間1位を獲得し、年間でも14位に入った。
米津玄師 MV「ピースサイン」Kenshi Yonezu / Peace Sign
米津玄師はこの年他にも「灰色と青(+菅田将暉)」「orion」「春雷」といったMV1億再生突破曲を大量輩出した。
back number「ハッピーエンド」
back number「ハッピーエンド」は興行収入18.5億円を記録した映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の主題歌で、2016年11月に発売された。タイトルから受けるイメージとは真逆の、報われない恋を歌う切ない歌詞と曲調は映画の内容とも相まって多くの共感を集め、配信50万ダウンロード、MV1億再生、ストリーミング4億再生を突破する大ヒットとなった。
Hot 100では2017年の年間25位に入った。当時はMVがショートバージョンのみの公開、ストリーミングが未解禁という状況だったため、この2指標の加点が乏しかった。発売から約2年後の2018年12月にストリーミングが解禁されて以降は息の長い人気が持続している。
なお2016年12月にはこの曲も収録した自身初のベストアルバム『アンコール』が発売され、CD71万枚、配信10万ダウンロードをセールスするヒットとなった。
Hot Albums
2015年下半期から発足したビルボードの総合アルバム売上チャートHot Albumsの年間TOP10も紹介する。
Hot Albumsの構成要素はCD売上、配信ダウンロード売上、ルックアップ(PCによるCD読取数)の3指標である。換算比率は非公開だが、大雑把に「CD売上100枚=配信36ダウンロード」として集計されているようである。
アルバムもかつてはCD売上が作品人気指標の筆頭だったが、シングルCDほどではないにせよ、徐々にその中身は「アルバム人気の量」から「アーティスト人気の濃度」に変化してきている。この傾向を踏まえてか、CDよりもダウンロードの方が約3倍ほど高いウェイトになっている。
アルバムのダウンロード市場は年間に10万ダウンロードを超える作品が出るかどうか程度の小さい規模であるため、CD売上が順位決定の大きな要素であることに変わりはない。それでもそのまま集計するよりはCD売上の人気指標としての機能不全を幾分緩和することができている。
このチャートの発足により、アルバムにおいてもCD売上だけで作品人気を計る時代は終了した。
1位は安室奈美恵『Finally』。9月に突然1年後の引退を発表し世間を驚かせたあとの11月に発売されたデビュー25周年記念オールタイムベストアルバムである。引退を惜しむ声が非常に大きかったこともありセールスは爆発的なものになり、なんと2004年の宇多田ヒカルのベスト盤以来となるアルバム初動売上100万枚超えを達成。113万枚を売り上げていたSMAP『SMAP 25 years』をあっという間に抜く驚異の推移で年間1位となった。
『Finally』は安室奈美恵がSUPER MONKEY'Sとしてデビューしたときのシングル「ミスターU.S.A.」から2017年発売のシングル「Just You and I」までに発表された46曲に新曲6曲を加えた合計52曲を収録している。 「Just You and I」は10万ダウンロードを記録し、2017年のHot 100でも年間75位に入っている。25年間ヒットシーンを走り続けていたことがこのことからも読み取れるが、その軌跡を凝縮したベストアルバムとして本作は大きな需要を生み出した。
なお本作は当時配信未解禁となっていたが、圧倒的なCD売上が牽引しての総合1位という形となった。しかし総合年間TOP10を見ると、このチャートがCD売上だけではなく配信売上も考慮して作成されていることが分かる。
特に配信限定アルバムとなっていたMr.Childrenの2枚のベスト『Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25』『Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25』がCD売上の加点なく総合年間TOP10入りしていることは大きな特徴である。CD売上チャートだけ見ていては、このような作品が発売されていたことすら気づかぬまま終わってしまう。なおこの2枚は1年限定配信だったため現在は配信されていないが、その期間だけで10万ダウンロード以上を売り上げた。
TOP Artists
Billboard JAPAN TOP Artistsは、国内のアーティスト人気指標として最も有用な音楽チャートである。
TOP Artistsは上記Hot 100とHot Albumsの週間TOP300圏内での獲得ポイントをアーティストごとに集計する形で作成されている。ただし集計にあたりアルバムのポイントはシングルとの価格差を考慮して1.5倍されている。
アーティスト人気もかつてはオリコンが発表するアーティスト・トータル・セールスが人気指標の筆頭だったが、高価格商品であるCDやDVDを多く売った方が有利な設計になっているため、やはりアーティスト人気の「濃度」は計れても「量」を計るには不適切な指標になっている。
Hot 100が楽曲人気指標としての合格点を満たしたことで、そのデータを用いて決定されるBillboard JAPAN TOP Artistsもトータル・セールスに代わりアーティスト人気指標として使用することが可能になった。
1位は星野源。Hot 100の年間には1位となった「恋」のほか「Family Song」「SUN」の合計3曲がランクインしたほか、Hot Albumsの年間でも前年以前に発売されていた『YELLOW DANCER』『Stranger』の2作がランクインするロングセラーとなり、これらのポイントが牽引する形での1位獲得となった。
星野源「Family Song」
このうち2017年発売曲では「Family Song」が配信25万ダウンロードを突破しており、Hot 100でも年間13位に入った。本曲は現代の家族愛をテーマにした温かみのあるソウルミュージックになっており、最高視聴率14.0%を記録したドラマ『過保護のカホコ』の主題歌としても親しまれた。
星野源 – Family Song (Official Video)
まとめ
以上がBillboard JAPAN年間チャートを用いた2017年のヒットシーンの振り返りである。2017年は音楽チャートの歴史を語るうえで非常に重要なトピックが幾つも生じた一年であったが、ここからビルボードは一気に普及を進めていき、ダウンロード売上やMV再生回数の楽曲人気指標としての認知も次年以降ますます進んでいくこととなる。
(次年2018年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)
(前年2016年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)