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2021年Billboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧

この記事では2021に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうち、オリコンと1位が異なった全13週をピックアップして回顧する。

 

Billboard JAPAN Hot 100とは、「社会への浸透度を計る」ことを明確に理念に掲げ、複数の要素も加味して作成されている総合チャートである。集計対象は、CD売上ラジオエアプレイダウンロード、ストリーミング、ルックアップ(PCによるCD読取り数)、MVTwitter、カラオケの8指標である。

 

2021年のBillboard JAPAN年間チャートは下記記事内で総括している。

 

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本記事で取り上げるBillboard JAPAN Hot 100週間チャート13週の比較対象はオリコン合算ランキングとするが、合算ランキングのCD重視設計により、オリコンの合算ランキングとCD売上ランキングの週間上位はほとんど同一の結果になっている。そのため、実質的にはビルボード総合チャートとCD売上チャートの比較となる。

 

なお本記事連載シリーズの執筆意図は、音楽チャートの不適切な設計上、高CD売上曲の陰に隠れてしまう「配信指標を主力とした人気曲」に適切に光を当てることにある。*1

 

 

 

1/13公開週1位 LiSA「炎」

 

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1/13公開週LiSA「炎」が2週連続通算8週目の1位を獲得した。年末年始につき新作CD発売数が少なかったためCD売上指標は1位が僅か1万枚となるほどの低水準となった当週はオリコン合算ランキングでも珍しく合算1位とCD1位が異なった。オリコン合算1位はNiziU「Step and a Step」だったが、オリコンはCDシングル『Step and a Step』のc/wである「Make you happy」の配信売上や再生数も「Step and a Step」のポイントとして集計していた。つまり「Step and a Step」と「Make you happy」の2曲のポイントが合計されていたことで当週合算1位となったのである。ビルボードは作品単位ではなく楽曲単位の集計であるためこうしたカラクリは起きず、引き続き配信2万ダウンロード、ストリーミング970万再生を記録するなど圧倒的な勢いが持続していたLiSA「炎」が総合1位を継続した。

 

「炎」はタイアップ先映画「鬼滅の刃 無限列車編」の内容に合わせた重厚なバラードナンバー。歌詞も映画の主要登場人物である煉獄杏寿郎の生きざまを描写したものになっており、映画のエンディングで流れる本曲は多くの感動を呼び起こした。映画が興行収入400億円を突破し歴代1位記録を樹立するほどの歴史的ヒットとなったこともあって「炎」も配信100万ダウンロード、MV2.3億再生、ストリーミング3億再生を突破するほどの歴史的ヒットとなった。

 

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「炎」の週間1位は当週が最後となったが、週間1位獲得週数通算8週歴代単独2位記録である。Billboard JAPAN Hot 100は「炎」の歴史的ヒットを週間単位で可視化することに成功したと言える。


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3/10公開週1位 Ado「うっせぇわ」

 

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3/10公開週の1位はAdo「うっせぇわ」CD売上ではBEYOOOOONDS『激辛LOVE/Now Now Ningen/こんなハズジャナカッター!』が1位だったが、その売上は5万枚と多くなかったため、ビルボードでは当時配信指標を中心に大人気となっていたAdo「うっせぇわ」優里「ドライフラワーによる一騎打ちとなった。前週までは一度も「ドライフラワー」を週間で上回ることがなかった「うっせぇわ」だったが、週刊文春報道による優里のイメージダウンや、MVが数週前にフルver.からショートver.に差し替えられたことなどから、当時の「ドライフラワー」の勢いの減速幅が「うっせぇわ」を上回ることとなり、当週は僅差で「うっせぇわ」に軍配が上がった

 

「うっせぇわ」は歌い手として活動していたAdoが2020年10月に配信したメジャーデビューシングルで、作詞作曲はボカロPのsyudouが手掛けた。圧倒的な歌唱表現力やタイトルを連呼するサビ、賛否両論を喚起する歌詞はインパクト抜群であり、アニメ仕様のMVの人気も相まって本曲はストリーミング2億再生、MV1.9億再生を突破する大ヒットとなった。


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なお優里「ドライフラワーは結局一度も週間1位を獲得できなかったが、この後も定期的なTV出演や他アーティストによるカバー等で注目を浴び続けたことで漸減傾向を非常に緩やかに抑え、2021年の年間1位を獲得した。


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年間1位となるほどの特大人気曲が週間1位を獲得できなかったことは、明らかにBillboard JAPAN Hot 100の週間チャート設計が不適切だったことによるものである。当週「うっせぇわ」に惜しくも及ばなかったことは施策の失敗や不運もあったが、「ドライフラワー」は当週以外にも週間2位を通算5週獲得しており、そのうち4週は高CD売上曲に1位を阻まれたものであった。該当高CD売上曲は年間では上位に進出していない。ビルボードは「ドライフラワー」の特大人気を週間単位で可視化することに失敗したのである。この「週間1位のCD偏重問題」は以下記事で詳述している。

 

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6/2公開週1位 BTS「Butter」

 

 

6/2公開週の1位はBTS「Butter」CD売上では日向坂46「君しか勝たん」が50万枚もの売上を記録して1位となったが、「Butter」は当週ストリーミングで週間2,993万再生という週間再生数歴代1位記録を樹立するほどの歴史的初動楽曲人気を示していた。一方日向坂46のCD売上50万枚は多いとはいえ歴史的水準と言えるほどのものではなかった。それでも2021年上半期までのBillboard JAPAN Hot 100の週間チャート設計ならば予測計算上は日向坂46が週間1位になっていたが、「週間1位のCD偏重問題」ビルボードも認識していたためか、下半期集計期間開始週となる当週よりCD換算率の引き下げが実施された。「Butter」はたまたま運良くこのタイミングに当たったこともあり週間1位獲得が叶った。ビルボードは「Butter」の歴史的人気を週間単位で可視化することに成功したのである。

 

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「Butter」は累計でも歴代最速記録となる所要6週でストリーミング1億再生を突破し、足元ではやはり史上最速でストリーミング3億再生に到達。今後も再生数を積み上げることは確実である。

 

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この歴史的大人気を可視化する形で「Butter」はBillboard JAPAN Hot 100で通算4週1位を獲得した。一方オリコン合算ランキングではビルボード以上にCD偏重設計となっているため「Butter」は週間最高位2位となり、該当4週は全て別の作品が1位となっている。オリコンの楽曲人気指標としての機能が失われていることが改めて露呈したと言える結果である。ということで、オリコンビルボードで1位が異なる週をピックアップしている当記事のシリーズでは、「Butter」がビルボード1位となった4週全てをピックアップして回顧することになる。

 

「Butter」は思わず体が動くようなダンスポップナンバーで、歌詞はバターの持つ甘さや滑らかさを比喩に用いた可愛らしい告白ソングになっている。重たいメッセージは込められていない(本人談)うえ楽曲時間も短いため、気軽に何度も聴いて楽しめる仕上がりになっている。


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6/9公開週1位 BTS「Butter」

 

 

6/9公開週も前週に続きBTS「Butter」2週連続1位を獲得した。CD売上ではV6『僕らは まだ/MAGIC CARPET RIDE』が12万枚の売上で1位だったが、「Butter」は当週もストリーミング週間1,872万再生、MV1,134万再生を記録するなど引き続き猛烈な勢いを維持しており総合では逆転が生じた

 

6/30公開週1位 星野源「不思議」

 

 

6/30公開週の1位は星野源「不思議」CD売上では関ジャニ∞「ひとりにしないよ」が20万枚の売上で1位、「不思議」は13万枚の売上で2位だったが、「不思議」はストリーミングでも513万再生を記録するなど各指標でバランス良くポイントを積み上げたことで関ジャニ∞を上回り、「Butter」にも僅差で競り勝ち総合1位を獲得した

 

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「不思議」はドラマ「着飾る恋には理由があって」主題歌。タイアップ先からのオーダーである「キュンとくるラブソング」を星野源なりに表現した楽曲となっている。何かと生き辛い社会の中で異なる二人が惹かれ合うことの神秘性を表現した歌詞や、ファルセットを多用した優しさ溢れる歌唱表現などが支持され、本曲はストリーミング5,000万再生を突破するヒットとなった。


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7/7公開週1位 BTS「Butter」

 

 

7/7公開週BTS「Butter」が返り咲き通算3週目の1位を獲得した。CD売上ではNEWS「BURN」が14万枚の売上で1位だったが、「Butter」は当週もストリーミング1,376万再生、MV619万再生を記録するなど引き続き猛烈な勢いを維持しており総合では逆転が生じた

 

7/14公開週1位 BTS「Butter」

 

 

7/14公開週BTS「Butter」が2週連続通算4週目の1位を獲得した。CD売上ではENHYPEN「Given-Taken」が23万枚の売上で1位だったが、「Butter」は当週もストリーミング1,406万再生を記録するなど引き続き猛烈な勢いを維持しており総合では逆転が生じた

 

7/28公開週1位 BTS「Permission to Dance」

 

 

7/28公開週の1位はBTS「Permission to Dance」CD売上ではKinKi Kids「アン/ペア」が17万枚の売上で1位だったが、「Butter」に続く全英詞の新曲として高い注目を集めていた「Permission to Dance」は当週ストリーミング1,558万再生、MV525万再生を記録するなど圧倒的な初動楽曲人気を見せており、総合ではKinKi Kidsを上回った

 

「Permission to Dance」もストリーミング1億再生を突破する大人気曲となった。本曲は長引くコロナ禍で制限の多い生活が続く中、タイトルのとおり「踊ることに許可はいらない」というメッセージで人々を元気づける爽やかなダンスナンバーになっている。


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10/27公開週1位 LiSA「明け星」

 

 

10/27公開週の1位はLiSA「明け星」CD売上ではSTU48「ヘタレたちよ」が23万枚の売上で1位だったが、STU48のCD以外の指標の加点は乏しかった。アニメ「鬼滅の刃」主題歌として高い注目を集めていた「明け星」は当週7万ダウンロード、ストリーミング436万再生を記録したが、特にダウンロードの初動売上7万は2021年の初動ダウンロード売上3位の高水準であり、この圧倒的な初動楽曲人気が可視化される形で総合1位となった。

 

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鬼滅の刃 無限列車編」は前述したとおり映画が歴史的ヒットを記録したが、その大人気を受けてTVアニメシリーズとしても再編集され放送されることとなり、「明け星」はその主題歌となった。「炎」は主要登場人物である煉獄杏寿郎の生き様にスポットを当てたバラードだったが、「明け星」は無限列車編の全体的な世界観をイメージさせるドラマティックな曲調に仕上がっており、妖艶なLiSAの歌唱も楽曲の魅力を引き立てている。


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11/10公開週1位 BE:FIRST「Gifted.」

 

 

11/10公開週の1位はBE:FIRST「Gifted.」CD売上ではINI『A』が49万枚の売上で1位、「Gifted.」は21万枚の売上で2位だったが、配信ではINI「Rocketeer」が1ヶ月以上前に先行解禁済みだったのに対し「Gifted.」は当週一斉解禁としていたため、初動需要のある「Gifted.」が優勢となり、総合でもこの配信指標の加点でCD売上差を逆転した。

 

BE:FIRSTもINIもこれがデビュー曲であり、注目度の高いボーイズグループ2組の同時デビューとあって、音楽チャートでの1位争いの行方にも両者のファンダムを中心に注目が集まった。両者のファンダムが1位を目指すべく熱量の高いチャート貢献活動を展開した結果、CD売上だけでなく配信指標にもファンダムの過熱が反映され、特にストリーミングでは両曲ともに週間1,000万再生を超える高水準を記録した。

 

両者のストリーミング週間1,000万再生超えの主因がファンダムの過熱であると言える根拠が、ストリーミング再生数に占めるSpotify再生数の割合である。以下にBillboard JAPAN集計のストリーミング再生数とSpotifyのデイリー再生数の相関表を示す。赤枠が当週分を指す。

 

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これを見ると、当週のSpotify割合は「Gifted.」が3.2%、「Rocketeer」が2.6%である。しかし他の上位曲は17%~22%の水準で推移しており、これが平均的なSpotify割合の水準である。Spotify割合が平均レンジよりも著しく低いということは、別のサブスクリプションサービスに再生数が偏っていることを意味するが、主要サービスの中で両曲が当時上位にランクインしていたのはLINE MUSICである。LINE MUSICはSpotify等のサービスと異なりアカウントごとの再生数上限設定がないためファンダムの過熱が反映されやすいと考えられている。

 

こうして両ファンダムの過熱が反映された結果、史上稀に見るハイレベル且つ僅差の1位争いとなった当週は、「Gifted.」が僅か509点差で「Rocketeer」を退け1位を獲得した

 

激闘の1位争いが話題となった「Gifted.」だが、もちろん楽曲内容にも注目が集まっていた。従来の国内ボーイズグループのデビュー曲とは一線を画す荘厳な楽曲の雰囲気は、国内ではw-inds.を想起させる先鋭的なトラックで形成されており、今後の活躍が国内音楽のトレンドにどのような影響を与えるのかが楽しみな仕上がりになっている。


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11/24公開週1位 なにわ男子「初心LOVE」

 

 

11/24公開週なにわ男子「初心LOVE」が前週に続き2週連続1位を獲得した。CD売上ではNEWS「未来へ」が13万枚の売上で1位だったが、「初心LOVE」は発売2週目ながらもCD売上7万枚を記録したほか、YouTubeに当週Dance ver.がフルサイズで新規公開されたことでMV357万再生を記録し自己最高週間MV再生数を更新した。こうした勢いが反映されたことで総合ではNEWSとのCD売上差を逆転し1位を維持した。

 

「初心LOVE」はなにわ男子のデビューシングル。煌びやかな胸キュンポップナンバーであり、年相応の可愛さが多くのリスナーを虜にした。TikTokを用いたダンスチャレンジ企画も楽曲の普及を後押しした。YouTubeチャートでは2週連続1位を獲得している。こうした動向からは、もしダウンロードとストリーミングでも楽曲が解禁されていればより広く楽曲が普及していたと推測することができる。未解禁となっていることがひたすらに惜しい。


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12/15公開週1位 Aimer「残響散歌」

 

 

12/15公開週の1位はAimer「残響散歌」CD売上ではSEVENTEEN「あいのちから」が24万枚の売上で1位だったが、アニメ「鬼滅の刃」主題歌として高い注目を集めていた「残響散歌」は初動で8万ダウンロード、ストリーミング1,051万再生を突破する圧倒的な初動楽曲人気を見せた。初動8.8万ダウンロードは2021年最高記録であり、ストリーミング初動1,000万再生突破もLINE MUSICキャンペーンを実施していない楽曲では国内史上初の達成となる快挙であった。この歴史的初動を反映する形で総合では「残響散歌」が「あいのちから」に大差をつけて1位を獲得した。

 

「残響散歌」は「鬼滅の刃 無限列車編」の後に続くシリーズである「遊郭編」の主題歌である。「遊郭編」では宇随天元が主要登場人物として活躍するが、宇随の派手なキャラクターを表現するように「残響散歌」は疾走感のある華やかなサウンドに仕上がっており、Aimerの独特な歌声により楽曲の個性が確立されている。


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12/29公開週1位 Aimer「残響散歌」

 

 

12/29公開週Aimer「残響散歌」が返り咲き通算2週目の1位を獲得した。CD売上ではBUMP OF CHICKEN「なないろ」が1位だったが、「なないろ」は配信では7ヶ月も前に先行解禁済みだったため楽曲人気需要のピークは既に終了していたほか、当週のCD売上も付属特典のライブ応募シリアルが牽引してのものであったため、当週のCD売上以外の指標の加点は乏しかった。そのCD売上も10万枚と多くなかったため、総合では当週も引き続きフル配信2万ダウンロード、ストリーミング890万再生を記録する圧倒的初動を継続していた「残響散歌」が1位となった。

 

まとめ

 

以上が2021年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうちオリコンと1位が異なる週の振り返りとなる。

 

Billboard JAPAN Hot 100もオリコンほどではないにせよやはりCD売上の比重が高すぎる週間チャート設計になっており、配信指標で高動向を示した人気曲でも週間1位を獲得できない事例がまだ多く存在する。それでもオリコンと比較する手法によりある程度該当人気曲を浮かび上がらせることが可能となっている。ビルボードはCD売上指標の比重を段階的に引き下げており、2022年は週間チャート単位での楽曲人気可視化体制の構築がより進展することを期待したい。

 

(次年2022年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧はこちら↓)

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(前年2020年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧はこちら↓)

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*1:CD売上指標は楽曲人気指標としては一切使用できなくなっているが、アーティスト人気の濃度を計る目的や、各アーティストがどれほどの利益を生んでいるのかを計る目的としては有用である。