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第72回(2021年)NHK紅白歌合戦歌唱曲の楽曲人気データ

この記事では、第72回(2021年)NHK紅白歌合戦歌唱曲の楽曲人気データを整理し、注目曲をピックアップする。

 

事前に発表されていた歌唱曲順に並べた全体表は以下のとおり。過去2年以内に発売された楽曲は発売年を赤字表記している。各項目で大ヒット基準を超えている数字も赤字で記載している。過去2年以内に発売された大ヒット曲は行を黄色にしている。

 

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楽曲人気指標として使用可能なデータ

 

以下別記事で説明している。

 

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この内容に加えて、ここでは紅白過去歌唱回数も参照している。売上がさほど高くない過去の曲でも、長く歌い継いでいくにつれて人気が出る曲もある。紅白で複数回歌われているということは、それだけ世間の需要も大きいということであるとみなせる。過去1回以上歌われているならば人気曲と言えるだろう。

 

なお、以上で示したヒット基準に達していない曲は紅白出場の資格なしなどと言うつもりは毛頭ない。秋川雅史千の風になって」のように、紅白出場前はほとんど知名度がなくとも、紅白歌唱をきっかけに大ヒットに至る曲もある。そのような楽曲も視聴者を満足させる自信があってこその選出であると考える。

 

前半歌唱曲ピックアップ

 

前半の歌唱曲を抜粋した楽曲人気データは以下のとおりである。

 

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DISH//「猫」は2017年8月に発売されたシングル「僕たちがやりました」のカップリングナンバー。あいみょんが作詞作曲を手掛けていたが当時はブレイク前だったので、ファンしか知らないような曲だった。しかし2020年3月に人気YouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEにボーカル北村匠海が出演し「猫」をパフォーマンスしたことで人気が広く普及。この動画はMV1.6億再生を突破した。

 

この人気を受けて2020年4月にはDISH//としてこの映像のアコースティック音源を「猫 〜THE FIRST TAKE Ver.〜」として配信で発売。原曲とともにダウンロード売上とストリーミング再生数を伸ばし、両曲ともにフル配信25万ダウンロード、ストリーミング2億再生を突破する大ヒットとなった。合計すれば配信50万ダウンロード、ストリーミング4億再生となる。この経緯から「猫」は2020年の大ヒット曲と言えるが、何故か2020年は紅白出場とはならず、2021年になって出場が叶った。紅白では原曲が歌唱曲となったが、原曲は2020年4月に公式ライブ映像が公開されており、これもMV3,000万再生を突破している。


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「Take a picture」は2021年3月に配信されたNiziUの2ndシングル表題曲。曲中のシャッター音も印象的な爽快なダンスナンバーであり、かけがえのない青春の一瞬一瞬を写真に撮って焼き付けようという歌詞も相まって前向きな気持ちにさせてくれる楽曲である。自身が出演するコカ・コーラのCMソングとしても広く普及したこの曲は、フル配信10万ダウンロード、ストリーミング1億再生、MV7,000万再生を突破した。


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Awesome City Club「勿忘」興行収入38億円を突破した映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソングとして2021年1月に発売された。長年付き合っていた恋人との別れを描いた歌詞がツインボーカルやギターソロで表現されている。映画内で本曲は流れないものの、その親和性の高さから、映画の人気拡大とともに本曲にも注目が集まった。各指標の数値はフル配信10万ダウンロード、ストリーミング2億再生、MV4,000万再生を突破している。

 

特にBillboard JAPANのストリーミングチャートでは3月に2週に渡り週間1,000万再生超えを達成したが、複数週の週間1,000万再生超えを達成した2021年発売曲は他にBTS「Butter」「Permission to Dance」の2曲しかなく、国内アーティストの楽曲では「勿忘」が唯一である。2021年のヒットを語る上で外せない大ヒット曲であることがこのことからも読み取れる。


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まふまふ「命に嫌われている。」ボカロPカンザキイオリが2017年8月に公開したボカロ曲を歌い手のまふまふがカバーした曲である。2018年1月にYouTubeに投稿された歌ってみた動画はMV1.1億再生を突破したが、歌い手の楽曲のMV1億突破は天月「小さな恋のうた」以来で、ボカロ曲のカバーとしては初の快挙となった。命に対する考え方を深く問う歌詞とまふまふの男性とは思えない高音による絶唱は多くのリスナーに強い印象を与えている。


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後半歌唱曲ピックアップ

 

後半の歌唱曲を抜粋した楽曲人気データは以下のとおりである。

 

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平井大「Stand by me, Stand by you.」は2020年9月に配信されたラブソング。アコースティックギターと優しい歌声で奏でられた温かみのあるサウンドと、大切な人と過ごす幸せな日常を描いた歌詞が親近感を呼んだことで、TikTokなどのSNSで本曲を用いたカップル動画の投稿が盛り上がった。当初はノンタイアップだったが、2021年に入ってからマイナビウエディングのCMソングに起用されるなど、2021年に渡って楽曲の普及が持続した。各指標の数値はフル配信10万ダウンロード、ストリーミング2億再生、MV5,000万再生を突破する大ヒットとなった。


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坂本冬美夜桜お七は1990年代を代表する演歌のヒット曲である。紅白では過去7回歌唱されたことがある定番曲であり、今回が8回目の歌唱となる。実際に2000年代以降も楽曲の普及が続いており、本曲はフル配信10万ダウンロードを突破している。印象的なサビのメロディーと歌詞や演歌にしては珍しいアップテンポな曲調といった要素が普段演歌を聴かない層にもアプローチしている要因と考えられる。


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藤井風「きらり」はHonda「VEZEL」のCMソングとして2021年5月に発売された。ドライブにも合う軽快なサウンドと歌詞が人気となった本曲は発売直後からストリーミング指標で高動向を見せ、各指標の数値はフル配信10万ダウンロード、ストリーミング1億再生、MV4,000万再生を突破した。藤井風は30代以上の層からの支持の割合が高く、そのためその世代に馴染みの深いCDやダウンロードの指標での高動向は前年までにもみられていたが、新たな音楽の聴き方であるストリーミングでの1億再生突破は自身初である。この曲で20代以下の層の新規ファンを開拓したことが窺える。今般全世代が注目する紅白歌合戦へ満を持しての初出場となった。


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YOASOBI「群青」アルフォートとのコラボ作になっており、同CMのストーリーテキスト「青を味方に。」を原作として制作された。このテキストは絵を描くことを生業に選んだ若者の背中を押す内容となっており、「群青」の歌詞も「好きなものへ向き合う葛藤」を表現したものになっている。そのメッセージ性は絵に限らず何らかの夢を追う若者を勇気づけることとなった。楽曲中に取り入れられた合唱パートがもたらす高揚感も支持された。

 

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この曲は2020年9月発売曲だが、2021年1月にはTHE FIRST TAKEに出演しこの曲を披露したほか、2021年8月にはスッキリ!で全国高校生ダンス部を応援するダンスONEプロジェクト'21のテーマ曲に選ばれるなど、その人気はむしろ2021年になって拡大した。各指標の数値はフル配信10万ダウンロード、ストリーミング3億再生、MV7,000万再生を突破している。


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鈴木雅之「め組のひと」は自身がリーダーを務めるバンドラッツ&スターの代表曲をソロでセルフカバーした曲である。原曲は1983年4月に発売され62万枚を売り上げるヒットとなったが、2010年以降もラッツ&スターの代表曲として普及し続け、フル配信10万ダウンロードを突破している。フル配信10万ダウンロード突破はシャネルズ時代の楽曲を含めても自身唯一である。2010年代後半にはその特徴的な決めポーズの振付がTikTokで流行し、倖田來未のカバーがフル配信10万ダウンロードを突破するなど、今なお新たなリスナーを獲得し続けている。ソロという形ではあるが、この曲が紅白歌唱曲に選ばれたのは初となる。


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「天体観測」は2001年3月に発売されたBUMP OF CHICKENの3rdシングル。青春のストーリーを秀逸な歌詞とバンドサウンドによって鮮明にイメージすることができるこの曲は言わずと知れたBUMP OF CHICKENの代表曲である。当時のCDシングル売上は58万枚で、CDバブル崩壊直後の発売だったためミリオンには届いていないが、その後も世代を超えて普及し続けた結果、2010年代以降に解禁された配信でMV1億再生、ストリーミング5,000万再生を突破している。NHK朝の連続テレビ小説の主題歌となった新曲「なないろ」とのメドレーという形で今般初めて紅白歌唱曲に選ばれる運びとなった。


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楽曲人気データを用いた紅白勝敗事前予想

 

この項目では、今年2021年の紅白歌唱曲を紅組と白組で分け、楽曲人気を示す数字の合計(最下行)を比較することで、今年の紅白勝敗を事前予想する。

 

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この楽曲人気データを見ると今年は紅組と白組で拮抗している。昨年は紅組の方が高人気楽曲を揃えることができている状況が一目で分かるほどに圧倒的な差があり実際の結果も紅組の大勝だったが、今年はそこまで分かりやすい差はついていない。

 

仮に当ブログ記事「ヒット曲の定義」に基づいて本表上のデータを「1ポイント=3,000万ストリーミング=3,000万MV=10万ダウンロード=10万シングル=紅白過去歌唱数1回」でポイント化すると、紅組77.2点、白組78.1点となる。そのためここでは白組優勝を予想する。しかしここまで僅差であればどちらが優勝してもおかしくはない(ちなみに今年はシステム上紅白同点優勝の可能性がある)

 

もっとも、大前提として紅白の勝敗はこれだけで決まるものではない。当日サプライズ歌唱される楽曲がある可能性や、当日の空気やパフォーマンスにも左右されると思われる。さらに言えばそもそも紅白の勝敗は肩の力を抜いて楽しむ余興である。一番重要なのは各アーティストによる素晴らしい楽曲パフォーマンスである。

 

結果振り返り

 

勝敗は会場審査員票視聴者審査員票ゲスト審査員票の3部門によって争われ、結果はこのうちの会場審査員票と視聴者審査員票を制した紅組の優勝となった。ただその内訳を見ると、事前に予想したとおりの接戦になっており、白組もゲスト審査員票を制したほか、会場審査員票と視聴者審査員票でも紅組に肉薄した。審査方法は昨年に引き続き楽曲人気の反映が可能な設計だったと言える。

 

当日サプライズ歌唱された楽曲も追加した歌唱曲データの完全版は以下のとおり。

 

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当日追加で歌唱されたのは、藤井風「燃えよ」、布袋寅泰「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」、MISIA「Higher Love」の3曲。特に藤井風は会場へ生出演すること自体がサプライズであり、自身が作詞作曲した「Higher Love」ではMISIAとの生のコラボレーションが実現した。

 

前年までの数年間はメドレー形式で歌唱するアーティストが多い傾向が続いており、実際にメドレーで何の曲が歌唱されるかは当日にならないと分からないというケースが多かった。しかし2021年はそのようなメドレー形式がほとんど無くなった。

 

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事前に歌唱曲を公表しないメドレー形式の多さは、紅白歌合戦の選出における楽曲軽視、アーティストのネームバリュー重視を意味すると解釈可能だが、そのようなケースが激減したことは、楽曲重視の方向性へと事態が改善されたと解釈できるものである。さらに言えば、「当日判明する歌唱曲」の減少は、その分数少ない該当曲がより注目を浴びることにもつながる。実際に藤井風のサプライズステージは一際大きな反響を呼んだ。当年は2年ぶりに有観客での開催が実現したが、その演出にも更に磨きがかかったという印象もある。

 

mantan-web.jp

 

紅白歌合戦の歌唱曲重視傾向はコロナ禍突入を受けた前年から見られていたものだが、歌唱曲選出方法と演出のブラッシュアップにより、その傾向は更に加速した。当年の紅白歌合戦は次年以降の更なる進化にも十分に期待できると言える内容であった。

 

音楽業界にとって圧倒的高視聴率が見込める紅白歌合戦という番組の存在は非常に重要である。巨大なコンテンツであるがゆえに玉石混交の批判も多く受けるこの番組はその中で不要論も囁かれることがあるが、この番組を機に人気が大きく普及する楽曲も多く、番組が存在するメリットは非常に大きい。時代の変化に応じて番組の形が変わることがあろうとも、多くの素晴らしい楽曲が多くのリスナーにリーチする場所として、今後も紅白歌合戦が存続することを願う。

 

(次年2022年の紅白歌合戦歌唱曲楽曲人気データはこちら↓)

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