Billion Hits!

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「ヒット曲」の定義

この記事では音楽の「ヒット」の定義を考える。

  

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なぜ「ヒット」の定義が必要か

 

Wikipediaにおいて「ヒット」は次のように説明されている。

 

映画、テレビ番組、ポピュラー音楽、その他商品などにおいて、人気が出て「大当たり」することや「売れる」こと。ブレイク。

  

更に「ヒット曲」のページの概要は下記のとおりとなっている。

 

ヒット曲(ヒットきょく)とは、ポピュラー音楽の分野においてレコードやCDの売上等のヒットチャートで、ある程度のヒットを記録した曲のこと。順位において何位以内に入ればヒットしたといえるか、CD売上枚数が何枚に達する必要があるかなどの基準は明確ではない。

  

ここで重要なのは、「基準は明確ではない」と説明されているとおり、事実上「ヒット」の公式な定義が存在しないことである。

 

それでも、ある程度「ヒット」を計る指標が浸透していれば大まかなコンセンサスは形成される。CD市場が全盛期を迎えていた1990年代は、CD売上100万枚以上を記録した作品がミリオンセラーと呼ばれ、大ヒットの基準として認識されていた。

 

しかし、2000年代に入るとCD市場が縮小し、CDミリオンセラーが急減した。代わって配信ダウンロード市場が拡大を始め、100万ダウンロードを記録する曲が数多く誕生するようになったが、ダウンロードミリオンは大ヒットの基準として浸透しなかった。この要因としては、CD売上の集計で有名なオリコンがダウンロード売上の集計を一向に開始せず、CD売上だけのチャートをヒットチャートとして提示し続けたことが挙げられる。

 

そのCD売上チャートも、一人に複数枚購入させる商法が普及したことにより、それまでのように売上枚数を購入人数に読み換えることができなくなり、流行の指標として使用することが不可能になった。

 

こうして売上と人気に相関関係がなくなる中、オリコンが売上を重視したチャート設計を維持したことから、日本国内から総合楽曲人気チャートが消滅した。この事態は2006年に生じて以降、Billboard JAPAN Hot 100が新時代の楽曲人気指標として必要なチャート設計を整えた2017年まで約10年に渡り継続した。この長きに渡る楽曲人気チャートの不在により、ヒット認識のコンセンサスも消滅した。

 

大まかなコンセンサスすら存在しないという状況は、「今どの曲が人気なのか」という流行の適切な理解を阻害するものである。これでは売り手は「楽曲需要の利益への変換」を最大化できないので音楽業界にとっては損失である。リスナーも流行の体感と一致しないCD売上チャートや音楽賞レースばかり見せられることで不信感が募り、最新音楽へ興味を持つ機会が減少してしまう。「ヒット」のコンセンサスがなくなることによる悪影響は放置できない。

 

レコード大賞受賞が物議を醸したEXILEEXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~」(2013)↓)


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特にヒット認識の齟齬になり得る要因が、2000年代以降に進んだ「売上」と「楽曲人気」の乖離である。ビジネス上はダウンロードではなくCDを大量販売することが今でも最も利益になることは間違いない。一方でCD売上の情報は楽曲人気が知りたい層にとっては今や何ら価値を持たず、むしろCDよりも利益率が低いダウンロード売上やストリーミング再生数の方が重要な情報である。

 

こうして「ヒット」を「売上の多さ」の意味で用いる層と、「楽曲人気の高さ」の意味で用いる層が混在する状況となった。よって、まずは「ヒット」をどちらに定義するのか何よりも重要である。それにより、例えばAKB4837作連続ミリオンヒットなのか365日の紙飛行機を最後にヒット曲がないのか、といった具合に論調が180℃変わってくる。ヒットの定義が異なる二者同士でヒットの話をしても、永遠に議論は噛み合わない。何の生産性もない不毛な時間が過ぎるだけである。

  


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当ブログでは、「ヒット」を「楽曲人気が高いこと」と定義し、その上で話を進めていく。

 

指標ごとの「ヒット」のボーダーライン

 

次に考えるべきは、「どの指標でどれだけの数値を記録したらヒットと言えるのか」である。先に結論を言うと以下の一覧早見表のとおりとなる。

 

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この表は横軸で見ることで各指標の換算率も表している。ここではCD10万枚、フル配信10万ダウンロード、着うた50万ダウンロード、ストリーミング3,000万再生等価ヒットとし、以降もこの比率に合わせて換算率を設定している。

 

この換算率の判断の根拠は日本レコード協会RIAJ)の認定制度である。RIAJでは、各市場における売上や再生数が一定の数値を超えた作品に対して、その規模に応じた認定を賞として授与している。この認定の各指標の下限値がCD10万枚、フル配信10万ダウンロード、着うた50万ダウンロード、ストリーミング3,000万再生なのである。

 

www.riaj.or.jp

 

つまりこの下限値を超えない限り認定が授与されないので、この下限値に達していない作品をヒットと言うことは難しい。逆に、わざわざRIAJが労力を割いて認定を授与している作品をヒットしていないと言うことはRIAJの業務を否定することになる。CDシングルは例外とせざるを得ないが、それ以外の指標は基本的にこのRIAJ認定のボーダーラインを超えた曲をヒットと言うことになる。

 

続けて指標別に詳細に見ていく。

 

CD

 

2003年-2010年

 

CD市場は80年代後半から普及し始め、90年代に全盛期を迎えた。それに合わせて、RIAJでは1989年からゴールドディスク認定制度をスタートさせている。これはCDの出荷枚数で一定の数値を超えた作品に対して授与される賞である。

 

2003年6月まではこの認定の基準はジャンルに応じて細分化されており、その下限値は邦楽CD20万枚洋楽アルバム10万枚洋楽シングル5万枚であった。2003年7月以降は全ジャンルで認定基準が統一され、その下限値は10万枚となった。したがって、2003年以降のCDは10万枚がヒットしているか否かのボーダーラインとなる。

 

ただしこの認定は出荷枚数をベースとしており、売上枚数ではないことに注意が必要である。つまり、例え50万枚出荷したが40万枚売れ残り10万枚しか売れなかった作品でも認定数は50万となる。このことからも分かるとおり、出荷よりも売上の方がヒット指標としては適している。

 

幸い日本には、古くからCDの売上枚数を集計しているオリコンという知名度と権威を有した情報サービス会社が存在する。その枚数のデータは有料コンテンツではあるが、万単位で丸められた数字は多くの場面で引用されており、大ヒット作品の売上枚数はしばしばオリコンのデータが言及されている。

 

したがって、CD指標におけるヒットのボーダーラインはRIAJ認定が参考となるが、各作品の数字はオリコンの売上枚数を用いることが相応しい。

 

(2003年から2010年までの集計期間における最大CD売上作品はコブクロ「ALL SINGLES BEST」。収録曲中最大売上曲は「桜」↓)


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2011年以降

 

しかし、CD売上をヒット指標として使用できたのは2010年までの話である。

 

2011年以降は、既述のとおり一人に複数枚購入させる商法が普及したことで、その商法を大規模に展開できる一部の限られたアーティストの作品でチャート上位が埋まる状況がスタンダードとなった。この結果は楽曲人気に全く相関しない原因によるものである。

 

この「特定アーティストによる年間チャート上位の過度な独占」は、その指標が楽曲人気指標として使用できなくなったと判断する根拠となる重要なサインである。楽曲人気指標とされる年間チャートは多様なアーティストの楽曲によって彩られているはずであり、もし前例のない偏りが生じた場合は、楽曲人気に関係しない要因の影響力が看過できないほどに増していることを疑わなければならない。

 

1980年代までの楽曲人気指標だった人気TV番組ザ・ベストテンの年間ランキングでは、細川たかしが1982年に北酒場、1983年に矢切の渡し2年連続年間1位を獲得したが、1位から順に見た年間チャートの連続的な独占の規模としてはこれが最大であった。

 

1990年から2005年までのオリコン年間シングルランキングにおいては、特定アーティストが2年連続年間1位や年間TOP2独占を果たした例は存在しない。1989年以前では、ピンク・レディーが1977年に渚のシンドバッド年間1位、翌1978年に「UFO」「サウスポー」「モンスター」の順に年間TOP3した例が1位から順に見た年間チャートの連続的な独占の規模としては最大である。

 

このピンク・レディーの例では連続する2年間の年間TOP3が1位から順に4枠埋まったことになる。つまり、前例から言えば、楽曲人気チャートとして生じ得る年間チャートの連続的上位独占は1位から順に最大4枠ということになる。

 

ところが、2000年代後半以降のオリコンシングルチャートではこれを上回る規模の独占が常態化した。まずが2008年に「truth/風の向こうへ」「One Love」年間TOP2を独占、翌2009年に「Believe」「明日の記憶/Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~」「マイガール年間TOP3を独占した。ピンク・レディーを上回る5枠を独占したことになる。

   

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嵐の場合は、配信未解禁とすることによるCDへの売上集中と、所謂ジャニーズ商法と呼ばれる複数種販売によって、CD売上チャートにおける優位性を獲得した結果によるものであった。何れも楽曲人気をフラットに計ることを困難にする売上増加要因である。

 

この異常事態の発生により、CDシングル売上の楽曲人気指標としての有用性は完全に消滅したと言えた。それは2010年以降も嵐による年間上位進出が継続したことで裏付けられた。加えて、AKB48が所謂AKB商法を確立したことにより、楽曲人気に関係なく常時CDシングルミリオンセラーを出せる体制を整えた。2011年からはAKB48による年間上位独占が常態化した。

 

(AKB48の楽曲人気動向に関しては以下記事でまとめている↓)

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こうした状況になると、楽曲人気を主因としてCD売上を増減させている他アーティストの動向も、商法実施曲によって下位に押し出される形で光が当たらなくなり、CD売上で楽曲人気を把握することは現実的に言って不可能となった。こうして、CDシングル売上の楽曲人気指標としての機能は完全に終焉した。その役割は、楽曲人気の高さではなく、アーティスト人気の濃度を計る指標に変化したのである。

 

なお、CD売上が楽曲人気指標として使用可能だった期間を2009年までではなくあえて2010年までとした理由は以下記事で説明している。

 

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また、CDアルバム売上に関してはまだ辛うじて楽曲人気指標としての有用性が残っている。CD限定発売手法を採り続けるジャニーズ事務所所属アーティストの楽曲人気の把握は大変困難な状況になっているが、こうしたケースでは、アルバム売上のデータを頼りに人気曲を探っていくこととなる。*1

 

(アルバム売上歴代1位は宇多田ヒカル「First Love」。収録曲中最大売上曲は「Automatic」↓)


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ダウンロード

 

フル配信

 

縮小したCD市場に代わって普及した新たな市場がダウンロードである。ダウンロード売上は楽曲人気指標として注目される機会が適切に用意されなかったものの、実態としては2006年から約10年に渡って楽曲人気指標の主流に君臨していた。詳細は以下記事にまとめている。

 

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オリコンがダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったため、時代網羅的なダウンロード売上データは2006年からスタートしたRIAJのダウンロード認定でしか確認できない。

 

フル配信ダウンロード売上の認定ボーダーラインはCDのゴールドディスク認定と全く同一で、認定下限値も10万ダウンロードである。このことから、CD売上1枚フル配信1ダウンロードはヒット指標として等価で扱うことが相応しい。

 

CDの方がダウンロードよりも売値や利益率が高いことは、ビジネス上は重要だが、楽曲人気や流行を考える上では一切関係のない話である。「CD売上1枚」も、「フル配信1ダウンロード」も、「1人」が「その表題曲のフル音源を購入した」ことに変わりはないからである。

 

音楽の楽しみ方は人それぞれなので、より高い金額を払った人の方がその曲をより好きになっているとは限らない。RIAJの認定基準がCDとフル配信で同一となっていることからしても、楽曲人気の広がりを考える上では、フル配信1ダウンロードはCD売上1枚と等価で扱って然るべきである。

 

(フル配信売上歴代1位は400万ダウンロードを記録したGReeeeN「キセキ」↓)


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着うた

 

ただし、着うたのダウンロード売上となると話は別である。着うたとは、ガラケー市場が全盛期を迎えていた2000年代中盤に配信市場の主役となっていた楽曲販売方法で、その方法は楽曲をイントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、大サビといった具合に切り分け、そのパートごとに手頃な価格で携帯電話の着信音として販売するというものであった。

 

こうして稼がれた「着うた1ダウンロード」は、「1人」が「表題曲のフル音源を購入した」ことを意味しない。切り売りの着うたは1人で1曲の全パートを買いそろえることもあり得るので、そのダウンロード数は表題曲の購入者数に変換することができない。したがって、着うた1ダウンロードはCD売上1枚やフル配信1ダウンロードとは同じ意味を持たず、それらよりも価値が低い。

 

それを裏付けるように、RIAJのダウンロード認定では、着うたのみ認定下限値50万ダウンロードに設定されている。このことから、着うた売上は50万ダウンロードを超えないとヒットとは言えず、10万が認定下限値となっているCDやフル配信ダウンロードの1/5の価値しかないと見られていることが読み取れる。

 

2000年代後半には、着うたとフル配信の売上を単純合計したダウンロード売上がヒットの宣伝文句として飛び交っていたが、その結果として700万~800万ダウンロードといった現実味のない数字となってしまい、これもダウンロード売上がヒット指標として軽視される要因となってしまった。ダウンロード売上をチェックする際は、着うたフル配信の売上を別々に考えることが非常に重要である。

 

着うたの歴代ランキングは以下記事にまとめている。

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(着うた売上歴代1位は400万ダウンロードを記録したオゾン「恋のマイアヒ↓)


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MV・ストリーミング

 

結局ダウンロード売上は楽曲人気指標として不適切に軽視され続け、2010年代に入りスマートフォンが普及し着うた市場が消滅すると市場は縮小の一途を辿った。代わって台頭した新たな音楽の聴き方がストリーミングである。日本ではまずYouTubeが2010年代中盤より普及し、2010年代終盤になるとSpotifyなど多くの定額制音楽配信サービスが普及するようになった。それぞれの詳細データは以下記事にまとめている。

 

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ストリーミングとは、オンライン上の音源にアクセスして音楽を聴くという方法である。それまでは、CDやダウンロードにより楽曲を購入し、オフラインの手元で聴いて楽しむスタイルが主流だったが、この方法の普及により、楽曲が何回アクセスされ、再生されているかがオンライン上のデータに表れるようになった。

 

よって、この指標はCDやダウンロードとは桁が異なる。ストリーミングは「1人が気に入った曲を何度も再生する」ことが大前提となっているからである。気に入った曲ならば、ストリーミングで1回しか再生しないということはあり得ない。曲によっては1人100回、あるいは1,000回以上再生されることも大いにあり得る。

 

CDやダウンロード売上指標では、楽曲を購入したタイミングしか捕捉できず、その後何回再生されたのか、あるいは握手券だけ抜き取りCDは一度も再生されなかったのか、といった購入後の動向は捕捉できなかった。しかし楽曲を再生するごとに数字が加算されるストリーミング指標では、楽曲人気の高さだけでなく濃さも反映させることができる。

 

では、どれだけ再生されれば「ヒット」と呼べるのだろうか。RIAJでは2020年よりストリーミング認定を発足させた。その基準によると、認定下限値は3,000万再生となっている。よって各指標の認定下限値を踏まえれば、ストリーミング3,000万再生CD10万枚フル配信10万ダウンロード等価となる。

 

この比率をそのまま拡大させると、従来大ヒット基準とされていたCDミリオン及びフル配信ダウンロードミリオン等価になるストリーミング再生数は、3億再生ということになる。

 

しかし、ここで考えなければならないのがヒットのスパンである。つまり、1人が何度も再生することで数字が積み上がるストリーミング指標では、購入のタイミングしかカウントしないCDやダウンロードよりも、大台突破に長い時間が必要になることである。

 

現在のBillboard JAPANのストリーミングチャートの週間1位水準は1,000万再生前後である。つまり、大台の3億再生突破には、どれだけ高水準の動向を記録しても、30週は必要になる。発売から30週経過しないと大ヒットと呼べないというのは流石にナンセンスであり、速報性の欠片もない。

 

そこで、ストリーミングの大ヒット基準は数字を前倒しすることになる。その数字は、分かりやすさから言って1億再生が相応しい。Billboard JAPANでは楽曲が1億再生を達成したことを都度個別に記事にしているほか、RIAJ認定でも、1億再生突破のタイミングでプラチナ認定が授与される設計となっている。

 

「人気曲は何度も繰り返し再生される」というストリーミング指標の性質上、僅か10週や20週で1億再生を突破するような曲は、将来的に3億再生も突破する可能性が非常に高い。それならば、1億再生を突破した段階で大ヒットと言う方が効率的であり、いたずらに体感の大ヒット認識との間のタイミングがズラされることもなくなる。

 

この基準を適用すると、例えば10年かけて1億再生を突破した曲も大ヒットと言うことになる。こういった曲は流石に将来的に3億再生に到達する可能性は低いので、CDミリオンやフル配信ダウンロードミリオンよりも価値が低いと言える。しかし所要日数に応じて大ヒットと呼ぶか呼ばないか扱いを変えるというのは面倒臭すぎる。CDやダウンロード時代に比べ大ヒット判定が甘くなったと言えようとも、もう「ミリオン」は大ヒット指標の主役の座を降りている。今こそ新たな大ヒット認識基準を身につけるときである。

 

特大ヒット基準も同様の考えとしており、従来のダブルミリオンに相当する再生数は6億だが、RIAJ認定では5億再生突破のタイミングでダイヤモンド認定が用意されているので、ストリーミングの特大ヒットは5億以上と定義した。トリプルミリオン相当再生数もキリ良く10億以上としたが、現状ではまだ10億再生を超えた国内の曲は存在しない。将来的に出現することを気長に待つこととしたい。

 

(日本国内MV再生数歴代1位は6億再生を突破した米津玄師「Lemon」↓)


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(ストリーミング再生数歴代1位は6億再生を突破したYOASOBI「夜に駆ける」↓)


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ちなみに、LINE MUSICなどのストリーミングサービスによっては、アーティストが「新曲をたくさん再生することで特典を得られる」キャンペーンを展開していることがある。この商法がCDの複数商法と類似するのではないか、ストリーミングもヒット指標として信用できないのではないか、という声も時折聞かれる。ただ今のところその影響力は、ストリーミングの楽曲人気指標としての機能を消失させるほどまでには至っていない。その理由は以下のとおりである。

 

  • キャンペーンが再生数上昇に与える影響がCDの商法よりも僅少であること
  • CD指標のような「特定アーティストによる過度な年間チャート上位独占」がストリーミング指標では生じていないこと

 

例えば直近の実施曲である超特急「CARNAVAL」私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」BE:FIRST「Shining One」の推移を見ると、キャンペーンによって得られる再生数の上乗せは1,200万回程度である。これはヒット基準の3,000万再生に達していないうえ、大ヒット基準の1億再生の10%程度に過ぎない。商法次第で大ヒット基準を超える100万枚以上の数字上乗せが可能であることがAKB48によって証明されているCD売上指標と比べればまだ影響力は大きくない。よって現段階でストリーミング指標は楽曲人気指標として使用可能なデータとなっている。

 

オリコンBillboard JAPANのチャート設計比較

 

以上の話をまとめると、楽曲人気を考える上で妥当な各指標換算式はCD売上1枚(ただし2011年以降の作品に関しては換算率を更に大きく引き下げる必要がある)=フル配信1ダウンロード=ストリーミング300再生ということになる。これを踏まえたうえで、オリコン合算ランキングBillboard JAPAN Hot 100がそれぞれ適用している各指標換算式を比較してみる。

 

オリコン

 

下記ページにて換算式が明示されている。

 

www.oricon.co.jp

 

これによればオリコン合算ランキングの各指標換算式はCD売上1枚=単曲フル配信2.5ダウンロード*2=ストリーミング300再生となる。

 

この式の問題点は2点存在する。

 

  • CD売上の換算率が高すぎる
  • DL売上の換算率が低すぎる

 

この問題点はあくまでもオリコンを楽曲人気指標として使おうとした場合に生じるものである。実態としてはオリコンは楽曲人気指標としての機能性をとっくの昔に捨て売上指標としての道を歩んでおり、その意味では最も利益率が高いCDの換算率を高く、利益率が低いDLの換算率を低くする方法は妥当性が高い。

 

しかしオリコンは売上指標として必要な説明(上位進出作品が実施しているCD大量販売商法の説明)を怠り、まるで楽曲人気の多寡によってランキングが決定されているとでも言うかのような説明で多くの楽曲の人気を過大小にミスリードし続けている。この問題が改善されない限り、この批判は継続的に展開せざるを得ない。

 

Billboard JAPAN

 

こちらの換算率は公式に開示されてはいないものの、Chart Insightなどから推測が可能となっており、そこから導いた大雑把な各指標換算式はCD売上1枚(ただしこれはルックアップもここに含めた場合の考え方*3。このうちCDに関しては、一週間のCD売上が10万枚を超えた分の換算率が約1/10に下げられる。)=フル配信1ダウンロード=ストリーミング200再生となっている(2021年6月~適用)。

 

こちらはオリコンが抱える問題点2点が改善された設計になっている。CDに関しては、CD売上枚数だけでなく、ルックアップ(PCによるCD読取り数)指標によって、より多く聴かれたCD作品が上位進出するように設計されている。

 

また、今や何の商法も実施せずに一週間で10万枚以上のCD売上を記録できる作品は存在しないほどCD市場が縮小していることを踏まえ、10万枚を超える分のCD売上は換算率を約1/10に圧縮する措置を取っている。

 

なおこの措置は2017年より「30万枚以上」の基準で導入され、2021年下半期から「10万枚以上」に基準が更新されたが、これは「高CD売上曲が不利になった」のではなく「これまで高CD売上曲が有していた過度な優位性が是正された」という方向性で捉えることが適切である。

 

実際、措置導入後もCD売上を主力とした曲がBillboard JAPAN Hot 100の週間1位となるケースは多く、高CD売上曲が不利であるとは全く言えない状況になっている。本当にこの措置でCD売上の過度な優位性が是正されたのかに関しては、もう少し今後の週間チャート動向を注視して判断する必要がある。

 

しかしこの措置によりBillboard JAPAN Hot 100は2017年以降、年間チャートで特定の高CD売上アーティストが上位を独占する状況とはならなくなったことから、楽曲人気チャートとしての合格点を満たした。以降もチャート設計は改良が重ねられており、楽曲人気指標としての機能は年々強固なものに進化している。

 

ただし、ダウンロードに関してはオリコンよりも遥かに高い換算率になっているとはいえ、ストリーミングとの相対的換算率を考えるとまだ低い状況である。Billboard JAPAN Hot 100が今後換算式を変更する場合は、フル配信1ダウンロード=ストリーミング300再生の式となるようにダウンロードの換算率を引き上げることが求められる。*4

 

まとめ

 

ここまで長々とヒットの定義を考えてきたが、そもそもここまで考えなければいけなくなっていることが、総合楽曲人気チャートが日本国内に存在しなかった10年という長い月日の重さを感じさせる。本来はヒットチャートとしての機能を有していたオリコンがCD売上指標の中身の変質を適切に説明して然るべきだったのだが、オリコンは何の説明もなく楽曲人気指標の道を外れていき、結局多くの楽曲の人気が過大小にミスリードされる結果となってしまった。

 

実際に、ここで定義した「大ヒット曲」の発売年別曲数推移を見ると、楽曲人気チャートが日本国内から消滅し、CD売上指標の特定アーティストによる過度な独占が深刻化した2010年代前半に、大ヒット曲数が過去30年で最低水準に減少していることが分かる。

 

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※2021年8月28日時点 

 

2017年からはBillboard JAPAN Hot 100が楽曲人気指標として必要なチャート設計を満たし、新たな指標であるストリーミング知名度も順調に普及が進んでおり、それに応じて大ヒット曲数も90年代並みの水準に回復してきている。この調子でヒット認識のコンセンサスが形成され、人気曲に適切に光が当たるようになっていくことを祈るばかりである。

 

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元も子もないことを言ってしまえば、そもそも公式な定義が存在しない「ヒット」という言葉は、誤解を避けるためにも、安易に使うべきではない。当ブログでも極力「楽曲人気」などの言葉で言い換えて説明している。しかし「ヒット」という言葉が便利でキャッチーであることも事実であり、文章の流れによっては使用することもある。何れにしても、どういう定義・文脈で「ヒット」という言葉を使用しているのかが、使用者の意図を読み解く上でも重要なのである。

 

*1:楽曲人気はアルバム売上に反映されるケースもある。したがって、アルバム収録曲中一番人気曲はアルバムセールスを牽引したと見做し、アルバム売上枚数相当の人気となっていると考えることができる。

*2:なおバンドルはCDと等価の1DLで換算されているが、ダウンロード購入方法の主流は単曲購入であるため、ここでは省略する

*3:目安となる割合はおよそCD75%:ルックアップ25%。つまりCD売上規模の割にルックアップ数が低い(CDが聴かれていない)曲は、CD売上の25%に相当するポイント獲得を逸するイメージとなる。

*4:ストリーミングの換算率を引き下げる方法は、CD換算率がストリーミングに対し相対的に上がってしまうため、CD換算率の引き下げとセットで行わなければならない。