この記事では、2006年以降15年以上もの期間に渡って継続し、今なお僅かに残存している「日本音楽チャートのCD偏重問題」の2023年以降の現状を整理し解決案を示す。
「日本音楽チャートのCD偏重問題」の内容や歴史に関しては以下記事で詳述している。
「1位→TOP100圏外」推移の発生
問題の所在
現在日本国内で最も楽曲人気指標としての機能性・知名度・権威を有している音楽チャートはBillboard JAPAN Hot 100である。上の記事で詳述したとおり、CD偏重問題改善への歩みを進めてきたビルボードは、楽曲人気に関係しない要因で高CD売上を稼ぐだけでは年間TOP10内に進出できないチャート設計を2019年までに確立した。
以降もBillboard JAPANは、CD売上のポイント換算率を然るべき水準へ引き下げ続け、2022年には、週間1位が「年間上位に進出しない高CD売上曲」に占拠される状況も解決し、年間上位結果と週間1位結果が最低限リンクする状態を作り上げた。
これを以て「日本音楽チャートのCD偏重問題」は完全解決したかにも見えたが、2023年以降も、そうとは言い切れない現象がBillboard JAPAN Hot 100にて断続的に発生している。週間1位獲得曲が翌週TOP100圏外へ大暴落する最極端異常推移の発生である。
この推移が問題となる理由は以下のとおりである。
- そもそも「人気」が週間単位でここまで最極端な増減を示すとは考えにくい
- 最極端異常推移を許容すると総合ヒットチャートとしての規範が崩壊しかねない
一点目については、ザ・ベストテン・2010年までのオリコンシングルランキング・米Billboard Hot 100といった歴史的実績のあるヒットチャートでは「1位→TOP100圏外」どころか「1位→TOP50圏外」推移すら一度も発生したことがないことから帰納的に指摘できる。
65年以上の歴史を持つ米Billboard Hot 100における「1位からの急落ワースト記録」は、Jimin「Like Crazy」が2023年に記録した「1位→45位」である。
同様に55年以上の歴史を持つオリコンシングルランキングにおいて、2010年までの「1位からの急落ワースト記録」は、東方神起「Purple Line」とTOKIO「-遥か-」の2曲が記録した「1位→31位」だった。2011年になり、ぱすぽ☆「少女飛行」がその記録を一気に大幅更新する「1位→TOP100圏外」推移を史上初めて記録したが、オリコンがこの年から楽曲人気指標として一切機能しなくなっていたことは周知のとおりである。
なお、当時のオリコンランキング分析ブログ「The Natsu Style」は、「少女飛行」の推移を『前代未聞の不名誉記録』と表現していた。記事のコメント欄にもチャートに対する共感性低下や週間1位という権威の毀損に対する懸念の声が並んでいる。
もっと言えば本来は「1位→TOP10圏外」推移すら異常である。これは2006年にオリコンチャート分析ブログ「うっきーのチャートチェック」によって既に証明されている。
この記事では2006年にオリコンシングルランキングにて、3週連続で「1位→TOP10圏外」推移が発生したことを『異常事態』と表記し、『何かの警鐘なのかと疑ってしまいます』と述べている。実際にこの後、オリコンランキングが楽曲人気指標としての機能を失っていったことを踏まえれば、これは慧眼であったと言える。つまり当該推移の発生はチャート設計の問題と言えるのである。
そして二点目についても補足する。いわゆる「チャートハック」を許容し続けたらどうなるかは、AKB商法を容認し続けたオリコンランキングの末路によって既に結論が出ている。しかし、多かれ少なかれ、ヒットチャートは販促施策が反映されるものであり、「チャートハック」に該当するのか否かという点でグレーな施策は無限に存在する。その中身を一つ一つ確認して判断することは非現実的である。そのような中では、最終的にチャートアクションを目安として線を引いていかなければならない場面が現れる。
「1位→TOP100圏外」という推移は、外から見て順位が不明(非公表)な位置にまで急降下しているということであり、その順位が101位なのか、1000位なのか、0点で完全圏外となっているのか分からない。最極端推移を許容すると、チャートアクションを目安として線を引く手法が使えなくなり、やがて公平なチャートハック対策に窮していくことが懸念される。
そもそも週間1位結果がなぜ重要であるかについては、過去に以下記事で既述したとおりである。
問題発生状況
Billboard JAPAN Hot 100で2023年度以降に記録された当該推移は以下の3件である。参考までに当該推移記録曲の初動CD売上も併記する。
- 2023/4/5公開週 BiSH「Bye-Bye Show」 1位→TOP100圏外(CD初動28万枚)
- 2024/10/9公開週 Hey!Say!JUMP「UMP」 1位→TOP100圏外(CD初動22万枚)
- 2024/10/23公開週 Aぇ! group「Gotta Be」 1位→TOP100圏外(CD初動41万枚)
これらの3曲は何れも高CD売上を主力として総合1位を獲得する一方、翌週にはCD売上を大きく落とし、他指標の獲得ポイントも不十分であるため、当該推移を記録するに至っている。つまり当該推移発生原因はCD売上の換算率が高すぎるために生じており、これはやはり日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題の一環として位置づけられる。
これら3曲のCD初動売上はCD20万枚~40万枚台の水準となっているが、これはCD売上指標1位獲得曲の中で言えば平均以下~平均並の水準であり、決して多くはない。ここ数年のCD売上指標1位の平均水準は40万枚程度で高止まりしており、50万枚以上を記録する作品も年20作程度コンスタントに発生している中にあっては優遇すべき水準とも言えない。
1例目が発生した2023年4月から2例目が発生した2024年10月まで期間が空いているのは、この間YOASOBI「アイドル」→Ado「唱」→Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」と、歴史的な週間ストリーミング再生回数水準を記録する楽曲の誕生が続いていたからである。
以下に示す2023年度以降の週間1位変遷表を見ればこの模様は一目瞭然である。
- 2023年上半期

- 2023年下半期

- 2024年上半期

- 2024年下半期(2024/10/30公開週までの途中経過)

つまり現在のBillboard JAPAN Hot 100は、歴史的な週間ストリーミング再生回数を記録するヒット曲には週間1位を与え続けることができる一方、そういった楽曲の発生が途絶えると、再び高CD売上曲が過剰優位になってしまうチャート設計なのである。
なお「Bling-Bang-Bang-Born」の後を継いでストリーミング1位を独走したMrs. GREEN APPLE「ライラック」は、ストリーミング18週連続1位を記録した一方で、Hot 100では通算で僅か2週1位に留まっている。ストリーミング首位週数に対するHot 100首位週数の割合で言えば僅か11%であり、これは「アイドル」の87%*1、「唱」の86%*2、「Bling-Bang-Bang-Born」の90%*3と比較して極端に下がっている。「ライラック」においてはこれだけHot 100がそのストリーミング人気を反映できていなかったことになる。
では「ライラック」の再生回数水準が歴史的ではなかったのかというと、そうとも言えない。「ライラック」の最高週間再生回数は1,208万で、これは楽曲ごとの最高再生回数ランキングでは歴代19位だが、週間1,000万再生以上記録数で見ると19週を数えており、「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」に続く歴代3位を記録しているのである。

「唱」の最高週間再生回数が1,516万だったことを踏まえると、Hot 100においてはストリーミング週間1,200万~1,500万の水準の間に一気に大量の高CD売上曲が割って入る構図となっていることが示唆される。実際、「ライラック」はHot 100において通算8週2位を記録しているが、そのうち5週は高CD売上曲に1位を阻まれたものであり、「1位→TOP100圏外」推移を記録した「UMP」の1位もこれに含まれる。
以上により、Billboard JAPAN Hot 100が依然としてCD偏重チャート設計となっていることが指摘可能である。
問題改善案
ではどこまでCD換算率を引き下げればこの問題が解決するのか、以下より検証していく。CD売上指標はアーティスト人気の濃度を計る指標としては有用である。ヒットチャートは楽曲人気とアーティスト人気の掛け合わせで構成されるものでもあり、後者の成分が前者の可視化を阻害しない範囲で構成要素に含まれることは否定されない。ここではCDも重視すべきとする意見との妥協点を見出していきたい。
この解決方法はゴールシークで考える。要は上記3曲の「1位→TOP100圏外」推移が今後再現されない水準までCD換算率を引き下げれば良いので、その条件を満たす最低限のCD換算率引き下げ幅を模索する。
まずはそもそも現行CD換算率水準がどうなっているのかを確認する。Billboard JAPANはCDを含む各指標の換算率を公表していないが、Hot 100上位曲の週間総合ポイント・ポイント構成内訳・CD売上枚数を公表しており、これらから逆算してCD換算率を推測することは可能である。
Billboard JAPANは2017年以降、多過ぎるCD売上枚数に対してはポイント反映率を抑制する措置を取っている。公式には以下のとおり『係数』という用語で説明されている。
2017年度以降、私たちは各指標のレシオの平均値(半期毎)を基準とし、週間チャートにおける実数値が大きく乖離していると判断した場合、全指標の計算係数を見直し、その乖離をできる限り抑え、なおかつマーケットの占有率とも乖離しないレシオになるよう、独自の計算公式による個別の係数を設定する場合があります。
当該措置は2022年度以降、週間6万枚を超える分の売上に適用されていると当ブログでは推測している。
以上を踏まえ、まずは現行係数下において当該措置の対象となった作品のCD売上枚数とCD換算ポイントを網羅的にプロットした表を以下に示す。

これを見れば分かるとおり、週間6万枚を超える分の売上に対するポイント換算式は単純な一次関数式にはなっていない。係数が具体的にどのようにして設定されているのかは公表されていないため、なぜこうなっているのかは不明だが、少なくとも指摘できることは、なぜかCD10万枚相当ポイントとCD50万枚相当ポイントがあまり変わらない水準に設定されていることである。このことから、CD50万枚未満のエリアにおいては特にCD換算率引き下げ余地があるのではないかと導き出せる。これは既述した問題意識とも一致する。
このCD換算率を先述したゴールシークで引き下げたらどうなるのかを示した図は以下のとおり。ここでは引き下げ後のCD換算率をシンプルな一次関数式(図表内赤線)として提案し、特にCD換算率引き下げ幅が大きいエリアを赤色表示している。

このCD換算率引き下げ案を仮に2023/3/29公開週以降に適用したらどうなるかを示した表は以下のとおり。週間1位結果が変動する週のみを抽出した。

続いてこのシミュレーション結果の妥当性を検証する。
まず抽出された週においてHot 100首位を獲得した楽曲は、8割以上の確率で翌週TOP10圏外へ急落していたほか、100%の確率で同週のApple Music週間ランキングではTOP100圏外(またはそもそも未配信)であった。Apple Musicは国内最大サブスク市場シェアを誇るDSPであり、この週間TOP100にランクインしていない楽曲は、同週において十分な人気があったとは言い難い。よってこれらの週間1位結果が変動することに疑義はない。
次に変動後の週間1位結果を確認すると、Mrs. GREEN APPLE「ライラック」が5週、Ado「唱」が2週、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が1週、1位獲得週数を上積みしている。さらに米津玄師「LADY」、乃木坂46「人は夢を二度見る」、King Gnu「SPECIALZ」、Number_i「BON」が新たに1位を獲得している。
「ライラック」の1位獲得週数上積み規模は先述した問題意識と一致する。また「人は夢を二度見る」以外の楽曲は全て同週のApple Music週間ランキングでTOP100にランクインしており、1位となることに疑義はない。
乃木坂46「人は夢を二度見る」に関してはCD売上66万枚を主力としてポイントを獲得した楽曲であるが、同週のHot 100で首位となっていたTREASURE「Here I Stand」はCD売上31万枚。先述のとおり、CD50万枚未満のエリアの方がよりCD換算率引き下げ余地が大きいため、この週は結果が変動した。CD売上で2倍以上の差となっていてもCD換算点にあまり差が生じないチャート設計ゆえに総合順位で生じていた逆転が元に戻る形であり、違和感はない。
この例を見ても読み取っていただけるとおり、この案はCD売上を完全否定するものではない。Snow Man「タペストリー」、JO1「Tiger」、INI「LOUD」、Snow Man「BREAKOUT」、JO1「WHERE DO WE GO」、櫻坂46「I want tomorrow to come」といった、CD売上1位を獲得したCD主力曲は、本案適用後でも引き続きHot 100首位獲得が可能となっている。こうした例には、CD売上規模が50万枚を軽く超える圧倒的水準となっている楽曲や、CD以外の指標の加点も少なからず存在する楽曲が該当する。
なお本記事はここで例示した楽曲やアーティストおよびそのファンダムあるいはCDという存在そのものを批判するものではない。あくまでもチャート設計への批判である。どのようなチャート上位進出方法を採ろうともそれは各アーティスト陣営の自由である。それをどうチャートに反映するかが問題なのである。
まとめ
以上までで具体的な変更案を詳述してきたが、最も大事なことは「あるべき週間1位の姿(翌週TOP100圏外に大暴落するような楽曲が週間1位を獲得していない姿)の実現」である。そこに辿り着くならどのような設計変更方法でも良いので、私としても本具体案に拘るつもりは全くない。とにかく2023年度以降の週間1位結果が「あるべき姿」になるようチャート設計をゴールシークすれば良いのである。難しい話ではない。
CD換算率を引き下げることへの懸念点を挙げるとすれば、既に問題提起されている「ヒットチャートの低流動性問題」が悪化することである。しかし、チャートハック(と見做しうるような順位推移)を許容して低流動性問題を改善することは本末転倒であり、「しかるべきチャート設計を確立したのち、より多くのリスナーに多くの楽曲に興味を持ってもらえるような施策を考え実行する」という順序で進めるほうが、日本音楽業界の発展に資すると考える。
アーティストにとって自分の楽曲に光が当たるか否かは死活問題である。大袈裟ではなく週間1位結果はアーティストの人生を左右しかねない。日本音楽業界の未来をより良いものにするため、本問題の改善に向けた議論が進むことを願うばかりである。