この記事では音楽のヒットチャートが満たすべき必要条件を考える。
そもそも「ヒットチャート」とは何か
「ヒット」に公式な定義はないが、本記事では「ヒット曲」を「高人気曲」と定義し、「ヒットチャート」は「総合楽曲人気ランキング」と定義する。「ヒット」の定義に関しては下記記事で別途考察している。
ヒットチャート、つまり楽曲人気指標とされる音楽ランキングは「今支持されている曲は何か」を可視化し、「流行の共通認識」を世間にもたらすことで、最新音楽文化の受容理解発展を促す装置としての意義を持っている。1980年代にはTV番組ザ・ベストテンが、1990年代にはオリコンランキングがその役割を果たしてきた。
しかし2000年代になり、音楽の聴き方の主流がそれまでの「CD購入」から「配信ダウンロード購入」に移行すると、ヒットチャートは迷走し始める。それまでヒットチャートの主流だったオリコンは、ダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったのである。併せて、CD販売も、楽曲人気に頼らず付属特典の価値を高め一人に複数枚購入させる各種商法が普及し、オリコンはそれらをチャート上で容認(そのまま集計)し続けた。
こうして2000年代後半になるとオリコンで楽曲人気を計ることは不可能となった。一方でオリコンに代わる新たな楽曲人気指標もなかなか現れなかったため、それまでの惰性によりオリコンが楽曲人気指標として誤用され続けた。その結果、オリコンは世間の流行の体感と一致しなくなり、ヒットチャートは信用を失った。今何が流行しているのかが分かりにくくなったことで、世間の共通認識となるような大ヒット曲も減少した。
以下は大ヒット曲の直近30年間の発売年別曲数推移であるが、「ヒットチャートの消失」が深刻化した2010年代前半に大ヒット曲数が過去30年で最低水準に陥っていることがこの表から読み取れる。ヒットチャートの必要性と重要性を認識するには十分すぎるデータである。
※2022年12月31日時点
幸い、2017年になると新たなヒットチャートBillboard JAPAN Hot 100が台頭するようになり、この深刻な事態は解消した。しかしヒットチャートの消失期間が10年以上の長期に及んだことでその信頼は大きく損なわれているため、ビルボードの奮闘を以てしても世間からの信頼の完全な回復には時間を要している。また、新たな音楽の聴き方であるストリーミング配信の普及などもあり、現代のヒットチャートの在り方や適切な設計はまだ議論が熟していないと言える状況になっている。
「ヒットチャート」の必要条件
ヒットチャートの重要性と現状を整理したところで、ここからはあるべきヒットチャートの姿を言語化し整理してみる。以下、ヒットチャートが満たすべき必要条件を考察し、重要性が高いものから順に並べている。
①集計対象の網羅性
「集計対象の網羅性」とはその時々の主要な音楽の聴かれ方を一通り網羅的に集計し、楽曲人気の取りこぼしを限りなくゼロに近づけることである。
例えば主要な音楽視聴方法がCD購入とダウンロード購入である場合は、両者を合算集計しなければならず、どちらか一方のみの集計では不適切である。配信限定発売曲はCDチャートにランクインすることは不可能であり、逆も然りである。
(配信限定曲ながらダウンロードミリオンの大ヒットとなったシェネル「ビリーヴ」(2012)↓)
人気を博している曲がチャート上位にならないどころかランクインすらできないという事態は楽曲人気チャートとして最悪の状況である。いわば大前提が壊れていると言えるものであり、これを満たしていないチャートは総合楽曲人気指標にはなり得ない。
②特定アーティストによる年間上位独占が生じない設計になっているか
大前提となる集計対象の網羅性が満たされれば、次はそれらの集計対象をどのようにランキング化するかに話が移る。
ここで定義するヒットチャート、すなわち楽曲人気チャートは、当然に楽曲人気量がチャート結果決定の主要因でなければならない。楽曲人気に関係しない要因がチャートに大きな影響を与えてしまっては本来の機能が失われてしまうため、そういった要因はチャート設計を調整して影響力を薄める必要がある。
アーティスト陣営としては、なるべく自身の曲をチャート上位に送り込みたいため、チャート設計ルールの範囲内であらゆる施策を講じる。こういった商法の実施自体は咎めるものではなく、音楽チャート結果への批判が商法実施アーティストに向くことはあってはならない。必要なのはチャート設計の調整である。これを怠ると、商法は再現性と拡張性を身につける形で影響力を無限に拡大させていき、チャート上位が商法実施可能な特定のアーティストにより独占されることになる。
文化は多様性があってこそ成り立つものであり、楽曲人気指標とされるチャートが特定のアーティストの楽曲で過度に独占されることは起こり得ないはずである。よって、年間チャートが特定アーティストの楽曲で独占されている音楽チャートは楽曲人気指標として不適切なチャート設計になっている可能性が非常に高い。
なおこれはあくまで最低限必要なチャート設計である。これだけで満足することなく、次はそういった要因を主力とした曲がそもそも年間上位に進出しないようにすることが求められる。具体的にはやはり最も注目が集まる年間TOP10結果がそういった要因に干渉されないようにしたい。
年間チャートの設計が整ったら次は週間チャートに移る。週間チャート上位曲がそのまま年間チャート上位に入ることが本来あるべき姿であり、もしそうなっておらず、週間1位面子と年間上位面子が乖離している場合は、週間チャート設計が不適切になっていることを意味する。この乖離は例えば「年間TOP20ランクイン曲のその年の週間1位獲得週数」で可視化される。理論上、20曲が全て週間1位となっていれば、該当週は20週存在するはずである。それを下回っている場合は、不適切な週間1位結果が多くなっていることを意味する。
逆に言えば、商法影響力拡大期は真っ先にこの週間1位に異常が生じることが考えられるため、週数が20週未満となった場合は早急にチャート設計の変更を検討しなければならない。これを怠れば事態の更なる悪化は避けられない。
③権威と知名度
せっかく集計対象の網羅性を確保し、適切なチャート設計を整えたとしても、そのチャートに権威と知名度がなければ意味が無い。どこの馬の骨とも分からない個人や法人がチャートを発表していても信用は得られないし、誰も見向きもしない。これを獲得するためには、着実に楽曲人気チャートとしての実績を蓄積するとともに、関係各所に営業をかけて自身のチャートを宣伝し、利用してもらうよう働きかけなければならない。
④ランキング決定指数の公開
順位が公開されていても、その順位を決定している指数が公開されていなければ、絶対的な人気量が把握できない。順位はあくまでも相対的な指標であり、特に週間では水準の違いにより同じ指数でも順位が大きく異なることは多々起こりうる。最低でも週間TOP10の指数は公開されていなければならない。
チャート別比較
一通りヒットチャートの必要条件を整理したところで、主要な音楽チャートをピックアップしてこの条件を照らし合わせ、各チャートの楽曲人気指標としての機能性を検証する。上記条件①~④は全て満たしている必要があり、一つでも満たしてない条件(×)があればそのチャートは楽曲人気指標としては不合格である。ここではザ・ベストテン、オリコン、COUNT DOWN TV、Billboard JAPAN Hot 100を取り上げる。検証結果一覧表は以下のとおりである。
続けてチャート別に詳細に見ていく。
ザ・ベストテン
ザ・ベストテンは1978年から1989年にかけて毎週放送されていた音楽ランキング番組で、この期間の楽曲人気指標の主流に君臨していた。その功績から伝説的な番組として扱われており、今でも回顧対象に挙げられることが少なくない。この番組内で放送されていたランキングの設計を改めて上記4条件に沿って振り返る。
- 集計対象の網羅性
ランキングの構成要素は、レコード売上、有線放送リクエスト、ラジオリクエスト、はがきリクエストの4指標である。レコード売上だけでも十分であるところを、有線、ラジオ、はがきを加えることでより網羅性を高めている。
- 特定アーティストによる年間上位独占が生じない設計になっていたか
1位から順に見た年間チャートの連続的な独占の規模としては、細川たかしの2年連続年間1位獲得が最大であった(1982年「北酒場」、1983年「矢切の渡し」)。この2曲は当時楽曲人気指標として機能していたレコード売上でも十分な成績を残している。この程度の規模であれば何の問題も無い。
年間TOP10まで視野を拡大しても、ランクインした曲は全てレコード売上20万枚以上を記録しており、売れていない曲のランクインは許していなかった。「年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数」も20週を下回ったことは一度も無い。
- 権威と知名度
番組最高視聴率は驚異の41.9%。全盛期は常時30%前後を推移しており、圧倒的な権威と知名度を有していた。
- ランキング決定指数の公開
ランキングは各指標の順位点に比率を掛け、4桁のポイントに調整される形で公開されていた。この公開により、西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」の週間最高得点獲得(カンスト9999点)も可視化され、盛り上がりを見せた。
ここまで見れば分かるとおり、ザ・ベストテンは4条件を全て満たした完璧なヒットチャートである。もちろん細かい問題を挙げようと思えば挙げられるのかもしれないがそれは取るに足らぬ小事である。最低限必要な4条件をチャート発足から終了まで完璧に満たし続けたチャートは後にも先にも存在しない。これだけでもこのランキングの偉大さが認識できる。
オリコン
オリコンシングルランキングは情報サービス会社オリコンが発表しているシングル売上ランキングである。その歴史は古く、1968年から正式に発足しており、以降今に至るまで40年以上に渡り発表が続けられている。
発足当初はまだ知名度に乏しかったものの、地道な営業が続けられた結果徐々にその存在が普及し、ザ・ベストテン終了後の1990年代には楽曲人気指標の主流に君臨するに至った。しかし2000年代以降は楽曲人気指標の役割を果たさなくなったことは上述したとおりである。
そもそもオリコンは業界誌であり、業界向けに作られた売上指標である。1990年代はたまたま売上と楽曲人気が相関していたため楽曲人気指標としても使用されていたが、各種商法の普及で売上と楽曲人気が相関しなくなった2000年代後半以降も本来の役割である売上指標の道を選択しただけである。このこと自体は咎めることではない。売上指標は主に業界内部に需要が引き続き存在している。
問題は、売上指標の道を選択したにも拘わらず、その説明を世間に対し十分にしていないことである。具体的には、毎週のランキング結果発表記事において、結果決定の主要因となる上位進出作品が実施した商法に一切触れず、あたかも楽曲人気を主因としてランキング結果が出たとでも言うかのようなミスリードを起こし続けていることを指す。この問題は今でも継続しており、情報サービス会社としてあるまじきこの姿勢が改善されない限り、この批判と「オリコンが今や楽曲人気指標ではないことの説明」は今後も繰り返し展開していかざるを得ない。
以上を踏まえた上で、改めてオリコンランキングの設計を4条件に沿って検証する。
- 集計対象の網羅性
2005年までは問題が無かった。1980年代までのレコードやカセット、1990年代以降のCDの売上は集計できており、主要市場は網羅できている。
しかし2006年からはフル配信ダウンロード市場が無視できない範囲に拡大。RIAJによれば、この年の終わりにはコブクロ「桜」、SEAMO「マタアイマショウ」、絢香「三日月」の3曲がフル配信50万ダウンロードを突破している。50万人が配信でフルサイズの楽曲を購入するようになったのである。それにも拘わらず、オリコンは配信売上の集計を一向に開始しなかった。
(国内史上初めてRIAJフル配信50万ダウンロード認定を受けたコブクロ「桜」(2005)↓)
音楽業界としては、CDで売ったほうがダウンロードで売るよりも利益率が良かったため、CDチャート上位に入った者が脚光を浴びるシステムとなるようにしたいという思惑があったものと思われる。業界誌であるオリコンも、一般消費者の「人気曲が知りたい」というニーズよりも、(売上が生活に直結する)音楽業界関係者の「売れている曲が知りたい」というニーズや上記論理を優先したようである。
しかし、例え配信がCDと比べて薄利であったとしても、音楽市場の一角をダウンロード販売が占めていたことは間違いなく、売上指標の視点で考えてもダウンロード売上を集計しない道理はない。集計しないという判断に理解を示す余地はない。
2019年になると、総合チャートBillboard JAPAN Hot 100の普及を意識してか、ついにオリコンも合算ランキングを開始。CD、ダウンロード、ストリーミングの3指標を集計するようになった。これで現代の主要な市場は網羅できた…かと思いきや、ストリーミングにおいて主要サービスであるSpotifyを長らく集計対象にできておらず、2022年4月に集計対象に追加するまで未集計となっていた。重要性の高いサービスの集計対象からの欠落が長く続いていたことを重く見て、上表では△表記とした。
- 特定アーティストによる年間上位独占が生じない設計になっているか
2005年以前では、ピンク・レディーが1977年に「渚のシンドバッド」で年間1位、翌1978年に「UFO」「サウスポー」「モンスター」の順に年間TOP3を独占した例が1位から順に見た年間チャートの連続的な独占の規模としては最大である。このピンク・レディーの例では連続する2年間の年間TOP3が1位から順に4枠埋まったことになる。
しかしピンク・レディーの勢いはこの年を境に落ち着きを見せており、この独占は継続しなかった。このことからは、楽曲人気チャートとして生じ得る年間チャートの連続的上位独占は1位から順に最大4枠と帰納的に言うことができる。
ところが、2000年代後半以降のオリコンシングルチャートではこれを上回る規模の独占が常態化した。まず嵐が2008年に『truth/風の向こうへ』「One Love」で年間TOP2を独占、翌2009年に「Believe」『明日の記憶/Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~』「マイガール」で年間TOP3を独占した。ピンク・レディーを上回る5枠を独占したことになる。
(オリコン年間シングルランキングで史上初の2年連続ワンツーを達成した嵐の年間1位獲得曲「truth」(2008)↓)
嵐の場合は、アーティスト人気の増加に加えて、配信未解禁とすることによるCDへの売上集中や複数種販売等によってCD売上チャートにおける優位性を獲得したことが、異常な上位独占の要因であった。何れも楽曲人気をフラットに計ることを困難にする売上増加要因である。
(嵐の楽曲人気動向は以下記事でまとめている↓)
この異常事態の発生により、CDシングル売上の楽曲人気指標としての有用性は完全に消滅したと言えた。それは2010年以降も嵐による年間上位進出が継続したことで裏付けられた。加えて、AKB48が所謂AKB商法を確立したことにより、楽曲人気に関係なく常時CDシングルミリオンセラーを出せる体制を整えた。2011年からはAKB48による年間上位独占が常態化した。
オリコンは売上指標として10年以上この事態を容認し続けており、それは合算ランキング発足後も同様である。合算ランキングはCDを重視した設計となっており、どれだけ配信で歴史的楽曲人気動向を示してもAKB商法で稼がれたポイントには及ばない試算になっている。
2020年にコロナ禍に突入して以降は、一時的にAKB商法の再現性と拡張性が失われており、AKB48の年間上位独占が生じなくなっているが、コロナ禍が終息しAKB総選挙が再開されでもすれば再び同様の事態が起き得ることに変わりはない。
(AKB48の楽曲人気動向は以下記事でまとめている↓)
- 権威と知名度
1990年代に確立した知名度と権威は2000年代に入っても拡大を続け、特にKinKi Kidsのデビューからのシングル連続1位記録がギネス認定されたことは大きな話題となった。しかしこうして肥大しすぎた知名度と権威は、2006年以降の「惰性によるオリコンの楽曲人気指標としての誤用」を生み出し続けることにもなった。
2019年に発足した合算ランキングは、結局楽曲人気指標として機能していないことも影響してか、あまり話題に上がることがない。オリコン自身もCDシングルランキングを最前面で取り上げ続けており、どうにも知名度が上がっていないのが現状だ。オリコンというネームバリューが未だ絶大であることも考慮して上表では△表記とした。
- ランキング決定指数の公開
売上枚数や合算ポイントは一見公開されているように見えるが、実際は会員限定の有料コンテンツであり、現在のホームページ上の無料公開も一週間限定となっている。このため上表では△表記とした。
以上まで見てきたとおり、オリコンはシングルランキングも合算ランキングも「特定アーティストによる年間上位独占」が生じ得るチャート設計となっていることを致命的な理由として、2006年以降、楽曲人気指標としては使用不可能である。
COUNT DOWN TV
COUNT DOWN TVは1993年より放送が始まった音楽ランキング番組である。ザ・ベストテンより後の時代においては、地上波で放送されている音楽ランキング番組の中では最も有名な番組と言える。
ランキングは2016年までオリコンに準拠していたため、チャート結果も(多少の違いはあるが)ほぼオリコンと同一である。しかし2017年からはBillboard JAPAN Hot 100の集計方法を取り入れるようになったことで、ビルボードとオリコンの中間と言えるようなランキング結果が出るようになった。
以上を踏まえた上で、改めてランキングの設計を4条件に沿って検証する。
- 集計対象の網羅性
オリコン同様、2005年までは問題なかったが、2006年から2016年にかけてはダウンロード売上を集計対象としなかったことで、楽曲人気指標としての適切性を失った。2017年からはBillboard JAPAN Hot 100に準拠する形で各種配信指標も集計対象となったことで、この点に関しては適切性が取り戻された。
- 特定アーティストによる年間上位独占が生じない設計になっているか
オリコン同様、2000年代終盤になるにつれ特定アーティストが年間上位を独占するようになり、やはり適切性を失った。2017年からはBillboard JAPAN Hot 100の集計方法を取り入れたことで、少なくとも年間1位に関しては高人気楽曲が獲得するようになった。
ただし年間2位以下は依然として楽曲人気に乏しい高CD売上曲が上位進出する事例が見られているため、本当に高CD売上曲が年間上位を独占しないチャート設計になっているのかは確信が持てない。ランキングの集計対象はCDや配信などと説明されているものの、それらがどれほどの換算率でランキングに反映されているのかは非公表であるため、その実態は不透明である。よって上表では△表記とした。
- 権威と知名度
既に25年以上の歴史を持つ長寿番組であり、申し分ない。
- ランキング決定指数の公開
放送当初から一貫して完全非公開である。オリコンに準拠していた時代はほとんどオリコンと同一の結果となっていたため、目安となるCD売上を想像上で補うことができたが、Billboard JAPAN Hot 100とオリコンの要素を混ぜるようになった2017年以降は急激に不透明性が高まった。2020年には疑惑の週間1位も誕生してしまった。
これが致命的な理由となる形で、COUNT DOWN TVも楽曲人気指標としては使用不可能である。
Billboard JAPAN Hot 100
Billboard JAPAN Hot 100は2008年に発足した総合楽曲チャートである。徐々に楽曲人気指標としての機能性を高めていき、2017年にその権威と知名度を確立した。そのチャート設計を4条件に沿って検証する。
- 集計対象の網羅性
2008年の発足当初は、CD売上とラジオエアプレイの2指標が集計対象であった。ダウンロード売上はまだ集計対象にできていなかったものの、ラジオ指標によって配信限定曲もランクイン可能なチャート設計となっていた。この時点で当時のオリコンシングルランキングを上回る楽曲人気指標としての機能性を有していた。2011年からはiTunesダウンロード売上の集計を開始。その後も段階的に集計対象を増やした。この成長期間は上表では△表記とした。
そして2016年には国内史上初めて網羅的なダウンロード売上の集計体制を整えた。既にMVやストリーミングも指標に組み込むことができており、これにより万全の網羅的集計体制を確立した。
- 特定アーティストによる年間上位独占が生じない設計になっているか
2016年までは楽曲人気に関係しない要因で高CD売上を記録した曲が年間1位になる事例も存在していたが、2017年になると、多すぎるCD売上の反映率を抑制する措置を導入。これにより特定アーティストによる年間上位独占が生じないチャート設計が確立した。この措置の詳細説明は以下記事に譲る。
それでも年間TOP10内に視野を広げればまだそういった曲がランクインする事例も残ったが、それも2019年になるとストリーミング市場の拡大によりチャート水準が上昇し、年間上位進出のハードルが上がったことで解消した。
こうして年間チャートの楽曲人気指標としての適切性は万全となったが、週間チャートに関しては2021年までチャート設計の不適切性が残っており、上述した「年間上位曲の1位獲得週数」が異常に少なくなっていた。しかしこれも、多すぎるCD売上の反映率を抑制する措置が段階的に強化されていったことにより、2022年に問題解決に至っている。詳細は下記記事で説明している。
- 権威と知名度
発足当初は知名度が乏しかったが、徐々にオリコンに代わる楽曲人気指標として注目を集めていった。決定打となったのは2017年にCOUNT DOWN TVがBillboard JAPAN Hot 100の集計方法を導入したことで、これによりビルボードは無視できない音楽チャートとなり権威を確立。知名度も一気に広まることとなった。
- ランキング決定指数の公開
当初は非公開だったが、これも2017年より週間総合ポイントの公開が始まり、絶対的な人気量の把握にも支障が無くなった。
Billboard JAPAN Hot 100は2016年までの間も集計対象の網羅性でオリコンに対し優位だったことから国内で最も楽曲人気指標に近い音楽チャートになっていたが、2017年に4条件を全て満たしたことで楽曲人気チャートとしての合格点を満たした。ビルボードは現在国内で唯一楽曲人気チャートとして使用可能な、非常に重要な音楽チャートなのである。
まとめ
ここまで長々とヒットチャートの条件を考えてきたが、そもそもここまで考えなければいけなくなっていることが、総合楽曲人気チャートが日本国内に存在しなかった10年という長い月日の重さを感じさせる。オリコンがダウンロード売上の集計をすんなり開始し、CD売上指標の中身の変質にも対応していれば、こんな論考は不要だっただろう。しかしそうはならず、ヒットチャートは世間からの信頼を大きく失った。
今はBillboard JAPAN Hot 100の活躍により楽曲人気チャートが復活し、ヒットチャートの信頼回復も力強く牽引している。2005年以前のように何の心配も無く音楽チャート結果を楽曲人気動向分析材料として使用できる状況が復活したのである。この調子で今後のヒットチャート文化の普及と益々の発展が続くことを願うばかりである。