2025年に入って以降、Mrs. GREEN APPLEの人気規模がますます拡大の一途を辿っている。その勢いは他の追随を許さないほどの独走状態となっており、各種のランキングでは軒並みMrs. GREEN APPLEの新旧楽曲が大量にランクインし上位を占拠する状況が続いている。
このようなチャートの状況について、ボーカルの大森元貴氏が先日公開されたインタビュー記事にて以下のような発言を行っていたので引用する。(下線・太字は当ブログによる強調)
「こんなことあっていいのかな?」みたいなことも思いますよ。チャートとか見て引きますもん。これは日本の音楽業界的にあっちゃならないことだと思っているんで。別に何かに疲弊したりすり減らしたりしている感覚はなくて、ただそれを楽しませてもらってる、精一杯やらせてもらってるだけなんですけど、「大丈夫、これ?」みたいなことも思います。それは率直な感覚です。
本記事ではこの発言が持つ意味を「ヒットチャート設計」の観点から掘り下げる。
(Mrs. GREEN APPLEの人気曲ランキングは以下記事参照↓)
現状の確認
まずはヒットチャートのデータから、現在のMrs. GREEN APPLEのヒットチャート占拠が前例のない歴史的な規模になっていることを確認する。現在の日本を代表するヒットチャートであるBillboard JAPAN Hot 100において、Mrs. GREEN APPLEの週間TOP100圏内10曲以上ランクイン記録週数は合計96週となっている。これは次点となるYOASOBIの30週を大きく上回る断トツ最多記録であり、今なお記録は伸び続けている。

この96週のうち、TOP100圏内ランクイン曲数自身最多となる20曲を記録した2025/1/29公開週の内訳は以下のとおりである。

これを見ると、ランクインした20曲は全て新曲というわけではなく、配信から1年以上が経過した「旧譜」が半分以上を占めていることが分かる。これが後述する非常に重要な論点となる。
「ヒットチャート」の定義と役割
当ブログでは「ヒットチャート」を「楽曲の人気と流行を総合的に可視化したチャート」と定義している。詳細な説明は以下記事に譲る。
そのうえで、改めて「ヒットチャート」が可視化すべきユーザーアクティビティとは何なのか、分解して掘り下げてみる。
Billboard JAPANは公式Q&Aにて、「ヒットチャート」の意義について言及する中で、『ユーザーの多様なアクティビティを複数のデータで描き出す』ことを挙げている。
「楽曲を聴く」ユーザーのアクティビティは、そのフェーズによって性質が異なると考えられるため、まずは以下のように分解してみた。
①その楽曲が好きだから聴く
説明:その楽曲を選択する必然性がある。そのアーティストの他の楽曲については必ずしも詳しく知っているとは限らない。
想定されるチャートアクション:その楽曲を好きになって以降聴く回数が増加するため、徐々にその人数が増えるにつれ、独立的にその楽曲の順位が上昇していく。
②そのアーティストの楽曲が好きだから聴く
説明:①で好きになった楽曲によって、そのアーティストにも興味を持ち他の楽曲も聴くようになる状態。一曲一曲の選択必然性は薄れ、そのアーティストの全体的な楽曲傾向がより重要となる。
想定されるチャートアクション:その人数が増えるにつれ、核となる楽曲のヒットに引っ張られる形で、そのアーティストの他の楽曲も連動して順位が上昇するようになる。
③そのアーティストが好きだから楽曲を聴く
説明:②と似ているが、②よりもさらにフェーズが進み、そのアーティストのファンとなり、新曲を待ち望んでいる状態。アーティストを信頼しており、新曲が好みと合わない確率は低い。「その楽曲だから」というよりも「そのアーティストの新曲だから」という理由が選択するうえでより重要となる。
想定されるチャートアクション:そのアーティストの新曲の初動規模が大きくなり、安定的に初登場で1位獲得や上位進出を達成するようになる。
Mrs. GREEN APPLEは、継続的に①によって集客規模を拡大していることは間違いないが、②と③の割合も増えていることがチャートアクションから読み取れる。②については前述したヒットチャート占拠が示しており、③についても、2025年度に入り、新曲の初動順位がピークを迎えていることから明らかである。
Billboard JAPAN Hot 100におけるMrs. GREEN APPLEの新曲初動順位推移は右肩上がりを続けており、「ビターバカンス」「クスシキ」「天国」では初動1位獲得を果たしている。

さて、基本的には①・②・③いずれもヒットチャートとしては漏れなく捕捉すべきユーザーティビティであるが、優先順位をつけるならば①>②>③となる。なぜなら、「楽曲」のチャートであるならば、楽曲選択の必然性がより高いユーザーアクティビティの方が重要だからである。
とはいえ、これまでのヒットチャートの歴史の中で、あえて②の人気規模を割り引く必要がある場面が生じことはなかった。③については、2010年前後の嵐やAKB48によるチャート独占に対応した歴史などから、ヒットチャートとしての対応は既にある程度確立されている。詳細は以下記事で説明している。*1
ストリーミング時代の特徴 −旧譜率の上昇−
しかし、ストリーミング時代となった現在、②の反映方法についてもヒットチャートとして検討が必要となりつつある。その背景にある構造変化が「旧譜率の上昇」である。
CD時代は店頭での購入が基本であり、当然ながらCDショップは店舗面積に限りがあるため、商品棚に並ぶ作品はほとんど新譜であった。しかし、ストリーミング時代では、いつでも気軽に過去の楽曲にアクセスすることができる。
また、CDチャートは基本的にユーザーの作品購入時の売上をカウントする形で作成されていたが、ストリーミングチャートはユーザーが楽曲を聴き続ける限り再生回数としてカウントし続けることとなる。
こうした構造変化により、ヒットチャートにおいても旧譜の割合が上昇を続けている。Billboard JAPAN Hot 100における週間TOP100ランクイン曲の登場週数平均推移は右肩上がりとなっている。

よって、この構造下で、頭抜けた人気アーティストが現れると、その旧譜でチャート上位が長期に渡り占拠されることとなる。これが現在のヒットチャートで生じているMrs. GREEN APPLEの楽曲動向である。
この独占はヒットチャートとしてどこまで許容して良いのだろうか。当然ながら、特定アーティストの割合が高まれば、その分ランクインするアーティストの多様性は低下する。ユーザーアクティビティで言うと、②の影響力が大きくなりすぎるため、①がチャート上位で可視化されにくくなるということである。Billboard JAPANが公言する『ユーザーの多様なアクティビティ』の可視化も難しくなる。
繰り返しになるが、ヒットチャートとして可視化すべきユーザーアクティビティに優先順位をつけるならば①>②>③である。そしてこれは音楽業界として光を当てるべき優先順位としても同様と考えられる。なぜなら①は基本的に全てのアーティストにとってファンを獲得する入口であり、①に光を当てなければ、未来を担う新進人気アーティストが誕生しにくくなり、業界が先細りしていくからである。
例外として、オーディション等によってデビューするダンス&ボーカルグループは、①と②を飛ばして当初より③の状態にファンを引き上げることができるが、これは一定の資本力が背景になければ実現できない、限られたルートである。
「リカレントルール」導入検討
もしヒットチャートがこの問題に対応するとしたら、考えられる策は「リカレントルール」の導入である。
このルールは、ヒットチャートの新陳代謝を促すため、一定期間ランクインした旧譜を条件付でチャートから除外するものである。米Billboard Hot 100やYouTubeチャートは既に本ルールを導入しているが、Billboard JAPAN Hot 100では未だ導入されていない。
例えばYouTubeチャートは、TOP100登場週数が1年を超えた楽曲が週間TOP10圏外となったら、殿堂入りとしてランクイン対象外にするルールを設けている(急上昇時は例外的に再登場する)。Billboard JAPANは6月に2025年上半期チャートを発表する予定だが、もしこのルールをHot 100に導入したらどのようにこの暫定順位予想が変わるのか、当ブログで試行した結果は以下のとおりである。*2

導入しない場合との比較では、まずMrs. GREEN APPLEのTOP10占拠率が下がり多様性が向上している。また、前年以前のヒット曲として既に十分知られた旧譜である「ケセラセラ」「Soranji」「幾億光年」「Bling-Bang-Bang-Born」の順位が下がり、新譜でヒットしている「ダーリン」「オトノケ」「かわいいだけじゃだめですか?」「Bunny Girl」「怪獣」「Plazma」の順位が上昇している。
「ストリーミングチャート」は「ヒットチャート」なのか
このルールの背景思想は、「楽曲が聴かれ続ける」ことを「楽曲がヒットし続けている」と言い換えることは可能か、という疑問から出発していると考えられる。
CD時代のヒットチャートは、CDを購入したタイミングでしか、ユーザーアクティビティを捕捉できていなかった。しかし実際には、そのユーザーは何年もお気に入りのCDを聴き続けているはずである。だからといって、「CDミリオン達成作品は、翌年以降も多くのユーザーに聴かれ続けているはずだから、ヒットチャートにも何らかの形でその動向を反映すべきだ」という論調は当時生じていなかった。「その作品は何年もヒットし続けていると見做すべきだ」ともならない。
一方ストリーミング時代は、お気に入りの楽曲を何年も聴き続けるユーザーアクティビティもストリーミングチャートに反映され、定番人気楽曲が上位に残り続けるようになった。しかしそのユーザーアクティビティの本質はCD時代とほとんど変わらないのではないだろうか。であれば、「ストリーミングチャートにランクインし続けている」ことを以て「その楽曲がヒットし続けている」と言うことには疑義が生じうる。「ストリーミングチャート」と「ヒットチャート」はイコールになるべきとは限らない。
改めて「ヒットチャート」の定義に立ち返るが、当ブログではこうした論点も踏まえ、「楽曲の人気と流行を総合的に可視化したチャート」と定めた。何年もお気に入りの楽曲を聴き続けることは、紛れもなく楽曲の人気によるものであるが、それだけではなく楽曲の流行の可視化もヒットチャートとして重要な役割ではないかと考えたのである。
例えば、カラオケの定番曲となったあいみょん「マリーゴールド」は、Billboard JAPAN Hot 100の年間チャートにおいて、2018年48位→2019年2位→2020年8位→2021年38位→2022年36位→2023年39位→2024年38位と推移している。順位のピークは2019年なので、本曲を「2019年のヒット曲」と言うことに異論はない。しかし、7年連続年間TOP50圏内だからといって、本曲を「7年連続でヒットしている」・「2024年に流行した」などと言って腹落ちするだろうか。
直近4年の推移を見ても、Billboard JAPAN Hot 100がリカレントルールを導入しない限り、おそらく本曲は半永久的にチャート上位にランクインし続けるであろう。こうした楽曲は今後増え続けると想定されるが、そうなると、楽曲の流行の可視化割合が相対的に下がってしまい、ヒットチャートの機能は低下してしまうのではないだろうか。
この「旧譜率の上昇」による「チャートの固定化」問題が、頭抜けた人気を獲得したMrs. GREEN APPLEのヒットチャート占拠によって、かつてないほどに目立っているのが現状なのである。この問題自体は2023年時点でジャーナリスト松谷創一郎氏による以下記事にて既に明らかとなっているが、いよいよヒットチャート設計を本格検討すべきタイミングが到来しているのではないだろうか。
まとめ
本記事の内容と主張を簡潔にまとめるならば、「Mrs. GREEN APPLEのヒットチャート占拠というよりも、その背景にある旧譜のヒットチャート占拠率上昇に対して抜本的な対応策を検討すべきではないか」となる。その意味では、大森元貴氏が自ら放った『これは日本の音楽業界的にあっちゃならないこと』という発言は正鵠を得ている。
本記事で取り上げたヒットチャート「Billboard JAPAN Hot 100」は、2025年より発足した新たな音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」のエントリー作を決めるデータとしても採用されている。よってそのエントリー作も必然的に旧譜が多数となるが、これについてジャーナリストの柴那典氏は以下のように述べている。(下線・太字は当ブログによる強調)
まだ授賞式も行われてないので気が早いのですが、もうひとつ、来年以降に向けての提言を。というのも、きっとノミネートを見てちょっとモヤモヤしてる人もいるんじゃないかと思うんです。部門賞をじっくり見ていくと「2024年の作品」ではなく「往年の名曲」がわりと選ばれている。今回は初回なのでいいと思うんですが、次回以降はやっぱり新しい作品を俎上に載せるべきだと思うんですよね。過去曲についてはルールを制定してエントリー作品の時点でできるだけオミットしていく方向が望ましいのではないかと思います。
旧譜をオミットし、新曲に光を当てるリカレントルールの導入は、2026年以降のMUSIC AWARDS JAPANのルール改良にも応用可能なのである。
その線引きはどこに置くのかといった細かい点も含め、Billboard JAPANが今後この問題に対しどのような判断を下すのか(問題なしとするのか、何らかのルールを導入するのか)、注目される。
(追記:2025年度下半期集計期間より、Billboard JAPANはリカレントルールを導入した↓)
Billboard JAPANチャート、リカレントルールを2025年度下半期チャートより導入https://t.co/jwsAorQU9Z
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年6月2日