この記事では2013年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうち、オリコンと1位が異なった全12週をピックアップして回顧する。
Billboard JAPAN Hot 100とは、「社会への浸透度を計る」ことを明確に理念に掲げ、複数の要素も加味して作成されている総合チャートである。2013年の集計対象はCD売上、ラジオエアプレイ、iTunesダウンロード売上の3指標であった。
なお2013年のBillboard JAPAN年間チャートは下記記事内で総括している。
- 1/30公開週1位 サカナクション「ミュージック」
- 3/20公開週1位 山下智久「怪・セラ・セラ」
- 3/27公開週1位 きゃりーぱみゅぱみゅ「にんじゃりばんばん」
- 4/10公開週1位 高橋みなみ「Jane Doe」
- 4/24公開週1位 ナオト・インティライミ「恋する季節」
- 5/8公開週1位 SEKAI NO OWARI「RPG」
- 5/15公開週1位 ザ・ウォンテッド「グラッド・ユー・ケイム」
- 5/22公開週1位 T.M.Revolution×水樹奈々「Preserved Roses」
- 7/17公開週1位 Linked Horizon「紅蓮の弓矢」
- 7/31公開週1位 KARA「サンキュー サマーラブ」
- 9/4公開週1位 AKB48「恋するフォーチュンクッキー」
- 9/25公開週1位 前田敦子「タイムマシンなんていらない」
- まとめ
1/30公開週1位 サカナクション「ミュージック」
1/30公開週1位はサカナクション「ミュージック」。CD売上ではモーニング娘。「Help me!!」が1位だったが、ビルボード(サウンドスキャン)では販路限定イベント券付CD複数枚セットの売上が集計対象外となっていたためオリコンよりも売上が少なく、サカナクションとの差は数千枚程度だったと推定され、ラジオやiTunesの加点の差で総合では逆転が生じた。
「ミュージック」は配信で25万ダウンロードを記録しており、確かな楽曲人気を示している。抑揚の効いたメロディーと打ち込み主体の個性的なサウンドでサカナクションの音楽への情熱が表現された本曲は多くのリスナーを虜にした。最高視聴率11.9%を記録したドラマ「dinner」の主題歌に起用されたことも本曲の普及を後押しした。
3/20公開週1位 山下智久「怪・セラ・セラ」
3/20公開週1位は山下智久「怪・セラ・セラ」。オリコンでは乃木坂46「君の名は希望」が約24万枚の売上で1位だったが、劇場盤を集計対象外としていたビルボード(サウンドスキャン)ではその売上は6万枚程度にしかならなったため、約8万枚を売り上げた山下智久がCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
3/27公開週1位 きゃりーぱみゅぱみゅ「にんじゃりばんばん」
3/27公開週1位はきゃりーぱみゅぱみゅ「にんじゃりばんばん」。CD売上ではHKT48「スキ!スキ!スキップ!」が1位だったが、ビルボード(サウンドスキャン)では劇場盤を集計対象外としていたためその売上は9万枚程度に留まった。「にんじゃりばんばん」のCD売上は2万枚程度だったが、ラジオやiTunes指標の加点で総合では逆転が生じた。
「にんじゃりばんばん」は2013年発売曲としては唯一年内に配信で60万ダウンロードを突破しており、この年の楽曲人気年間1位になっていてもおかしくないほどの2013年屈指の人気曲である。当週1位となったことは楽曲人気チャートとして当然そうなっているべき姿である。
既に中田ヤスタカによるプロデュースのもと多くのヒット曲を輩出していたきゃりーぱみゅぱみゅだが、本曲は和風のテイストが効いたサウンドになっていることが特徴的であり、語感を重視した歌詞と相まって中毒性を有していた。auのCMソングに起用されたことも普及を後押しした。MVも6,000万再生を突破している。
4/10公開週1位 高橋みなみ「Jane Doe」
4/10公開週1位は高橋みなみ「Jane Doe」。オリコンではEXILE「EXILE PRIDE~こんな世界を愛するため~」が56万枚もの売上で1位を獲得していたが、これはライブツアーの販路限定チケット販売に当CDを付属することで劇的に売上を伸ばしたことによるものである。ビルボード(サウンドスキャン)ではこの分の売上を全て集計対象外としたためその売上は2万枚程度にまで減少した。高橋みなみは劇場盤が集計対象外だったがそれでも約5万枚の売上を記録したためこの週のCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
EXILEの所謂ライブチケット付商法は楽曲人気に関係しないCD売上増加要因であることから、集計対象外とすることは楽曲人気チャートとして当然である。この商法でCD累計100万枚を売り捌いたEXILEは2013年の日本レコード大賞を受賞したが、この受賞に楽曲人気データ上の論理的妥当性は皆無であった。なおオリコンでは2015年6月からこの商法による売上を集計対象外としている。
4/24公開週1位 ナオト・インティライミ「恋する季節」
4/24公開週1位はナオト・インティライミ「恋する季節」。CD売上ではモーニング娘。『ブレインストーミング/君さえ居れば何も要らない』が1位だったが、ビルボード(サウンドスキャン)では販路限定イベント券付CD複数枚セットの売上が集計対象外となっていたためオリコンよりも売上が少なく、ナオト・インティライミとの差は数万枚程度だったと推定され、ラジオやiTunesの加点の差で総合では逆転が生じた。
「恋する季節」は配信で50万ダウンロードを記録しており、2013年発売曲の中では際立った楽曲人気を示している。初夏を彩るような爽やかな曲調に前向きになれる温かい歌詞が乗ったこの曲は、氷結のCMソングに起用されたこともあって支持を広げた。
5/8公開週1位 SEKAI NO OWARI「RPG」
5/8公開週1位はSEKAI NO OWARI「RPG」。オリコンではSexy Zone『Real Sexy!/BAD BOYS』が約13万枚の売上で1位だったが、ビルボード(サウンドスキャン)では会場限定盤及びSexy Zone Shop盤が集計対象外となっていたうえ、曲順が異なる盤種『BAD BOYS/Real Sexy!』を別集計したため売上が減少、分散した。その結果、『Real Sexy!/BAD BOYS』の売上は6万枚程度に留まったため、7万枚を売り上げたSEKAI NO OWARIがCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
ファンタジックな世界観の中で仲間との絆や冒険模様が描かれている「RPG」は、興行収入13億円を記録したアニメ映画「クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」主題歌としても親しまれたことで広く普及し、配信50万ダウンロード、MV1.8億再生を突破。セカオワのパブリックイメージを決定づけたブレイク作となった。
5/15公開週1位 ザ・ウォンテッド「グラッド・ユー・ケイム」
5/15公開週1位はザ・ウォンテッド「グラッド・ユー・ケイム」。CD売上ではfripSide「sister’s noise」が1位だったが、その売上は2万枚程度と多くなかったため、主にラジオ指標で高い加点を得たザ・ウォンテッドが総合では逆転した。
ザ・ウォンテッドはイギリス及びアイルランド出身の5人により結成されたボーイズグループで、「Glad You Came」はデビューアルバム『The Wanted』のリード曲である。全英1位、米Billboard Hot 100でも週間3位を記録したこの曲は日本でも注目され、多くのラジオエアプレイを獲得し、Billboard JAPAN Radio Songsの年間でも2013年の9位を獲得した。
5/22公開週1位 T.M.Revolution×水樹奈々「Preserved Roses」
5/22公開週1位はT.M.Revolution×水樹奈々「Preserved Roses」。CD売上ではKAT-TUN「FACE to Face」が1位だったが、その差は1万枚程度と僅差だったため、ラジオやiTunes指標の加点の差により総合では逆転が生じた。
「Preserved Roses」はT.M.Revolutionと水樹奈々によるコラボという話題性もさることながら、両者のパワフルなボーカルが良さを打ち消すことなくぶつかり合い、ハイテンポなメロディーに乗ったことで人気曲となり、配信では25万ダウンロードを記録した。アニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」の主題歌としても親しまれた。
なおYouTube上のMVはShort Editと表記されているが、楽曲自体はフルサイズで視聴可能である。実際のMVは楽曲以外のパートも多く10分にも及ぶ長さであるが、楽曲は3分程度であり、楽曲に合わせて短く編集されたMVがYouTubeで公開されている。
7/17公開週1位 Linked Horizon「紅蓮の弓矢」
7/17公開週1位はLinked Horizon「紅蓮の弓矢」。オリコンではEXILE TRIBE(三代目 J Soul Brothers VS GENERATIONS)「BURNING UP」が約26万枚の売上で1位だったが、ビルボードではハイタッチ会における売上や販路限定廉価盤を集計対象外としており3万枚程度にまで売上が減少したことから、約13万枚の売上を記録したLinked HorizonがCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
本曲は当時大ブームとなっていたアニメ「進撃の巨人」主題歌として人気を博し、配信では50万ダウンロードを記録している。
7/31公開週1位 KARA「サンキュー サマーラブ」
7/31公開週1位はKARA「サンキュー サマーラブ」。オリコンではCD発売2週目のSKE48「美しい稲妻」が前週に続き2週連続1位となっていたが、これは劇場盤が発売2週目にも一定量発送されたことによるものである。ビルボードでは劇場盤を集計対象外としていたためそのようなことにはならず、約4万枚の売上を記録したKARAがCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
9/4公開週1位 AKB48「恋するフォーチュンクッキー」
9/4公開週はCD発売2週目のAKB48「恋するフォーチュンクッキー」が前週に続き2週連続1位を獲得した。オリコンではモーニング娘。『わがまま 気のまま 愛のジョーク/愛の軍団』が約14万枚の売上で1位だったが、ビルボード(サウンドスキャン)では販路限定イベント券付CD複数枚セットの売上が集計対象外だったことで推定6万枚程度の売上に留まったため、僅差でAKB48がCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
「恋するフォーチュンクッキー」はディスコサウンドに乗せた誰もが踊れるナンバーとして自身屈指の大人気曲となり、配信ミリオン、MV2億再生を突破するほどの大ヒットとなった。初の総選挙1位となった指原莉乃がセンターを務めたことでも話題となった。
こうして配信指標で大人気を示していた「恋するフォーチュンクッキー」だが、当時はオリコンがダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったことなどからその人気は可視化されず、所謂AKB商法によって積み上げられた莫大なCD売上が不適切に注目を浴びる状況となっていた。当然、大量のCD売上枚数からは楽曲人気が読み取れないため、本当に人気なのか(=音楽チャート上位独走状態は適切な結果なのか)に関して疑問が噴出するという不健全な事態が生じることとなった。
この事態は、①特典商法による販促の影響力が大きくなったCD売上と楽曲人気が相関しなくなったこと、②オリコンに代表されるCD売上チャート発表者がその説明をしないまま、楽曲人気指標として機能していないチャート設計を維持し続けたこと、③オリコンに代わる総合楽曲人気チャートが国内に存在しなかったこと、以上三点によって引き起こされたものである。AKB商法が目立ちすぎたことによりアンチAKBが大量発生し、ファンとファン以外の層との間で分断が加速、最新音楽文化の受容理解発展が阻害されたことを考えれば、音楽チャートの責任は重大である。
そのような中でビルボードは新時代の楽曲人気チャートを目指すべく試行錯誤を重ねており、AKB商法に関しては、劇場盤を集計対象外とすることでその影響力を幾分抑制する事に成功していた。加えて、ラジオやiTunesダウンロード売上というCD売上以外の指標からも一定程度の楽曲人気動向を拾うことができていた。
まだチャート設計上の課題は多く、楽曲人気チャートとしての合格点には達していなかったもの、CD売上だけのチャートと比べれば楽曲人気指標としての機能不全が緩和されており、ビルボードは既に当時国内で最も楽曲人気チャートに近い存在になっていたのである。当時まだほとんどビルボードの知名度が普及していなかったことは残念であった。
劇場盤を集計対象に含めていたオリコンでは自身5作目のCD売上150万枚突破を果たした。その際はしばしば過去のCD売上記録も引き合いに出されたが、同じ指標でも、中身が変質したのなら、時代横断的に比較しても、楽曲人気を考える上では何の意味も見出せない。2011年以降はCDシングル売上が楽曲人気指標として一切機能していないため、2011年以降の人気曲を語るうえでCDシングル売上データを用いることは不適切な行為である。AKB48の楽曲人気を語る際は特に注意が必要である。
9/25公開週1位 前田敦子「タイムマシンなんていらない」
9/25公開週1位は前田敦子「タイムマシンなんていらない」。オリコンではEXILE「EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~」が返り咲き1位となっていたが、これは前述したライブチケット付商法の追加公演分の計上があったことによるものである。ビルボードでは該当売上を全て集計対象外としていたためこのようなことにはならず、約5万枚の売上を記録した前田敦子がCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。
「タイムマシンなんていらない」は前作「君は僕だ」以来約1年3ヶ月ぶりとなるソロシングル。AKB48を卒業してから約1年が経過していたが、落ち着きのある装いや可愛らしい歌声が支持されるなど変わらぬ人気を見せており、配信では10万ダウンロードを記録した。
まとめ
以上が2013年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうちオリコンと1位が異なる週の振り返りとなる。 当時はまだ知名度が乏しく、ほとんど注目されていなかったビルボードだが、2010年代後半になると知名度が高まり、楽曲人気指標としての権威を確立した。2013年の週間チャートも、最も楽曲人気指標に近い公式なチャートとして、今からでも押さえておきたいところである。
(次年2014年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧はこちら↓)
(前年2012年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧はこちら↓)