AIは2000年に「Cry, just Cry」でデビューした女性ソロアーティスト。2005年にブレイクし、以降2010年代に入ってもコンスタントにヒット曲を輩出し続けた。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は11曲で、認定総ダウンロード売上は395万(歴代27位)となっている。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、AIのヒット史を振り返る。
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-2005年 ~「Story」配信ダブルミリオン~
AIは早くから歌手を志し、アメリカのスクールに通いながら実力を蓄え、2000年に日本でデビューを果たした。最初から一気に売れたわけではないが、次第にその実力が認知されるようになっていき、2004年には前年発売のシングル「Thank U」がSPACE SHOWER MUSIC AWARDSのBEST R&B VIDEOを受賞。同年発売のアルバム『2004 A.I.』は自身初の10万枚出荷認定を受けた。
特大ヒット曲が誕生したのは2005年。12thシングルとして発売された「Story」は大切な人との絆を歌詞に乗せたバラードナンバー。親族や恋人、親友など幅広いシチュエーションの愛に当てはめて「大切な人がいることの心強さ」を感じることができたことや、培われた歌唱力が低中音域に至るまで存分に活かされたバラードだったことから多くの人の心に響いていき、10年以上の非常に長きに渡り売れ続ける楽曲となった。
その売れ行きの過程を整理すると、まずシングルCDが発売されたのが2005年5月。配信では着うたフルがまだ解禁されていなかったため、基本的にまずはCD売上に楽曲人気が表れた。CD売上チャートでは最高位8位だったものの登場週数73週という息の長いセールスを記録して最終的な累計は27万枚となった。
また、2005年7月にはこの曲を収録した4thオリジナルアルバム『MIC-A-HOLIC A.I.』が発売され、こちらも最高4位ながら登場週数71週のロングセールスで最終累計売上45万枚を記録した。
2006年2月には着うたフルでの発売が解禁された。2006年8月から日本レコード協会のダウンロード認定制度が開始されたが、開始初月の8月時点では着うたフルとPC配信の合計で20万ダウンロードを売り上げていた*1。しかしなんとここからの積み上げで配信ダブルミリオンに到達したのである。以降の配信売上推移は以下のとおり。
- 2006年12月に35万ダウンロード突破
- 2008年4月に60万ダウンロード突破
- 2008年12月に75万ダウンロード突破
- 2009年9月に配信ミリオン達成(着うたフル75万+PC配信25万)
- 2011年4月に125万ダウンロード突破
- 2017年6月に配信ダブルミリオン達成
2008年までは特に追加のタイアップがなかったにも拘わらず、1年25万ペースで売上を重ねていき、2009年9月にはミリオンに到達。背景にはカラオケの定番曲の座を獲得したことも大きいと思われる。JOYSOUNDの年間カラオケランキングでは2006年から2008年にかけて3年連続TOP20に入っている。
2009年以降はこの息の長い人気が徐々に脚光を浴びるようになり、2009年には本人出演のレコチョクCMソング、翌2010年には浅田真央が出演するウイダーのCMソングに起用されるなど、メディアに楽曲が使用される機会が増えていく。2011年には125万ダウンロードに到達した。
その後も楽曲への注目は衰えず、2012年にはニンテンドー3DS用ソフト「リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産」のエンディングテーマに、2014年末には映画「ベイマックス」の日本版エンディングテーマに本曲の英詩バージョンが起用された。特に映画「ベイマックス」は興行収入91億円を記録するヒットになり、この効果によって翌2015年のBillboard JAPAN Hot 100では年間77位にチャートインするリバイバルヒットとなった。ビルボードの指標別順位が分かるChart Insightでは、2014年末から翌年始にかけてダウンロード売上が急回復したことが可視化されている。
このように楽曲人気が非常に長い間に渡って注目を浴び、語り歌い継がれたことで幅広い世代に楽曲が届き、2017年に配信ダブルミリオンを突破するに至った。国内でフル配信ダブルミリオン以上を売り上げた楽曲は歴代で9曲しかない。まさに平成を代表するヒット曲である。
なお配信ダブルミリオン到達までの所要日数は、着うたフルが解禁された2006年2月を起点として計算している。冒頭に示したダウンロード売上ランキングでもこの日数計算に合わせて作成している。
2006年-2010年
2006年4月には「Story」に続く13thシングル「Believe」が発売された。この曲は最高視聴率17.2%を記録したドラマ「医龍-Team Medical Dragon-」の主題歌に起用されたことや、得意とするバラードナンバーだったことで支持を受け、配信10万ダウンロード、CD11万枚を売り上げた。
なお、シングルCD売上が10万枚を超えたのは本作が最後となっている。ただしこれは人気が以降低下したのではなく、音楽市場がCDから配信に移行していったことを意味しているに過ぎないことには注意が必要である。実際、配信では本曲以降も多くの10万ダウンロード以上のヒットを輩出している。
2006年には本曲も収録した5thオリジナルアルバム『What's goin'on A.I.』が発売され、21万枚を売り上げた。
2007年は、7月に発売された15thシングル『I'll Remember You/BRAND NEW DAY』の1曲目「I'll Remember You」がaudio-technicaのCMソングに起用され、10万ダウンロードを記録。12月には本曲を収録した6thオリジナルアルバム『DON'T STOP A.I.』が発売され、10万枚出荷認定を受けた。
2008年は、6月に発売された17thシングル「大切なもの」が海外ドラマとAIU保険CMのダブルタイアップに起用され、10万ダウンロードを記録した。
2009年には自身初のベストアルバム『BEST A.I.』を発売し、22万枚を売り上げた。
2010年は、3月に発売された20thシングル「FAKE feat. 安室奈美恵」が10万ダウンロードを記録した。安室奈美恵とは以前より交流があり、2003年と2006年に既にコラボレーションが実現していたが、今回初めてAI名義でのコラボとなったことや、安室奈美恵が再ブレイクを果たしていたことから話題を集めた。
2011年-2012年 ~「ハピネス」配信75万ヒット~
2011年にはEMIミュージック・ジャパンへの移籍があり、12月には移籍第一弾となる24thシングル『ハピネス/Letter In The Sky feat.The Jacksons』が発売された。この1曲目に収録されている「ハピネス」はコカコーラのCMソングとして普及。自然と元気が出るようなリズムや、人と繋がっていることの幸せを綴った歌詞が支持を受け、久々に頭一つ抜けたヒットとなった。11月に配信先行発売され、現在までの累計配信売上は75万ダウンロードを記録している。配信売上推移は以下のとおりである。
- 2011年12月に20万ダウンロード突破
- 2012年2月に35万ダウンロード突破
- 2012年3月に50万ダウンロード突破
- 配信開始1年1ヶ月後の2012年12月に75万ダウンロード達成
見てのとおり配信開始から4ヶ月で50万ダウンロードを超える自己最高ペースの初動を見せ、その勢いで2012年の冬に75万ダウンロードに到達した。なお、その内訳がPC配信50万・着うたフル25万になっていることから分かるとおり、当時は着うたバブル崩壊によりダウンロード市場の主役はPC配信に移行している最中であった。
なおシングルCD売上は2011年当時既に楽曲人気指標としての役割を終えており、本曲の人気を読み取ることはできず、週間チャートではTOP10にすら入っていない。しかし、Billboard JAPAN Hot 100ではCD売上以外にラジオとiTunes売上も集計対象にしていたことで本曲の人気が可視化され、週間4位を獲得しただけでなく、年間チャートでもAKB48や嵐に割って入る形で2012年の5位に入った。
楽曲の普遍性から本曲にスポットが当たる機会は多く、2013年までは毎冬リパッケージされたCDが発売されいたほか、2020年には新型コロナウィルスの拡大で落ち込みがちな世相を励ますべくCOUNT DOWN TVなどで楽曲を披露する機会が増えている。多くの人がこの曲から元気をもらうことが出来ており、その需要の高さが今後も続くことを考えると、将来的に配信ミリオンに到達する可能性も低くないのではないかと思える。
2012年2月には本曲を収録した9thオリジナルアルバム『INDEPENDENT』が発売され、久々に10万枚出荷認定を受けた。
2013年以降
2013年以降もヒット曲が輩出されており、2013年2月に「ハピネス」に続く25thシングルとして発売された「VOICE」は最高視聴率13.9%を記録したドラマ「夜行観覧車」に起用され、「Story」と「ハピネス」に続く自身3曲目の25万ダウンロード認定を受けた。
2013年4月には配信限定シングル「ママへ」が発売され、ロッテガーナミルクチョコレートのCMソングに起用されたこともあり、10万ダウンロードを記録した。
2015年11月には自身2枚目のベストアルバム『THE BEST』を発売し、15万枚を売り上げた。
2016年には、フォークダンスの定番曲として広く普及しているオクラホマミキサーに日本語詞をつけてゴスペル調にアレンジした「みんながみんな英雄」を配信限定シングルとして発売。au三太郎シリーズのCMソングに起用されたことで人気となり、25万ダウンロード認定を受けた。この曲は当初CM用に制作されたショートバージョンしか存在しなかったが、反響を受けて「みんながみんな英雄 (フルバージョン)」も制作され、こちらも10万ダウンロードを記録した。
その後も、妊娠・出産を経験しながらも新作発売は継続しており、定期的に歌番組も出演するなど、安定的な活動が継続している。2021年には、NHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の主題歌に起用された「アルデバラン」が自身久々に10万ダウンロードを突破した。
まとめ
以上まで見てきたとおり、人との繋がりがあることの幸せを思い出させてくれる歌詞や卓越した歌唱表現力などによりAIは多くの楽曲をリスナーに届け、心を動かしていた。その存在感の大きさは配信ダウンロード売上が証明しており、CD売上だけを見て人気を過小評価することのないようにしたい。
これらのヒット曲を手っ取り早く入手するには、2015年に発売されたベストアルバム『THE BEST』がおすすめ。「Story」と「ハピネス」が1枚のCDに収められている。もし「みんながみんな英雄」も入手したい場合は、2016年に本曲を追加した拡張版『THE BEST DELUXE EDITION』がCD2枚組で発売されているため、こちらを入手すると良い。
この記事で紹介したダウンロードデータは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。
*1:なお同時点で切り売りの着うたの売上は200万ダウンロードになっている。ただ、切り売りの着うたは楽曲のどの部分が売れたのか明細が分からないため、フル配信ダウンロード売上よりも重要性は低い。冒頭のダウンロード売上ランキングにも切り売りの着うたの売上は含めていない。