Billion Hits!

ダウンロード売上、ストリーミング再生回数、Billboard JAPAN Hot 100などのデータを通じて国内の楽曲人気動向を把握するブログ

2008年Billboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧

この記事では2008年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうち、オリコンと1位が異なった全12週をピックアップして回顧する。

 

この一年間の週間1位変遷表は以下のとおり。回顧対象週には色をつけている。

 

 

 

この年からローンチされたBillboard JAPAN Hot 100は、「社会への浸透度を計る」ことを明確に理念に掲げ、複数指標により作成されている総合チャートである。2008年の集計対象は、サウンドスキャンが集計するCD売上と、ラジオエアプレイの2指標であった。

 

しかし、長い歴史を持つオリコンが既に権威と知名度を確立していた中で発足した後発サービスであったこともあって、当時のBillboard JAPANは権威と知名度をほとんど有していなかった。

 

2006年以降は新たな音楽の聴き方としてダウンロードでの購入が無視できない規模に普及しており、RIAJのダウンロード認定もこの年より発足している。よって、ヒットチャートであれば、2006年以降はCD売上だけでなくダウンロード売上も集計すべきだったのだが、オリコンはそれを一向に開始しなかった。結果、この年以降10年以上に渡り「日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題」が生じることとなってしまった。

 

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2006年以降は、CD売上チャートだけを見ていても、ヒットの全貌を把握することはできないのであるしかし結局、全国網羅的にダウンロード売上を集計し指数も公開するようなチャートは当時誰も作成しなかったため、2006年以降はヒットチャートが存在せず、オリコンがヒットチャートとして誤使用される時期が長く続いた。

 

そのような中でも、Billboard JAPAN Hot 100をオリコンと比較しながら振り返ることにより、当時のヒット認識を少しでも多面的に捉え直すことは可能である。なぜなら、ダウンロードでの人気をラジオエアプレイ指標によって捕捉することに成功しているケースがいくつか見られているためである。本記事ではこの違いに着目しながら振り返りを行っていく。

 

なお、一部の週においては、旧ジャニーズ問題に対する当ブログの対応に従い、解説を割愛している。

 

(2008年のBillboard JAPAN年間チャートは以下記事参照↓)

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1/16公開週1位 宇多田ヒカル「Stay Gold」

 

 

1/16公開週は記念すべきBillboard JAPAN Hot 100発足第一週である。といっても、Hot 100が一般公開されるようになったのは2008年3月からであり、1月当時は公開されておらず、遡及公開という形となった。

 

1位は宇多田ヒカル「Stay Gold」が獲得した。この曲は2月発売の20thシングルHEART STATION/Stay Gold』の2曲目収録曲で、1月時点ではCD未発売だったが、ラジオエアプレイのみの加点で総合1位を獲得した。開始早々、CD売上だけのランキングとの特徴の違いが表れた形となる。なお「Stay Gold」はフル配信10万ダウンロード、着うた50万ダウンロード*1を売り上げている。

 

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オリコンではAAA「MIRAGEがこの週の1位となったが、CD売上枚数は数万程度しかなかったため、ビルボードではラジオのみの加点で宇多田ヒカル「Stay Gold」が逆転することとなった。ちなみにこの週はすぎもとまさと「吾亦紅」もCD売上1位を争っていたが、週終盤に劣勢となったAAAが緊急CD販促イベントを実施する形での逆転となった。

 

なおビルボードサウンドスキャン)ではイベント販売分のCD売上を集計対象外としていたためCD売上1位はすぎもとまさと「吾亦紅」が獲得した。ただ総合ではラジオエアプレイの加点が乏しかったためAAAらに逆転され9位となっている。そのAAAも宇多田ヒカルに阻まれ総合2位に終わる結果となり、何れにしてもビルボードでは1位争いが平和的に繰り広げられていた

 

1/23公開週1位 GReeeeN「BE FREE」

 

 

1/23公開週Billboard JAPAN Hot 100発足第二週宇多田ヒカル「Stay Gold」に続く週間1位となったのはGReeeeN「BE FREE」。この曲はこの週発売された5th両A面シングル『BE FREE/涙空』の1曲目収録曲で、青春を生きる若年層の背中を押してくれる歌詞や、爽快感と情緒性を両立したサウンド等が支持され、フル配信25万ダウンロードを売り上げた。

 

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オリコンでは東方神起「Purple Line」が1位だったが、ビルボードサウンドスキャン)ではファンクラブ限定盤の売上を集計対象外にしていたため、CD売上1位はAcid Black Cherry「冬の幻」が獲得した。ただ総合ではラジオエアプレイの加点が乏しかったため「BE FREE」らに逆転され5位となっている。「BE FREE」は25万ダウンロードを売り上げるほどの人気がラジオエアプレイで拾い上げられた形となった。


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1/30公開週1位 ケツメイシ出会いのかけら

 

 

1/30公開週Billboard JAPAN Hot 100発足第三週。発足から三週続けてオリコンと週間1位が異なる展開となった。この週の1位はケツメイシ出会いのかけらCD売上ではRADWIMPS「オーダーメイド」が1位だったが、その差は5,000枚程度と僅差だったため、総合ではラジオエアプレイの加点の差により逆転が生じた。

 

3/26公開週1位 宇多田ヒカル「Fight The Blues」

 

 

3/26公開週1位は宇多田ヒカル「Fight The Blues」。この曲は3月に発売された5thオリジナルアルバムHEART STATIONの一曲目を飾るナンバーである。CDシングル化はされていないものの、アルバムの注目度の高さによりラジオエアプレイが稼がれた。この週のCD売上1位は登場2週目安室奈美恵『60s 70s 80s』だったが、その売上は4万枚程度と多くなかったため、ラジオ加点のみでの総合1位が可能となった。

 

4/2公開週1位 安室奈美恵「NEW LOOK」

 

 

4/2公開週1位は安室奈美恵「NEW LOOK」。この曲は3月に発売された3曲A面シングル『60s 70s 80s』の一曲目収録曲で、この週はCD発売3週目であった。オリコンでは20th Century「オレじゃなきゃ、キミじゃなきゃ」が1位だったが、『60s 70s 80s』とは大接戦であり、集計最終日に理由不明の売上上昇を見せての逃げ切りとなっていた。ビルボードでは逆に1万近い差をつけてCD売上1位も『60s 70s 80s』が獲得しており、そのまま総合でも1位を獲得する運びとなった。

 

このように『60s 70s 80s』はオリコンビルボードの双方で週間1位を獲得しているが、そのタイミングは異なっている。何れにしても収録曲がヒットしていたことは間違いなく、「NEW LOOK」はフル配信50万ダウンロード、着うた75万ダウンロードを売り上げている。

 

4/9公開週

 

 

4/16公開週1位 羞恥心「羞恥心」

 

 

4/16公開週1位は羞恥心「羞恥心」。羞恥心はバラエティ番組クイズ!ヘキサゴンIIから誕生した、上地雄輔つるの剛士野久保直樹による3人組期間限定ユニットである。当時の番組人気が絶大だったこともあり大きな話題性を獲得した本デビュー作はフル配信100万ダウンロード、着うた100万ダウンロードを記録するほどの大ヒットとなり、年間でも2008年の10位を獲得した。

 

オリコンでは浜崎あゆみ「Mirrocle World」が1位となったが、週終盤に劣勢となった浜崎あゆみがCD販促イベントを実施し、土日の売上を高騰させ逃げ切る形となったため、一部ではこの商法が界王拳と例えられ炎上していた。しかしビルボードではこうしたイベント限定販売分の売上を集計対象外としていたため、羞恥心がCD売上でも1位となり、そのまま総合でも1位となった。極めて平和的かつ楽曲人気上も妥当な結果と言える。

 

浜崎あゆみオリコン1位に拘った理由は、「Free & Easy」から続く17作連続1位記録を更新しないと外野が人気低下に紐付けて騒ぐことが予想されたためと思われる。当時はオリコン連続1位記録の権威が必要以上に肥大化し過ぎてしまっていた。しかし、そもそも順位は相対的な数字であるうえ、一度でも2位になれば途切れてしまうような記録が長期的な人気持続の指標になるはずがない

 

実際ビルボードに連続1位記録という概念は存在しない。シングルCD表題曲だけでなく、アルバム曲やc/w曲など全ての楽曲がランクイン対象だからである。人気の持続は「連続」よりも「通算」1位獲得週数でチェックすることが適切である。

 

4/30公開週1位 レオナ・ルイス「ブリーディング・ラブ」

 

 

4/30公開週1位はレオナ・ルイス「ブリーディング・ラブ」洋楽史上初のJAPAN Hot 100首位獲得曲となった。オリコンでは東方神起『Beautiful you/千年恋歌』が1位だったが、ビルボードサウンドスキャン)ではファンクラブ限定盤の売上を集計対象外にしていたため、CD売上1位は坂本真綾「トライアングラー」が獲得した。ただ総合ではラジオエアプレイの加点が乏しかったため「ブリーディング・ラブ」らに逆転され5位となっている。

 

「ブリーディング・ラブ」はこの年Billboard Hot 100年間2位を獲得するなど世界的にヒットしていたが、日本でもMステ出演などを通じてそのスター性や歌唱表現力、愛を貫くことを描いた歌詞などが支持を広げ、フル配信25万ダウンロードを売り上げた。ビルボードはラジオエアプレイ指標を通じてその人気の捕捉に成功した。


Leona Lewis - Bleeding Love (US Version)

 

7/23公開週1位 新垣結衣「Make my day」

 

 

7/23公開週1位は新垣結衣「Make my day」オリコンでは東方神起どうして君を好きになってしまったんだろう?が1位だったが、ビルボードサウンドスキャン)ではファンクラブ限定盤の売上を集計対象外にしていたため、「Make my day」がCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。

 

9/24公開週1位 アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」

 

 

9/24公開週1位はアンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」。同年のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲として書き下ろされた本曲は、未来の自分との手紙のやり取りを通じて描かれたメッセージが老若男女の心を打ち、感動を引き立てるピアノ演奏とともに支持され、フル配信100万ダウンロードを突破する大ヒットとなった。

 

CD売上ではV6『LIGHT IN YOUR HEART/Swing!』が1位だったが、総合では「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が逆転した。ラジオエアプレイ指標による大人気の捕捉が成功した形となる。ビルボードサウンドスキャン)ではV6のウルトラマン限定盤が集計対象外となっていたため、CD売上差が大きくなかったこともこの逆転を可能とした。


アンジェラ・アキ 『手紙~拝啓 十五の君へ~』

 

10/15公開週1位 ポルノグラフィティ「Love, too Death, too」

 

 

10/15公開週1位はポルノグラフィティ「Love, too Death, too」オリコンでは倖田來未「TABOO」が1位だったが、ビルボードサウンドスキャン)ではファンクラブ限定盤の売上を集計対象外にしていたため、「Love, too Death, too」がCD売上1位となり、そのまま総合でも1位となった。

 

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10/22公開週1位 新垣結衣「赤い糸」

  

 

10/22公開週1位は新垣結衣「赤い糸」コブクロから楽曲提供を受けた本曲はフル配信25万ダウンロードを記録するヒットとなった。CD売上では東方神起「呪文 -MIROTIC-」が1位だったが、ビルボードサウンドスキャン)ではファンクラブ限定盤の売上を集計対象外にしていたため「赤い糸」との差は数千枚程度しかなく、ラジオ加点の差により総合では「赤い糸」が1位となった。

 

まとめ

 

以上が、2008年に公開されたBillboard JAPAN Hot 100週間チャートのうち、オリコンと1位が異なる週の振り返りとなる。 

 

オリコンはダウンロード売上の集計を一向に開始しなかったが、既にこの年はダウンロード売上の集計なしに楽曲人気を正確に把握することは不可能になっていた。オリコンはこの説明をせずにCD売上だけのチャートをヒットチャートとして世に提示し続け、多くの楽曲の人気を過大小にミスリードし続けた。

 

そんな中で2008年に発足したビルボードも、まだダウンロード売上を集計対象にできていなかったものの、ラジオ指標で人気を拾うことで、CD売上だけのチャートよりは楽曲人気チャートに近い存在になっていた。

 

当時は発足間もなかったこともあり知名度がなく、ほとんど注目されていなかったビルボードだが、2010年代後半になると知名度が高まり、楽曲人気指標としての権威を確立した。2008年の週間チャートも、最も楽曲人気指標に近い公式なチャートとして、今からでも押さえておきたいところである。

 

(次年2009年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧に続く↓)

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(前年2007年のサウンドスキャン週間シングルチャートは以下↓)

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*1:ダウンロード売上は日本レコード協会認定値。以下同様。