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2022年Billboard JAPAN上半期チャート総括

この記事では2022年上半期のヒット曲をBillboard JAPANを通じて振り返る。

  

Billboard JAPAN Hot 100の2022年上半期TOP10は以下のとおりとなった。

 

 

 

 

 

HOT 100

 

2022年上半期TOP5

 

1位はAimer「残響散歌」。2021年12月に配信された本曲はTVアニメ「鬼滅の刃」シリーズである「遊郭編」の主題歌である。「遊郭編」では宇随天元が主要登場人物として活躍するが、宇随の派手なキャラクターを表現するように「残響散歌」は疾走感のある華やかなサウンドに仕上がっており、Aimerの独特な歌声により楽曲の個性が確立されている。映画が興行収入歴代1位となるほどの歴史的ヒットとなった「鬼滅の刃 無限列車編」の続編シリーズの主題歌とあって本曲の注目度は非常に高く、配信開始当初から歴史的な楽曲人気動向を見せた。

 

配信初週は8万ダウンロード、ストリーミング1,051万再生を記録したが、初動ダウンロード数は2021年最高記録、ストリーミング数も再生キャンペーン(詳細後述)を実施していない曲としては国内史上初となる初動1,000万再生突破を記録した。アニメの初回放送日である12/5(日)夜から間を置かず翌12/6(月)に配信を開始したことで、高まった注目度と需要を漏れなく取り込むことに成功した。

 

配信2週目にはMVを公開。こちらもBillboard JAPANのMV指標で初登場1位を記録する高初動を見せた。足元の累計ではMV9,000万再生を突破しており*1、間もなくMV1億再生を突破する見込である。

 

1月にはCDシングル『残響散歌/朝が来る』としても発売された。両A面2曲目の「朝が来る」は「遊郭編」のエンディングテーマであり、OPとEDをメインに据えた鬼滅仕様のCDシングルとなっていた。この話題性と、パッケージの形での配信も開始されたことにより、既存配信指標数値が回復。CD売上の加点と合わせてチャートアクションが二度目のピークを迎えた。

 

2月には積極的なプロモーションを展開。Aimerは殆どTV出演をしないアーティストであり、「残響散歌」においても同様であったが、満を持しての形で2/7にCDTVライブ!ライブ!、2/11にMステに出演。圧倒的楽曲人気にスポットが当てられた。出演の際は「残響散歌」だけでなく「カタオモイ」など既存代表曲も披露するなど、ミステリアスなベールに包まれていたAimerの素顔を垣間見ることができる貴重な機会には多くの注目が集まった。

 

さらにYouTubeの人気チャンネルTHE FIRST TAKEにも出演し、「残響散歌」を披露。動画は圧倒的な初動再生数を記録し、動画公開週のMV指標は前週の3倍近い数値に膨れ上がった。これらのメディア出演プロモーションによりチャートアクションは三度目のピークを迎えた。このタイミングで「遊郭編」が最終回を迎えたことも楽曲普及のピークを押し上げた。以降もラジオでの積極的なプロモーションが展開されるなどにより、漸減ペースは緩やかに保っている。

 


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下表は「残響散歌」の2022年上半期Billboard JAPAN Hot 100週間推移だが、上述した三度の楽曲人気のピークが赤枠で囲ったチャートアクションに表れていることが読み取れる。該当週は何れも大台となる総合ポイント1万超えを達成している。

 

 

これをグラフで可視化すれば以下のとおりとなる。

 

 

見てのとおり、「遊郭編」が放送された12月から2月までの3ヶ月間に渡りコンテンツを小出しし続けたことが高水準のロングヒットに結び付いている。特に、最も気軽に楽曲にアクセスできるダウンロードとストリーミングのプラットフォームで楽曲を最初から解禁していることが各ピークの基盤になっていることが分かる。タイアップ効果を存分に活用したリリース&プロモーション戦略の成功例と言える。

 

この成功により、Billboard JAPAN Hot 100では星野源「恋」の11週に次ぐ歴代単独2位記録となる通算9週1位を獲得しチャートを独走。見事に上半期1位に輝いた。ストリーミング指標では配信から所要12週という歴代上位のスピードで1億再生を突破している。


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2位は優里「ベテルギウス。人と人とが繋がる奇跡を星に例え、今後も共に生きることを力強く歌っており、その関係は恋人に限らず友人などにも置き換えることができる。ドラマ「SUPER RICH」の主題歌にも起用されたことや、THE FIRST TAKEでの披露などにより本曲は歌詞や歌唱への共感の声を広げ、大ヒットを記録した。

 

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ストリーミング指標では2021年10月の配信から所要13週という自身最速記録で1億再生を突破し、「残響散歌」も抑えて2022年上半期の1位となっている。

 

 

なお優里はHot 100の上半期4位にも、前年の年間1位となったドライフラワーを引き続きランクインさせている。本曲はBillboard JAPANのカラオケ指標で現在まで69週連続で1位をキープしており、昨年の特大ヒットの余波が続く形で2022年上半期も「最も多く歌われた楽曲」となった。ストリーミング指標では歴代で4曲しか達成していない6億再生を突破。未だ天井が見えない歴史的高動向が持続している。


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3位はKing Gnu「一途」。本曲は2021年12月に公開されたアニメ映画「劇場版 呪術廻戦 0」主題歌として同月に配信された。映画が興行収入100億円を突破する大ヒットとなったことで楽曲も普及し、井口と常田のツインボーカル体制が存分に活かされた構成や、終始怒涛の勢いで奏でられるサウンド、アニメの主要登場人物である乙骨憂太の心情を思わせる歌詞に支持が集まった。ストリーミング指標では配信から所要14週という自身最速記録で1億再生を突破している。


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なお「一途」はCDシングル『一途/逆夢』としても発売され、Billboard JAPAN Hot 100ではそのタイミングで2週連続1位を獲得した。両A面シングル2曲目の「逆夢」も同映画のエンディングテーマに起用されており、こちらも上半期6位に入る大ヒットとなった。

 

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5位はマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」。本曲は朴訥な恋愛感情を歌詞にしており、それがタイトルの最後の「、」にも表現されている。ノンタイアップながらも共感性の高い歌詞が人気となり、特にTikTokではマカロニえんぴつ自身も「#秋の歌うま」チャレンジのアンバサダーに就任するなどのコミットを見せたことで本曲を用いた動画が数多く投稿され、楽曲普及の原動力となった。ストリーミング指標では配信から所要15週という自身最速記録で1億再生を突破した。


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CD偏重問題の状況

 

2021年に再発した「Hot 100週間1位のCD偏重問題」に関しては以下記事で詳説している。

 

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2021年の年間チャート総括記事で速報したとおり、2022年集計期間初週からCD換算率は更に引き下げられた。それもあり、2022年第1四半期に関しては上述のとおりAimer「残響散歌」が上半期1位に相応しい週間1位独走を見せ、通算9週1位を獲得した。更に上半期3位のKing Gnu「一途」2週連続1位を獲得。上半期TOP10ランクイン曲の週間1位獲得週数はこの2曲で合計11週となり、適正水準目安である10週を上回った。

 

一見、CD偏重問題解決への道のりは順調なようにも見えるが、2022年の年間チャートにおいて「年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数」が適正水準の20週を超えるかどうかは予断を許さない状況である。なぜなら、「残響散歌」と「一途」の複数週1位獲得は、珍しくたまたまその時期に高CD売上アーティストの発売が少なかったからに過ぎない(=CD偏重問題の根本的解決に至っていない)とも言えそうなためである。2022年上半期集計期間中のHot 100及びCD売上指標の週間1位変遷表を以下に示す。

 

 

見てのとおり、「残響散歌」と「一途」の1位獲得週は全週でCD売上指標1位獲得曲の売上が期中平均の30万枚を下回っている。10万枚にも満たない極端な低水準の週も多い。昨今主にボーイズグループを中心に高CD売上アーティストが続々デビューしていることと、2021/4/14公開週から2021/12/22公開週まで37週連続でCD売上指標1位獲得曲の売上が10万枚を超えていた(これはオリコン時代まで遡っても20年以上ぶりのことである)ことを踏まえれば、第1四半期の事態は奇跡的であり再現性が乏しいようにも思える。

 

実際、高CD売上アーティストのリリース数が回復した2022年第2四半期は、Tani Yuuki「W/X/Y」Official髭男dism「ミックスナッツ」といった年間TOP20ランクインが確実な情勢の高人気楽曲が存在するにも拘らず、13週中9週がCD売上1位獲得曲によるHot 100週間1位となっている。そしてこれら9曲は年間TOP20ランクインの可能性が低く、実際にこのうち6曲は1位の翌週TOP10圏外へ急落している。

 

 

よってこの状況が第3四半期以降も続けば、年間TOP20ランクイン曲の週間1位獲得週数が適正水準の20週を超えることは難しい。週間1位のCD偏重問題が本当に解決したのかどうかは未だに不透明なのである。

 

ファンダム過熱問題の発生

 

そんな中で、2022年第2四半期は新たな問題が本格的に顕在化した。ストリーミングチャートにおけるファンダムの過熱(主目的が楽曲視聴ではない大量再生行為の影響力増大)である。この問題に対応するため、Billboard JAPANは第2四半期中に二度に渡り対策措置を新規導入したが、その有効性には疑問も多く、課題が残っている状況である。詳細は以下記事にまとめている。

 

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このように、Billboard JAPAN Hot 100は現在、週間チャート単位では楽曲人気指標としての使用が難しい状況となっている。上半期や年間チャート単位では引き続き楽曲人気指標として非常に有用であるため、更なる進化・発展のためにも、今後の週間チャート設計の改善に期待したいところである。

 

HOT Albums

 

2022年上半期TOP10は以下のとおりとなった。

 

 

1位はSixTONESの2ndオリジナルアルバム『CITY』。本作には4thシングル「僕が僕じゃないみたいだ」、5thシングル「マスカラ」、リード曲「Rosy」等が収録されている。このうち「Rosy」は2022年上半期集計期間内において最高50位、登場週数3週を記録した。本曲は映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」日本語吹替版の主題歌として書き下ろされた。洒落たロックサウンドに畳みかけるような歌唱を乗せたクールな楽曲は男性ファンも開拓可能と言える仕上がりになっている。


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なお『CITY』は配信未解禁となっており、CD指標上半期1位となる56万枚の売上が牽引する形で上半期総合1位を獲得した。しかしHot AlbumsのTOP10まで視野を広げると、このチャートがCD売上だけではなく配信売上も考慮して作成されていることが分かる。実際に、配信アルバムチャートで高順位となっているAdo『狂言』、YOASOBI『THE BOOK 2』、宇多田ヒカル『BADモード』、藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』等がCD指標のみの上半期順位に比して総合順位を上昇させている。

 

TOP Artists

 

2022年上半期TOP10は以下のとおりとなった。

 

 

1位はYOASOBI。上半期Hot 100には11位に「群青」、14位に「夜に駆ける」、15位に「怪物」、39位に「三原色」、69位に「もう少しだけ」、87位に「あの夢をなぞって」、88位に「ハルカ」、99位に「ハルジオン」が入ったほか、上半期Hot Albumsにも『THE BOOK 2』が4位、『THE BOOK』が24位に入る活躍を見せ、これらのポイントが牽引する形での1位獲得となった。

 

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2022年配信曲の中では、「ミスター」が週間最高11位を記録している。小説を音楽にするユニットであるYOASOBIだが、本曲は直木賞作家とのコラボレーションプロジェクト第1弾となる楽曲で、島本理生の小説「『私だけの所有者』――はじめて人を好きになったときに読む物語」を原作としている。主人公のアンドロイドが所有者に抱いた初めての感情を切なげに表現したシティポップナンバーである。


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まとめ

 

以上がBillboard JAPANを用いた2022年上半期のヒットシーンの振り返りである。上半期だけでも多くの新たなヒット曲が浮上しており、Billboard JAPAN上半期チャートを通じてそれらを把握することができた。下半期にかけてこのヒットチャートがどのように変動するのか、引き続き要注目である。

 

(追記)年間チャート結果が公表されたため、結果分析記事をアップしている。

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(前年2021年のヒットシーン振り返り記事はこちら↓)

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*1:本記事を公開した6/10(金)時点で達成または判明済みのデータ。本記事で示す他のデータも同様。