本記事では、「ストリーミングチャートの旧譜偏重問題」の2025年第4四半期時点の現状整理として、主にBillboard JAPAN Hot 100に導入された「リカレントルール」の効果を検証する。
「ストリーミングチャートの旧譜偏重問題」とは、音楽ストリーミングサービスの普及によって、視聴される楽曲に占める旧譜の割合が構造的に上昇することにより、相対的にチャート上位に占める新曲の割合が低下することによって生じる問題を指す。
「リカレントルール」とは、上記問題に対処するためのヒットチャート上の措置で、一定の基準に達した旧譜をチャートから除外ないしポイント減算することを指す。Billboard JAPAN Hot 100では2025年度下半期よりリカレントルールが導入された。
ここではBillboard JAPANの2025年度のデータから、①リカレントルールを導入していないストリーミングチャート、②リカレントルールを下半期より導入したHot 100チャート、③Hot 100チャートでリカレントルールを上半期より導入していた場合、の3パターンの2025年間予想を作成し比較する。その概要は以下のとおりである。

本記事の前提
そもそも何が問題なのか
以下記事で背景とともに詳細説明済のためここでは割愛し、この内容を前提として話を進める。
予想の精度
冒頭に述べたとおり、ここで活用しているBillboard JAPAN Hot 100の2025年間順位は当ブログ管理人が独自に予想したものであり、実際の年間暫定順位と一致しているとは限らないが、Billboard JAPANが本年6月に公式発表した2025年上半期結果(以下記事参照)、週間チャートで公表されている総合ポイント、Chart Insightで公表されている指標別ポイント内訳データを積み上げて作成した予想であるため、大きな誤差は生じていないものと考える。
実際の年間チャート結果(パターン①・②)は2025/12/5(金)に公表される。
\\年間チャートに関するお知らせ//
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年11月28日
12月5日(金)4:00に
2025年の年間チャートを発表いたします!
Billboard JAPANの各SNSアカウントを
フォローしてお待ちください🏆#ビルボードジャパン#billboardjapan#年間チャート
万一、この結果が本記事内容に重要な影響を与えた場合は速やかに修正を追記する。
(2025/12/5追記:年間チャートが以下のとおり発表され、パターン①・②ともにTOP10予想全的中となり、本記事の主張が確定した。)
Billboard JAPAN 2025年年間チャート発表、Mrs. GREEN APPLE/Snow Manが首位 https://t.co/1KyOYjudpe
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年12月4日
Billboard JAPAN Hot 100のリカレントルール
以下のとおり説明されている。(太字は筆者強調)
今回導入するリカレントルールでは、日本独自のマーケットバランスを考慮し、対象曲のストリーミングポイントを一定の割合で減算する。<Hot 100>においての対象は通算52週チャートインした楽曲(略)を対象とする。
Billboard JAPANチャート、リカレントルールを2025年度下半期チャートより導入https://t.co/jwsAorQU9Z
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年6月2日
詳細な経緯や背景思想はBillboard JAPANチャートディレクターの礒﨑氏が以下記事で説明している。
この記事にもあるとおり、本ルール導入についてはレコード会社の99%が賛成している内容となる。
リカレントルール効果検証
直近3年の年間ストリーミングチャート
まずはストリーミングチャートの旧譜率が看過できないほどに高まっていた状況を確認する。Billboard JAPANが集計するストリーミングチャートの直近3年の年間結果は以下のとおり。ここでは年間TOP10ランクイン曲を「前年度上半期までにリリースされた楽曲」「前年度下半期にリリースされた楽曲」「当年度上半期にリリースされた楽曲」「当年度下半期にリリースされた楽曲」に分類して色分けを行う(以下同様)。

直近3年の年間TOP10ランクイン曲の過半は各年度よりも前にリリースされた楽曲となっている。このことからも分かるとおり、Mrs. GREEN APPLEが歴史的人気となる前から既にストリーミングチャートは旧譜偏重だったのである。
2023年と2024年は年間1位がその年度にリリースされた歴史的ヒット曲「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」だったことから本問題は目立たずに済んでいた。しかし2025年度は「2024年上半期までにリリースされた楽曲」により年間TOP3が独占される見通しとなっている。
また、各年度下半期にリリースされた楽曲は一切その年の年間TOP10に入ることができていない。「アイドル」も「Bling-Bang-Bang-Born」もその年度の上半期にリリースされた楽曲であるため、集計期間の不利を最小限に抑え年間最上位に進出できたと言える。しかし、もし下半期リリースだった場合そのような結果にならなかったであろうことは次項で説明する。
2025年度のストリーミングチャートとHot 100の比較(リカレントルール有無の影響)
上記ストリーミングチャートはリカレントルールを適用しない形で発表されている。リカレントルールが適用されるチャートはHot 100である。Hot 100では再生回数だけでなく売上などの複数指標を合算して作成されているが、その決定要素に占めるレシオはストリーミング指標が最も大きい。よって、ストリーミングチャートとHot 100を比較することで、リカレントルールの有無による影響はある程度推し量ることができる。
リカレントルールを適用していないストリーミングチャートと、下半期よりリカレントルールを適用したHot 100それぞれの、2025年間予想を並べた表は以下のとおりである。

リカレントルールを導入したHot 100は年間上位の新曲率が上昇
ストリーミングチャートと比較して、Hot 100の年間TOP10に占める新曲率の高さは一目瞭然である。具体的には、旧譜である「Soranji」「青と夏」「点描の唄 feat.井上苑子」が年間TOP10から外れ、新曲であるサカナクション「怪獣」、米津玄師「IRIS OUT」「Plazma」が年間TOP10入りする見込みとなっている。後者3曲はいずれも2025年のヒットシーンを振り返るうえでは欠かせない大ヒット曲となる。
年間1位は変わらず「ライラック」であるが、本曲は2025年度に大きなトピックがあったため、2025年度のヒットチャート結果として説明することは可能である。
そして特筆すべきは、2025年度下半期リリース曲である米津玄師「IRIS OUT」が年間TOP10入りする見込みとなっていることである。本曲は歴史的初動楽曲人気を示しており、ストリーミング再生回数1億突破においては歴代最速記録、同2億突破においては歴代2位のスピード記録を樹立した。

リカレントルールを導入していないストリーミングチャートでは「IRIS OUT」すら年間TOP10に入れない
かたやストリーミングチャートでは「IRIS OUT」は年間TOP10に入れない見込みとなっている。もし予想通りなら、これほどの歴史的楽曲人気動向を示しても、ストリーミングチャートでは集計期間の不利により年間TOP10に入れないことになり、リカレントルールを適用しない年間ストリーミングチャートが「その年のヒットチャート」として最早使用できなくなったことを示す象徴的な事例となる。
もし上半期からHot 100にリカレントルールが導入されていた場合の年間TOP10予想
既述のとおり、Hot 100にリカレントルールが導入されたのは2025年度下半期からである。半年間のルール適用でも大きな効果が見られていたことは以上までの検証で確認できた。
となると気になるのは、もし上半期から本ルールが導入され、2025年度通期にわたりリカレントルールが導入されていた場合は、年間TOP10はどうなっていたのかということである。これも前提で述べた予想方法により推し量ることが可能であるため、以下にそれぞれの予想を並べて比較する。

下半期からリカレントルールが適用されたHot 100と比較すると、旧譜である「ケセラセラ」が年間TOP10から外れ、CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」が年間TOP10入りする予想となった。本曲は2024年度下半期リリース曲だが、リリース後1年間のヒット規模の過半は2025年度に反映されていたため、2025年のヒット曲と言って差し支えない。やはり事態の改善が一層進んでいたことになる。
実際に公式発表される結果は下半期よりリカレントルールを適用して集計したものとなるため、その意味では「かわいいだけじゃだめですか?」のヒット規模は過小評価されてしまうとも言える。本曲の過小評価についてはCUTIE STREETが2025年の『NHK紅白歌合戦』に出場できなかったことからしても大いに懸念される。
リカレントルール導入タイミングについての議論をいったん脇に置けば、2026年度以降のBillboard JAPAN Hot 100はリカレントルールが通年適用されることとなるため、年間上位結果がその年のヒットチャートとして使用するにより相応しい内容となることが大いに期待される。
揺らぐ『今年イチバン聴いた歌』の放送意義
Billboard JAPANが既にリカレントルールを導入している以上、「ストリーミングチャートの旧譜偏重問題」は概ね解決したとも思える一方、別の懸念は存在する。日本テレビの年末音楽特番『発表!今年イチバン聴いた歌』の放送意義である。
この番組は2022年より放送されるようになり、その内容は年間ストリーミングチャートの紹介を通じたその年のヒット曲の振り返りである。そのチャートは当初2年はApple Music、2024年以降はSpotifyのデータを参照しているが、両チャートにリカレントルールは適用されていない。つまり新曲のヒット規模が過小評価されたチャートを大々的に年末放送することになる。
放送当初はストリーミング再生回数が新たなヒット指標として普及する途上における新たな試みとして非常に有意義だった本番組だが、「ストリーミングチャートの旧譜偏重問題」が顕在化した今となっては、参照するデータの見直しを検討する余地が大いに生じている。音楽業界としては新曲を最前面で訴求しない理由がない中で、新曲のヒット規模を過小評価する構造となっているストリーミングチャートをそのまま使用し続けて良いのか、看過できない規模で視聴者に与えるヒット認識をミスリードすることにならないか、今後問われていくことになる。
Spotifyで生じている問題
本論からは逸れるが、『今年イチバン聴いた歌』がSpotifyのデータを参照していることも別の問題を生じさせている。
日テレ『今年イチバン聴いた歌』、 『Spotifyのストリーミングデータをもとに「今年イチバン聴かれた歌」を紹介』とあるが、近年は「Spotifyでしか聴かれていない楽曲」が複数発生しており、このデータを全国の相似形として用いることは不可能。このままでは今年はかなり欺瞞的内容になる。@SpotifyJP https://t.co/sBOkv06q0h pic.twitter.com/7WTGhQ6sFd
— ブログ『Billion Hits!』管理人(あさ) (@musicnever_die) 2025年11月30日
その主旨は上記ポストに記載したとおりとなる。ここで挙げているJIMIN「Who」、JIN「Don’t Say You Love Me」はSpotifyでは今年聴かれた歌の中で最上位圏だったと言えるかもしれないが、全国的にはそうではない。このような事例がある以上、「全国で今年最も聴かれた歌」を「Spotifyデータだけで判断する」ことはできない。しかし番組のタイトルや説明は「全国で今年最も聴かれた歌をSpotifyデータだけで判断した」内容となっているため、このままでは2025年の当該番組は欺瞞的内容となってしまうのである。
まとめ
最後に誤解を招かないよう念押しするが、本記事はMrs. GREEN APPLEのチャート独占を批判するものではなく、旧譜偏重構造となっているストリーミングチャートの扱い方を検討するものである。2025年度に年間最上位圏に進出する旧譜はMrs. GREEN APPLEの楽曲がほとんどだったが、リカレントルールでそれらの楽曲のポイントを減算したとしても、「ビターバカンス」「ダーリン」「クスシキ」といった複数の新曲が年間TOP10入りする見込みに変わりはなく、その歴史的な勢いの可視化に支障は生じない。
ストリーミング再生回数は新時代のヒット指標として普及を続けたが、リカレントルール導入が大きな話題になったことからしても、ヒット指標としての認識は既に十分定着したと言える。今後は、かつてCD売上指標に対して陥ったような、その指標への過信によるヒット認識の歪みが生じることのないように注意しながら、ストリーミング指標が定着したヒットシーンに向き合っていくフェーズとなる。